スポンジフィルターの排水パイプ、どこに置く?位置で変わる水流・音・油膜
スポンジフィルターを使う際、見落とされがちなのが「排水パイプの位置」。
水中? それとも水面の上?
――その選び方ひとつで、水槽内の流れや音、油膜の出やすさまで変わってしまいます。
今回は、ブリラントフィルターを例に、設置位置ごとの特徴と選び方を解説しますが、
……物語の通り、奥が深く少々あいまいな話かもしれません。
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(これは20年前とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)
ぴょこんと飛び出したパイプの先から、ショワショワと水が落ちている。
気泡混じりの音が、静かな部屋に不規則なリズムを刻んでいた。
わたしは悩んでいた。
テトラのスポンジフィルター、ブリラントフィルターという立派な名前のこのフィルターの排水パイプについてだ。これをどこに置くべきかという問題。
――水中か、水面か、それとも今のように少しだけ上に出すべきなのか。
パイプは二段に分かれていて、継ぎ竿みたいに長さを調節できる仕組みになっている。
だが、上に上げすぎれば水は止まってしまうだろう。かといって、下げればいいという単純な話でもない気がする。
わたしは迷った末、あの人を呼び出した。
スポンジフィルター迷宮
水音に迷う午後
翌日。キャンパスのいちばん奥ところ。
数十階建てのビルの横を抜け、サークル棟へと向かう。木々のトンネルを通り抜けたところで、影からすっと二の腕をつかまれ、ベンチへ誘いこまれた。
「やぁ、偶然だね」
お師匠様ことロゼッタだ。
水槽の話なら右に出る者はいないと豪語する、生物系オタクの友人である。
件の排水パイプの悩みを打ち明けると、待ってましたとばかりに目を輝かせた。
「今はどう使っているんだい?」
「水面から1cmくらい上に出して使ってます」
「なるほどね」
深くうなずきながら、ロゼッタは指を折って見せた。
「この問題はね、ひとつは騒音、もうひとつは流量、このふたつの観点から見ることができるのさ」
いつになく鋭い目つきと、得意げな顔。
どうやら、話は長くなりそうだ。
迷宮の扉が開く
「じゃあまず、パイプがうんと短かった場合を想像してごらん、アクアくん?」
言われたとおりに想像してみる。
たぶん、エアリフトで水がうまく持ち上がらず、流量が落ちるだろう。しかも、パイプと水面の距離が空いていれば、泡が破裂する音がポコポコとうるさく響くはずだ。
考えを口にすると、にっこりと微笑んで首を縦に振った。
「うんうん、そうなるよね。でもね、よほど小さい水槽じゃなきゃ、そんなに短く使う人はいないよ」
たしかにそうだ。
水面が低い水槽や、超小型水槽で無理してでも使うような状況のはずだ。
しかし……
こちらの考えがまとまらぬうちに、ロゼッタは次の質問をぶつけてきた。
「では、その逆、長すぎる場合はどうかい?」
「それは……」
スポンジフィルターの排水パイプは伸縮する。
過去に“実験”と称して、排水パイプを目いっぱい伸ばしてみたとき、ゴボゴボと音を立てて排水が止まった光景を思い出した。
「水が……出ません。だから、フィルターの意味がないと思うんです」
「そう、そういうこと。まぁ、もし水が出る長さにしても、落水音は盛大だろう」
曰く、排水パイプが長すぎるという場面は、ほとんどないらしい。
「でも、テラリウムの揚水にはいいかもしれないけどね」
としたうえで、手のひらで空を切った。
「今回の話は、長すぎ・短すぎといったパターンは、考えないことにします♪」
ぶった切ったのだ。
それだけ、面倒な、いや細かい話なのだろう。
迷宮の入口に立っているような気がして、話の先行きに不安すら覚える。
「だから、ここからの話は、パイプは長すぎず短すぎず、ほどよい長さで、水中・水面・水上、どこが適しているかということについて、話していくね」
数学のように前提条件が次々についていく。
こういった話は、要領を得ることが難しく、嫌な予感しかしない。
「それで、突然なんだけど、ボクの結論、聞きたい?」
えっ――
いきなり答えが出てくる。
だが、ロゼッタの真剣なまなざしに、思わず首を縦に振り、固唾をのむことしかできない。
「正直に言えばね……どれでもいいと思うんだ」
あまりの結論に、膝の力が抜け、ひっくり返りそうになる。
なんだか、真面目に聞いていた自分がバカみたいだ。
答えは泡のように
「まぁまぁ、落ち着いて。ゆっくりボクの話を来てほしい」
わたしが不満の意を感じ取ったのだろう、目を合わせてからにやりと笑って見せた。
「ね? まずは、騒音の話からしよう」
お師匠様は右手で支えるように、左手で頬杖をついて説明し始めた。
「騒音についてだけど、正直言って、水中・水面・水上、どれも音の大きさについては同じぐらいだね。だけど……」
曰く、音の“質”に違いがあるらしい。
「たとえば、水中にパイプを置けば、水面でエアが弾けるから、ショワショワ・シャラシャラと音が出る。ちょっと音が高いから、人によっては気になるかもしれないな~」
ふむふむ。
「水上ならどうだい? 水が落ちて泡が弾けて、プクプク・シュワシュワとした音がする。こっちも割と目立つかなしれないよね?」
うん……?
「そして水面ちょうどなら? エアがパイプ内で抑えられて、シャララって感じの音だけになるんだー」
……。
「ボクって、違いのわかるオトナだと思わない?」
どうやら、盛大な肩透かしを食らったらしい。
拍子抜けしてしまった。
「ちょっと、何を言ってるのかよくわかりません!」
と抗議の声をあげると、それを聞き逃さなかったロゼッタの目が光った。
「つまり、そういうこと。わからない。わからないってこと。五十歩百歩ってことなのさ」
わざとらしく肩をすくめてみせた。
※
なお音に敏感すぎる著者の感想としては、水上にセットするのが、僅かにうるさい気がします。
核心部
「でも、水の流れ方は結構違うんだ」
そう前置きしつつ、話を進める。
「水上にセットしたとき、どうだった?」
「たしかに、水面に落ちるから油膜は取れてたと思います。でも最近は油膜すら出ないので、効果はわかりませんが……」
「おそらく、キミの言っていることが正しいよ。パイプから落ちる水で油膜も落とし込みつつ、波も立つから酸素の供給も期待できるはず。けれど、縦の流れが強くて、横方向の流れは弱いかもしれないね」
なるほど。
油膜落としはこの使い方がいいのか……?
「では、水中に設置すると何がいいんですか?」
「パイプから出た水が横に動くから、ろ過した水が全体に広がりやすいかな。その分、水面の流れが弱くて、油膜への効果はちょっと落ちるかも。でもね、エアの気泡が水面で弾けるから、ゼロってわけでもないんだ」
ふむ、はっきりしない口ぶりが逆に説得力ある。
「では、水面ぴったりは?」
「横方向への水面の流れが強くて、よく揺らぐから油膜防止や酸欠防止にいいと思うよ。おまけに、音はちょっと静かだしね」
これだ!
「……わかりました、水面が一番良いんですね!!」
だが、首を大きく振る。
「そもそも、水槽の水位ってすぐ変わるだろう? 特に夏場とか、面倒なんだよね。いちいちパイプの長さを移動できる?」
むむむ。
よくよく聞けば、どれも決定打に欠ける。
「結局は、エアで動かしてる以上、溶存酸素も油膜除去もそこまで差は出ないよ。水滴だって、どう設置しても飛ぶしね」
うーん、迷宮入りだ。
「もちろん、“いやいや違う”って言う人もいると思う。でも、ボクの感想はそんなとこさ」
困ってしまった。
なんとなく煮え切らない話に、これでは選びようがない。
一か八か、愚直に聞いてみることにした。
「それじゃあ、どうやって決めればいいんですか?」
木々の隙間から空を仰ぎ見るように少し考えたあと、話を締めくくった。
「水の流れと、音の感じかた。そこを基準にすればいいんじゃないかな。それで正解なんだと思うんだ」
お師匠様とは違った答え
わたしは結局、排水パイプを水面より少し上に出して設置することにした。
落ちる水が、水面にリズムを刻む。小さな滝みたいで、ビジュアル的にも気に入っている。
もちろん、これが野暮ったいという人もいるだろう。
どちらにしろ、極端な位置でなければ、性能的にどれも大差ない。
だけど、こういう意味のない部分を部分にこだわるのが、水槽という趣味の面白さなのだと思う。
ロゼッタの言葉を思い返しながら、今日もまた水面に耳を澄ませる。
たぶん、正解なんて最初からなかったのかもしれない。
まとめ
スポンジフィルターを使用する際、意外と悩ましいのが排水パイプの設置位置です。
水中、水面、水面より上、どれにするかで、流量や水流の性質、騒音、油膜除去の効果が微妙に異なってきます。
とくに、テトラ社の「ブリラントフィルター」のようにパイプの長さを調整できるタイプでは、設置方法によってフィルターの使い心地が変わってくるため、自分の水槽環境に合わせた選択が必要になります。
まず、水面より上に排水パイプを出す場合、落水によって水面が撹拌されるため、油膜の除去や酸素供給効果が期待できます。
水音が「ショワショワ」「プクプク」と耳に残る場合がありますが、視覚的にも小さな滝のようで魅力を感じる人も少なくありません。
ただし、水槽の水位が下がると落差が大きくなり、水跳ねや音の増加につながるため、こまめな水位管理が必要です。
もちろん、あまりに水位が下がれば、フィルターが停止するでしょう。
水中にパイプを沈める方法は、エアの力で持ち上げられた水が静かに水槽内へ戻るため、音は比較的静かになります。
また、パイプから出た水が横方向に拡がるため、水槽全体に水流が行き渡りやすく、生体にやさしい環境を作りやすいという利点もあります。
ただし、水面が撹拌されにくいため、油膜対策としてはやや弱くなることがあります。
水面すれすれに設置する場合は、その中間的な性格を持ちます。
落水音は比較的静かで、水面の揺れもほどよく、油膜防止や溶存酸素の維持にもバランスよく貢献します。
ただし、水位の変動によって“水面上”や“水面下”に簡単に移行してしまうため、小さな水槽などでは状態が安定しにくい面もあります。
結論として、どの位置が「正解」というよりは、それぞれの水槽の条件やユーザーの好みに応じて選ぶのがよいでしょう。
重要なのは、極端に短くして流量が落ちたり、長くしすぎて排水が止まったりしないよう、適度な長さを保つことです。
そして、水の流れ方・音・油膜の状態などを観察しながら微調整を重ねていく――それこそが、水槽という趣味の楽しみのひとつだと言えるでしょう。
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