タイマーのススメ
水槽のライト、毎日手動でつけたり消したりしていませんか?
もしくは、うっかり消し忘れて朝まで点けっぱなしになってしまった経験がある方も多いはず。
実はその「うっかり」、魚や水草にとっては意外と深刻な問題かもしれません。だからこそ、注目したいのが「タイマー」の存在です。
今回も、ストーリーでわかりやすく解説したいと思います。
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(これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)
――ピピピッ、――ピピピッ
朝起きると、太陽が二つある。
いや、雨戸を閉め忘れて日光が射し込んでいるのだ。
もう一つは……?
水槽の蛍光灯!?
いけない!
思わず布団から飛び起きた。
灯りを忘れた夜
明けない夜
どうやら、昨夜の飲み会のあと、ライトを消さずに寝てしまったらしい。
昨夜は久しぶりにサークル仲間と飲んで、帰ってきたのが深夜になってしまった。
酔いが回り、ぼーっとしながら水槽を眺め、そのまま寝落ちしてしまったようだ。
あああ……、これだからわたしはダメなんだ。
眠くなったらすぐ寝てしまう、その悪い癖が、最悪のタイミングで出たようだ。
小さな20リットルの水槽。
その住人であるセルフィンプレコは、流木付きヌビアス・コーヒーフォリアの葉陰から、怯えたような目でこちらをうかがっていた。
丸一日、太陽が沈まなかったのだ。
昼夜逆転の夜行性熱帯魚が放り出されたのは、いつまでたっても明けない夜の世界。
戸惑い、逃げ隠れ、怯えるのは当然だ。
――やってしまった。
わたしは失意のうちにケータイを手に取り、お師匠様――ロゼッタに連絡を入れた。
今の失敗を、次の成功に導かねば……。
梅雨明け首振り
翌日の午後、大学の隣駅にあるホームセンターへ向かう。
どうして、この坂はこんなに長いのだろう。
この道は、ひたすら長くて緩やかで、片側二車線道路の排気ガスが吹きつけてくる。
季節は梅雨が明けたばかり。顔や額に汗が流れ落ち、淡い色のTシャツがずぶ濡れとなった。
わたしはできるなら避けたかった。
でも、新しい発見があるかもしれないと、ロゼッタに誘われて足を運んだ。
待ち合わせは、その店の入口。向こうからやってくるのは、わたしのお師匠様だ。
その顔は、驚きと心配が混ざった表情となっており、口元に手を当てていた。
「どぉしたの? 汗びっしょりじゃない?」
「はぁ、その、……歩いてきました」
「えぇ? 店の裏にバス停があるのに?」
その言葉に、がく然とする。どうやら大学の裏を走る旧街道から、バス一本で来られる場所だったらしい。
みればロゼッタは汗の一つもかいていない。
それを知った今となっては、骨折り損のくたびれ儲け、というやつだ。
「とにかく早く中に入ろう、きっとクーラー効いてるから!」
わたしの腕をぐいぐい引いて店の中へと導いていく。
入口を抜けると、すぐにひんやりとした空気が肌をなでた。
安堵すると、ふいに昨日の大失敗が口からこぼれる。
「そんなことより、聞いてくださいよぉ……」
わたしは昨日の朝の出来事を話す。お師匠様は頷きながら、わたしを熱帯魚売り場へと導いた。
ロゼッタが指さす先にあるのは、熱帯魚用のタイマーだ。
ずらりとはいかないまでも、二、三種類あるようだ。
「そういう時は、やっぱりタイマーだね」
そう言い放つと、ロゼッタの目がキラリと光り、頬がわずかに紅潮した。
――たしかにその通りだ。
タバコをひとまわり大きくしたようなサイズのものから、時間ごとにプログラムできるものまで、種類はさまざまだ。
だが、どれも思ったより高い。
たかだかon/offを制御するだけで「漱石さん」を三人奪われるのは学生に取っ手は厳しい。
悩みながらも視線を左にやると、展示用の扇風機たちがいやだいやだと首を振っている。
やはり、しばらく手動で我慢するべきか……。
手に取るのをためらっていると、ロゼッタがぴしゃりと言った。
「アクアくん? たかがタイマー、されどタイマー、実は超重要な道具なのさ」
![]() |
・例のヤツ。これは旧モデル |
生活リズム
胸を張り、声を出した。
キンとした声色には、隠しきれない興奮がにじんでいる。
「タイマーには人間の手間を減らすだけではない、大きなメリットがあるのさ」
わたしは、熱意に少し圧倒されながらも、真剣な表情で頷き、耳を傾けた。
「まず、ボクが言いたいのは生体のリズムを整えるためなんだ」
魚にも昼と夜のサイクルがある。
タイマーを使うことで、自然界のように規則正しく明暗を繰り返すことになる。
それが、健康的な生命活動をサポートすることになるのだという。
「キミだって大学に入ってからというもの、取っている授業のせいで、曜日ごとに起きる時間が変わるのが辛いだろう?」
その通りだ。
朝間違えて学校に来て、昼の講義まで4時間待ちぼうけを食らったことがある。
ロゼッタの言葉にうなずきながら、プレコの姿を思い浮かべた。
彼は夜行性熱帯魚だ。
一定間隔で夜が来なければ、あの警戒心の強い魚は、安心して食事をする気も起こさないだろう。
それどころか、流木の裏に身をひそめたまま、出てこなくなってしまうかもしれない。
人間だってそうだ。
いつ朝が来るのかわからなくなったら、目覚ましをかけて起きるのをやめるかもしれない。
となれば、朝食は? 通学は? 授業は?
社会生活のすべてが音を立てて崩れることになるだろう。
お師匠様の目を見て大きく首を縦に振ると、にっこりと笑って話を続けた。
「これが水槽での生活の基礎となるのさ。もう、分かってくれたかもしれないけど、言い換えれば、夜行性の熱帯魚や、ライトの力を利用する“水草たち”が暮らしやすい環境を作るということなのさ」
――そうだ!
すっかり忘れていたが、定期的にライトがつくというのは、コーヒーフォリアにもメリットがある。
そう考えると、つけ忘れ、消し忘れは、やはり重大なミスのように思える。
だが……
「でも、そればかりじゃないんだ。キミの家でも問題になってないかい?」
「え?」
突然話題を変えた挙句、漠然とした質問が飛んできてたじろいだ。
はて。なんだろう?
ロゼッタは笑った。
「光、時間、ときたら……コケでしょ?」
なるほど、確かに一理ある。
規則正しく、短時間だけ光を照射できれば、それだけでコケ対策の主要なプランとなり得るだろう。
――だが
理由は分かっていても、値札を見ると、頭の中で扇風機が首を振る。
たしかに必要だが、わたしには高すぎる。
考え、悩みぬくほどに、まるで展示売り場のそれように何台にも増え首を振った。
やはり、こんなに出せない。
はて、どうしたものか。
![]() |
・気が付けば大所帯。タイマーは本当に便利! |
裏技
それから、わたしは、結局あの店でタイマーを買った。
ロゼッタはすべてを察したらしく、電気コードがずらりと並ぶ売り場へと連れて行ってくれたからだ。
そこでは、なんとタイマーが三桁の価格で売られていた。
「アクア用品でもないし、何かあったら自己責任だけどね!」
ときつく念を押され、漏水時の対策として、今使っている事務用デスクの裏に貼りつけて使うことになったのだ。
どう見たって、水槽用の色違いで瓜二つのセール品。
何がどう違うのかわからず、お師匠様に聞いても、ただ黙って首を振るだけだった。
たしかにタイマーのある生活は快適で、それどころかライトの点灯時間を整えてから、茶色くべっとりしたあのコケを見かけなくなった。
講義に出ていても、買い物中でも、決まった時間にライトは自動でオンオフしてくれる。
規則正しく、短い照射時間。これだけで、コケはぐっと減少する。
そして最近、消灯前になると、プレコがわたしを見つめてくるようになった。
おそらく体内時計というやつで、経験的にそろそろエサが降ってくることを知っているのだろう。
よく考えれば、水槽をのぞいているのはわたしだけじゃない。
あちらからも、こちらが見えているのだ。
ライトがなければ、そんな小さな変化には気づけなかったかもしれない。
まとめ
水槽のライト、つけっぱなしにしていませんか?
あるいは、毎日つけたり消したりを手動で行っている方も多いかもしれません。
そんなときに便利なのが「タイマー」。
でも、ただの便利グッズだと思ってはいけません。タイマーは、生き物たちの健康にも関わる大切なアイテムなんです。
まず、魚や水草には「昼と夜」のリズムがあります。
毎日同じ時間にライトが点いて、同じ時間に消えることで、体内時計が整い、安心して活動できる環境が保たれます。
もし、ライトが夜通し点灯していれば、夜行性の魚は隠れたままになったり、ストレスで体調を崩すこともあるでしょう。
逆に、消灯したままでは水草が光合成を行えず、生長が緩やかになるだけでなく、生長障害を起こすものも出てくる可能性があります。
視点を180度変えると、タイマーはコケ対策の主要な武器でもあります。
たしかに、光の時間が長すぎれば、茶ゴケや緑ゴケが発生しやすくなりますが、これをタイマーで短時間にコントロールするだけで、コケの繁殖を強く抑えることができるのです。
もっとも、このような使い方をする場合は水草にも影響が出るため、水草がある場合は、様子を見ながら照射時間を1時間ずつ減らしていくことをおすすめします。
最後になりますが、毎日のオンオフ操作から解放されるのも、タイマーの大きな魅力です。
忙しい朝や外出時でも、水槽はきちんと照明のリズムを守ってくれます。
毎日の煩雑さが軽減され、水槽の中をのぞきこむ時間もきっと増えるはずです。
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