勢いで手を出したばっかりに……
勢いでフルーバル304を買ってしまった過去があります。
エーハイム2213と同じく、60cm規格水槽クラスのスペックを持ちながら、破格の値段で売られていたからです。
今回は、レア機種に手を出してしまった一人のアクアリストの体験談をストーリーとして紹介したいと思います。
「アレも安い!」「コレも安い!」と手を出すのは楽しいものですが、長期的な維持管理という視点も忘れてはいけません。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
赤提灯の並びを通りぬけ街路をひた走り、灯に照らされるガラス扉に飛びこむと、そこはいつものように別世界が広がっていた。少し雨が降り、外は春の湿気を帯びた空気に包まれていたが、こちらはもう常夏の様相を呈し、じとりとした店内には飼育水の香りが漂っている。
睨みつけるように棚の上段のさらに上を見ると、ずらりと箱に入った外部フィルターたちが積み上げられていた。わたしは息をのんで呟いた。
「フルーバル304……」
割引の値札の上に、さらに割引の札が張られており、なんと7500円。
60cm規格水槽に使える外部フィルターが、この値段で手に入るなんて。以前から売れ残っており目を付けていたのだが、背伸びをして手に取ると心臓が早鐘を打つ。
フルーバル304の思い出
割引の割引!?
しかし、いまのわたしには渡りに船だったのだ。
箱を抱えると、腕にずっしりとした重みが伝わってくる。その重みが、これから始まる水槽への期待なのか、それとも不安なのかは分からない。しかし、未来を暗示しているようで胸が高鳴った。
会計を済ませ、箱を抱えながら電車に乗ると、窓に映る自分の姿が妙に誇らしく見え、ここにきてやっと安堵する。これで、わたしの水槽はさらに一歩、完成に近づくのだと。
足取り軽く家路に着き、玄関の扉を開いた瞬間、抑えきれない好奇心が込み上げてきた。
だが、今はひたすら我慢をしよう。なぜなら、明日わたしの水槽のお師匠様ことロゼッタと開封の儀を執り行うからだ。今はパッケージに書かれた写真と能書きだけで十分だ。
そして、翌日。
フルーバル304は異世界の外部フィルター
「……今すぐ開けてみてもいい?」
「もちろんです」
わたしはお師匠様に視線を送ると、彼女はそそくさと段ボールのテープを剥がし始めた。ペリッと乾いた音とともに封が解け、未知の世界への扉が開かれた。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか♪」
二人して箱の中を覗き込むと、まず目に飛び込んできたのは見慣れぬ形の蛇腹ホースだった。グレーに鈍く光る溝が幾重にも連なり、工業的な美しさを放っている。お師匠様はそれを数度ツンツンと突くと、大きく目を見開いた。
「わぁぁぁ! 何これー!! プラスチックだよ♪」
「えぇ!?」
思わず声を上げる。ビニール製のホースを想像していたわたしには衝撃だった。手に取ると硬質感があり、不安に思ったので試しにグネグネと曲げてみた。だが、蛇腹が綺麗に機能しているのか、くねる感触が意外にも心地よく、これなら設置も楽にできそうで、わたしの不安は杞憂に終わった。
お師匠様も興味深そうにわたしの手元をのぞき込んだのち、段ボール箱からグレーのプラスチックでできた骨組みのようなパーツを取り出した。
「ほら、これ見て! これをガイドにして蛇腹を曲げて、水槽のフチを乗り越えるんだね!!」
彼女がホースをセットすると、U字型に折れ曲がり、その先には排水パーツや吸水パイプが取り付けられる仕組みになっているようだ。普段見慣れたU字パイプとは違う、独特のシステムに強い個性を感じ、思わず目を奪われる。
パーツ群を一通り取り出し、説明書と照らし合わせてみる。どうやら取り出したパイプ類は、グレーのゴム製の筒のようなコネクターで蛇腹と接続するようだが……。
「あ! このパイプ、何か入ってます!」
1つ手に取りまじまじと眺めると、カラカラと音を立てた。折りたたんだ傘のような形状でスリットが入っている。吸水パイプだろう。その中をよく見ると、小さなボールのようなものが入っていた。
「これはいったい……?」
「おそらく、呼び水をする装置のものだろうね」
お師匠様が頷きながら、本体の上部を指した。取っ手の付いた棒状のパーツがついている。これを引っ張ると、パイプのチェックボールと連動して、さながら手押し式のポンプとなるようだ。わたしは思わず笑みをこぼす。これなら呼び水も簡単にできそうだ。
まだ使ってもいないのに、胸の内ではすでに成功したような高揚感が膨らんでいく。わたしたちは、まるで小さな発見に子供のようにはしゃいだ。オタク心を満たすには、百点満点以上の器具だと言わざるを得ない。
そして、パワーヘッドを開けた瞬間、その興奮は最高潮に達した。
「みてみて! これ物理ろ過のためのスポンジろ材だけど……」
「ずいぶん長いですね!」
中から現れたのは、縦長のスポンジろ材。まるで煉瓦を二つ並べたような形をしており、ごわごわとした質感が頼もしさを放っていた。これが板状のパーツに縦に4本並べられており、物理ろ過の権現のような異彩を放っていた。
「……でも、こんなにも物理ろ過って必要でしょうか?」
すると、お師匠様は目を細めて解説する。
「おそらく、大きな水槽で中型・大型魚を飼育する海外の事情を反映しているんだろうね。こんなにも大きな体積、そして取り出しやすさから考えると、これはただの物理ろ過ではなくて、プレフィルターとしての機能を意識して配置してあるに違いないかもね」
水の流れを想像する。上から侵入した水は左側の大きく長いスポンジろ材を通り、フィルターケースの最下層でUターン。今度は右側の小さなろ材コンテナを通りながら上に戻ってくる。
「対してセラミックろ材が入るコンテナはずいぶん小さいですね」
「そのようだね。やはり物理ろ過重視のフィルターだと言えそうだ。とはいえ、ここまで極端だと、やはり日本とは違うバックグラウンドがあるんだろうね……」
わたしは複雑な気分になった。エーハイム2213のようにセラミックろ材をたっぷり詰め込めると期待していたのに、この設計は違っていたからだ。だが、それでも未知の機構を目の前にしていること自体が楽しかった。
「……まぁ、これがどう作用するかは、実際に回してみれば分かるさ」
お師匠様が笑った。
実際、この物理ろ過偏重ともいえるフルーバル304に助けられることになるのだが、それはまた別の機会に述べたいと思う。
レア機には要注意!
突如としてロゼッタはため息をついた。
蛇腹ホースやスポンジろ材に夢中になっているさなか、彼女は首を振り、肩を大きくすくめてわたしに指摘した。
「ところで、これのパーツとか備品とか、ショップに置いてあるところを見たことある?」
一瞬にして言葉を失い、わたしはそのまま固まってしまった。
縦に使う奇妙なスポンジろ材。硬質で数年は持ちそうだが、劣化したとき交換できるのだろうか? どこで売っているのだろうか? その不安が大きく胸に影を落とした。
「それは……」
くっきりと浮き上がった不安。未だその程度の言葉しか発することができない。
「じゃあ、もし蛇腹ホースが劣化したら?」
改めてグレーの蛇腹をみる。市販のホースでは代用できそうにない独特の形状。それに、ゴム製のコネクターも見たことがない。これらがもし破損したら……。
そんな胸中とは裏腹に、お師匠様はさらに意見を述べ続けた。
「ほら、この吸水パイプ。中にボールが入ってるだろ? 破損した時はどうするの?」
お師匠様の言葉が、胸の不安をさらに揺さぶる。
給排水パイプはエーハイム製と径を合わせて無理やり使えるかもしれない。であるなら、ホースもエーハイムのを使うべきか。もし、うまくパワーヘッドとパイプ径を合わせられれば……。
いやいや、ダメだ。そんなやっつけDIYをして、もしものことがあったら、漏水で水槽が干からびてしまうだろう。
想像すればするほど、深い谷底に蹴落とされたように心が悲鳴を上げる。
「じゃあ……インペラやスピンドルが壊れたら?」
畳みかけるように、困惑していたわたしに言葉を投げかけた。
「それは……」
「あはははっ! いやいや、ごめんね。ちょっといじめすぎちゃったかも」
と、にんまり笑いながら彼女は謝罪した。
「広いネットの中から探すしかないかもね。もちろん、海外から取り寄せることになるだろうね。例えばebayとかさ」
それしかなさそうだ。しかし、パーツが届くには長い時間がかかるだろう
「うーん……、何かあったときはかなり手間がかかりそうですね?」
「そうだろうね。おそらくすぐには直らない。その時どうするか。もっともキミの水槽は外部2台並列だから、なんとかなるとは思うけど」
お師匠様の声が穏やかであるほど、その現実感が重く響いた。もし故障したら? その間、魚たちはどうなる?
「予備の外部を待機させるか、スポンジフィルターで時間を稼ぐか、考えておいた方がいいよ」
「ですよね……」
彼女の忠告は冷静で、わたしは頷かざるを得なかった。これは珍しいメーカーに限ったことではない。彼女が言うにはエーハイムですら、古くて希少な機種も同じような問題を抱えているようだ。
「とりわけプロシリーズは注意が必要さ!」
と彼女は高らかに訴えた。
パーツ売り場に並ぶエーハイムの替え部品を思い出す。その豊富さが、どれほど安心感を与えていたか。今さらながら納得せざるを得ない。とはいえ、そこにプロシリーズのパーツがあったかというと……。
「みんながクラシックシリーズを使うのには、しっかりとしたわけがあるのさ」
――それから数か月後、わたしは日本からfluvalが撤退していたことを知ることになる。あれはそれに伴う投げ売りだったのだ……。
だが、わたしのプレコ水槽計画は、不安要素を抱えたまま進めていくことになる。
※
2025年現在、北米で生まれたfluvalブランドは、水草育成用ライトとして姿を変えて日本に入ってきています。もちろん、e-bayやAmazonを利用すれば、輸送費こそかかりますが、最新式の外部フィルターが手に入るようです。
20年前と比べて、世界は明らかに近くなったのです。
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・買ってすぐに終売だと知り、激しく後悔したものだが、結局20年も連れ添っている。 |
歴史は繰り返す……ように思えたが?
だが、月日が経つごとに、わたしはその忠告をすっかり忘れてしまった。次の甘い誘惑に心を奪われてしまったのだ。
「ええぇぇ!? エーハイムプロ2222、1万円も安いのっ!?」
ついに、また新しいフィルターを手に取ってしまった。
多くの人の予想通り、実はこちらも終売直後のフィルターだった。
つまり、エーハイムプロ2発売直後の出来事である。
しかし不思議なことに、この選択は偶然にも当たる。
fluval304は修理不能になり、当時作っていた夢のプレコ水槽も畳んだ。だが、20年が過ぎた今でも、そのプロ2222は稼働を続けている。
インペラやスピンドル、パッキンなど、ところどころに手を入れては、パーツの値段に閉口することもあったが、それでも供給は途絶えず、必要とすればかろうじて通販で手に入る。
この事実は、エーハイムというメーカーの底力を物語っていた。長い年月を経ても裏切らない安心感。それがあるからこそ、日本のショップにエーハイムが並び続けるのだろう。
――あの日、フルーバル304に胸を躍らせた気持ちも、確かに本物だった。しかし、時の流れを超えて水槽を守り続けるのは、やはり信頼に足る道具なのだ。
今、窓辺の水槽を見やると、プレコが流木の下で静かに口を動かしている。ブルーフィンプレコは、そんなこと知る由もないだろう。
お師匠様がかつて言った言葉を思い出すと、今も深く胸に染み渡るのだ。
まとめ
どんなフィルターでも、選ぶときに大切なのは、まず「どんな魚を飼うのか」という視点です。
例えばプレコのようにフンが多い魚では、物理ろ過を重視した設計のフィルターが役立ちます。一方で、水草水槽や小型魚中心なら、生物ろ過に十分なセラミックろ材をしっかり入れられるモデルが向いています。 このように、フィルターによって強みが分かれるため、水槽のスタイルに合ったものを考えると選びやすくなります。
また、「メンテナンスのしやすさ」も無視できません。物理ろ材やウールマットへのアクセスに工夫がなされているフィルターは、ろ材交換や掃除の作業が楽になります。とりわけ、大容量のスポンジろ材やプレフィルター構造を備えたタイプは、汚れをしっかり受け止めてくれるため、詰まりにくく掃除の手間も減らせるのが利点です。
次に見ておきたいのが「パーツ供給の安心感」です。 専用ホースや特殊なろ材は、もし劣化したときに入手できなければ使い続けられません。長く使うつもりなら、交換部品が安定して流通しているメーカーを選ぶことが大きな安心につながります。実際、エーハイム・クラシックシリーズのように長年パーツ供給が続いているモデルは、多くのアクアリストに支持されてきました。
外部フィルターは水槽の“心臓部”といえる存在です。機能面だけでなく、長期的に安心して使えるかどうかを考えて選ぶことが、水槽を安定させるいちばんの近道になります。
フィルター選びで重要なのは「どんな魚を飼うか」という視点です。プレコのようにフンが多い魚には物理ろ過重視型、水草水槽や小型魚には生物ろ過重視型が最適。さらにメンテナンス性やパーツ供給の安定性も長期使用の鍵です。用途や環境に合った外部フィルターを選ぶことで、水槽をより安定した状態で維持できます。
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