ガラス製の道具は美しく、時に不親切である
初めてのCO₂添加。セット中に「カウンターに水をどう入れればいいの?」と悩む瞬間が必ずあります。
特にガラス製の細長いカウンターは美しい反面、思ったように水が入らず戸惑うことも。
でも、ちょっとしたコツを知るだけで、誰でも簡単にスムーズに水を入れられるようになります。
今回は、そんな話をストーリーでやさしく紹介したいと思います。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
買ってしまった。
気になっていた小型ボンベセット。
そればかりではない。ガラス製のCO₂カウンターまで、勢いで買ってしまったのだ。
机の上には小さな箱とレシートが積み重なり、わたしの気持ちをせわしなくしている。
寂しくなった財布の中身を見ると、浮き立つ気分が沈み込み、苦い後悔が胸に押し寄せてくるのだが、明るい水草の未来を思えば、すっと気持ちも軽くなる。
ガラス製のCO₂カウンターの水の溜め方
水の入れ方がわからない!
しかし、計12,000円也。冷静になれば、かなり大きな買い物だ。
だから、電磁弁までは手が届かなかった。しばらくは自分の手で添加のON/OFFを繰り返さなければならない。最悪は、発酵式のようにタイマーでエアポンプを制御してCO₂を抜く方法も考えてみたが、それでは一日中ガスを垂れ流す羽目になり、ボンベの浪費が激し過ぎる。
結局のところ、わたしの手で毎日管理するしかない。
そう心に決めたのだ。
が……現実はもっと厄介だった。
組み立ての段階でつまずいてしまったのだ。
特に不親切だったのはガラス製のCO₂カウンター。
見た目は美しいが、扱いは思いのほかそびえ立つ壁のように感じた。だいたい、どうやってこの細い長い口からカウンターの中に水を入れれば、いくら頭を捻っても分からない。そのまま試しに水の中へ沈めてみたのだが……案の定、中の空気が邪魔をして水が入らない。
それに、もし流し込めたとしても、この器具には底が物がない。これでは見ているそばから、せっかく入れた水が抜けてしまうような気がするのだ。
――どうしたものか。
机に転がる透明な器具を前に、わたしは頭を抱えた。
胸の奥で小さな不安が膨らんでいく。これではせっかく買った器具も宝の持ち腐れだ。
ストロー
ピンポーン♪
軽やかなチャイムが鳴った。
わたしの水槽のお師匠様こと、ロゼッタが来たようだ。
玄関を開けると、外から差し込む木漏れ日が彼女の頬をやわらかく照らす。風に揺れる黒髪の下、肌に浮かび上がる葉陰をよく見れば、透き通るような白色を帯び艶めかしい。一瞬息を呑み、わたしは言葉を失った。
なんとか意識しないように、それでも口元が強張りながらも改めて事情を説明すると、彼女はにやりと笑い、ためらいもなく靴を脱いだ。
「それじゃあ、ボクの出番だね!」
と得意げなオタク顔。
哀れ、ガラス製カウンターは、生物オタク少女にこねくり回されて、一瞬で手垢にまみれることになるだろう。
「ふふふ……」
不気味で楽しげな笑みを浮かべた彼女は、火に集まる夜虫のように器具へと突進していく。部屋に入るや否や、机の上の添加セットに手を伸ばし、ぶらりとチューブの先に垂れ下がるガラス製カウンターを外し、口を開いた。
「さて……CO₂カウンターの水の入れ方が分からないって?」
「そうなんです……」
「それなら、やっぱこれだよね?」
そう言ってバッグから取り出したのは、意外なほど細長い物体だった。
「注射……ですか?」
「注射“器”さ!」
驚きと同時に、なるほどと頷く。先端が針のように細ければ、カウンターの狭い口にも入り、水を入れられるだろう。だが次の疑問が浮かぶ。
「でも……注射器って医療器具ですよね? 一般人でも手に入るんですか?」
彼女は口元を上げ、針を見せつけるように振った。
「手に入らないのは注射針さ。でもほら、ここは尖ってないだろう?」
「あっ! 先端の切り口がすとんと落ちてますね。それに、心なしか太いような気がします」
「注射器は化粧品コーナーに置いてあるんだ。旅行用のボトルに詰め替えで使うからね。それに、100均で買えることもあるんだよ」
100均の化粧品売り場。わたしよりも遥かに若い女性の溜まり場となっているは知っている。そんな場所に彼女らの視線を浴びながら、入り込む姿を想像すると思わず顔が赤くなった。考えているだけなのにまごついているわたしを見て、彼女は悪戯っぽく笑った。
「でもね、道具を使わなくても入れる方法があるんだよ?」
「えっ? そんな方法があるんですか?」
彼女はコップの水を用意させると、カウンターを水中に差し込み、上端に口を当てた。
そして、スーッと吸い込むと……まるで魔法のように水がするすると中に入っていくではないか。
「ほら、こんなふうにストローを使うみたいにして、簡単にできるのさ」
そう言って水で満タンになったCO₂カウンターを手渡してくれた。
「あぁ! こんな簡単にっ!!」
と声を出しつつ受け取った途端、ダラダラと水が漏れ出した。手の中はもちろん、床にまでダラリとこぼれていく。
「え゛っ!? そ、その……これからどうすれば?」
「もー、どんくさいなぁ~♪ 実はね? さっきはストローって言ったけど、正確にはホールピペットと同じなんだ」
得意げに微笑む彼女の姿に、わたしはただ見惚れるしかなかった。
水が漏れ落ちないようにするためには?
煌々としたライトに照らされた水槽の中では、鮮やかなグリーンの葉がゆらゆらと波打っている。水の中の気泡が、まるで小さな星々のようにキラキラと舞い上がっていた。
そんな幻想的な景色の前で、わたしは今も「ピペット」という単語に囚われていた。
つまり彼女が言いたいのは、カウンターの口を押さえれば空気が抜けないから水も止まる、ということなのだろう。だが、それでは本質的な解決ではない気がする。わたしの胸に不安がわき上がった。
「たしかに、手を使えば止まりますが、ですが、そういうことではないです」
「ん?」
「その……もし、このままの状態でチューブに繋いだら、またダラダラと抜けませんか?」
問いかけると、彼女は楽しげに目を細めた。
「あぁ、それを心配しているんだね?」
ポン、と軽快な音を立てて手を打つと、彼女はチェックバルブを取り外し、ハサミを手に持った。
「ちょっとだけ切るね?」
そう言ってエアチューブを数センチ切り落とし、それを外したばかりのチェックバルブの出口へと取り付けた。
「こうやってね、チェックバルブ水の入ったカウンターの下に差せばいいんだよ?」
そう言って再び水を入れ、上の口を右手の指で押さえながら左手で下の口にバルブをはめる。確かにこれなら漏れない。
「ね? 簡単でしょう。チェックバルブの真上なら、空気はもちろん水も抜けないというわけさ♪」
「……そんな方法があったなんて!」
驚きに息を呑んでいると、彼女はわたしのCO₂セットの箱から何かを取り出した。
「いやいや、実はキミも一度は見ているはずだよ。ほら、この付属品のカウンター」
差し出されたのは、プラスチックの味気ない器具。ビビッドイエローのゴムが透けて見えるのを嫌い、ガラス製のカウンターにしたのだ。が、改めて目を凝らすと……。
「あっ! このゴム、もしかしてバルブ?」
「そうなんだ。カウンターとチェックバルブと一体になっているんだよ。だから水が抜けないんだね」
思わず納得の声が漏れる。
「なるほど……だからこんな仕様なんですね?」
「その通り。だから、バラバラに揃えても、これと同じようにセットしてあげればいいのさ!」
「とはいえ、チェックバルブの中に水が溜まると劣化しやすいんだ。だから定期的に見てあげて欲しい」
……やはり経験だ。前回の耐圧チューブの選び方に続き、今回も彼女の知恵に救われた。
「経験がものを言うんですね」
「説明書には書いてあるけどね。パーツが多いから、慣れていないと気付けないこともあるのさ」
そう言って彼女は、わたしの肩を軽く叩いた。温もりが背に広がり、不思議と心が和らぐのを感じた。
悩みは尽きない。それがアクアリウム。
華々しく始めた小型ボンベ式CO₂添加。しかし、早くも壁に突き当たっている。
帰宅すればスピードコントローラーを開き、寝る前には閉じる――毎日の繰り返しがじわじわと重荷になってきたのだ。
照明の光の下で器具を操作しながら、ため息がこぼれる。
「これでは長続きしない……」
ならばタイマーでエアポンプを制御してCO₂を抜く方法はどうか。そう思ったのだが、常時添加となればボンベが一気に空になる。わたしの水槽は1日6時間の添加で十分。それを24時間続ければ、4倍の速さでボンベが寿命を迎えてしまう。
一本600円の小型ボンベ。決して安くはない。計算すれば、5000円の電磁弁を買った方が結果的にはお得だ。金銭的にも労力的にも、これ以上は妥協できない。
「決めた。次は電磁弁だ」
固くそう呟いた瞬間、胸の奥にひとつの決意が芽生えた。これがなければ、わたしの小さなアクアリウムは前に進めないのだ。
まとめ
水草水槽でCO₂添加を行うとき、カウンターに水を入れる作業は意外と悩みどころです。特にガラス製の細長いカウンターは、見た目は美しいものの、中に水を入れるのが少し難しく感じることもあります。しかし、方法を知れば簡単に操作できます。
CO₂カウンターに水を入れるとき、確実なのは注射器を使う方法です。細長い口にも水を注入でき、手早く作業が進みます。化粧用の注射器なら安全で手に入りやすく、100均でも購入可能です。
とは言え、実はそれがなくても問題ありません。
コップに水を入れ、ストローのように吸えばいいのです。水が満たされたのち、上部の口を軽く指で抑えつつ、チェックバルブを取り付けると、水と空気の漏れを防ぐことができます。まるでホールピペットのような使い方ですよね? このように、家庭にある道具だけでできるので、実は特別な準備は必要ありません。
さて、このような使い方をしているため、1つ注意点があります。それは、チェックバルブ内部に水が溜まると、ゴムパーツの劣化が起きやすいことです。定期的に確認することが大切です。
こうしたちょっとしたコツを押さえておくだけで、CO₂カウンターの水入れは面倒な作業ではなく、むしろ簡単で楽しい作業に変わります。水草にしっかりCO₂を届けるための最初のステップとして、正しい水の入れ方を習得しておくと、管理もぐっと楽になります。


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