逆流防止弁なしはリスク大
水槽のエアポンプまわり、逆止弁(チェックバルブ)はちゃんと付けていますか? 実はこの小さなパーツ、つけていないと“ある日突然”床が水浸し……なんて事態も起こり得ます。
今回は、逆止弁の役割と、知らないと怖い「サイフォンの原理」について、初心者にもわかりやすくストーリーで解説します。
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(これは20年前とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)
水換え中。
立ち上げたばかりの20Lプレコ水槽、わたしにとっては記念すべき一つ目のアクアリウムタンク。
……なのだが。
まだ「逆止弁(チェックバルブ)」という存在を知らなかった。
エアポンプから水がこぼれる日
足元が冷たい
水を抜くために、いつものようにエアポンプと外部フィルターの電源を止める。
次はコケ取りクロスの出番。が……、いつも場所にない。
あれ、どこしまったっけ。
ガサゴソ……。
道具箱から目当てのものを見つけ、いざ水槽の前へ……。
――ぴちゃっ。
ん?
なんだか、足元の靴下が……冷たい。
「あぁぁ!!」
慌てて下を見ると、ポンプ本体を中心として、床に小さな水たまり。取り付けてあるエアチューブは、こともあろうか水で満たされている。これはもしかして……
「うそ、逆流してる……?」
咄嗟に、エアチューブを咥えて頬で空気を押し込み逆流を止める。
そして、わけがわからないまま、ケータイを取り出して、アクアリウムの師匠――ことロゼッタに、すぐさま連絡を入れた。
逆流防止弁という名の最後の砦
ほどなくして、息を切らせたロゼッタが家に駆けつけた。
部屋に入るなり、開口一番、
「えぇぇっ、逆止弁なしでエアポンプ使ってたの? 正気かい?」
「だって……水が逆流するなんて思ってもみなかったかから……」
するとロゼッタは、眉間にシワを寄せ頭を抱えた。
「その“思わない”が、たまに現実になるから、逆止弁は使うんだよ……」
そう言うと、ハンドバッグの中をゴソゴソと探り、どこかで見たような見たことないような、小さな駒みたいな部品を取り出した。
上下に中空の突起があって、真ん中はふくらんでいる。
「これが逆止弁。試しに息を吹いてごらん」
促されるままに、片側からふーっと吹いてみる。
……空気が抜けた。けれど逆側から吹くと、ぴくりとも通らない。
「空気や水の流れを一方通行にできる仕組みさ。これをエアチューブの途中に挟むと、逆流を防げるってわけさ」
そんな道具があるのか。なんだか魔法みたいだ。
ロゼッタは続けて、逆流の仕組みを語ってくれた。
エアポンプを止めたとき、チューブの中やポンプの空間に、わずかな陰圧、つまり引っ張る力が生まれる。それが水をじわっとチューブの中に引き込むらしい。
すると、チューブ全体が水で満たされてしまい、あとはサイフォン現象というもので、水が勝手に流れ出すという。
「サイフォン? なにそれ」
「水が勝手に落ちてくる仕組みだよ。キミ、それを知らないで水換えしてたの?」
わたしは、ぽかんとするばかりのわたしに、肩をすくめてみせた。
水が止まらない?水換えポンプの秘密
「じゃあ、説明ついでに、ちょっと水換えしてみよじゃないか」
ロゼッタが持ち出してきたのは、水換えに使うおなじみのポンプ。
プラスチックのホースの先に、青い手押しポンプがついているアレだ。
「ちょっと借りるよ」と言いつつ、問答無用で水槽の中に突っ込んだ。
「このポンプ、シュコシュコって押すと水が出るでしょ?」
言われるままに押すと、水がバケツへ――ダバン、ダバンとリズミカルに流れ込む。
「じゃあ、手を止めるとどうなると思う?」
「え? 水が止まるんじゃないんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、ロゼッタは思わずズッコケそうになった。
「本当で言ってるのかい……。今まで一度も手を止めたことないの?」
「水換えは早い方がいいと思って……いつも手動連打してました。」
「まぁいいや、見てて」
そう言って、ロゼッタはポンプを止めた。すると――
ダバー……
水はそのまま流れ続けた。
「……え? 勝手に……」
「これがサイフォン。水が、重力に引っ張られて流れ続ける仕組みってわけさ」
ポンプがないのに出続ける水。
わたしにはまるで手品のように思えて仕方がなかったが、曰く「位置エネルギー」というものを利用しているらしい。
サイフォンが魚を干からびさせるかも?
興が乗ってきたのか、ロゼッタは鼻息を荒くしながら解説を続ける。
「サイフォンというのはね、水が高いところから低いところに、チューブを通じて流れる”続ける”現象なんだ。途中が高くても、入口と出口に高低差があれば成立するのさ」
なるほど。水槽が高い場所、バケツが低い場所ってことか。
「じゃあ、これをエアチューブに置き換えてみようか」
ロゼッタは指を空中で動かしながら言った。
「高いところはエアストーン。低いところは……?」
「エアポンプ……!」
「そう! そしてポンプが水槽より下にあり、水が一度でも引っ張られると、延々と逆流する条件が整うってわけだ」
「……た、大変だ!」
思わず叫んだわたしに、ロゼッタは得意げにうなずく。
「そうでしょう、そうでしょう。エアストーンの位置まで水が抜けたらどうなる?」
「魚が……干からびます……」
「だから逆止弁を使うのさ」
ロゼッタが掲げた小さなパーツが、今は金色に見えた。
それはちっぽけだけど、大事な命綱だとようやく理解した。
まとめ
実はわたしが怖い思いをしたのは、20年のうち2回だけ。
1回は、ストーリーの通り。
もう1回は、逆流防止弁を付けていたものの、それが劣化していたために発生しました。その時は運よく、トラップ兼エアチャンバーに溜まってくれたので大惨事は免れましたが、思い返すたびにその危険性は計り知れないものがあると考えさせられます。
みなさん、逆流防止弁は定期的に新品に交換しましょう!
というわけで、最後にストーリーで紹介した内容をまとめてみたいと思います。
逆止弁とは? その役割と重要性
水槽でエアポンプを使用する際に必須とも言えるパーツが「逆止弁(チェックバルブ)」です。これは、エアチューブの途中に取り付けて、空気や水の流れを一方通行にするための小さなコマのような道具です。
電源を切ったり停電が起きたりすると、ポンプやチューブ内部に陰圧(引っ張る力)が発生し、水槽の水がチューブを逆流してエアポンプに流れ込むことがあります。これにより、ポンプの故障や水漏れ事故、最悪の場合は床への水浸しといったトラブルにつながります。
この逆止弁があれば、たとえポンプが止まっても、水がチューブの逆方向に流れることはありません。わずか数百円で取り付けられる手軽なパーツですが、その役割は非常に重要です。特にポンプが水槽より低い位置にある場合には、必ず設置すべき安全装置です。
サイフォンの原理とは?
サイフォンとは、液体がパイプを流れる際、高いところから低いところへ、流れ”続ける”現象です。
途中に山なりのカーブがあっても、入口(高所)と出口(低所)の高低差があれば、流れ続けるのが特徴です。
アクアリウムで身近な例は「水換えポンプ」。手動でポンプを押して排水を始めたあと、手を離しても水が流れ続けるのは、このサイフォンの仕組みによるものです。
一方で、この現象は意図せず発生すると危険です。たとえば、エアチューブが何らかの理由で陰圧になり、かつポンプが水槽より低い場所にあると、サイフォンが成立し、エアストーンから逆流して水が止まらなくなることがあります。
このような事故を防ぐには、チューブの中を水で満たさないこと、また逆止弁を設置することが重要です。
サイフォンの原理は、便利な現象ですが、正しく理解しないと予期せぬトラブルを招くこともあるので注意が必要です。
正しく道具を使って、アクアリウムを楽しみましょう。
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