"ベアタンク"というのも一つの手
いつも底砂の汚れが気になってしまう――そんなこと、ありませんか?
「もっと掃除を楽にしたい」。そう思ったときに耳にするのが、“ベアタンク”という言葉です。けれど、底砂を敷かないなんて本当に大丈夫?と思う方も多いはず。
今回は、その不思議な魅力と気をつけたいポイントを、やさしくストーリーでお話ししてみたいと思います。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
3つの水槽が、朝の光を反射してきらめいていた。
60cm水槽には3匹のプレコが身を寄せ、30cmキューブにはマツモとアヌビアス・コーヒーフォリアが静かに揺れている。20Lの変形水槽では、暴君ブルーテトラが今日もバトルロワイアルを繰り広げていた。
気がつけば、水槽が三つ。
アクアリウムを始めてまだ一年ほどなのに、ここまで増えてしまった。そろそろ手を止めよう――そう思うのに、なぜか心は止まらない。余った道具を見つめると、ほんの少しの追加でまた新しい命を迎えられることに気がついてしまうのだ。
今、手元には空になったフチありの45cm規格水槽がある。
もともとプレコたちの住処だったこの水槽には、退役した2231フィルターと専用のディフューザーもある。
――なら、何かを飼いたいと思うのは必然だ。
ベアタンクのいざない
……余った水槽がある。から始める物語
しかし、本当は違う。
ポリプテルスという古代魚に一目惚れした結果、眠らせていた機材を引っ張り出してきただけなのだ。だがここまで来て、足りないものがあることに気がついてしまった。底砂だ。
ソコモノと相性の良いガーネットはすべてプレコ水槽で使っている。本来なら買い増してもいいのだが、この利便性の高い底砂はそれ相応の値段がするので懐に厳しい。
……なら、あえて入れないという選択肢はどうだろう?
わたしはお師匠様にベアタンクについて相談してみることにした。
掃除が便利! ベアタンク
「なるほど、ポリプテルスを飼いたくなったんだね?」
柔らかいロゼッタの声が、5限終わりのキャンパスに響いた。
夜虫の鳴くサークル棟のバルコニーには、すがすがしい風が吹き込んでくる。なびく彼女のショートヘアを一目見て、わたしは視線を落としながら頷いた。
「それでベアタンクを?」
「そうなんです」
「本当は? ガーネットサンドを買うお金がないんじゃなくて? ふふふ♪」
「そ、それは……!?」
お師匠様は口元に笑みを浮かべている。すべてはお見通しのようだ。
「とはいえ、たしかにポリプテルスとベアタンクは相性がいい。ちゃんと利点も分かっての話だよね?」
「えーっと、掃除しやすい……とか?」
「そうだね。お金の節約とはともかくとして、残飯も糞も丸見えで、掃除が簡単なのが一番の利点さ」
その言葉に、わたしは胸の奥が少し明るくなるのを感じた。
だが、ふと不安が浮かび上がる。
「でも、ほとんどの水槽が底砂を使っていますよね? やっぱり、デメリットってあるんですか?」
「うーん……まず見た目が少し殺風景になるかな」
「けど、ポリプテルスは愛嬌のある魚だよ。泳ぎ方も顔つきも可愛い。味気ないなんて思わないさ」
彼女の言葉には、経験の深さが滲んでいた。だが、さらに疑問が浮かび、わたしは質問で返した。
「殺風景ということは、もしかして、魚って落ち着かないのでは?」
「うーん、そうだねぇ。たしかに少し落ち着かない子もいる。とはいえ、シェルターを入れれば平気な子もいる。魚種による差はかなりあるので、そこは下調べが必要だね」
「ポリプテルスは?」
「できる限り、土管とかシェルターを入れてあげたいね」
なるほど、と頷きつつ、わたしはまた別の疑問を口にした。
「ところで、以前話題になったんですが、底砂に着く硝化細菌はどうなんですか?」
「もちろん、砂があった方が多く付くはずさ。でもその分、大きなフィルターにろ材をたくさん入れてあげればいい」
「ふむふむ」
「むしろ、砂の中に汚れが溜まる方が厄介だよ。良い水質を保つためには、掃除と水換えが大切だからね」
「うーん……なるほど……」
「ベアタンクなら、プロホースで掃除するのが楽になるし、考えようによっては観察もしやすい。理にかなってると思うよ」
「やっぱり、ベアタンクっていいんですね」
お師匠様は、ゆっくり頷いた。
「そう、理にかなってる。でもね――」
その言葉に、わたしは思わず顔を上げた。
![]() |
| ・ベアタンクは殺風景に思えて、意外と趣が出ることもある。 |
ガラス底ではライトが乱反射するから……
「覚えておいてほしいんだ」
お師匠様の声が、少しだけ真剣な色を帯びる。
「大きな注意点もあるんだよ」
「はい?」
「キミは何色のポリプテルスを飼うつもり?」
「アルビノのセネガルス・ショートボディです」
「なるほど。なら、おそらく問題ないけど、底がガラスのままだと“色飛び”することがあるんだ」
「色飛び……?」
初めて聞く言葉に、思わず聞き返す。
「多くの魚は、無意識に体の色を周囲に合わせようとする。ポリプテルスも同じさ。グレーの体に黒い紋が映えるんだけど、底が白いとどうなる?」
「あ……黒い模様が薄くなる?」
「そう。つまり、柄が飛ぶ。だから、種類によってはガラスむき出しのベアタンクはおすすめできない」
「でも、アルビノなら大丈夫。白い体には白い底も似合うし、色飛びもしない」
わたしはガラスの水槽を思い浮かべた。透明な底、乱反射する光。そこに静かに横たわる魚の姿。
――だがしかし、少し味気ないような気もする……。
実際問題、入れるポリプテルスはアルビノばかりではない。まずはセネガルスを迎える予定だが、ローウェイも気になっているのだ。
「……もしアルビノじゃなかったら?」
「その場合はね、黒のアクリルか塩ビ板を使うといい」
「アクリル? 塩ビ?」
「そう、ホームセンターで売っている大きなプラスチックの板だよ。それを水槽の底面サイズに合わせてPカッターで切る。で、さらに二等分にしておくんだ」
「ぴったりじゃだめなんですか?」
「ピッタリサイズだと表面張力でくっついて取れなくなる。だから、わざと分割して少し隙間を作るんだ」
「なるほど……。ジャストサイズにしたくなりますけど、それはちょっとしたトラップですね」
お師匠様は微笑み、指先で空を切るようにジェスチャーをした。
「そういうこと。それとね、アクリルも塩ビも光を反射するから、サンドペーパーで軽く擦っておくといい。反射が柔らかくなって、魚も落ち着くから」
水槽4つ
黒のアクリル板で作ったベアタンクは、すこぶる使い勝手がいい。プレコ水槽ですら、この底床にしたいくらいだ。たしかに茶ゴケがべったりと着くことはある。しかし、スポンジで擦るだけで掃除が終わるので、水換えの際も短時間で済むのだ。
今、わたしの部屋には小さな水音が響いている。
60cm水槽のプレコたち、30cmキューブのアヌビアス、20Lのブルーテトラ、そして――新しく加わったセネガルスのアルビノ・ショートボディのいる45cm水槽。
こうして、6畳の部屋に4本の水槽。
わずか一年の出来事である。
アクアリウムという趣味は、本当に恐ろしい。
しかし――それ以上に、美しくもある。
まとめ
あえて水槽の底に砂を敷かない――それが「ベアタンク」です。
聞いたことはあっても、実際に試したことがある方は意外と少ないかもしれません。底砂がないだけで、見た目はすっきり、掃除はとても簡単になります。残った餌や糞が一目で分かるので、水換えのときも手早くきれいにできるのが大きな魅力です。特にプレコやポリプテルスのように食べ残しが多い魚を飼っている人には、とても相性のよい方法です。
ただし、ベアタンクにはデメリットもあります。まず見た目が少し殺風景に感じられること。そして、魚によっては底に砂がないと落ち着かない種類もいます。そのため、隠れ家になるシェルターや流木を置いてあげると安心です。また、底砂がないぶん硝化細菌の住みかが減るため、外部フィルターなど濾過能力の高い装置を使うことがポイントになります。
もうひとつ気をつけたいのが「色飛び」です。魚は環境に合わせて体色を変える性質があるため、ガラスの底が白っぽいと黒い模様が薄く見えることがあります。特にポリプテルスなどの古代魚では注意が必要です。対策としては、底に黒いアクリル板や塩ビ板を敷くのがおすすめ。反射を防ぐために、軽くヤスリをかけておくと見栄えも落ち着くはずです。
掃除のしやすさや観察のしやすさを重視するなら、ベアタンクはとても合理的な方法です。見た目を少し工夫すれば、むしろシンプルで美しい水槽にもなります。飼育スタイルに合わせて、あなたの水槽にも「何もないシンプルさ」を取り入れてみてはいかがでしょうか。


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