冷却ファンが動かないまさかの落とし穴
夏の水槽管理に欠かせない逆サーモ。
設定温度を超えたときに冷却ファンを作動させる重要な機器ですが、故障していると水温が危険なレベルまで上昇することもあります。
今回は、逆サーモに起きた事件を元に、簡単にできる点検方法を紹介したいと思います。
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あれは、水槽をはじめて三年目の夏だった。
まだ七月の上旬だというのに、天気予報は今年初の猛暑日だと伝えていた。わたしは朝からパタパタと、水槽の夏対策を入念に見直していた。
夏がやってくる!!
32度の夏、動かなかった風
冷却ファンが動かない、その時どうする
エアポンプ、よし。エアカーテンと冷却ファンもよし。逆サーモもよし。室温上昇に備えてクーラーのタイマーもセット。完璧だ。
この部屋は二階で、東と西に窓がある。昼はまるで蒸し風呂だ。クーラーを入れたところで、28度厳守を命じられている以上、設定温度よりせいぜい2度下がるのが限界。水槽の温度は、きっと30度近くまで跳ね上がるだろう。
それでも、冷却ファンがあれば29度代で踏みとどまってくれるはず。
そう祈るような気持ちで、わたしは大学へ向かった。
だが、3限の講義を終えて帰宅したとき、プレコの水槽はすでに32度を示していた。
おかしい。同室にあるポリプテルスの水槽は28.5度。何かがおかしい……。
ふと、冷却ファンをみると、プロペラの形がはっきりと見える・
「……嘘でしょう、回ってない……!」
心臓が飛び出しそうだ。
わたしは慌ててスマホを取り出し、ロゼッタに電話をかけた。わたしのお師匠様。水槽のことで頼れる人は、この人の他にいない。
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・当時のものと比べたら、格段に故障が少なくなった それでも必ずチェックしよう!! |
鍵を握る“逆サーモ”
「キミ、本当に冷却ファンの動作、チェックしたの?」
仏頂面で到着したロゼッタの発言に、思わず下を向いた。
「き、昨日、コンセントに直挿しで動くかは確かめました。2年目のファンだけど、ちゃんと動いてました……」
風呂場から小型のクリップファンをかっさらってきていた。これを腕に抱え、風を直接水面へと送る。さらにエアレーションも追加で稼働。
幸いプレコたちは今まで通りに泳いでいるが、何も起きないとも考えられない。なんとか持ちこたえてほしい。
その横でロゼッタは冷静に、現場の確認を始めた。
まず、問題の冷却ファンを逆サーモから取り外し、コンセントに直で挿し込んだ。
――ブァァァァン!
音を立てて、ファンは何事もなかったかのように回り出す。
「なるほど。キミの言うことは、たしかに正しいみたいだね。ただ……」
今度は、件の冷却ファンを再び逆サーモに接続し、ダイヤルをぐるぐる回し始めた。
27度、28度、29度……30、31、32!
――ブァァァァ
そこまでして、やっと元気よく回りだす冷却ファン。そう、冷却ファンは壊れてなどいない。
「今回の犯人は、どうやら逆サーモのようだよ?」
逆サーモだって壊れるんです
逆サーモ。
それは、名前の通りヒーターに使うサーモスタットとは逆の働きをする機械。
普通のサーモスタットは、水温が設定温度より下がらないように通電する。逆サーモはその逆、設定温度より高くならないように通電する。
「つまり、この逆サーモは、26度設定で、32度になるまで動かないってことですか?」
「そういうこと。壊れてるんだよ、これ。」
思わず、顔が引きつった。ファンやヒーターが壊れるならわかる。だが、まさか逆サーモ本体が……。
わたしのそんな顔を見てか、ロゼッタは小さくため息をついた。
「実際にはね、サーモスタットも逆サーモもそう簡単に壊れるもんじゃない。でもゼロではない。だからこそ、季節のはじめにはちゃんとチェックしておくことが大事なんだ」
言われてみれば、わたしは逆サーモに接続した状態では確認していなかった。冷却ファンの確認はしていたけど、それだけだった。
「はぁ、たしかに……これじゃ“ちゃんとチェックした”とは言えませんね」
「そうだろう、そうだろう。」
猛省し、うなだれたわたしの姿に気を使ったのが、お師匠様はそれ以上責めてくることはなかった。
再発防止へ
そしてロゼッタは、自分のハンドバッグから水温計と逆サーモを取り出した。
2Lのメジャーカップに入れ、蛇口からバケツに採ってきたぬるま湯を注いでいく。
水温計の柱はみるみると上り、いまや35度に達している。
冷却ファンは――
――ブァァン♪
勢いよく回り出す。
今度は、そこに冷水を足し始めた。
ぬるま水を冷ますようにゆっくりと。
すると……
――スンッ
ファンが止まった。この時の水温は、サーモスタット設定温度の26℃を示していた。
「……と、いうことさ。これがちゃんとしたチェックってわけ。それができるのは、キミだけさ」
そう言って、この逆サーモをわたしに授けてくれた。
わたしは黙って首を垂れ、感謝を示すことしかできなかった。
それ以来、わたしは初夏と秋口になると、それぞれ逆サーモとサーモスタットを必ず方テストするようになった。
蛇口から出るぬるま湯と水で温度を調整すれば、稼働設定温度の確認なんてものの10分でできてしまう。
人間にしかできない役割。
そう実感した、32度の夏だった。
まとめ
逆サーモは、設定温度を超えたときに冷却ファンを作動させる機器で、夏場の水槽管理には欠かせないアイテムです。
そのため、逆サーモ本体が故障していると、設定温度に達しても通電せず、ファンが動かないまま水温が上昇してしまうおそれがあります。
夏が始まる前には必ず点検を行うことが非常に重要です。
点検方法はシンプルで、逆サーモにファンを接続した状態で、センサー部分をバケツに汲んだぬるま湯に浸け、冷水を加えつつ設定水温を超えたときのファンの動作を確認します。
(冷水からスタートさせ、お湯を加えるのもOKです。)
このとき、LEDランプなどで通電の有無をしっかりチェックし、通電ランプが作動しない場合は逆サーモの不具合を疑いましょう。
また、冷却ファンの動作確認も合わせて必ず行いましょう。
(とりわけ、2シーズン目を迎える冷却ファンは故障している可能性大)
わずか10分の点検で、真夏のトラブルを未然に防ぎ、大切な魚の命を守ることができます。
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