水が白く濁る――これって異常?
水槽が、数日で白く濁ってしまった。そんな経験はありませんか?
「白濁」は、バクテリアの急増や汚れの蓄積など、いくつかの原因で起こります。
見た目は同じでも、時期や状況によって理由は異なり、それぞれに合った対処が必要となります。
この記事では、飼育中に見られる濁りについて、ストーリーとともに原因と解決法をわかりやすく紹介します。
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(これは20年前の物語)
プレコ飼育を始めてから、ようやく生活の中に水槽がなじんできた。
水換えのタイミングもつかめてきたし、何だかんだでアヌビアス・コーヒーフォリアも枯れずに育っている。
昼は流木の影に隠れているセルフィンも、夜になるとそっと出てきて流木をかじるようになってきた。
そんな何気ない日常に感謝して、彼にごちそうを奢ることにした。
プレコの大好物といえば……
そう、きゅうりだ!
聞けば、熱狂的な「モフモフ」が拝めるらしい。
晴れて一介のプレコ飼育者となったわたし、一目でいいから見てみたい。
とはいえ、いきなり大胆にはできない。
餌付けをしたときと同様、夜に入れて朝に取り出す方式を採用する。
夜、縦に真っ二つに切ったきゅうりを沈めて準備完了。
明日の朝、うまくいけば芯が削れ、あの吸いつき跡が見られるかもしれない。
そんな期待を胸に、わたしは静かに部屋の明かりを落としたのだった。
きゅうり1本から始まる白濁物語
お師匠様の実況見分
朝。
水槽をのぞいて、一瞬で固まった。
霧が降りている。
バックスクリーンのジャングルに霧がかかっているのかと見間違うほど、水槽全体が白濁していた。
「……どうしよう」
慌ててプレコを探す。
流木の陰からしっぽをフリフリさせていた。脅かさないように近づいてエラを確認すると、呼吸も落ち着いているようだ。
とはいえ、水の色は明らかに異常だ。
まさかフィルターが止まった?
硝化バクテリアのバランスが崩れた?
それとも……きゅうり?
とりあえず、水換えをして、学校行かねば。
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そして講義が終わり、家路を急いでいると、広いキャンパスの遠くに見慣れた服と歩き姿。
あれはきっと、学友でアクアリウムの大先輩こと、「お師匠様」。
「やあ!」と、いつもの声を掛けられるよりも早く「とにかく、お願いします!」と腕をがっしり掴み、強引にでも来てもらうことにした。
大急ぎで帰り、家についたころは夕方を過ぎていた。一緒に部屋の奥に向かい、立ち上がったばかりの水槽を見てもらうと、お師匠様の顔がにわかにこわばった。
「これは……!? よし、急いで試薬でチェックしてみよう!」
颯爽と可愛らしいハンドバッグから取り出されたのは、青と白の小さな箱。
普段はあまり見せない硬い表情から、緊張感が伝わる。
「アンモニア試薬さ!」
まずアンモニア。
まるでガラス細工の実験器具を操るかのように丁寧に扱うと、小さなケース内の飼育水はライトイエローを呈した。つまり未検出。
「でも、まだ安心はできないよ」
続いて、亜硝酸試薬。
こちらも似たような箱から試薬を取り出し、落ち着きつつもテキパキとした手つきで試験液が添加された。
が、こちらもライトイエロー。未検出だ。
「ふぅむ。水質は悪くないな。……で、キミ、何か変わったことをしたかい?」
プレコは相変わらず流木に張りつき、しっぽを振っている。
そのお尻からは、半透明の糞。
プレコ……?
あっ、やっぱり?
「そ、その……昨日の夜、”きゅうり”あげました!」
「それだ!」
お師匠様の目が光った。
犯人は野菜だった
犯人がわかると、お師匠様は得意げに説明を始めた。
曰く、きゅうりの食べ残しが原因で白濁することがあるらしい。
「どれくらい、水槽の中に置いておいたの?」
「……一晩」
「えっ! そんなに!?」
目をぱちくりさせて驚いている。
「だって、夏だよ? 26℃の水だよ? カットしたきゅうりを一晩放置したらどうなるか……キミだってわかるでしょう?」
どうやら、長時間の放置が原因らしい。
良かれと思ったつもりが大失敗。
挙句の果てに、お師匠様を拉致同然で無理やり連れてきてしまった。
いろいろと振り返るうちに、だんだん恥ずかしくなり……、
もう、顔から火が出そうだ!
しかし、お師匠様は淡々と話を続ける。
「もちろん、どんな餌でも起こるんだけどね。こういった白濁は、主にバクテリアの急増が原因だよ」
どんな栄養源であれ、水中の有機物が増えて微生物が大繁殖すると、今回のような白濁が起きるのだという。それが今回のような残飯が原因でも、立ち上げ中の話でも、基本的には変わることはない。
ここでようやく、ばつが悪そうにしているわたしに気が付いたのだろう。
懐かしそうに笑いながら、お師匠様のフォローが入る。
「いや、ボクもね、昔、発酵式のCO₂培養液が逆流して白濁させたことがあるんだ。あれはきっと酵母が増えてしまったんだろうね、ははっ」
「そんなことは誰でもあることだから」と言い聞かせてくれた。
恥ずかしさで一杯だった胸も、落ち着きを取り戻した。
しかし、ふと、気になった。
「でも、きゅうりは水分と食物繊維がほとんどですよね?」
その一言でお師匠様は質問の意図を察したのだろう。
わたしの質問が終わる前に、うんうんと頷いた。
「あぁ! わかるよ。窒素源がないからアンモニアは出ないはずだって、検査も水換えも必要ないじゃないかって? 言いたいんでしょう?」
とした上で、注意を惹いくように、わざとらしく両手でポンと叩いてみせた。
「でもさ、水槽の中の生態系って、そんなに単純じゃないんだよね」
もし、増えた微生物が酸素を消費しすぎて酸欠になったら――魚にとってはそれが命取りになる。
それに、増えた微生物が大量に死滅したら、悪影響を及ぼすこともあるだろう。
そして、お師匠様はこう言って、話を締めくくった。
「だから、たかがきゅうり、されどきゅうりさ」
![]() |
・まずは水換えをしたいところ。 |
教訓と、モフモフの風景
あの日以来、きゅうりは必ず1、2時間で撤去するようになった。
それでも白濁が起きたときは、水換えをしつつ底床掃除。
さらにフィルターも軽く掃除して、残飯が吸い込まれていないかをチェックするようにしている。
そうそう、エアレーションも忘れずに。
最初のころは、流木の陰からじっとこちらをうかがうばかりだったプレコも、
今ではわたしの目の前で堂々とモフモフかじりを披露してくれる。
すっかり人に慣れて、エサの時間になると前面に出てくるようになった。
プレコは少しずつ「水槽の住人らしく」なってきたように感じる。
そう思えるのは、あの白濁事件があったからなのかもしれない。
白濁が起きる理由
最後に、ストーリーの内容をまとめたいと思います。
立ち上げ初期に起こる“バクテリア白濁”とは?
水槽を設置して間もない頃に見られる白濁は、好気性バクテリアが一気に繁殖することで引き起こされることが多いです。
この現象は、生物ろ過システムがまだ不完全な状態で起こりやすく、水中に残った栄養分にバクテリアが反応して爆発的に増殖することで、水が白く濁って見えるのです。
特に立ち上げ初期の水槽では、アンモニアや亜硝酸が高濃度で検出されることもあります。これらの物質は魚にとって有害であり、放置すれば命に関わる場合もあるため注意が必要です。
試薬を使ってこまめに水質をチェックし、もしアンモニアや亜硝酸が検出された場合は、迷わず水換えを行いましょう。立ち上げ直後の白濁は、焦らずに水槽の生物バランスが整うのを待ちつつ、必要に応じて対処していく姿勢が大切です。
飼育中の白濁──それは“汚れが処理できない”サイン
すでに魚が元気に泳いでいる水槽でも、ちょっとしたことが原因で、白濁が起こることがあります。
このタイプの白濁は、バクテリアの不足しているわけではなく、水中に蓄積された有機物が分解しきれなくなったときに発生します。
たとえば、エサを与えすぎてしまったり、フンが底にたまりすぎたり、定期的な掃除を怠ってしまったときなどに起こりやすい現象です。
このような場合、水の表面にうっすらと生臭さを感じたり、魚の動きが鈍くなっていたりすることがあります。
また、ろ過フィルターの能力が追いついていなかったり、エアレーションが不十分だったりすると、状況はさらに悪化します。
こうした白濁に気づいたときは、まずは水換えをしましょう。
そして、底砂を丁寧に掃除し、フィルター内部のろ材をチェックしてみてください。ウールマットなどに汚れがたまっていたら、水槽の水で軽くゆすいで再使用するか、新しいものと交換するのが効果的です。また、エサの量や回数を見直し、魚が食べ残さないように調整することも白濁防止に役立ちます。
魚の調子が明らかにおかしくなっている場合は、水質の悪化が進行しているサインです。
そのまま放置せず、即時水換えを行うことはもちろんのこと、定期的な観察と水質チェックを行い、水槽内の環境改善に努めましょう。
まとめ:白濁は、水槽からのメッセージ
水が白く濁る現象には、いくつもの理由があります。
立ち上げ初期に起こるバクテリア由来のもの、そして飼育中に見られる汚れや過剰な有機物のもの。
それぞれの背景を知れば、適切に対処できるようになります。
今回の「きゅうり事件」からも分かるように、水槽はちょっとした変化にとても敏感です。
そして、その反応こそが、水槽という小さな生態系からのサインでもあるのです。
「たかがきゅうり、されどきゅうり」。
ほんの一片の野菜が、環境を大きく揺るがすことだってあります。
だからこそ、観察し、学び、小さな変化に気づく目を持ち続けたいですね。
というわけで、今回はここまで。
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