たしかにスポンジフィルターだが……
スポンジフィルターといえば、テトラ ツインブリラントフィルター。
でも、見た目がそっくりなP2フィルターが同社からされていることをご存じですか?
この「ツインブリラントフィルター」と「P2フィルター」は、どちらもスポンジ2本を縦に取り付けているのが特徴的で、一見すると同じように見えるかもしれません。
でもこの2つ、実はまったく違う役割を持っているのです。
今回は、その話をストーリーで紹介します。
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(これは2000年代と創作が織りなす不思議な世界の物語)
欲しいものがある。
大きなスポンジフィルターだ。
でも、名前がわからない。
いや、あまりに短すぎて、逆に覚えられなかったのだ。
記号のようで、単語のようで、気が抜けるほど軽い名前だった。
そこで、わたしの水槽のお師匠様ことロゼッタに助けを求めることにした。
アクアリウム界隈の情報をかき集め、無限に話し続ける長話の権現のような存在だ。
わたしの欲しいフィルターの名前は?
目指す店
大学を出て、私鉄と地下鉄をいくつも乗り継ぎ、直接向かう。
赤いラインが映える地下鉄を降りたときには、ちょうど帰宅ラッシュの真っただ中だった。グレーの人波に押されながらも、わたしは地下道を這い出すと、目の前に夕日に照らされたイチョウ並木。そこから、神社の参道を逆行し、高く黒光りする本殿の屋根を横目に、鳥居をくぐる。そこに、目的の店があるのだ。
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・P2フィルター。ぱっと見ツインブリラントと同じだが |
ロールケーキかシフォンケーキか
「それで、今日は何なんでボクを連れてきたの?」
声をかけた瞬間、口調は早く、目は鋭く、どこか刺々しい。
ぷりぷりとしたオーラが全身からにじみ出ている。
なぜこんなにも不機嫌なのだろう……?
あ、とわたしは思い出す。
ロゼッタを誘うのと、大学からの道の確認で手いっぱいになり、肝心の目的を伝えていなかったからだ。
「その、欲しいものが……あるんだ」
「はぁ? またぁ?」
ため息とともに肩をすくめ、首を大きく振るるロゼッタ。
そんなことを聞いているんじゃない、と言わんばかりの態度だ。
でも、それでも――必要なのだ。つい先日、この店でツインブリラントフィルターを買ったばかりだった。だが、今のフィルターじゃ足りない。そう感じてしまったのだ。
わたしの顔には自覚のある申し訳なさがにじむ。
「それで? 一体何を探しているっていうんだい?」
単独リードを諫めるのを諦めたのか、口を尖らせじっとりとした目つきだ。
「その、恐縮ですが……、大きなスポンジフィルターってありません?」
「うん? ツインブリラントスポンジスーパーフィルターのこと?」
なんだその長い名前は?
違う、そんな大げさなものじゃなかったはず。
もっとこう、スッと記憶に入ってくる名前だったはずだ。
ロゼッタが目をぱちくりさせて、さらに訊いてくる。
「ほら? 半分に切ったシフォンケーキが乗っているようなやつ?」
――はて?
ケーキなど乗っていない。
でも、例えるなら……そうだ、あれだ! 見た目の丸さからいって、それが一番近い。
「ロールケーキじゃなくてですか?」
「んん???」
会話が食い違うたび、頭の中で何かがモヤモヤと膨らんでいく。
どうにも言葉が通じない。
業を煮やしたお師匠様が、わたしの腕を取り、しぶしぶという表情でフィルターが並ぶ棚へと引いていく。そして、手渡されたひとつのパッケージ。
違う。
これではない。
はっきりと首を横に振った。
「もっと、ツインブリラントフィルターを大きくしたような感じで……」
プレコの糞や残飯もびくともしないような、ザラザラとした粗い目のスポンジが印象的だったはず。
わたしの説明に、ロゼッタは無言でショートヘアの毛先をくるくるといじり始める。
やがて、ふいに天井を見上げ――ぽん、と手を叩いた。
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・こちらはツインブリラントフィルター |
外の外は内ですか?
「あぁ! わかったよ!」
目が合った瞬間、にまっとした笑顔を見せた。
次の瞬間には、二の腕を掴まれていた。
連れて行かれたのは、店の最奥。
ずらりと並ぶ外部フィルター用品。でかい箱、ぎっしり詰まったパーツ、数字の羅列。
まるで理系の秘密基地みたいだ。
以前、別の店で見た気がする。あれだ、外部フィルターというやつだ。
ふと値札が目に入った。その瞬間、わたしの膝が小さく震えたのが自分でもわかった。
見なかったことにしよう。そう決めたのに、ロゼッタがけたけたと笑いながら言った。
「もしかして、値札見てびっくりしちゃった? でも、これはあくまでも都会価格」
そう言ってから、ここ一帯の地域について説明を加えた。
この店の周りには、この国有数の歓楽街がある。さらに地下鉄から歩いて数分で利便性も抜群だ。
そして、そのような場所で夜通し働く若者は多く、大半が一人暮らしゆえ寂しさを感じるものが少なくない。
「需要と供給ってやつだね。わたしたちの大学付近ではこの半額以下で売られていることもあるから、安心して」
言い切ってから、すっと手渡された箱。
そこに描かれていたのは、わたしの探していた“それ”にそっくりな絵。
すなわち、ザラザラとしたスポンジろ材を2本縦置きに配置。
サイズも大きくいかにもツインブリラントフィルターの強化版のような貫禄。
そして、「P2フィルター」の文字。
「あっ! これです!!」
思わず声を上げるわたしに、ロゼッタは鼻で笑った。
「残念でした~♪ これは外部フィルター用でーす!」
「ええっ?」
全身の力が抜けていくのを感じた。
これではないかと、確信していたのに。
見た目はまさに理想形だった。
だが、それはわたしの求めるフィルターとは違うものだった。
「これはね、外部フィルターの吸水パイプに取り付けて使う、プレフィルターというものなんだ~」
プレフィルター。
曰く、外部フィルターの外側で利用するフィルターのことだそうだ。
今回のP2フィルターのように水槽内に取り付けるものもあれば、小さな外部フィルターのような密閉構造をしていて水槽外に取り付けるものある。また、最近では掃除しやすいようパワーヘッド直下に配置し足るものもあるらしい。
とにもかくにも……
「外部フィルターは掃除しづらい! だからすぐに汚れ、頻繁に掃除する必要がある、物理ろ過を外に取り付けるのさ!」
ロゼッタは、いつのまにか機嫌を直していた。
目を細めて、満足げな笑顔で言った。
「でも、これがないからって、ブリラントフィルターのスポンジを使っちゃダメだからね」
エアリフト式のスポンジを外部フィルターで使うと、すぐ詰まってしまって逆効果になるらしい。だからこそ、このサイズで、目が粗くなっているのだと。
「外部フィルターの流量は莫大なのさ~」
最後に、ふんわりとした笑顔で、トントンとわたしの肩を叩いた。
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・スポンジの目の細かさは大きく違う |
P2フィルターの実力
その後、なぜかエーハイムエコS(2231)を衝動買いしてしまった。
だが、あれほど気になっていたP2フィルターのことは、すっかり記憶の彼方に飛んでいった。
それから数年が経ち、プレコの水槽が60cm規格に変わったとき。
外部フィルターの物理ろ過対策を迫られることになり、この日のやりとりが、不意に心に浮かび、さっそく購入、取り付けけた。
スポンジろ材二本差しはさすがで、大きなゴミをシャットアウトし、通水量の維持に一役買うことになった。
なにより、上に引っ張るだけでスポンジろ材が外せるのも嬉しかった。
だが、それでも放置しておけば、あっという間に詰まりを起こす。
プレコ水槽とは、木くずとの闘いなのだ。
結局、あの時のわたしにとってこのフィルターは、
「気にはなっていたけれど、忘れられるくらいにはどうでもよかったもの」だったし、買ったところで有効活用はできなかっただろう。
たったその程度の存在なのに、わざわざ時間を使い、お金を大枚叩いて店に通ってしまうのだから、つくづく、アクアリウムという趣味は恐ろしい。
まとめ
ツインブリラントフィルターとP2フィルターは、どちらもスポンジを用いたフィルターですが、構造と用途には大きな違いがあります。
まず、ツインブリラントフィルターはエアリフト式のスポンジフィルターで、水槽内に設置して使用するものです。2つのスポンジとリフトアップパイプが一体となっており、エアポンプからの空気で水を循環させ、ろ材であるスポンジを通して生物ろ過を主体として行います。
主に小型から中型水槽、また稚魚育成や淡水エビ水槽などに使われ、ろ過力と酸素供給を両立できるのが特長です。
一方、P2フィルターは外部フィルター用のプレフィルターであり、水槽の内部に設置される吸水パイプに接続して使います。
大きく、通水量を確保するため同様の構造でありながらも、粗目のスポンジを用い、外部フィルター本体に届く前の段階でゴミや残餌を効率よく除去し、本体の目詰まりを防止する目的があります。
ツインブリラントと違い、自身で水を汲み上げる能力はなく、ろ過の補助的な役割に特化したアイテムです。
このように、見た目が似ていても、設置場所・動力・目的がまったく異なる製品といえます。
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