60cm規格水槽どう選ぶ?
水槽を選ぶとき、「どれも同じに見えて迷ってしまう…」と感じたことはありませんか?サイズや形はほぼ同じなのに、値段やブランドの差に戸惑う方も多いでしょう。
でも、ちょっとしたポイントを押さえるだけで、自分にぴったりの水槽が見つかります。ガラスの種類や透明度、フレームの有無など、選び方のコツを知れば、水景作りがもっと楽しくなります。
今回は、そんな話をストーリーでやさしく紹介したいと思います。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
学校帰りのアクアショップ。
夕日が水槽のガラス越しに差し込むと、水がきらきらと輝き、天井に反射する。店内の壁にはいくつもの眩い水影がゆらゆらと揺れて、小宇宙のようにどこもかしこも光を放っていた。
しかし、わたしは、水の匂いとほのかに漂うフィルターの香りに包まれながら、一人立ち尽くしていた。悩みのブラックホールに吸い込まれたのだ。
サイズ・水量が同じなら、何を基準に選ぶべきか?
規格水槽はどれも同じサイズだから……
――どれを買えばいいのか、まったくもって分からない。
そもそも、今この場にいるのは、60cm規格水槽を買おうと思って、その下見に来ているからだ。だが、目の前の棚にずらりと並んだ水槽たちを見つめるほど、指先の動きが止まってしまう。
「どのメーカーのを買えばいいのか……」
オールガラス水槽。規格水槽なだけあって、どれもサイズは同じ60×30×36cm。
値段も数千円しか違わない。違うのはラベルのロゴと、微妙な価格差だけ。
「なにを基準に選べばいいんだ!?」
そう呟いてみても、まるっきり答えが出ない。とりあえず、好きなエーハイムの水槽に近づいて見たのだが、周りとの差がはっきりせず、混乱は深まるばかり。
どうしてこんなにも悩ましいのだろう。心の奥がざわついて、思わずため息がこぼれた。
「どうしよう……!」
外を見ると、すっかり陽が落ちて空が濃紺に染まっている。ライトの光とともにガラスに映るわたしの顔は赤く染まり、まるでオーバーヒートだ。
ああ、決められないのなら、あの人に相談するしかない。
水槽が綺麗に見えるかは中身次第
あくる日。
大都会の空は靄がかっていて、ビルの谷間を抜ける春風が肌をひやりと撫でる。今日、わたしはお師匠様ことロゼッタとともに、以前訪れたアクアショップへ向かっている。
この国最大の繁華街の片隅。
ゴールデンウイークの通りにはオープンカフェがいくつも並び、香ばしいコーヒーの香りが鼻をくすぐる。着飾ったマダムたちが談笑する小道を抜けて、ガラス張りの二階建ての店に滑り込んだ。
昼下がりの店内は明るく静かで、どの棚にも品よく並べられたアクアリウム用品が整然と並ぶ。そんな中、わたしとお師匠様はドカドカと真っ直ぐに2階の水槽売り場へと向かった。
そして、開口一番、彼女は結論を言い放った。
「まぁ、“ほとんど”差がないと考えてもらってもいいかな」
ロゼッタはスラリとした目鼻立ちを持つ年頃の女性だが、いつもしたり顔でにやりと笑いながら軽やかに言ってみせたので、わたしは大いに慌てた。
「えぇ!? せっかくここまで来たんですよ? そんなことってあるんですか?」
と思わず声が上ずる。
「あぁ、あるとも。だから、好きなものを買えばいいよ!」
あっさりとしたその一言が、逆に心をかき乱す。
「いや……その……どれも同じに見えて困ってるんです。なにか良いものの見分け方とか、品質の違いとかないんですか?」
不安を含んだ声を漏らすと、彼女は優しく笑った。
「だから、ほとんど差がないさ」
「そんなぁあ……」
とはいえ、せっかくここまで来たのだ。彼女から何か引き出さないと、わたしだってつまらない。
「そこを何とか。何でもいいから、選ぶ基準を教えてくださいよぉ~」
と強請ってみたのだが、プイと反対側の天井を見つめてしまった。
あぁ、怒らせてしまったのかもしれない。発言が逆効果だったのだろう。
謝ろうと意を決して、自分の身を弾き飛ばすように押し出して目の前に立ち、瞳を合わせると、意外なことに彼女の方から重い口を開いてくれた。
「そうだねぇ、なら、気に入ったメーカーのものを買えばいい」
「え?」
その焦点は、天井のさらに先に合っている。怒っているというよりは、なにか考え事をしていたようだ。
「キミのお気に入りのメーカーはどこかな?」
「メーカーですか……」
――最近、エーハイムの外部フィルターの無骨で正確な質感に惚れていた。
だから、たぶん、エーハイムだ。
「そりゃ、エーハイムが好きですが……」
「なら、それが正解だよ」
その言葉に、なんだ、そうやって選べばいいのかと、正直心の奥が少しだけ軽くなったような気がした。しかし、疑問が残る。
「いやいや、でも、エーハイムってフィルターメーカーですよね? 水槽の質としてどうなんでしょうか?」
「そうだねぇ、正直、値段も高くて手が届かないってほどじゃないし、エーハイムだからといって特別に優れてるってわけでもないよね?」
あまりの回答に、ぐったりと少し肩の力が抜けるような気がした。
「ヒント! せめて選ぶヒントを教えてください!!」
深々と頭を下げつつ、彼女の顔を見上げると、少し渋い顔をしながら苦笑いしてみせた。
「あはは、だってさ、水槽の美しさって中に入れるもの次第だもの。だから、どれを使っても同じ。だから、思い入れの強いメーカーがいいと思うよ」
「なるほど……たしかに言われてみれば……」
「まぁね、ボクもいろいろな水槽を使ってみたけど、水槽の思い出って形やサイズに関するものばかりで、ガラスの質についてはなかなか出てこないなってね……」
としたうえで、彼女は話をまとめにかかった。
「もちろん、ボロボロの水槽を新しくすれば綺麗になったように見えるよ? でも、水槽自体が持っている力ってその程度のものさ。しっかり手を入れて綺麗な水景を保てば、どんな水槽でも魅力的に見えるはずさ」
――たしかにその通りかもしれない。
水槽に大枚を叩いたとしても、結局は中身が大切なのだ。
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| ・水槽を購入する際、保証がしっかりしているなら、通販の方が便利 |
差別化を目指した先に
けれど、彼女の発した言葉を思い出すと、ひとつの疑問が浮かび上がった。
「“ほとんど差がない”って言ってましたけど、それってつまり、少しはあるってことですよね?」
ロゼッタはため息をつきながら、微笑んで頷いた。
「アハハ……。まぁ、そういうことになるねぇ」
しょうがないと言わんばかりに、ショートヘアを手櫛で揺らすと、じっとわたしの顔を見て口を開いた。
「まずは、フレーム水槽かオールガラス水槽か、だよね」
「えーっと、フチありとフチなし……ですよね?」
「そう。プラスチックのフチがあったほうが軽くて丈夫。だけど、オールガラスのほうが美しいと感じるはずさ」
が、それは既に知っている話だ。
強請るように、今度は口ではなく瞳で訴えるように微妙な間を作ると、彼女は肩をすくめて近くの水槽の角を指さした。
「それと、ガラスの質も違うんだよ。見てごらん、この角の色を」
「この接着面の横の色ですか? 緑色ですね」
「そう。それが普通のガラス。ガラスは実は色が付いていてね、結果として水景に色がついて見えるんだ」
「はて?」
わが家の水槽を思い出す。
アヌビアス・コーヒーフォリアやマツモ。緑色の水草ばかりだが……。
よほど素っ頓狂な顔をしていたのだろう。お師匠様は息を漏らすように笑い始めた。
「ふふっ、ルドウィジアとかね、赤い水草もあるんだよ?」
「あぁ、なるほど!」
緑と赤は補色関係。もしそれが混じれば……。
「せっかくの鮮やかな赤が、水槽の緑色が混じって、彩度が落ちるということですね?」
「そういうこと。だから、より無色透明に近づけたのが“クリアガラス”でできた水槽というものがあるんだ。とにもかくにも、水草の色は繊細なもの。それを味わいたいでしょう?」
そう言いつつ、彼女は別の棚を見た。
確かに、あちらの水槽の角は淡い緑で、その透明感がまるで違う。
「メーカーごとに工夫があるの。あの展示水槽、すごいでしょう?」
「……すごい。まるでガラスがないみたい」
艶めかしい人間の裸体を見るように、上からゆっくりと目に焼き付けると、やがて値札のところで眼球が止まった。
「っ!? ちょっとお高いですね?」
「だいたい2倍ぐらいするねぇ。それでも、本気で水草をやっている人なら、十分検討の範囲内だと思うよ」
彼女はくすりと笑いながら、そのとなりの展示水槽に近寄った。
「さて、次は水槽のガラスとガラスを繋ぎ合わせる接着剤についてだね」
「接着剤って……シリコンですよね?」
「その通り。オールガラス水槽では“シリコン”の使い方が品質の要なんだ」
「使い方?」
疑問を投げかけると、水槽の角を指で上から下までスーッと1本の線をなぞってみせた。
「そう。ほら見てみてよ? この水槽、塗りが薄くて均一ですごく綺麗でしょう? 強度と美観の両立は職人技なんだ」
照明に透かして見つめた。確かに、角の処理がスッとしており、寸分たがわぬ厚みで塗られていた。
「中には、色付きのシリコンを使ったものもある。さらには、シリコンを使わず、まるで一枚ガラスのように仕上げるものもあるよ。ただ、お値段が一桁違うんだ~」
「え、もしかして……、じゅ、10万円!?」
「いや、60cm規格水槽で30万」
「!?」
しかし、ロゼッタは静かにうなずいた。
60cm規格に30万円は出せない。出せてせいぜい1万円。
「とにもかくにも、“オールガラス”とひとくくりにしても、差はたくさんあるんだ。今日は紹介できなかったけど、前面の角に曲げガラスを使ってアールをつけたものもあるんだよ?」
「うーん……ガラスの質とシリコン処理だけでもこんなに種類があるんですねぇ~」
「そうなんだ。とは言えね……」
それでも結局は……
ショップの二階のガラスから、西日が差し込んでいる。
通りのざわめきが遠のき、スーツ姿のサラリーマンしかもう見えない。
「水槽は、ただの入れ物じゃないんだ」
いくら美しくても、中が苔だらけになってしまえば、宝の持ち腐れだ。
と再度力説するお師匠様。
「だから、気に入ったメーカーで出来に納得できれば、それで十分だよ」
それが彼女の結論。
わたしは深くうなずいた。
心の中のもやがすっと晴れていく。
決心がついた。
大事なのは、ガラスの厚みでも、値段でもなく――
これから映し出す、水景そのものだ。
ゆらぐ光の中で、透明な箱に未来を重ねながら、わたしは静かに笑った。
60cm規格水槽。その選び方は、きっと心の在り方と同じなのだと思う。
まとめ
水槽を選ぶとき、「どれも同じに見える…」と迷ってしまう方は多いのではないでしょうか。実際、オールガラス水槽やフレーム付き水槽は、サイズや基本構造がほぼ同じで、見た目だけでは違いが分かりにくいものです。値段も数千円単位の差しかないことが多く、何を基準に選べば良いのか悩むのは自然なことです。
まず、水槽のタイプを確認しましょう。フチあり(フレーム付き)はプラスチックのフレームがあるため軽く丈夫で扱いやすく、オールガラスは見た目が美しく透明度が高いのが魅力です。
ガラスの色も注目ポイントで、一般的な緑がかったガラスは水草の色に影響します。赤や緑など補色関係の水草を美しく見せたい場合は、少し値が張りますが無色透明に近いクリアガラスがおすすめです。
さらに、ガラスの接着剤にも差があります。オールガラス水槽ではシリコンの塗り方や均一さが、強度と美観を左右します。色付きのシリコンを使う場合や、ほとんど見えないように仕上げたものなど、メーカーごとに工夫があります。透明感や仕上がりの美しさにこだわるなら、こうした細部もチェックポイントです。
最終的には、価格やブランドに迷うよりも、自分が「好き」と感じる水槽を選ぶことが大切です。どれだけ高価な水槽でも、手入れを怠れば美しさは損なわれます。逆に、価格が控えめでも、しっかり管理すれば水景は魅力的に見えます。水槽選びは、ガラスの厚みや値段だけでなく、あなたが作りたい水景に合わせた選び方が一番。自分の直感と好みを信じて選べば、きっと満足できる水槽ライフが始まります。


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