流木のアク抜き3選
アクアリウムに流木を入れると、水景が一気に自然な雰囲気に。ところが、設置直後に水が茶色く染まって驚いた経験はありませんか? それは“アク”と呼ばれる成分によるものです。その除去方法についてストーリーでわかりやすく解説します。
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(これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)
夕暮れどき。
自室に戻ってくると、水槽の蛍光灯が青白く部屋を照らしていた。
静けさの中、フィルターの水音だけが響き、時折、プレコが流木を舐める音がかすかに混じる。
45cm水槽に一匹だけのプレコ。
広々として見えるけれど、そこに新しく魚を加えたいと思った。だが、今のレイアウトではシェルターが足りない。アヌビアス・コーヒーフォリア付きの流木が一本だけ。これでは隠れ家にもならないだろう。
だから、新しい流木を買ってきた。
少し大きめで、存在感のあるものを。
アク抜きの夜
墨汁水槽
――が、結果は無残なものだった。
封を切ったばかりの活性炭を外部フィルターに仕込んだというのに、たった三日で水槽の水は墨汁のように真っ黒に染まった。
底まで見えないほどの濁り。
アマゾン出身のプレコは落ち着くだろうが、景観的には問題がある。
どうしたものかと考え込み、気づけばケータイに手を伸ばしていた。
お師匠様に相談だ。
一斗缶と男女
秋の光が、桜並木の上から差し込んでいる。
舞い落ちる枯葉が風に踊り、ザクリザクリと足元で音を立てる。
大学の裏門を抜け、踏切を渡り、国道沿いの静かな住宅街へ。ロゼッタの家に行くのはこれが初めてだ。
あれだけ、うちには来ているのに、そう思うと少し不思議な気分になる。
崩れかけたコンクリートの階段を昇り、木造アパートのインターホンを押すと、すぐにドアが開いた。
「あぁ、よく来たね。散らかっているけど、どうぞ♪」
ロゼッタはいつもの調子でわたしを招き入れた。
玄関から入ってすぐのキッチン。
陽射しがシンクに反射して、蛇口の銀色がまぶしく光っている。
その上には、場違いな一斗缶が一つ。
調理台を占領するように鎮座し、大きな口を開いて待っている。
「……これは?」
「それで、アク抜きをするのさ! ホームセンターで買ってきたのさ」
そう言うと、お師匠様は所在なさげに食器棚の木戸に立てかけられたフタをどかし、一斗缶を洗剤で洗い始めた。
何が付いているかわからないものを、これから水槽に入れる流木に使うわけにはいかないのだ。
スポンジで擦ってから数度すすぎを繰り返すと、蛇口から一斗缶に水を溜め始めた。
が……
「あぁ、いけない。これじゃ後で大変だよね」
と、つぶやいて、水が半分以上溜まったところで、さっと手を蛇口に添えて水を止めた。
どうやら手順を間違えたらしい。
そのまま、小さな体で背伸びするように一斗缶を持ち上げようとしたのだが、バランスを崩しそうになったので、慌ててロゼッタを抱え込みながら、両手で缶を支える。
「んぁ! すまないね!」
一瞬顔が紅潮した気もしないでもないが、手を差し出してもなお、ずり落ちる一斗缶を前に、わたしたちはもはやお互いを気にしている余裕など吹き飛んだ。
持ち手がどこにもなく、のっぺりとした金属でできている一斗缶。
水と洗剤で濡れた手からずるずると滑り落ちていく。
ふたりで交互に手の位置を直しながら支えあうと、なんとかコンロの上に一斗缶を乗せることに成功する。
が、すっかり息が上がり、床にへたり込んでしまった。
「ボクたち、いったい何やってんだろうね?」
「まぁ、そういうときもあります。それでも、二人が一緒にいるときでよかったと、考えるべきかもしれません」
性別の異なるふたり。
抱きつき、絡み合うようにして持ち運ぶのは一斗缶。
あまりにシュールな光景に、気恥ずかしさを飛び越え、互いに目を合わせて大笑いしてしまうのであった。
アク抜きあれこれ
水を七分目まで注いで、準備完了。
点火すると、青い炎が一斗缶の底を舐め、間もなく蒸気が立ち上り始めた。
そのまま、リビングに上がりお茶をいただくと、気がつけばロゼッタはもうお師匠様の顔になっている。どうやら、今からとめどないアクアリウム談義が始まるらしい。
「流木のアク抜きには、いくつか方法があるんだよ?」
リビングで腰を落ち着けると、目を輝かせながら得意げに話し始めた。
まるで秘密のレシピでも語るかのような口ぶりだ。
「一番簡単なのが、バケツに雨水をためて、流木を漬け込む方法だね。2週間~4週間放置かなぁ。とくに雨の多い時期にはおすすめだね」
「普通の水をバケツに汲んではダメなのですか?」
「ほら、だって、雨って自動的に落ちてくるでしょう? だからアクが出た水を勝手に汲み替えてくれるのさ~」
茶色く染まった水を定期的に交換するのが、早くアク抜きを終わらせるコツなのだという。
なるほど。アクが溶け出しやすい状況を作るのがポイントなのだろう。
わが家の庭には、ベランダから降りてきた雨樋がある。それをバケツにつなげば、うまくいきそうだ。
「だけど、野良猫が水を飲みに来たり、ドジな子が落水することもある。しっかり管理しないと、ボウフラが湧いたりすることもあるんだ」
その言い方からして、きっとお師匠様の実家は猫の巡回先になってしまったのかもしれない。ともかく、自然が多く、生き物が多い地区では注意を要する方法なのだろう。
一つ候補が出たところだが、お師匠様の口はまだ止まりそうにない。
「そればかりじゃないよ。変わり種では、トイレのタンクに沈めるって手もあるんだ!」
「トイレ? それって汚いんじゃ……?」
「汚いのは便器。タンクは背中側にある、あの四角い陶器製の箱だよ」
トイレでもタンクなら清潔だし、誰かが使えば常に新しい水が補充される。
意図せずとも流木のアク抜きには最適な環境なのだという。
「だけど、折れた流木が詰まったり、中の器具に引っかかると水が止まらなくなって、最悪なことになるかもね~」
そして、ロゼッタは笑いながら、こう言った。
「だから、自己責任♪」
笑えない想像が脳裏をよぎる。
あの勢いで永遠と水が流れ続けたら、水道代は大変なことになりそうだ。
「もちろん、時間がかかる方法ばかりじゃないよ?」
実際に、重曹やアク抜き剤を使う人もいるという。3~7日で終わり、比較的安全。
でも、薬剤となるわけなので、十分な洗浄が必要だそうだ。
知識が泉のように湧いてくる。さすが、わたしのお師匠様だ。
「そして、今やってる煮沸。これが一番確実で早い。だいたい1時間から3時間ってとこかな」
「やっぱり煮沸が一番確実そうですね」
「でもね、準備は大変だし、道具はいるし、火も使う。誰でも実行できる方法ではないかもね~」
ううむ。
確かにそうだ。
もし、さっきロゼッタが転んでいたら、床一面が水浸しになり、その後始末で時間をとられていただろう。たしかに、人を選ぶ方法のようだ。
「アク抜きしても色が出ないとは限らないんだ。気になるなら活性炭を使ってよね?」
帰りの電車で
気づけば夜も深くなっている。
あれから、キッチンのライトは煌々とつき続け、一斗缶の中では茶色の水がぐつぐつと音を立てていた。
結局、水を継ぎ足しながら三時間。しっかりと煮込んだ流木からは湯気が上がっていた。
それからさらに、お湯が冷めるのを待ち、茶色の煮汁を捨て、一斗缶をよく洗う。
取り出した流木は、しっとりと艶やかに光り、まるで何かの儀式を終えた聖なる道具のようにも見えた。
ロゼッタの家を出たときには、優に6時間は経っていた。
終電に乗り、ブルーのロングシートに座ると、いろいろな考えが浮かんでは消える。
たしかに、一斗缶で煮るのは、他の方法と比べて早いのかもしれない。
だが、丸一日つぶす覚悟が必要なのかもしれない。
自分がもし社会人だったら……迷わずアク抜き剤を使うだろう。
もし、場所的な余裕があるのなら、水に漬け込み、忘れたころに取り出して使うのが一番なのかもしれない。
さまざまな思案の末、浮かび上がってきたのは、気にしすぎるのも問題なのかもしれないということ。
今回のように墨汁状態なら別だが、ライトブラウン程度なら魚の健康にもよいと割り切って使ってしまう方が、気が楽なのかもしれない。
まとめ
流木のアク抜きはアクアリウムで非常に重要な作業です。
アク抜きをしないまま流木を水槽に入れると、水が濁ったり色が出て水草に悪影響を及ぼすことがあります。
しかし、その成分はアマゾン原産の魚にとって、好都合なことが多いです。
そのため、アク抜きは、もっぱら景観や水草のために行うことになります。
基本的な方法としては、流木を水に浸けて時間をかけてアクを抜くというものです。具体的には、バケツなどに雨水をためて流木を漬け込み、2週間から4週間放置する方法が一般的です。
雨水を使うのは自然の水が常に循環してアクの溶け出した水が入れ替わるためで、効率的にアクを抜くことができます。
ただし、屋外の雨水を利用する場合は野良猫の来訪やボウフラの発生などのリスクもあるため、よく管理することが大切です。
また、変わった方法としてトイレのタンクに流木を沈めるケースもあります。
トイレのタンク内の水は常に新鮮に補充されるため、アク抜きに適していますが、流木が折れて詰まったり、内部の器具に引っかかるリスクもあるため注意が必要です。
何かあってからでは遅いので、専門知識のある人のみ行いましょう。
短期間で済ませたい場合は、重曹や専用のアク抜き剤を使う方法もあります。これらを使用すると3~7日程度でアク抜きが完了し比較的安全ですが、薬剤を使った後は十分に洗浄しなければなりません。
薬剤の使用やpHの変動に抵抗がある場合は、時間をかけて自然にアクを抜く方法がおすすめです。
そして、ストーリーに登場したのが、確実で早い煮沸です。
1時間から3時間ほど煮沸すると、アク抜きが確実に行えます。ただし、煮沸には大きな鍋や火を使う道具が必要で、場所や安全面に配慮が必要です。また、重い流木を扱う際には十分に注意しなければ怪我や事故につながることもあります。
いずれの方法でも、流木から出る色素やアクが水槽に影響を与えることがあります。色が気になる場合は、活性炭を使って水質を維持するのも効果的です。
流木の種類や大きさによってアクの量や色の出方は異なるため、状況に応じて適切なアク抜き方法を選ぶことが大切です。
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