セラミック? ガラス? それともプラスチック?
他のアクアリストはどんなろ材を使ってるんだろう?
そんな疑問を持ったことはありませんか?
実は、ろ過のカギを握っているのが「ろ材」という存在。素材によって性能も手入れのしやすさも変わってくるんです。今回はそんな奥深い“ろ材の世界”を、やさしくわかりやすくストーリーで紹介します!
欲しいものがある。
エーハイムエコで使うろ材だ。
**********************************
これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
今現在、外部フィルターのろ材コンテナには、付属品の青いスポンジが入っている。これはこれで、メンテナンスが楽な良いろ材なのだが……。
せっかく大きなろ過槽をもつこのフィルター、色々なろ材を入れて楽しみたいところだ。
だが、どんなろ材がいいのだろう?
アクア雑誌にいくつか紹介されているようだが、そういったものに限って学生のわたしには、手が届きそうにない値段設定がされている。
本当に外部フィルターのユーザーは、こんな高価なものを山のように詰めて使っているのだろうか?
ふと、疑問に思ったので、ケータイで連絡をとることにした。
※
小説の題材は20年前ですが、実はこの時代はセラミックろ材しかありませんでした。
しかし、それでは今の時代の記事にするには十分な情報とは言えないため、内容そのものは現代のものに置き換えてあります。
ろ材は適材適所
クリスマス前の休日に
駅の改札を出て人混みに目を凝らすと、少し遠くから手を振りながら近づいてくる影が見えた。コートの裾が軽やかに揺れ、歩くたびにスカートのプリーツが波を打つ。
「どーも、おまたせ♪」
にこやかに微笑む彼女は、わたしの熱帯魚のお師匠様で、学友のロゼッタだ。
今、港町の駅にいる。
コンコースの白い天井は、穏やかな西日が差し込むと黄金色に染まり、暖かく湿気の混じった海風が吹き込むと、絶妙な居心地の良さが感じられた。
その改札の横にある大きな丸い柱は、すっかりグリーンと赤のクリスマスカラーにラピングされており、これから始まる年末年始の到来を告げているようだ。
行きゆく人々も同じ。
休日の午後に改札を通り過ぎ、エスカレーターへと吸い込まれていく人々は誰もが着飾っており、あと数日で始まる長期休暇を今か今かと待ち望んでいるように見えた。
かくいうお師匠もその一人のようだ。
プリーツの入った黒のロングスカートと、チャコールグレーのコート。
ショートヘアの横顔からは、珍しくイアリングが顔をのぞかせている。
だが、わたしたちはこれから、デートに行くのではない。
チャラつく人波を押し分け、港町のあの熱帯魚店に向うのだ。
見上げた生物オタク根性の持ち主だ。
![]() |
・エーハイム サブストラット |
見れば見るほど迷うろ材選び
駅から出ると、東の空はすっかり濃紺に染まり始めている。
屋根付きの高架橋の動く歩道に乗り。
海風とともに鳩が歩道を潜り抜けていくと、黒くしなやかな髪がなびいた。
色とりどりのイルミネーションに照らされる、彼女の白い頬。
その先にある狐のようにスラリとした目鼻立ちに、わたしは息を飲んだ。
だが、ロゼッタが女性として振舞えるのはここまでのはずだ。
なぜなら、赤煉瓦の道と見慣れたショップが、向こうに見え始めたからだ。
「さぁ! 今日もいっぱい見ていこう!」
どうやら、彼女の視界にもそれが入ったようで、ぱっと表情を明るくし、駆け出した。
その無邪気な笑顔に、わたしも自然と口元がほころんでしまった。
きっと、わたしが店内に足を踏み入れることには、すっかり鼻を高く掲げて、にやりと得意げに笑うお師匠様の顔になっているだろう。
なんだか、残念のような、頼もしいような……
――カラン♪
「いらっしゃいませ~」
押戸を開けると、響くカウベルと人の声。
待ち構えていたお師匠様に、早速声を掛けられた。
「それで、今日はろ材を買いにきたんでしょ?」
「そうなんです。外部フィルターにろ材を入れたくって……」
「んふふ、でも、キミには青スポンジがあるはずだよね?」
棚を見上げながら首をかしげ、いたずらっぽく笑うその横顔には、なにかを見抜いたような余裕があった。
「それが……」
わたしが沈黙する理由を知っているのか、彼女はにやりと口角を上げる。
「あはは、言わなくても大丈夫。まぁアクアリウムといっても趣味だからね。どこか楽しめる部分がないとね」
と言葉を締めくくると同時に、唐突にわたしの腕を掴んだ。
――ガシッ
「わぁ!?」
「はいはーい♪ ろ材売り場にレッツゴー!」
と、連れていかれたろ材売り場は、なんと通路1本分。
ウールマットや専用ろ材、さらには外部フィルター用のろ材まで、ぎっちりと陳列されている。
目的のセラミックろ材を置いてある一角に近づいてみると、あまりの種類の多さに、どれにしようか迷い固まってしまう。今日こそはというつもりで、買いに来たのだが……。
そんなわたしの動きを見て、お師匠様は怪訝そうに眉をひそめた。
「どうしたんだい? 選ばないのかい?」
「それが……、これだけたくさんあると自分でもよくわからなくなりました」
「え? もう、決まってるんじゃないのかい?」
驚いたように目を丸くしながら、ほんの少し肩をすくめて、わたしの顔をのぞきこんだ。
「それが、決まっているのは予算だけなんです」
「じゃあ今日は、予算に関係しそうなろ材の材質については教えてあげよう」
セラミックろ材が王道であるなら、ガラスろ材は?
お師匠様は髪を軽くかき上げてから、コホンと咳払いをした。
「外部フィルターで使うような粒状のろ材だけど、実は性質や値段は材料で決まることが多いんだ」
「え? 材料ですか……? わたしはてっきりセラミックだけかと……」
「それは昔の話さ。いまはより安価なガラス製のものやプラスチック製のものも出てきているんだよ?」
再び、横髪にさらりと手櫛を通すと、1つの箱を手に取った。
「これは、エーハイムサブストラット。昔からあるセラミックろ材の1つさ」
「聞いたことがあります。えーっと、セラミックは表面積が大きいろ材ですよね?」
「そうなんだ。だから、昔からろ材の王道なんだ! 表面がザラザラとしてて、硝化細菌の定着もいいし、洗浄しても剥がれずらいから、手加減がしやすいんだ! でもね……」
彼女は箱に付いているオレンジの値札を見せてきた。
値札を見た瞬間、わたしは思わず声が出た。
「うわ……いいお値段!」
「これでも安い方なんだよ? 一応にも舶来品だからね。ここ最近の円安で大きく値段が変わってしまったんだ。ちょっと前まではもっと安く売られていたんだけどね?」
「そうなんですね? やっぱり、輸入品はお高いんですね?」
「その通り。為替のタイミングで値段が変わることもしばしばあるから、キミみたいに予算が決まっている人は要注意だね」
言い終わると、ろ材の箱を元の位置に戻し、今度は別の袋を手にとって見せた。
「そんな、キミにこれがいいかもね?」
「これの中が真っ白の袋は?」
「ガラスろ材さ! 値段も安くて多孔質。廉価版のセラミックろ材だと思って構わないよ!」
「そんなにいいものが!」
が、ロゼッタはすぐに肩をすくめた。
「ただ、ちょっと難があってね? ガラスというだけあってちょっと割れやすいんだよね?」
「えっ!? もしかして、その袋の内側を白く染め上げているのって?」
「残念ながらアクアくんが考えている通り、ろ材が削れた時に出た粒子なんだ。もちろん、セラミックろ材も同じように粒子が出るんだけど、ガラスのろ材の方がちょっと多いかなぁ」
「なるほど、そうなんですね。やっぱり安ければそれなりに欠点が……」
と言い切る前に、お師匠様大きく首を振った。
「でも、安かろう悪かろうなんてことは、決してないんだよ!?」
![]() |
・一応ガラスろ材の、シポラックス |
「安かろう悪かろう:なのか?
お互いに若干ヒートアップしている。
わたしの軽率が発言に端を発した、話題の中心はガラスろ材だ。
「たくさんの水で、しっかり洗えば、問題なくセラミックろ材と同じように使えるんだよ?」
「でも、良く洗う必要があるということは、時間も取られるということですよね? やっぱりそれは……」
こちらの顔をじっと見つめて、にんまりと笑った。
「だけど、キミは学生じゃん?」
「はぁ、そうですけど?」
「なら、時間と体力ならたっぷりあるよね?」
――これは、一本取られた。
「つまり、特徴が学生であるわたしにピッタリだと言いたいんですね?」
「その通り! ガラスろ材のメリットもデメリットも、今のキミに向いていると思ったから紹介したんだ♪ とにかく、分かってくれてよかったよ」
そんなわたしの反応に満足そうに笑いながら、彼女は頷いて袋を什器の平面に詰み戻すと、その隣にある袋を掲げて見せた。
「次が最後、プラスチックろ材さ!」
「これは、それですか……。思ったよりも随分と複雑な形をしていますね?」
「お! いいところに気が付くね。他のろ材と比べて成型しやすいので、色んな形のろ材があるんだ!」
まるでバラの花のように、いくつものヒダが波打ち、折り重なっている。
「こういったプラスチックろ材は、複雑な3次元形状にすることで、表面積をふやしているんだ! それに値段も安いでしょ?」
「たしかに、そうですね。でも、なんか表面がツルツルしているような?」
「実はそれが弱点なんだ。多孔質じゃないし、表面がツルツルしているから、洗浄するといっきに、せっかく定着した硝化細菌が剥がれてしまうんだ」
「えぇ?」
思わず安物買いの銭失いではないのかと、口から出そうになったが、それは先ほど否定されたばかりなので、ひとまずお師匠様の話を聞いてみることにした。
「ろ材清掃って、一歩間違えれば、大惨事になりますよね?」
「そうなんだ。これではさじ加減が難しくてね。正直、生物ろ材は任せづらい」
「そんなもの大丈夫なんですか?」
「もちろんさ! この特徴が有利に働く場面もある。何だと思う?」
――はて?
ろ材として機能するけど、ツルツルしてゴミがよく剥がれる。
そんなろ材なんて、フィルター内部には居場所があるはずなど……
いや、あった!
「つまり、ゴミが綺麗に取れるということですよね? となれば、物理ろ材がいいのではないでしょうか?」
「おぉ! 大正解だよ! その通り、プラスチックろ材は物理ろ材として使いやすい特徴をもっているんだ!」
そして、ロゼッタはくるくると髪を指で遊ばせたのち、大きく目を見開いて胸を張った。
「つまり、こう使うのさ! 外部フィルターの吸水側に物理ろ材としてセットしておけば、大きなゴミを絡めとり、生物ろ材の詰まりを防止してくれるんだ。さらに、洗浄で簡単に汚れが落ちるから目詰まりも起きづらい……というわけさ」
一気に話し終えると、ふっと息を吐いてから、顔を支えるように左手で頬杖を着く
「まぁ、結局のところ、使い手次第ということだね」
「……といいますと?」
「極論を言えば、硝化細菌はどんなものにも定着する。だからあとは、ユーザーがろ材に何を求めるのか、ろ材をどう利用できるか? それに全てが掛かっているんだろうね……」
![]() |
・プラスチックろ材 |
ブランド信者の始まり?
結局エーハイムのサブストラットを買ってしまった。
いくつか候補はあったが、「エーハイム」製だからというのが決め手になった。
フィルター内は水槽と繋がっているとも考えられる。
そこに、今日初めて知ったメーカーのものを置くのが憚られたからだ。
わたしの説明を聞き終えると、やや呆れたように笑って、
「もっと色んなメーカー、色んな道具を知らないとね?」
と、やさしい目で諭してくれた。
そうなのかもしれない。
圧倒的に商品の知識が不足している。
もっと、色々なグッズやブランドを知っていたら、今日はコンサバティブな選択をせずに済んだのかもしれない。
勇気を持って踏み出せば、新しい世界が広がるかもしれない。
ガラスろ材にプラスチックろ材。
知れば知るほどに、夢が膨らむのだから。
まとめ
アクアリウムのろ過に欠かせない「ろ材」。
実はその種類には、セラミック、ガラス、プラスチックと、さまざまな素材が使われています。
それぞれに特徴があるので、値段や使い方など目的に合わせて選ぶと、水槽の環境づくりが一気に快適になるはずです。
まず王道なのがセラミック製。
表面がざらざらしていて多孔質なので、バクテリアが定着しやすく、生物ろ材としてとても優秀です。洗っても崩れにくいので、扱いやすさも◎。
ただし、もともと高額な商品も多く、輸入品の場合は、最近の為替相場の影響でさらに値段が上がってきているのが悩ましいところ。
次に注目したいのがガラス製のろ材。
こちらも多孔質でバクテリアの住みかとして優秀ですが、セラミックに比べるとやや割れやすく、微粒子も多いため、洗浄時には丁寧な取り扱いが必要です。ただ、価格は比較的手頃なので、しっかり手を掛けられる人や、コスパ重視の方にはおすすめです。
最後はプラスチック製のろ材。
複雑な形状で表面積を稼ぎ、主に物理ろ材として活躍します。汚れが落ちやすく掃除が簡単な反面、バクテリアは定着しづらいため、生物ろ材としてはちょっと頼りない面もあります。使い方を誤れば、掃除のたびに不安定な水槽になりますが、物理ろ材としてはこれほど頼もしいろ材はないはずです。
素材ごとにメリット・デメリットがありますが、水槽の大きさや掃除の頻度、バクテリアの育成状況によって、ぴったりの組み合わせがきっと見つかるはず。素材の違いを知ることで、アクアリウムの楽しさがまたひとつ広がるでしょう。