夏の水槽は、水温管理と水換えが決め手
暑い季節になると、水槽の魚たちの元気に泳ぎまわる姿が涼しげに見え、ついつい「もう少しエサをあげようかな」と手が伸びてしまいます。
でも、ふと水面を見ると――なんだか泡がいつまでも消えない?そんな経験はありませんか?
実はこれ、夏の水槽でよく見られる「トラブル」のサインかもしれません。
今回は、ストーリーとともに紹介したいと思います。
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(これは20年以上前の物語)
エアレーションに冷却ファン、夏対策はばっちり――だったはず。
8月も中旬、うだるような暑さが続いたある日。
ふと気づくと、水槽の四隅に泡がもこもことたまりはじめていた。
「……なんで? 対策したよね?」
泡の向こうの夏
泡、ふくらむ夏
不思議でならない。
確かに冷却ファンも稼働中。クーラーだって28℃設定で、室温は一応下がっている。エアレーションも問題なく作動している。
なのに、水面の端っこに、ねばりつくように消えない泡。嫌な予感しかしない。
推理
心配になって、アクアリウム歴5年以上の頼れる学友、「お師匠様」に来てもらった。
「また、きゅうり放置したとかじゃないよね? あはは」
開口一番、わたしの忘れたい過去を掘り返しつつ、ぱぁっと笑顔になった。
結局、この人はこういった原因究明が好きな人な捜査官のような人なのだ。
わたしのような初心者と一緒にいれば、好物が向こうからやってくる。
屈託のない笑顔を見て、そう思うようにしている。
「さて、生の餌でないとすると、いったい何が原因なんだろ♪」
以前、プレコのために入れたきゅうりを一晩放置し、水が真っ白になったことがあった。
あのときは、ろ過がようやく安定してきたばかりで、アンモニアがぶり返し、亜硝酸地獄になり、大騒ぎしたばかりだった。
でも、今回は違う。きゅうりは1週間以上入れていない。
お師匠様は慣れた手つきで2つのボトルを取り出し、飼育水の入った透明なケースにさっと試薬を垂らした。
時間が経つと、ケースの水はイエローに色づく。
この呈色は、つまり亜硝酸が検出されていないということだ。
「亜硝酸は……問題なしだね。プレコも落ち着いてるし、エラの動きも正常だ」
となれば、原因はどこにあるのか。
お師匠様が最初に目をつけたのは外掛けフィルターだった。
「ここかな?」
パカリとフタを開けて、専用ろ材をじっと観察している。
大きな残飯やフンが引っかかっている様子はなく、オーバーフローもなく通水は正常。
ではスポンジフィルターか――と思ったが、お師匠様は首を振った。
「フィルターには特に問題はないようだね」
では、何が原因なのか?
そのとき、スポンジフィルターをセットしなおす際に、ケーブルに手が引っかかり、デジタル温度計が床に落ちた。
それを見て、お師匠様が目を見開いた。
「そうだ。水温もチェックしてみよう。最高水温を記録されるタイプでしょ?」
わたしが差し出すと、お師匠様は小さなボタンをピコピコと操作し、やがて大きく頷いた。
「ははーん~!」
何かわかったようだ。
![]() |
・こういったフチにのこる泡は悪い傾向のことが多い |
わたしにできること
「最高水温33℃。きっと、これが原因じゃないかな?」
よもやの高水温。
現在の水温とは随分と乖離している。
「まぁ、ボクたちは、四六時中水槽の前にいるわけにいかないから、実際のところ何が起きているか、わからないけど……」
お師匠様の結論では、どうやら、冷却ファンだけでは十分に水温を下げきれていならしい。
とはいえ、この部屋は木造2階建てで西と南側に窓がある。
10時にはサウナ状態になるため、日中からタイマーでクーラーを利用しているのだが、28℃設定を親から厳命されている。
「電気代がもったいないから!」という、我が家の掟だ。
もちろん、水槽用のエアコンなんて大学生には高級品。
もし買ったとしても、電気代の増加を親にどう説明すればいいかわからない。
他にできる対策はないものか?
食べ盛りのプレコにエサを減らすのは忍びないし、毎日残飯の掃除もしている。
「もう、水換えくらいしかできることはなさそうだね」
そうなのだ。
たしかに、小さな水槽は汚れが早くたまりやすい。
でも、水量が少ない分、管理は簡単なはずだ。
「泡の正体は、タンパク質。つまり有機物の汚れだよ。もしかしたらバクテリアのバランスが崩れて、分解が追いついていないのかもね」
師匠の言葉が胸に残る。
そうだ、水換えのタイミングを見直すしかない。
「大丈夫。1週間に1回の水換えを、少し早めるだけでいいんだから。これもプレコへの愛情だと思ってさ」
わたしは頷いた。
まだ、わたしにできることはある。
そして、秋へとなる
その夏、泡と戦いながら、なんとか乗り切ることができた。
残飯処理、水換え、そして温度管理。ここまで高密度で生き物の世話をしたのは初めてだった。
ふと、師匠の言葉がよみがえる。
「大きな水槽なら、水質の変化もゆるやかだよ。検討してみて」
45cm水槽……今の20Lより15Lも大きい。
きっと、違う世界が見えるはずだ。
よし、そうしよう。
来年の夏は、もう少し余裕をもって迎えたい。
そんな想いが、静かに芽生えていた。
![]() |
・同じ泡でも、残らず消えているのなら、問題なし。 |
泡が生まれる仕組み
ここからは、ストーリーで紹介した内容をまとめていきたいと思います。
バクテリアのバランスが崩れるとどうなる?
まず大前提として、泡ができること自体、実は珍しいことではありません。エアレーションや水の注ぎ方によって泡は生まれます。
しかし、それがずっと水面に残り続ける、つまりこれは、汚れがあってなかなか消えないということで、注意を要します。いわば、バクテリアのバランスが崩れているサインと言えるのです。
水槽内の微生物は有機物を分解して水をきれいに保ちますが、高水温と酸素不足によって環境が変化すると、バクテリアのバランスが大きく変わります。
すると、分解し浄化する作用が追いつかなくなり、その結果、未分解の有機物が増えて、水質悪化を招くことになります。
そのため、夏は酸素を十分に供給しバクテリアが元気に働ける環境作りが重要です。
夏の泡はなぜ増える?
夏は水槽内の水が汚れやすくなります。
高水温によりエサやフンなどが普段よりよく分解されて、タンパク質や脂質などの有機物が多く溶けている状態になるからです。
これら腐敗して分解されて出てくる有機物、とりわけタンパク質の分子は、親水性(水になじむ部分)と疎水性(水をはじく部分)を持っているため、泡の膜表面で並びやすい性質があります。
これは、界面活性剤のような働きをするため、結果として泡がしつこく残るようになるのです。
泡が出たら、まずチェックするべきこと
では、水面にしつこく泡が残るようになったら、どうすればいいのでしょうか?まずは以下の点を確認してみてください。
エサが残っていないか
水換えの頻度が落ちていないか
フィルターが目詰まりしていないか
エアレーションは十分か
高水温になっていないか
高水温対策、早めの水換えは当然として、特に夏は、なるべく「完食できる量」の餌を与えることが大切です。余ったエサはスポイトやネット、さらにはピンセットで早めに取り除くようにしましょう。
泡は水質のサイン
水槽に出る泡は、ただの空気ではありません。そこには水の中で起きている変化の“痕跡”が表れています。泡が増えたり、消えにくくなったときこそ、水質悪化の兆候かもしれません。
暑い夏こそ、水の中の変化に気づいてあげることが、魚たちを守る第一歩です。ぜひ、水面の泡にも目を向けてみてください。
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