発酵式CO₂添加ってどんなもの?
水草の美しい育成にはCO₂の添加が効果的ですが、市販のCO₂添加システムは高価で初心者さんには少しハードルが高く感じられるかもしれません。そこでおすすめなのが発酵式CO₂添加となります。家庭にある材料で手作りできるうえ、電源も不要。コストを抑えながら気軽に水草育成に挑戦できる手段として、アクアリウム初心者の方を中心に、いつの時代も根強い人気がある方法です。
今回はこれについて、読み物調で過去の失敗を述べつつ、これから迎える夏ならではの注意点にも触れ、紹介していきたいと思います。
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初めての水草水槽と、発酵式CO₂添加への挑戦
順調なスタート、光と緑に満ちた期待
倒れるボトル、吹き出るCO₂、逆流する液体。
たった1つのミスが招いたのは水槽の緊急事態。わずか1時間で終わるはずだった作業のはずなのに、事態は一変した。
これは、わたしが初めて水草水槽をスタートさせた、2000年代初頭のとある日の出来事である。
水草用ライトよし、ソイルもよし、水草も植えた、外部フィルターもあるし、今回はなんたってCO₂添加器具もある。こいつは、ペットボトルに寒天培地を作り、そこで酵母を発酵させCO₂を回収する装置だ。大学で微生物学を学び、日々培地作成と無菌操作に明け暮れたわたしにとって、こんな簡単な実験器具もどきの添加装置なんてお茶の子さいさいなのだ!
意気込んで植栽したウォーターバコパは、夏の高温で絶好調の酵母たちに後を押されるように、早々に酸素の気泡をたわわにつけ成功の兆しを見せる。わたしは、この水草水槽の成功を肌で感じとっていた。思い返せば初めての水草水槽はひどいものだった。ソイルの前処理をしなかったばっかりに、ヘアーグラスが茶ゴケの海に飲まれてしまったのだ。これではいかに生体が元気であろうとも、水草水槽としての魅力が十分ではない。
悪夢を思い出しては首を振り、眼前に広がる緑に溢れた水景に安堵しつつ、水槽の水換えを準備していた。
アクシデント:発酵液の逆流
ガタン!
しかし、突然悲劇はやってきた。水換え作業の序盤、清掃する予定のCO₂を添加するエアストーンを壁面から引っ張ったところ、エアチューブ伝いに引っ張られ、寒天培地の入っているペットボトルを倒してしまったのだ。
するとどうだろう、炭酸を多く含んだ寒天培地の上にある培養液はブクブクと泡を立てはじめ、ボトルキャップに開けたCO₂を通す穴にまで到達。一瞬の出来事で何が起きているか理解できなうちに、あれよあれよという間に液体はバブルカウンターを通過し、水槽のフチを越え、エアストーンへと迫っていくではないか。
いけない!
ここにきてやっと、このまま放置しておけばどんな事態が待ち受けているか察し、大慌てでチューブごとCO₂ストーンを水から引き抜きいたのだが、時すでに遅し。生体は素知らぬ顔をしているが、取り出したストーンから漂うのはほのかなアルコール臭。残念ながら発酵液はストーンを通り抜け、水槽に侵入してしまったようだ。
緊急対応と教訓:CO₂添加の選択肢
そのあとの水換えは、本当に大変だったと記憶している。
発酵液に含まれる、酵母に糖類、さらにアルコールというような微生物の生態系を大きく変える物質が混入した結果、水槽は数時間で白濁してしまったからだ。結局生体に大きなダメージこそなかったものの、状況が好転するまで水槽につきっきりで水換えをせざるを得なかった。
以降、わたしの関心はボンベ式のCO₂添加へと向かっていくことになる。
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発酵式CO₂の仕組みと魅力
発酵式CO₂の概要
と、いう失敗はあるものの、なんだかんだで魅力的な発酵式CO₂添加。ここからはそのシステムについて述べていきたいと思います。
大前提として、酵母は砂糖を分解してCO₂とアルコールを生成します。これを利用した発酵式CO₂は、砂糖水にイースト菌(酵母)を加えることで発酵を起こし、そこから発生したCO₂を水槽に送り込む仕組みとなっています。この時、発生したガスはチューブを通じて水槽に送り込みむ手法となっていますので、基本的に電気や加圧ボンベなど高額な器具は不要。あくまで自然の発酵力を利用した方法であり、取っつきやすく安全性が高いのも魅力です。もちろん、道具にこだわれば、ちょっとした理科の実験のようなサイエンティフィックな雰囲気も味わえたりします。
発酵式CO₂添加の物品とレシピ
それでは、発酵式添加の準備をしていきましょう。
まずは培地を作ります。用意するものは、500mlのペットボトル、水、砂糖、寒天、ドライイースト、ぬるま湯、そして自作キャップ。どれも安価で入手しやすく、初期費用は数百円程度で済み、食品類は日常生活に、器具類はアクアリウムにと流量が利く道具ばかりです。そのほか、調理器具として鍋と漏斗、菜箸も準備しましょう。これらは100円均一で購入可能です。
以下は、500mlペットボトルを使った基本的なレシピの一例です。
材料 | 分量 |
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水 | 約250ml |
寒天パウダー | 1~2g |
砂糖 | 100g |
ドライイースト | 小さじ1/2(約1g) |
ぬるま湯(30〜40℃) | 約50ml(発酵液用) |
作り方手順
まずは、寒天ゼリーを作ります。
鍋に水250mlを入れて良く加熱し、沸騰したことろで寒天パウダーを加え、よく混ぜながら透明になるまで加熱します。その後、砂糖を加えて溶かし火を止め少し冷まします。
次いでペットボトルに注ぎます。
鍋から漏斗を利用して寒天液を500mlのペットボトルに移し、冷ましてゼリー状になるのを待ちます。この時、熱々の寒天液をボトルに入れると変形してしまうのでご注意ください。なお、寒天は30~40°で固まり始めますから、時間的猶予があります。焦らず作業しましょう。
最後に、イーストを投入します。
ぬるま湯にイーストを溶かし、寒天が固まったらボトルの上から注ぎ入れます。キャップをしてチューブを接続すれば完成です。なお、キャップはペットボトルのフタに穴を開け、チューブジョイントをはめ込み、バスコークなどで密着固定した自作のものを使用しましょう。
この寒天を利用した方法ではCO₂の発生がゆっくり長持ちしやすいのが特徴です。数週間程度は安定してガスが供給されることが多いです。
器具をセットする
培地が完成したら器具をセットしていきます。ストーンもしくは拡散筒にエアチューブと逆止弁、さらに必要であれば三又分岐やバブルカウンターがあると便利です。これらを下の図のように取り付けます。
数時間経つとペットボトルの培地で培養されたイースト菌は、アルコール発酵によりCO₂を発生させるようになります。それはキャップ、三又分岐、逆流防止弁、カウンターを通り、最終的にストーンから泡となって水槽内へと供給されることになります。
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CO₂拡散筒の一種、ラダー型 |
手軽だからこそ注意したいポイント
夏場の発酵に気をつけよう
以上のように、手軽な発酵式ですが、いくつか注意すべき点もあります。
まず発酵式のボトルは置き場所には注意が必要です。発酵は周囲の気温に大きく左右されるため、温度管理に気を配らなくてはならないからです。冬季は発酵が停止するため大きな問題にはなりづらいですが、とりわけ、夏場の高温は、酵母の働きを活発にさせるため、発酵が進みすぎてしまうことがあるのです。
もしCO₂の発生が旺盛であり過剰添加になってしまった場合は、エアチューブ途中に三又分岐を取付け、直接室内の空気に逃がす形でCO₂の添加量を調節しましょう。また、発酵液を一部捨てて水を加えるのも効果的です。
夜間もCO₂が出続ける
また、一度始めると発酵を止める手段がないため、夜間もCO₂が発生し続けます。光合成をしない夜には酸素不足になりやすく、魚やエビが苦しむ原因になることもあります。夜にだけ、エアレーションを行うと酸素不足を防ぎましょう。結果として、バブル音が気になることもあるので、静かな場所に設置する際は注意が必要です。もちろん、先に述べたように、設けた三方弁でCO₂を室内の空気に逃がしてもいいでしょう。
なお、三方弁を閉じたりフタでボトルの口を閉じたりして、CO₂の逃げ道をふさぐ行為は危険ですので絶対にしないでください。
逆流と拡散器の問題点
また、発酵式ではチューブを通じて発酵液がボトルに逆流することがあります。これは、発酵液に含まれた炭酸水が衝撃などの拍子で発泡し、これが水槽内に逆進して入ってしてしまう現象です。発酵液はイースト菌やアルコール、さらには糖分が含まれており、水槽に入ってしまうと微生物の生態系に影響を与え、結果的に酸欠など様々な形で生体に悪影響を与える可能性もあります。特に、発酵が活発となる夏場には十分注意しましょう。その防止には「トラップボトル」と呼ばれる中継用ボトルを設置するのが効果的です。
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別途ボトルトラップを設ければ、逆流を防げる |
万が一逆流してしまった場合は、まずエアレーションを全開で稼働させましょう。そのうえで、魚の様子を観察しながら水の白濁が収まるまでの間、半日に一度程度、1/2の換水を繰り返して様子を見ましょう。
とは言え、そのようなトラブルさえ起きなければ発酵式は圧力がとても低いため、市販のセラミック製CO₂ディフューザーではうまく機能しません。代わりにエアストーンや拡散筒などで緩やかに拡散させる器具を用意しましょう。
まとめ
発酵式CO₂添加は、初心者にも手軽に始められる方法としておすすめです。材料が揃えやすく、作業もシンプルなので、最初の一歩としてぴったりです。ただし、安定性や制御性には限界があるため、日々の観察と工夫が欠かせないものとなっています。また、トラップボトルやエアレーションの併用、夏場の過剰添加など、ちょっとした対策が成功のポイントとなっています。水草の生長を楽しみながら、CO₂添加の基本を学ぶ良い機会になるはずです。
というわけで、今回はここまで。
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