コンテナとスピンドルは2213のウィークポイント
水槽を立ち上げるとき、どんなフィルターを選ぶかはとても大切なポイントです。音が静かで、しっかり水をきれいにしてくれるものを探しているなら、多くのアクアリストが頼りにしてきた「エーハイム2213」が候補に上がってくるはず。長く愛される理由を知れば、きっと納得できると思いますよ。
そんなエーハイム2213について、気に入った点と気になる点をストーリーでやさしく紹介したいと思います。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
すっかり白い壁に夕日が淡く映り込んでいる。
勉強机の横には、すでに組み立てを終えたスチール製の水槽台が、未来の水景を待つように静かにたたずんでいる。
無機質な黒の柱は、これから生まれる命を支える礎であり、フラットな天板はまるでゆりかごのように見えた。
今、わたしが目指しているのは60cm規格のプレコ水槽だ。
その中にひときわ大きな流木を主役に据え、そこへ無数の吸いつきナマズ――愛すべきプレコたちを泳がせるのが夢なのだ。
無数の魚影が流木の影に身を潜めたり、表面をかじったりする光景。それを現実のものにするべく、今は道具を集めている最中で、先ほどの水槽台はその第一歩である。
プレコ水槽の心臓部に据えるのは、並列稼働させた2台の外部フィルター。プレコの旺盛な食欲と排泄を支えつつ、強い水流を提供する予定なのだ。
スピンドルとコンテナ問題
ついに購入した2213だが
……そして、わたしは帰ってきた。両腕で抱えるのは、真新しい白い大箱。足取りは軽やかだが、胸の奥は緊張と大きな期待で高鳴っている。
封を切り、中から取り出した瞬間、思わず息を呑んだ。クリアグリーンのボディと漆黒のパワーヘッド。まぎれもなくエーハイム2213だ。
その精悍な姿は、長くアクアリストに愛され続けてきた理由を雄弁に物語っているようだった。ネットを巡って評判の高さに背中を押されたこと。さらに円高で価格が崩れていた偶然の追い風。すべてがこの選択に収束し、いまここにある。
「ついに手に入れたんだ……」
わたしは囁くように声を漏らし、そっとフィルターに触れた。冷たく硬い外殻は、未来の水景を守る盾のように思えた。
早速パワーヘッドを外し、内部を確かめてみる。すると、中には新しく採用されたらしいろ材コンテナが収まっていた(20年前の話です)。
最近の外部フィルターではすっかり定番になったろ材コンテナ。60cm規格用なら、エコM(2233)は3段、プロシリーズ2222は2段だという。……さて、この2213は?
慎重に取り出した瞬間、目に飛び込んできた構造に思わず声を上げた。
「なんだこりゃ!?」
胸の高鳴りが一瞬で困惑に変わった。未来を描いていた水槽計画が、唐突に思いもよらぬ壁にぶつかったのだ。
要のパーツは極めてもろい
キャンパスの静かなバルコニーに小さな溜息を落とすと、サークル棟の中庭から女性の影がこちらに向かってくる。わたしの水槽のお師匠様だ。
今日は彼女に相談するため、このベンチの並んだバルコニーに来てもらっている。
話の中心はエーハイム2213だ。
わが家にやってきたこの外部フィルターは、確かに信頼の象徴でありながら、そのろ材コンテナの存在がどこか釈然としない違和感を残していた。
そんなわたしを見つめて、お師匠様が開口一番わたしに迫ってきた。
「そうか、ついに買ったんだね。それで、キミがエーハイム2213を選んだ決め手はなんだったんだい?」
その声音は穏やかだが、問いかけの鋭さに逃げ場がない。わたしは思わず視線を泳がせつつも、彼女のオタク根性を認めざるを得なかった。
「それは、価格です」
「本当に?」
「正確には……品質の良いものだと評価されることが多く、とても気になっていたんです」
「なら、あえて質問するけど、それ以外でどこが良いって思ったの?」
「それは……」
たしかにブランド品が円高で安かったことは大きい。けれど、ただ値段だけで決めたわけじゃない。彼女に質問攻めされると、購入を後押しした確かな動機が頭の奥で浮かび上がる。
「静かだと聞いたので……」
「そうだよね。以前あれだけ外部フィルターにこだわっていたんだもの。キミならそう言うと思ったよ。でも、毎回言うけど、外部フィルターの強みはそこにあるんだ」
お師匠様はゆっくりと頷き、言葉を重ねる。
「内部で水が空気に触れないから、上部フィルターみたいにジャバジャバ音を立てることがない。静寂を求めるアクアリストにはうってつけなんだ」
「でも、空気を巻き込まないってことは、エアレーションは別に必要になるんですよね?」
「その通り。エアポンプもいいし、ディフューザーを取り付けるのもいい。まぁ、静けさと曝気はトレードオフってことだね。だから、どうエアを取り入れるかは腕の見せどころさ」
彼女は淡く笑みを浮かべ、髪を軽くかき上げる。少し甘酸っぱい香りを散らしながら、艶やかな黒髪が夕日に照らされ、色が飛んで金のシルエットだけが浮かび上がった。
その神々しい光景に、思わず見とれてしまいそうになる。
だが、彼女はこちらを見て、にやりと笑った。
もっと話せと催促されたのだろう。
「それでさ、静音性の秘密は水流だけじゃないんだ♪ モーターの設計にもある」
「パワーヘッドに?」
「そもそも外部フィルターのモーターは直接ガラスに触れない。だから振動が水槽に響くこともない。さらにだ。エーハイムはセラミック製の回転軸を採用している。これが精巧にできていてブレが少ないから、実に振動自体が小さいんだ」
「なるほど……。そんな理由があったんですね?」
「そうさ。ただね……」
お師匠様は急に声を低めた。
「メンテナンス時には十分な注意が必要さ!」
「破損ですか? であるなら、稼働中も壊れたりするんですか?」
「いいや、セラミックシャフトが稼働中に折れるということはまずありえない。ただ、扱いを誤ればいとも簡単に破損する。静けさの裏には、そうした繊細さが隠れているんだ」
わたしは唇を噛んだ。頼もしさと脆さ、その両面を抱えているのがこのフィルターなのだと痛感する。
「一言でいえば、スピンドルのカバーを取り付ける順番を間違えると、簡単にポッキリさ! その話はいつかしたいと思うけど、ボクなんか予備のスピンドルもってくらいさ! ははは!」
「!?」
「さて、静かさがキミの中で一番の理由だというのはわかったよ。ほかには何かあるかな?」
問いを促され、わたしはしばし考え込む。
正直に言えば、悩んだ挙句に直感的に選んだのだが、今はそれを意図的に言語化させられているような気がする。とはいえ、論理的な思考を要する趣味でもあるので、不思議と苦にならなかった。
「あえて言うなら、ろ材ですかね。容量が多いって聞いたので。いろいろな種類を試せるし、それが魅力的だと感じたんだと思います」
すると、お師匠様はにこりと顔をほころばせた。
「キミの言う通りだと思う。外部フィルターのろ過槽は水槽の外にあるから、大容量で自由度が高い。選び放題のろ材を詰め込むのは、この趣味の大きな醍醐味でもあるんだ」
分かり切ったことだが、言葉にすると自然と心が少し弾む。だが同時に、おぼろげながらろ材コンテナの姿が頭に浮かんできた。
あの構造で本当に期待した利便性を確保できるのか――そんな疑念が胸から染み出てきたのだ。
夢の水景を実現するために必要な装置。その信頼と不安、その両方が今、わたしの胸でせめぎ合っていた。
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・2213用ろ材固定盤 |
収納力の低いコンテナをどうするか?
「で、問題のろ材コンテナなんですが……」
わたしはケータイを取り出し、撮っておいた写真をお師匠様に見せた。小さな画面に映し出されるのは、真新しいコンテナの姿。
「なるほど。最近になって追加されたタイプだね」
彼女は一見、興味深そうに眺めていた。しかし、次の写真をスワイプすると、その表情はたちまち険しくなった。
「うーん一段だけとな? これは……」
眉間に刻まれた皺が、すべてを物語っていた。
「やっぱり、微妙ですよね?」
「そうだね。一応、ろ材をまとめて持ち上げるには便利かもしれない。でも、これだと容量が減ってしまうし、結局はコンテナの中にろ材ネットを入れるような使い方になる」
彼女の指摘に、心の奥でうすうす感じていた不満が形を持つ。ダメ押しのように説明書を差し出すと、彼女はページをめくり、数字を目にした瞬間に首を横に振った。
「コンテナなしで3.5リットル、コンテナありで3.0リットル……か。これはちょっと残念だね」
落胆と同時に、少しの苛立ちをにじませた声で質問をぶつけてくる。
「もしかして、ろ材コンテナとフィルターケースの間に隙間があったりしたかな?」
「……はい。やっぱりそれがあるために、ろ材容量が減ってしまったんですかね?」
「そうかもしれないね。しかし、そういった隙間があれば、もしろ材が完全に目詰まりして水が流れなくなっても、最低限の水は流れるわけでしょう?」
「ん? フィルターが止まった時の話ですか?」
「そうだよ。隙間があれば酸素は供給され続けるわけで、硝化細菌は死滅しづらいし、水槽も大惨事にはなりづらいと言えるかもね?」
「なるほど。そんな理由が……」
「もちろん、ボクの勝手な推測だけどね。それでも、コンテナ1段はいただけないな。オプションで多段式コンテナに交換できたらいいのにね。人によっては従来のろ材固定盤を使ったほうがいいって言い出すかもしれないな」
彼女はコンテナをぴしゃりと指摘し、その確信めいた響きに胸がすく思いと同時に笑みがこぼれてしまった。
「あはは、それはそうかもしれませんね。で、いま聞きなれない道具の名前が出てきたんですが、そのろ材固定なんとかってなんですか?」
「あぁ、ろ材固定盤? これはフィルターケース内の吸水部・排水部にろ材が入り込まないようにするスノコのようなものだね。これがあるおかげで、満遍なく水流があたり効率的なろ過ができるってわけさ!」
「じゃあ、ろ材コンテナの代わりを?」
「そういうことになるね」
ろ材固定盤のように通水性を確保しつつ、コンテナとしての機能を持たせたというわけなのかもしれない。が……もう少し使いやすかったら、多少容量が減ったとしても、みんな喜んで使っていたと思うのだが……。
「それで、そのろ材固定盤はいくらぐらいするんですか?」
「1枚1000円。上下に2枚必要だから、合計2000円だね」
「えっ、そんなに……」
わたしの顔を見て、お師匠様は大きくため息をついた。
「以前はセットに含まれていたんだけどね。時代の流れと言えばそれまでさ。だけど、文句を言っても仕方がない。選べる道は3つある」
彼女は真っすぐわたしを見据え、指を折って数え始める。
「まずひとつは、コンテナの中にろ材ネットを入れる方法。容量は減るし、コンテナの意味も薄いけど、一番安上がりだ」
「たしかに……これなら、ろ材ネットの金額だけで済みますね」
「そう。だから現実的にはこれが第一候補かな。二つ目は、ろ材固定盤を買ってネットと併用する方法。2000円かかるけど、買えない金額じゃないし、ボクとしては最終的にこうすることをおすすめするよ」
「うーん……、飲み会を一回かぁ。ちょっと我慢すれば手が届きますね」
わたしの言葉に、お師匠様は小さく笑みを浮かべた。
「そうだろう? 最後の選択肢は、自作だ。100均の鉢底ネットを加工して作る方法がある。試行錯誤は必要だけど、ネット上で参考になる例も多い」
「なるほど……。わたしとしては、まずはコンテナとネットで妥協しようと思います。いずれ必要なら固定盤を追加してもいいですし」
「まっ、それが妥当だろうね。フィルターで自作品を使うのはちょっと怖いものね……」
彼女はそう言って肩をすくめた。光を帯びた横顔に、不思議と安心感を覚える。道は一つではなく、選択肢は常に自分の手にある。その言葉が、胸にすとんと落ちてきた。
次はフル―バル?
新しい外部フィルターを手に入れ、少しつまずきながらも解決策を見つけた今、胸の奥にまた新たな欲が芽生えていた。
「次は……」
視線は無意識に、机の片隅に置かれたメモへと移る。そこには、もう一つの候補の名が記されていた。
フルーバル304。
かつてはエーハイムと並び称された外部フィルターのライバル。親会社のハーゲングループはカナダに本社を構え、舶来の香りを漂わせていた。その製品には、どこか異国の空気が宿っているように思えた。
しかし時代は流れ、日本市場からの撤退が決まったらしい。店頭に並ぶ在庫は安値で投げ売られ、今まさに手を伸ばせば届く距離にある。
60cm規格水槽用の外部フィルターを求めるわたしにとって、それはまさに渡りに船だった。
「エーハイムとフルーバル、二つのフィルターで水を回す……」
想像しただけで胸が高鳴る。プレコたちが泳ぐ流木の森を、二つの心臓が静かに支える。水の澄んだ輝きが部屋いっぱいに広がる未来を夢見て、わたしは静かに頷いた。
次の箱を抱える日は、もうすぐそこまで来ていた。
まとめ
エーハイム2213は、外部フィルターの定番モデルとして多くのアクアリストに愛され続けている機種です。特に60cm規格水槽をはじめとした中型水槽での使用に適しており、「最初の外部フィルター」として選ばれることも少なくありません。その理由は、シンプルながら堅牢な設計と、静音性の高さにあります。
外部フィルターは水槽の外にろ過槽を設置するため、大容量のろ材を詰め込めるのが大きな魅力です。エーハイム2213もその例に漏れず、十分なろ材スペースを持ち、好みに合わせて多様なろ材を組み合わせられます。物理ろ過から生物ろ過まで幅広くカバーでき、アクセサリーも豊富なため、水槽ごとのスタイルに合わせたカスタマイズが可能です。
また、2213はとにかく「静か」であることが特筆されます。内部で水が空気に触れないため、上部フィルターのように水が落ちる音がせず、部屋の静けさを保ったまま水槽を楽しめます。加えて、モーター部は直接水槽に触れない構造となっており、振動が伝わりにくいのもポイントです。さらに、セラミック製のシャフトを採用しているため、摩耗や振動が少なく、結果として長期間にわたって安定した運転が期待できます。
ただし、セラミックシャフトは繊細で、メンテナンス時の取り扱いには注意が必要です。稼働中に折れることはまずありませんが、清掃時に無用な力を加えると破損の恐れがあります。この「頑丈さと繊細さの共存」が、エーハイムならではの特徴と言えるでしょう。
さらに近年では、ろ材をまとめるための「ろ材コンテナ」も付属しています。持ち上げやすい反面、若干の容量減少を招く点や、従来のろ材固定盤と比較した通水性の違いなど、好みが分かれる部分もあります。状況に応じてろ材ネットや固定盤を組み合わせると、より効率的なろ過が可能になります。
総じて、エーハイム2213は静音性、信頼性、ろ過能力のバランスに優れたフィルターです。扱いやすさと拡張性を両立しており、アクアリウムを長く楽しむうえで心強い存在となるでしょう。