~エアストーンで快適な環境をつくるために~
アクアリウムの基本装備のひとつといえば、エアポンプとエアストーン。見た目にも涼しげで、水中に細かな気泡を送ってくれる便利なアイテムですが、ただ入れておけば良いというものではありません。
実は設置場所やエアの強さによっては、魚にストレスを与えたり、水草の生長を妨げてしまうこともあります。今回は、エアストーンを使ってエアレーションを行う際に気をつけたい4つのポイントを、ストーリーとともにわかりやすくご紹介します。
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(これは20年前の物語)
アスファルトの大地にビルの森。ふらりと立ち寄った熱帯魚店で、わたしはその水辺の草原を駆け巡る小動物のような魚たちに息を呑んだ。
「ネオンテトラ……だよな?」
わが家のネオンちゃんが、街の子たちと随分違うようですが?
街の片隅で出会った、青の輝き
青い魚たちが、まるで風に舞う花びらのように優雅に泳いでいた。
家にもいるはずの魚たち。しかし、どこかが違う。
光り方が、いや、動き方が、なにより生き生きとして見えるのだ。
色は同じでも、とても同じ種類とは思えない。
家では見せない姿に、歯がゆい思いをせざるを得なかった。
ネオンテトラの謎に迫る
次の休日、わたしは“お師匠さま”を家に招いた。アクアリウムに詳しい友人で、わたしにとっては水槽の先生のような人だ。
「ふむ。たしかに、ネオンテトラが止まっているように見える」
水槽を覗き込むなり、師匠が言った。
「ふふん、でもわかってるんだ。たぶん、これが原因だよ~」
そう言って小躍りしながらお師匠さまが手を出したのは、なんとエアポンプの電源だった。
コードをたどってピンと抜くと、次の瞬間、真ん中に鎮座していた青い群れが一斉に動き出した。
ネオンたちは群れになって右へ左へ、時に花びらのように散るようにして、しなやかに泳ぎはじめたのだ。
「ほーら? 大当たりでしょ!」
「え……そんなことなの!?」
思いもよらぬ原因に膝から崩れ落ちたわたし。そんなことなどお構いなしに、したり顔のお師匠さまはポンプを手に取った。
「しかし、ずいぶん大きいのを使ってるね。さては、プレコ水槽用のをそのまま使ってない?」
にたりと笑われ、はっと気がついた。そう、水流が大好きなプレコ用に選んだエアポンプだったのだ。
1ランク、いや2ランク上のものを、そのままネオンテトラの水槽にも使っていたことになる。
「ワンランク上のエアポンプを用意したのが、あだになったようだね」
良かれと思って施したことが、まさか彼らの泳ぎを妨げていたとは思いもしなかった。
三又分岐という魔法
「エアレーションはいいことばかりだけど、気をつけてほしいポイントもあるよ」
エアストーンの泡が消え、優雅になった水槽を眺めながら言った。
今回みたいにエアの量に注意しないと、水流が強くなって魚が泳ぎづらくなるようだ。
「でもそうすると、このエアポンプが無駄というととですよね?」
「あはは! 言いたいことはわかるよ。安心して、新しいエアポンプは不要だから」
バッグからさっと取り出したのは、小さな棒が2つ付いたT字の金具。
「三又分岐っていうんだ。ところで……」
わずかばかりのエアチューブが必要だったらしく、道具箱の肥やしとなっていた切れ端を差し出すと、ぱっとT字の金具を取り付けた。
「こうやってエアチューブの間に挟んで、ちょちょいと捻ってやれば……」
おっと忘れてた、と可愛らしく手を打ちエアポンプの電源を入れると、先ほどとは打って変わってストーンは優しい気泡を生み出し始めた。
それでもなお、ネオンテトラたちはきらきらと泳ぎ回っている。期待通りの結果に、お師匠さまは鼻高々だ。
「なんでもわかるんですね」
「もちろんさ。前に送ってくれた“写メ”でなんとなく気づいたのさ!」
見る人が見れば、すぐわかるのか。
つくづく、この界隈は恐ろしい……だが、頼もしくもあるようだ。
エアレーション講座は終わらない
お師匠さまの話は、まだ終わりそうにない。
「ストーンの設置場所にも注意が必要だよ。位置によっては、エアを吸ってフィルターが止まってしまうこともあるからね」
それには心当たりがある。
以前、キスゴムが剥がれてストーンの位置がズレてしまったときに、ガランガランという異音を聞いたことがある。
あの原因はやはり、エアレーションだったのだろう。うんうんとうなずくと、まだまだ伝えたいことがあるんだと目を輝かせた。
「それと、なるべく水槽サイズに合ったものを使うこと。大きすぎると水流も強いし、なにより騒音が増える」
「あと、逆止弁も忘れずに。もし水が逆流したら、機材が壊れるし、漏水事故につながるからね」
「それからね、ストーンが……」
「そもそも、水面を……」
どんどん知識を詰め込んでくれるお師匠さま。
わたしには、それを止めるすべはなく、ただただ黙って小さくうなずくしかなかった。
でも、今日はもう、それで構わないと思った。
小さな写真から答えを見つけてくれたのだから。
![]() |
・三又分岐 |
エアレーションを設置するときの注意点
と、いうわけで、ここからはストーリーで紹介した内容をまとめたいと思います。
気泡のサイズやエアの量を意識する
ストーリーで述べた通り、空気の量が多すぎると水槽内の水流が強くなり、魚が泳ぎづらくなることもあります。
魚が落ち着いて泳げる程度に調整しましょう。流量調節バルブがない場合は、三又分岐などを利用すると便利です。
さて、「泡が多いほど酸素が増える」と思われがちですが、実際には酸素の供給は主に水面の撹拌によって行われます。
以上は、是非おさえてほしい事実なのですが、とはいえ、細かい気泡は大きな気泡に比べて酸素が溶けやすく、見た目も美しい。そのため、なるべく小さな気泡を作るストーンを選びたいところです。
ストーンの設置場所に注意する
エアストーンは、単に水中に設置すればよいわけではありません。
機器に影響を与えず、水草の光合成を妨げない場所と時間を選ぶことが大切です。
まず、フィルターの吸水口の近くには置かないようにしましょう。気泡がフィルターに入り込むと、振動や目詰まりの原因になります。
また、CO2添加をしている場合、気泡によって水面が激しく揺れるとCO2が逃げやすくなり、水草の生長に悪影響を及ぼすことがあります。エアレーションの稼働はCO2添加時間外に設定し、タイマーで管理しましょう。
魚のために使う道具ですから、正しく利用して他への悪影響を最小限にしましょう。
エアポンプの性能と騒音対策
エアポンプは、水槽のサイズや目的に合ったものを選ぶことが重要です。
小さな水槽にパワフルなポンプを使うと、水流が強くなりすぎて魚にストレスを与えるだけでなく、騒音も大きくなりがちです。
また、机やキャビネットの上に直接置くと、振動音が響きやすくなります。
こんな時は、ゴムシートを敷いたり、ゴムで吊るましょう。騒音を軽減できます。
逆流防止弁は絶対忘れずに
エアポンプが水槽より低い位置にある場合は、逆流防止弁(チェックバルブ)が必須です。停電やポンプ停止時に水がチューブを逆流し、漏水事故が起こる恐れがあります。必ず逆流防止弁を取り付けましょう。
また、チューブが長すぎると空気圧が弱まり、短すぎると取り回しに不便になります。適度な長さで、スムーズな配管を心がけてください。
まとめ:空気の出し方ひとつで、水槽の快適さが変わる
エアレーションは、単なる酸素供給にとどまらず、水流、水温、騒音、魚のストレスなど、さまざまな要素に関係しています。
「なんとなく泡を出しているだけ」になっていないか、今一度見直してみましょう。少しの工夫で、水槽がより快適で美しくなります。
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