夜行性熱帯魚×ブルーライト=?
青く美しいブルーライト。
夜の水槽の演出としては魅力的ですが、その光、水中では思いのほか遠くまで届いていることをご存知でしょうか?
人には落ち着いた色でも、魚にとっては「昼」と変わらない強い光になる場合があります。とくに夜行性の魚にとっては、大きな刺激になっていることも。
今回は、ブルーライトの波長の特徴と、魚の感じ方について、ストーリーをもとにお話しします。
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(これは20年前とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)
夜の青は、魚にとって昼なのかもしれない
どの店でも、20年前はカラー蛍光灯が売られていた。
今ではLEDばかり。
あの独特ななまめかしさも、懐かしい記憶の片隅に沈んでいる。
青の正体
ネオン管とディープオーシャン
昼の飲み屋街。
ナイトブルーに染まるころには、ド派手なネオンに照らされ、不夜城のような顔を見せる。
しかし、太陽の下ではこざっぱりしていて、よく見れば看板の端ははがれ、重厚だったはずの木戸も傷だらけだ。白日の下に晒すとはこのことだ。
だが、夜というのは、人も魚も、別の世界を生きているような気がしてならない。
今日立ち寄ったのは、なじみのアクアショップ。大学の講義が午前で終わり、帰り道にふらりと足を運んだ。
店内を歩きながら、気になっていた一本に目をとめた。ディープオーシャン――そんな名がついた、藍色の直管蛍光灯。
これで、夜のプレコを照らしてみようと思ったのだ。
購入して意気揚々と帰宅。
水槽に取り付け、深夜になるのを待つ。
そして、スイッチON。
……が、待てど暮らせど、わが家のセルフィンプレコは出てこない。
「はて? どうしてだ?」
その夜、答えを求めて、ロゼッタに会いに行った。
海辺の堤防で
「それじゃあ、いってみよう♪」
ロゼッタは、わたしのアクアリウムの師匠。知識と経験、そして長話の権化のような人。
そのロゼッタに連れられて、大学のある街から少し離れた海辺の漁港にやって来た。
夕方に出発し、電車を3本乗り継ぎ、最後のチンチン電車を降りるころには、すっかり日が暮れていた。
どっぷりとした闇夜。到着した堤防にはこんな時間にもかかわらず、釣り人の影が立ち並んでいた。
「おそらくだけど、みんなアジを釣りに来ているのさ」
たしかにそのようだ。
物干し竿のような長い竿で沖に向かって大遠投する姿は見えないが、華奢でしなやかな竿で足元を狙う姿は、どこか手慣れている。
真っ暗な堤防。竿を振り込む音。
皆が夢中で水面に静かに糸を落としていた。
「あれ? 不思議だと思わないのかい?」
きょとんとしたお師匠様の顔。
こちらの顔をじっと見てから、大きく首を振った。
「キミって釣りしたことない人?」
――はて?
昔、近所の川で釣りをしたことを思い出す。
針を結び、糸を通し、餌をつけて――、
そして、絡まる!!
あ……
わたしには、こんな暗がりで釣りなんて無理だ。
ましてや海辺、風も強い。細かい作業なんてできっこない。
それに……!
「その、ライト、使わないんでしょうか?」
「そうでしょう、そうでしょう」
ロゼッタは、いつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「でも、彼らはよほどのことがない限り使わないのさ。だって、魚に逃げられたら釣りにならないでしょ?」
そのとき、堤防の近くで、初老の男性の竿がしなった。
竿を起こすと弓なりにしなり、慎重にやり取りしながら静かに魚を引き上げる。
あたりには魚のバタバタという音だけが残った。
そして、その手元に、ふっと赤い光が灯った。
「もしかして……赤い光なら、大丈夫なんでしょうか?」
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・画像はイメージです |
赤と青、魚に届く光は……
「大丈夫というわけではないけど、影響が少ないんだ」
初老の男性は海に背を向け、赤色光のもとで何やらいそいそと手を動かしている。
そして、魚が跳ねる音がはたと止まった。
ロゼッタは、ショートヘアを手でかき上げてから、何かを考えるように右手で頬を支えた。
「魚が何色にどう反応するか――それは、まだ研究中の話が多いんだよ」
ふと、不思議に思った。
今しがた消えた赤いライト。あのライトは本当に赤だったのだろうか。
生まれてからあの色は赤だと教わった。しかし、他の人には赤は赤く見えているのだろうか……。
主観と客観が混在し、頭がばらばらになりそうだ。
そんなわたしを見て見ぬふりをして、お師匠様は話し続ける。
「魚は色が見えないって言う人もいれば、ものすごく鮮やかな世界を見てるって言う人もいる。でもね、ひとつだけ確かなことがある」
「……なんでしょう?」
「水は、青く見えるだろう?」
「へあ?」
あまりに唐突な言葉に、思わず間の抜けた声をあげてしまった。
だが、話はどんどん進む。
「太陽の光は7色ある。でも、水はそのうちの赤や橙をどんどん吸収してしまう。それでも光が残って、わたしたちの目に届いているのが、青色なんだ」
「ということは……?」
「どいういうことでしょうか♪」
お師匠様は振り返って、じっとわたしの目を見る。
後ろの常夜灯に照らされた顔は、いつもと同じ得意げな笑みだ。
先に口を開いたのはロゼッタの方だ。
「青い光は、水中でもずっと遠くまで届く。逆に、赤い光はすぐに吸収されてしまって、魚の目にはほとんど映らないんだ」
――あ!
その瞬間、気がついた。
人間にとって青は夜の象徴。静かで、落ち着いた雰囲気をつくる色。
だが、魚にとっては?
水の中を遠くまで届くその光は、むしろ“昼”に近いのかもしれない。
プレコが隠れて出てこなかったのは、あのブルーライトがあまりに明るく、自然でない“昼”のようだった――のかもしれない。
「もちろん、絶対ってわけじゃないけどね?」
ロゼッタは笑って、釣り人の背を見つめた。
月明かりのプレコ
プレコはナマズの仲間。光に敏感で、振動にも神経質だ。
いまは蛍光灯を使わず、雨戸を開けて、窓越しの月明かりで観察するようにしている。
椅子に座ってじっとしていれば、やがてひょっこりと姿を見せる。
今宵も、ガラスにひし形のシルエットが貼りついた。唇をせわしなく動かしながら、ガラス面の苔をはんでいる。
「郷に入っては郷に従え、か――」
プレコを見たければ、夜を夜のままにしておくこと。
わたしは、その静かな青の中で、そっとその姿を見つめた。
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・画像はイメージです |
まとめ
ブルーライトは青色の波長を持つ光で、水中では特に透過性が高く、深くまで届く特徴があります。これは、赤や橙といった長波長の光が水中で急速に吸収されるのに対し、青系の短波長光は吸収されにくいためです。
そのため、魚にとって青い光は人間が感じるよりも明るく、強い刺激となることがあります。なぜなら、夜行性の魚は、暗闇に適応した視覚を持ち、弱い光でも行動が可能な一方で、ブルーライトのような強い青色光は“夜”というより“昼”のように感じられてしまう可能性があるからです。
そのため、それらの光で夜間に魚を観察する際には注意が必要です。
他方、赤色光の方が魚への刺激が少なく、行動にも影響しにくいとされていますが、それでも光は感じているようです。
ブルーライトは美しい演出効果がありますが、魚本来の生活リズムを守るためには、その性質を理解し、使用する時間や強さを調整することが大切のようです。
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