CO₂小型ボンベの初交換♪ で見舞われた火傷トラップ
水草水槽に欠かせないCO₂添加。でも、ボンベ交換は初めてだとちょっと緊張しますよね。レギュレーターや電磁弁、スピードコントローラーなど、見慣れない器具が並ぶと、どこから手をつければいいのか迷ってしまうもの。でも、手順を落ち着いて確認すれば、意外と簡単で安心して作業できるもの。
今回は、わたしが初めて小型ボンベを交換した時に起きたトラブルを交えつつ、その手順について、分かりやすく述べていきたいと思います。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
3限が終わり、夕方の光が差し込む部屋に帰ってくると、いつもの「パチン♪」という軽い音がした。
CO₂の電磁弁が作動した合図だ。
わが家の水槽を守る小さな相棒、あるいは“守り神”のような存在。
しかし最近、その音を聞くたびに少し胸がざわつく。どうも、CO₂添加の調子が悪いのだ。
初めてのボンベ交換とその手順
高圧ってなんだか怖くない?
泡が出ない。
最初はスピードコントローラーをいくら回しても復活した。だが今はもう、目いっぱい開いても、カウンターに気泡が現れる気配すらない。
背伸びをして買ったボンベ式添加。不安に思い、水槽のお師匠様であるロゼッタにメールで尋ねてみた。
「添加始めてから1か月半でしょう? きっとボンベが切れたんだね」
その一言に、少し安心したような、それでいてもし違っていたらと思うと、胸の奥が緊張でこわばる。なぜなら、まだまだCO₂添加器具に関してはずぶの素人で、こうした作業には苦手意識があるからだ。
相手はなんといっても「高圧」CO₂。銀に輝くボンベの奥底に眠る危険物を思うと、自然と手が止まってしまう。
――でも、今日はお師匠様と一緒に交換できる。
そう思うと、心のどこかで小さな期待と安心感が灯る。
窓の外から沈みかけた陽が差し込む。冷えていたわたしの心を暖めるように、水草たちは橙に染まっていた。
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| ・おや? 電磁弁の様子が…… |
CO₂がきつく閉まる理由と電磁弁の罠
その1時間後。
彼女がわが家にやってきた。フィールドワークを終えたばかりの、土で汚れたズボンと泥まじりの運動靴で、いつもの穏やかな笑みを浮かべている。家に帰らず真っすぐわが家に来てくれたのだろう。謝意を述べると、彼女はドカリとわたしの勉強机のリクライニングチェアに腰を下ろした。
「大丈夫、ただちょっと疲れてしまってね。ボクはここで見守っているよ」
「今日はそれだけでも十分ありがたいです」
「だいたい仕組みはキミだって分かっているだろうし……。大丈夫、間違っていたら教えてあげるから、やってごらんよ?」
と、強く背中を押してくる。
改めて水槽の横を見ると、ボンベ、レギュレーター、スピードコントローラー、そして電磁弁。どれも金属の輝きを帯び、光を反射して冷徹にきらめき、わたしの挑戦を待っているように思えた。
――やるしかない。
冷静に考えれば、仕組みは理解している。
ボンベの中の液体CO₂はレギュレーターで減圧されて気体になり、ON/OFFを司る電磁弁を通り抜けると、スピードコントローラーでさらに調節され、そして水槽へと入っていく。
だが、もし中にまだ高圧のガスが残っていたら……。その考えが頭をよぎるたび、指先が震える。だから、実は秘密兵器を今日の下校帰りに用意しておいた。革手袋だ。
黄色のごわごわとした手袋をはめると、後ろから声が飛んできた。
「んふふ♪ ずいぶん重装備だね?」
お師匠様はくすっと笑い、わたしはたまらず反論する。
「その……無理やり開けて液体CO₂が漏れて、凍傷寸前になったって話を聞いたことがあるので……」
「あぁ! なるほどね♪ でも、それはね、本当であって本当ではないんだよ」
「え?」
「実はね、CO₂が残っていると、その圧力でネジがギュッと締まって外れないんだ。工具でもない限り外せないよ」
「どういうことですか?」
何を言っているのか分からず、ぽかんと口を開けていると、さらに彼女は続ける。
「つまりね、ボンベが外れるってことは、中身がもうないってことだね」
「えぇ!? 早く言ってくださいよぉ……」
とりあえず、電磁弁につながるタイマーをオフにし、慎重にボンベに手をかけてみる。軽く回すと、ボンベはするすると外れていった。
「それって……ボンベが回る時点で、手袋は要らないってことですよね?」
「ま……そういうことだね♪ つまり、革手袋は不要ってことだね。逆を言えば、外れないボンベには中身が残っているということ」
「それを、無理外したら……?」
「それこそ大惨事かもね。とにもかくにも、そんなにゴワゴワしたので本当に作業できるの?」
改めてわたしはガチガチにガードを固めた自分の両手を見る。どうやらやりすぎてしまったようだ。思わず笑ってしまうと、お師匠様も口元を緩めた。
「んふふ♪ でもね、その重装備はボンベを取り付けるときには、あったほうがいいかもしれないね」
――どうしてですか?
外れたボンベを勉強机に置きながら、そう言おうとした瞬間のことだった。
「あっちっ!!!」
わたしは一瞬、何が起こったのか分からなかった。
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| ・過去の自分の行為がトラップとなることも |
2つの失敗
右腕に、焼けるような熱が走った。
反射的に手を引っ込めると、腕の内側が少し腫れている。大きさは直径5mmほどしかなく、すでに痕跡も薄れていたが、まるで毒虫に刺されたような鋭い痛みだった。
「ちょっと! 大丈夫!?」
お師匠様が身を乗り出す。彼女の声に、不要な心配をかけてはならないと思い、わたしは少し強がって落ち着いた声で状況を説明した。
「これ……ちょっと熱かったんです」
「あぁ、電磁弁に触っちゃったんだね?」
ロゼッタが目を細め、そっと指先で電磁弁をつつく。
「うわっ……本当に熱いね」
「まじまじと見たことはあっても、通電中に素手で触れたことがなくて。まさかこんなに熱を帯びているだなんて」
「そうだよね。実はこのタイプ、古いモデルなんだ。通電すると火傷するぐらい発熱しちゃうんだよ。最近は発熱しないタイプもあるけどねぇ」
腕の内側をさすると、ヒリヒリと痛い。きっと、この火傷とは数日は付き合うことになるだろう。
「電源を抜けばすぐ冷たくなると思ってたのに……」
「これって重かったでしょう?」
「はい。ずしりと重くって……ほら、見てください。耐圧チューブが重みでこんなにたわんでるんですよ」
「そうだよねぇ。金属の塊だからね。だから冷めるのにも時間がかかるんだ。もし電磁弁を触る作業をする際は、30分前には必ずコンセントを抜くんだよ?」
今となっては彼女の真っ当な指摘に、うなずくしかない。Tシャツの袖で額の汗を拭い、痛みの残る腕を見つめながら、思わず言葉がこぼれた。
「うーん、今日はなんだか失敗しました……」
その瞬間、お師匠様が笑い出す。
「あはは! 実はキミの失敗はそればかりじゃないよ?」
「え?」
ロゼッタが指差した先――スピードコントローラー。
ネジが不自然に上へ飛び出していた。
「これ、全開なんじゃない? ずいぶん出っ張ってるよ」
「あああっ!! 本当だ!」
思い出す。
昨日、ボンベが切れたか確認するためにコントローラーを開けたままだったのだ。
「ね? このままボンベを取り付けてたら大変なことになってたよ?」
「うっ……」
「実はね、電磁弁を入れる前に止めようと思ってたんだけど、まさかこんなことになるなんてね?」
彼女の指摘に、わたしは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「むむむ、CO₂添加機器って本当に難しい!」
「そうだよね? CO₂自体、魚には毒だし、どの器具も意外と気を使うものばかりなんだ。だから、慎重に扱おうね?」
お師匠様がやさしく微笑むと、今日の痛みもまた良い思い出になりそうだ。
そう確信した、春の夜のことだった。
電磁弁が便利なもう1つの理由
この一件以来、ボンベ交換の前には必ず電磁弁のコンセントを抜くようにしている。
特段不要な工程ではあるが、たったそれだけの一手間で、ずいぶんと安心感が変わるのだ。なぜなら、ボンベを接続してレギュレーターのバルブを開けても、急にCO₂が流れ込むことはないからだ。
電源を入れる前に、落ち着いてスピードコントローラーを確認するだけでいい。そうすれば、ディフューザーがゴボゴボと音を立てて暴れることもなければ、CO₂カウンターの水が押し出されることもない。
一連の動作が、フェイルセーフのように働いてくれるのだ。
窓辺に視線を向けると、今日も夕日が差し込み、水面が金色に揺れている。
あの日、火傷した腕の跡はもう消えている。けれど、あの熱さは今も心の奥で小さく残り、ヒリヒリとしている。
――あの日の一件を、忘れないようにと。
まとめ
CO₂ボンベの交換は、水草水槽を維持するうえで欠かせない作業のひとつです。
とはいえ、慣れていないうちは少し緊張するもの。レギュレーターや電磁弁、スピードコントローラーなど、専用器具が多く、どこから手をつけていいのか迷ってしまう方も多いでしょう。ですが、手順を落ち着いて確認すれば、決して難しい作業ではありません。
まず大切なのは「電源を抜くこと」です。電磁弁のコンセントを外しておけば、交換中の不注意でCO₂が水槽へと流れ出す心配がありません。小さなことですが、この一手間で安心感がぐっと変わります。続いて、レギュレーターをボンベから外します。完全にCO₂ガスが抜けていれば、するりとボンベが外れるはずです。
もし外れないようなら、工具で無理に外してはいけません。ボンベにガスが残っている可能性があるからです。スピードコントローラーの開度を再度チェックしてみましょう。
ボンベが外れたら、新品と交換します。レギュレーターとネジの山をしっかり合わせたうえで、しっかりと締めこんでいきます。途中、レギュレーターのニードルでボンベに穴が開き、シュっと音がしてガスが漏れ始めますが、構わず最後までも締めこみましょう。最後までしっかり締め込むことが重要です。
ボンベを接続し終え、電磁弁を開く前に必ずスピードコントローラーを確認しましょう。大きく開きっぱなしにしていると、電源を入れた瞬間にCO₂が勢いよく流れ込み、ディフューザーから大きな気泡が飛び出したり、カウンター内の水が押し出されたりすることがあります。事前にきつめに閉めておき完全に閉じておくことで、落ち着いて微調整ができるようになります。
準備が整ったら、電磁弁の電源を入れ、少しずつスピードコントローラーを開いて気泡を確認します。スピードコントローラーが利いてくるまで少々時間がかかるので、焦らず少しずつ調整するのがポイントです。


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