外部フィルターの呼び水、うまくできていますか?
外部フィルターを初めて使うとき、意外とつまずきやすいのが「呼び水(よびみず)」の作業です。
フィルター本体は見た目も構造も本格的で、設置後すぐに電源を入れたくなってしまいますが、実は一番「よく説明書を読んでほしい」タイミング。
ここで、フィルターの中にあらかじめ水を通しておかないと、ポンプが空回りしてしまい、まったくろ過が始まりません。また、大小様々な失敗が起こりやすいポイントとなっています。
この記事では、大失敗するストーリーとともに、呼び水の基本手順と、失敗しがちなポイント、そしてちょっとしたコツまでをご紹介します。
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(これは20年前とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)
初めての外部フィルター。手にしたのは憧れの「エーハイム」
エコS(2231)と呼ばれた緑のフィルターがわが家やってきたのだ。
懐事情は相変わらず厳しく、セラミックろ材には手が届かなかった。
だが、付属品の青いスポンジがついているで大丈夫だ。
これをろ材バスケット一杯に敷き詰めれば、さぁ後は、電源を入れるだけだ。
ホースもつないだ。吸水パイプよし、排水パイプよし、タップも確認済み。
「いざ、出陣!」
外部フィルターを初体験記
呼び水が来ないのですが?
電源を入れた瞬間――
カランカランカラン……
小気味よい乾いた音だけが部屋に響いた。
え、なにこれ? 水……吸ってなくない??
てっきり、ポンプの力で水を吸ってくれると思っていたのだが、違ったようだ。
だが、どうすれば水がこの中に入るのだろうか?
考えれば考えるほど分からなくなる。
思考回路が煮詰まったわたしは、呆然としながらケータイを手に取り、ある人物に連絡した。学友であり、水槽の神とわたしが勝手に呼んでいる、お師匠様――ロゼッタだ。
どうして?
「それで、ボクに相談もなく買ったのかい、アクアくん?」
ロゼッタはショートヘアを揺らしながら、わたしをじろりと睨んだ。
冷たい視線にわたしは冷や汗がでた。
(だって、仕方ないじゃないか。円高セールで、まさかの特価だったんだもの。買うしかなかったんだ!!)
と、本当のことを言えば、手が飛んでくることは間違いないだろう。
それだけ、わたしの水槽を気にかけてくれているのだ。
本当は人の水槽を出しにして、アクア談義を楽しんでいるだけなんだろうが……、そこはお互い様なような気もする。
しかし、メリットが多いのはこちらだ。素直に謝ろう。
「金輪際、相談なしに買いません!!」
平謝りしてなんとか許しを乞うと、ロゼッタはふぅとため息まじりに言った。
「あーあ、ボクのお気に入りの機種を紹介したかったのになぁ~」
よかった、許してくれそうだ。それにやっぱり、すごく名残惜しそうだが……
だが、今はそれどころじゃない。
目の前の外部フィルターに水を入れなくてはならないのだ。
「その、とにかく、呼び水をして、水を入れたいんだけどさ?」
「簡単簡単♪ まず、どこでもいいから、パイプに口をつけて?」
どこか、適当な場所はないものか?
あった!
迷わず、パワーヘッド側のタップを外し、吸水ホースを手に取った。
「あとは、息を吸うだけさ!」
ジョッ!!
突然、勢いよく水が走り出す。
よし、成功――と思ったのも束の間。
ごぽぉ……じんわり甘い。
(――うわ、飼育水だ!!)
「うえげぇ! ペッペッペッ!」
慌てて床に吐き出すと、ロゼッタは腹を抱えてけらけらと笑った
「あっはっは! 今のは、ボクに相談しなかった罰だからね!」
……どうやら、お師匠様を怒らせてしまったようだ。
小冊子
「そもそも、呼び水といえども、サイフォンさ」
だが、それだけで気持ちは晴れてくれたようだ。
「今度は」と、お師匠様が代わりに実演してくれるらしい。
「ボクが使ってた古い機種は、こうやっていたのさ」
そう言ってロゼッタは排水パイプをぐいっと持ち上げ、口をつけるしぐさを見せる。
「サイフォンの原理ってやつさ。水は高いところから低いところへ。だから水面以上には絶対に上がらないんだよ?」
たしかに。
もし、下の高さより昇ってしまえば、無限機関になってしまい、永遠とエネルギーを作り出す水力発電も夢ではない。
しかし、そんなことはありえない。
「あとは、スッって一瞬強く吸うだけ。以上、ボクの5年間の知識の集大成でしたっ!」
小さな鼻をぴんと高く掲げ、ドヤ顔のロゼッタ。
機嫌取りもかねて、最大限の賞賛を送ると、なんと裏技を教えてくるのだという。
「でもね、今ならもっといい方法、教えてあげるよ?」
これ以上良い方法があるなんて思えない。
一体どんな方法なのか……?
「聞く? 聞いてみる? 聞いてみちゃう?」
わたしはこくりと頷いた。
これ以上、口から水を飲むのは、なんとか勘弁したいのだ。
「人に聞くのもいいけど、一番確かなのは、これさ」
そう言って差し出されたのは、小冊子。
よく見ると、このフィルターの取扱説明書だった。
「ほら、ここ。ハンドルを引くだけで呼び水ができるって、ちゃんと書いてあるよ?」
「えっ、ただの取っ手だと思ってたんだけど!?」
わたしが半信半疑で引いてみるとパワーヘッドが上に引っ張られ、離れているはずの給水パイプから、するすると水が流れ込んでいく。電源を入れると、ついに、カラカラとした音は止まり、静かに循環が始まった。
きっと、注射筒のように水を引っ張っているのだろう。
「こういう便利な機能があるときこそ、説明書って大事なんだよ?」
したり顔のロゼッタ、わたしはただ、フィルターの前で膝をついてうなだれるしかなかった。
水槽の水は、飲みものではない
その日以来、意図せず飼育水を飲むことは――「ほとんど」なくなった。
あえてそう書くのは、2回だけ、やらかしてしまったからだ。
そのうちの1回は、新しいフィルターの交換中の出来事。
ちょっとだけと思い、変な位置でホースを吸ったのが悪かった。
思いっきり吸い込んだ水が、ストレートに喉に届き、その翌日、高熱で病院送りとなった。
「今日はどうされましたか?」
「はい、水槽の水を……飲みました」
いま思い返しても、情けないやりとりだ。
これを読んでいるあなたには、心から伝えたい。
――説明書は、読みましょう。
――水面より高い位置で、吸いましょう。
水槽の水は、飲みものではありません。
なぜ呼び水が必要なの?
外部フィルターは、多くの場合「水槽の下」に設置されます。このとき、水槽からホースを通じて水がフィルターへと落ちていく仕組みは、サイフォンの原理を利用しています。
このサイフォンの原理とは、高い位置の水が重力で低い位置へ連続的に自然に流れるしくみです。ホース内に水を満たし、空気を抜くことで成立します。
もし、ホースの中やフィルター本体が空っぽのままだと、空気が邪魔をして水は流れてきません。そのため、電源を入れる前に、水が自然に流れ込むよう動作(=呼び水)がとても大切なのです。
呼び水の基本な手順(対象:一般的な機種のみ)
ここでは、電子制御や呼び水ポンプがない、昔ながらの機種のみについて、紹介したいと思います。
ホースを接続する
まずは吸水・排水ホースとパイプをそれぞれ水槽に取りつけ、本体側のタップにもきちんと接続し、開放しておきます。
この時、吸水パイプの先(ストレーナー)が、水槽の水にしっかり沈んでいるかをチェックしましょう。
排水側から呼び水を行う
次に、排水パイプを水面より高い位置にホースごと持ち上げて、口を当てて軽く「フッ」と一瞬だけ吸い込みます。すると、水槽から水が重力で連続的に落ちてきます。これがサイフォンの力です。
この時、いつまでたっても口にあて続けていたり、水面より低い位置で吸い込み続けていると、飼育水が口の中に入っていきます。慎重に!
水が十分に入ったら電源ON
呼び水中のゴボゴボとしたパイプからの音が止み、フィルター本体に水が満ちたことを確認したら、いよいよ電源を入れてみましょう。正常なら、すぐに水の循環が始まります。
呼び水がうまくいかないときのチェックポイント
「吸っても全然水が来ない」「電源を入れても動かない」そんな時は、次のポイントを確認してみてください。
・ホースのタップが開いているか?
→意外と忘れがち。タップが閉じたままだと、空気が動かず吸い込みもできません。
・フタがきちんと閉まっている?
→密閉されていないと空気が逃げてしまい、水をうまく引けません。
・ホース内に水が残っていないか?
→中途半端に水が残っていると、勢いが足らず呼び水が止まってしまうことがあります。
・それでも出来ないのならメーカーサポートへ
→以上を満たして入れば、呼び水が出来ないということはないのですが、慣れない作業のためうまくいかない人もいます。一人で悩まず、メーカーに聞いてしまうのも一つの手です。
・中古品は要注意
→外部フィルターは個体差の強い器具です。そして、もし漏水があれば、一瞬で水槽の水が空になります。トラブルを避けるため、中古品はなるべく避けましょう。
呼び水ワンポイントアドバイス
先にホース内に水を注いでおくとラクです!
吸水側のホースに水を満たしてからタップを開くと、自然とサイフォンが始まります。ただし、設置に難があるので、慣れが必要です。
排水パイプを高く持ち上げてから吸うと、水が口に入りません
水面以上に排水パイプの先を上げておけば、吸いすぎても水が口まで届かないので安心。
口で吸いたくない人には、専用ポンプがおすすめ
市販の呼び水ポンプ(手押し式)を使えば、衛生面も安心。初心者には心強いアイテムです。
呼び水は一見めんどうに感じるかもしれませんが、仕組みさえ理解すればとても簡単。サイフォンの原理を使うこの作業は、外部フィルターを使う上での第一歩です。最初は戸惑うかもしれませんが、慣れてくれば口の中に水が入ってくることなく使えるようになります。
外部フィルターで、静かで安定したろ過環境になりますように。
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