2025年7月19日土曜日

スポンジフィルター上から出すか、下から出すか。それとも……

スポンジフィルターの排水パイプ、どこに置く?位置で変わる水流・音・油膜

スポンジフィルターを使う際、見落とされがちなのが「排水パイプの位置」。
水中? それとも水面の上?

――その選び方ひとつで、水槽内の流れや音、油膜の出やすさまで変わってしまいます。

今回は、ブリラントフィルターを例に、設置位置ごとの特徴と選び方を解説しますが、
……物語の通り、奥が深く少々あいまいな話かもしれません。

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(これは20年前とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)

ぴょこんと飛び出したパイプの先から、ショワショワと水が落ちている。
気泡混じりの音が、静かな部屋に不規則なリズムを刻んでいた。

わたしは悩んでいた。
テトラのスポンジフィルター、ブリラントフィルターという立派な名前のこのフィルターの排水パイプについてだ。これをどこに置くべきかという問題。

――水中か、水面か、それとも今のように少しだけ上に出すべきなのか。

パイプは二段に分かれていて、継ぎ竿みたいに長さを調節できる仕組みになっている。
だが、上に上げすぎれば水は止まってしまうだろう。かといって、下げればいいという単純な話でもない気がする。

わたしは迷った末、あの人を呼び出した。



スポンジフィルター迷宮


水音に迷う午後

翌日。キャンパスのいちばん奥ところ。
数十階建てのビルの横を抜け、サークル棟へと向かう。木々のトンネルを通り抜けたところで、影からすっと二の腕をつかまれ、ベンチへ誘いこまれた。

「やぁ、偶然だね」

お師匠様ことロゼッタだ。
水槽の話なら右に出る者はいないと豪語する、生物系オタクの友人である。
件の排水パイプの悩みを打ち明けると、待ってましたとばかりに目を輝かせた。

「今はどう使っているんだい?」
「水面から1cmくらい上に出して使ってます」
「なるほどね」

深くうなずきながら、ロゼッタは指を折って見せた。

「この問題はね、ひとつは騒音、もうひとつは流量、このふたつの観点から見ることができるのさ」

いつになく鋭い目つきと、得意げな顔。
どうやら、話は長くなりそうだ。



迷宮の扉が開く

「じゃあまず、パイプがうんと短かった場合を想像してごらん、アクアくん?」

言われたとおりに想像してみる。
たぶん、エアリフトで水がうまく持ち上がらず、流量が落ちるだろう。しかも、パイプと水面の距離が空いていれば、泡が破裂する音がポコポコとうるさく響くはずだ。

考えを口にすると、にっこりと微笑んで首を縦に振った。

「うんうん、そうなるよね。でもね、よほど小さい水槽じゃなきゃ、そんなに短く使う人はいないよ」

たしかにそうだ。
水面が低い水槽や、超小型水槽で無理してでも使うような状況のはずだ。
しかし……

こちらの考えがまとまらぬうちに、ロゼッタは次の質問をぶつけてきた。

「では、その逆、長すぎる場合はどうかい?」
「それは……」

スポンジフィルターの排水パイプは伸縮する。
過去に“実験”と称して、排水パイプを目いっぱい伸ばしてみたとき、ゴボゴボと音を立てて排水が止まった光景を思い出した。

「水が……出ません。だから、フィルターの意味がないと思うんです」
「そう、そういうこと。まぁ、もし水が出る長さにしても、落水音は盛大だろう」

曰く、排水パイプが長すぎるという場面は、ほとんどないらしい。

「でも、テラリウムの揚水にはいいかもしれないけどね」

としたうえで、手のひらで空を切った。

「今回の話は、長すぎ・短すぎといったパターンは、考えないことにします♪」

ぶった切ったのだ。
それだけ、面倒な、いや細かい話なのだろう。
迷宮の入口に立っているような気がして、話の先行きに不安すら覚える。

「だから、ここからの話は、パイプは長すぎず短すぎず、ほどよい長さで、水中・水面・水上、どこが適しているかということについて、話していくね」

数学のように前提条件が次々についていく。
こういった話は、要領を得ることが難しく、嫌な予感しかしない。

「それで、突然なんだけど、ボクの結論、聞きたい?」

えっ――
いきなり答えが出てくる。
だが、ロゼッタの真剣なまなざしに、思わず首を縦に振り、固唾をのむことしかできない。

「正直に言えばね……どれでもいいと思うんだ

あまりの結論に、膝の力が抜け、ひっくり返りそうになる。
なんだか、真面目に聞いていた自分がバカみたいだ。



答えは泡のように

「まぁまぁ、落ち着いて。ゆっくりボクの話を来てほしい」

わたしが不満の意を感じ取ったのだろう、目を合わせてからにやりと笑って見せた。

「ね? まずは、騒音の話からしよう」

お師匠様は右手で支えるように、左手で頬杖をついて説明し始めた。

「騒音についてだけど、正直言って、水中・水面・水上、どれも音の大きさについては同じぐらいだね。だけど……」

曰く、音の“質”に違いがあるらしい。

「たとえば、水中にパイプを置けば、水面でエアが弾けるから、ショワショワ・シャラシャラと音が出る。ちょっと音が高いから、人によっては気になるかもしれないな~」

ふむふむ。

「水上ならどうだい? 水が落ちて泡が弾けて、プクプク・シュワシュワとした音がする。こっちも割と目立つかなしれないよね?」

うん……?

「そして水面ちょうどなら? エアがパイプ内で抑えられて、シャララって感じの音だけになるんだー」

……。

「ボクって、違いのわかるオトナだと思わない?」

どうやら、盛大な肩透かしを食らったらしい。
拍子抜けしてしまった。

「ちょっと、何を言ってるのかよくわかりません!」

と抗議の声をあげると、それを聞き逃さなかったロゼッタの目が光った。

「つまり、そういうこと。わからない。わからないってこと。五十歩百歩ってことなのさ

わざとらしく肩をすくめてみせた。


なお音に敏感すぎる著者の感想としては、水上にセットするのが、僅かにうるさい気がします。



核心部

「でも、水の流れ方は結構違うんだ」

そう前置きしつつ、話を進める。

「水上にセットしたとき、どうだった?」
「たしかに、水面に落ちるから油膜は取れてたと思います。でも最近は油膜すら出ないので、効果はわかりませんが……」
「おそらく、キミの言っていることが正しいよ。パイプから落ちる水で油膜も落とし込みつつ、波も立つから酸素の供給も期待できるはず。けれど、縦の流れが強くて、横方向の流れは弱いかもしれないね」

なるほど。
油膜落としはこの使い方がいいのか……?

「では、水中に設置すると何がいいんですか?」
「パイプから出た水が横に動くから、ろ過した水が全体に広がりやすいかな。その分、水面の流れが弱くて、油膜への効果はちょっと落ちるかも。でもね、エアの気泡が水面で弾けるから、ゼロってわけでもないんだ」

ふむ、はっきりしない口ぶりが逆に説得力ある。

「では、水面ぴったりは?」
「横方向への水面の流れが強くて、よく揺らぐから油膜防止や酸欠防止にいいと思うよ。おまけに、音はちょっと静かだしね」

これだ!

「……わかりました、水面が一番良いんですね!!」

だが、首を大きく振る。

「そもそも、水槽の水位ってすぐ変わるだろう? 特に夏場とか、面倒なんだよね。いちいちパイプの長さを移動できる?」

むむむ。
よくよく聞けば、どれも決定打に欠ける。

「結局は、エアで動かしてる以上、溶存酸素も油膜除去もそこまで差は出ないよ。水滴だって、どう設置しても飛ぶしね」

うーん、迷宮入りだ。

「もちろん、“いやいや違う”って言う人もいると思う。でも、ボクの感想はそんなとこさ」

困ってしまった。
なんとなく煮え切らない話に、これでは選びようがない。
一か八か、愚直に聞いてみることにした。

「それじゃあ、どうやって決めればいいんですか?」

木々の隙間から空を仰ぎ見るように少し考えたあと、話を締めくくった。

水の流れと、音の感じかた。そこを基準にすればいいんじゃないかな。それで正解なんだと思うんだ」



お師匠様とは違った答え

わたしは結局、排水パイプを水面より少し上に出して設置することにした。

落ちる水が、水面にリズムを刻む。小さな滝みたいで、ビジュアル的にも気に入っている。
もちろん、これが野暮ったいという人もいるだろう。

どちらにしろ、極端な位置でなければ、性能的にどれも大差ない。
だけど、こういう意味のない部分を部分にこだわるのが、水槽という趣味の面白さなのだと思う。

ロゼッタの言葉を思い返しながら、今日もまた水面に耳を澄ませる。
たぶん、正解なんて最初からなかったのかもしれない。



まとめ

スポンジフィルターを使用する際、意外と悩ましいのが排水パイプの設置位置です。
水中、水面、水面より上、どれにするかで、流量や水流の性質、騒音、油膜除去の効果が微妙に異なってきます。
とくに、テトラ社の「ブリラントフィルター」のようにパイプの長さを調整できるタイプでは、設置方法によってフィルターの使い心地が変わってくるため、自分の水槽環境に合わせた選択が必要になります。

まず、水面より上に排水パイプを出す場合、落水によって水面が撹拌されるため、油膜の除去や酸素供給効果が期待できます。
水音が「ショワショワ」「プクプク」と耳に残る場合がありますが、視覚的にも小さな滝のようで魅力を感じる人も少なくありません。
ただし、水槽の水位が下がると落差が大きくなり、水跳ねや音の増加につながるため、こまめな水位管理が必要です。
もちろん、あまりに水位が下がれば、フィルターが停止するでしょう。

水中にパイプを沈める方法は、エアの力で持ち上げられた水が静かに水槽内へ戻るため、音は比較的静かになります。
また、パイプから出た水が横方向に拡がるため、水槽全体に水流が行き渡りやすく、生体にやさしい環境を作りやすいという利点もあります。
ただし、水面が撹拌されにくいため、油膜対策としてはやや弱くなることがあります。

水面すれすれに設置する場合は、その中間的な性格を持ちます。
落水音は比較的静かで、水面の揺れもほどよく、油膜防止や溶存酸素の維持にもバランスよく貢献します。
ただし、水位の変動によって“水面上”や“水面下”に簡単に移行してしまうため、小さな水槽などでは状態が安定しにくい面もあります。

結論として、どの位置が「正解」というよりは、それぞれの水槽の条件やユーザーの好みに応じて選ぶのがよいでしょう。

重要なのは、極端に短くして流量が落ちたり、長くしすぎて排水が止まったりしないよう、適度な長さを保つことです。
そして、水の流れ方・音・油膜の状態などを観察しながら微調整を重ねていく――それこそが、水槽という趣味の楽しみのひとつだと言えるでしょう。



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