道具選びで迷った時の答えの出し方
今日は、小型水槽でおなじみの2種類のフィルター、「水作エイト」と「テトラのスポンジフィルター」の違いについて、ひとつの物語とともにお話ししてみたいと思います。
アクアリウム初心者の方も、すでに何本か水槽を回している方も、フィルター選びに迷ったときの参考にしていただけたらうれしいです。
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(これは20年前の物語。)
サークル活動が終わったばかりの午後。
陽が落ちてもなお蒸し暑く、焼き鳥屋から立ちのぼる煙が高架橋の下にたまり、空気をさらに重たくしていた。
わたしはその煙の匂いに少しむせこみながら、いつもの熱帯魚店を目指して歩いた。
今日の待ち合わせ場所は、もうすぐそこだ。
迷いに迷う道具選び
大失敗
「なるほどね。そんなことがあったんだね」
立ち上げわずか3日にして、外掛けフィルターのろ材を交換する愚行。
その出来事のすぐ後、迷わず電話をかけた。
縋ったのは、熱帯魚のことならこの人の右に出る者はいない(と信じている)。
わたしのお師匠様だ。
今日は、先に店の中で待っているとのことだったが……
ふたつの選択肢
「ほらほら! ここだよっ!」
ドアを開くやいなや、袖を引かれたどり着いたのはフィルターコーナー。
大きくて二段構えのものや、バケツのような巨大なフィルターが壁にずらりと並んでいる。わたしが知っているものとは、すべてがまるで違った。
ふと値札の数字と視線が合った、瞬間わたしは軽く頭がクラクラした。
これでは、予算の話だけで心が折れてしまいそうだ。
「あはは、今のキミに合うのはそっちじゃないさ」
お師匠様は笑いながらも、足元に置かれた什器を指差した。そこには小型のフィルターらしきものが、小さな紙箱やブリスターパックに収められてずらりと並んでいた。
でも、どれを選べばいいのかさっぱりわからない。すると、わたしの様子を見ていたお師匠様が、優しくふたつの製品を手に取って差し出してくれた。
「今のキミには、テトラのスポンジフィルターか水作エイトかな。どちらも銘品だよ?」
どちらもエアポンプで動かすタイプで、エアレーションの効果もあり、どこにでも設置できるのが売りだという。
だが、片方は黒くて存在感のあるスポンジ付き。もう片方は、六角形で不思議な構造をしている。
姿かたちがまるで違う。
同じように見えるけれど、双方を選択肢として並べたことがどうにも信じきれず、わたしはつい口に出してしまった。
「でも、何が違うの?」
ろ過性能は大きく変わらない
「あはは、それを今聞いちゃうかい?」
お師匠様は苦笑しつつ、わずかに目が鋭く光った。
「あ、これは長話になるな、」そんな予感がしたが、ここでその道の人に選んでももらったほうが良さそうだ。
「まず、ろ材の違いがあるよ? こっちはスポンジだけど、こっちは砂利にウール、さらにオプションでカートリッジまで、すべて揃っている」
「なるほど、なら、この『水作エイト』とかいうのが、いいのかな?」
「とはいえ、こっちを見てほしい。スポンジだけどろ材が大きいと思わないかい?」
「う……言われてみれば確かに、このスポンジフィルターのろ材は大きいね……」
「そうだろう? とはいえ、水作エイトのほうがいくぶん安いよね?」
「うう……そう言われれば、そうですね。しかも、水作エイトなら2台設置できますね」
「……ね? わからなくなっちゃったでしょう?」
「……たしかに、迷子になりますね」
「だから……」
お師匠様はそこで言葉を区切り、飼っている魚の種類や水槽の環境、そしてメンテナンスの頻度や飼育スタイルによって選ぶべきだと、話をまとめた。
そして、正直なところと、前置きしたうえで……
「ボクは、ろ過性能はどちらもたいして変わらないと思うのさ」
と、話を締めくくった。
それでも、1つを「選ぶ」ということ
言い切ったそのあとで、再び「でも……」と声のトーンを変える。
「ここを見てほしいんだ」
そう言って、お師匠様はブリスターパックの中身を指差した。
「吸盤……ですかね?」
「その通り。スポンジフィルターは、ガラス面に貼り付けて使うものなんだ」
「こっちは……床に直接置くタイプですよね?」
「その通り。だから、水作エイトなら、プレコの糞を集める“集糞装置”としての役割も期待できるんだ」
なるほど。同じようなフィルターでも設置する場所が違えば、自ずと仕事の役割も変わってくる。
「でも、今のキミには外掛けフィルターがあるじゃないか。必要なのは生物ろ過だよね?」
どうやら、フィルターの組み合わせによっても、仕事内容は変わるようだ。
「でもね、あれこれ考えてると、きりがないでしょ?」
そして、お師匠様はこう話しをまとめた。
サイズとメカニズムが近ければ、どれも同じだと思うようにしているんだと。
元も子もないけど、それで悩まないようにしていると、お師匠様は大笑いしながら言ってのけるのであった。
アクアリウムの沼にはまる理由
そうして、スポンジフィルターがわが家にやってきた。
「ボクがプレコ水槽で使うなら、底床から離してスポンジフィルターを使うけどなぁ」
と、帰り際に受けたアドバイス通り、底砂から少し浮かすようにセットしてみる。
なるほど、たしかにスポンジと底面との隙間には木くずと糞が溜まるものの、スポンジの細かい目が詰まることは、ほとんどなかった。外掛けフィルターとスポンジフィルターのコンビは、思いのほかうまいっているようだ。
こうして、波乱ずくめだった水槽の立ち上げだが、大きな事故もなく終わりを迎えることができたのであった。
(じゃあ、これが水作エイトだったら?)
ということは、考えないようにしている。
おそらく、この界隈はそういったことを気にし始めたら、あっという間に財布の中が空になる。そんな気がするからだ。
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似ているようで実は違う
というわけで、ここからは双方の違いについて、ストーリで出た話をまとめてみたいと思います。
どちらも長年使われてきた人気アイテムです。見た目の印象こそ全然違いますが、双方ともエアリフト式でメカニズムはなんとなく似ていますよね?
でも、実際に使ってみると、それぞれに向いている使い方や得意な役割があるのです。
エアリフト式フィルターという共通点
それでも、そもそも「水作エイト」も「テトラのスポンジフィルター」も、エアリフト式フィルターと呼ばれるタイプです。これは、エアポンプから送られた空気の力で水を動かし、ろ過を行う仕組みとなっています。フィルター内にインペラがないため、故障が少なく耐久性が高いのが特徴です。
そして、このタイプの最大に利点は、ろ過と同時にエアレーション(酸素供給)もできるところです。外部フィルターや水中フィルターではどうしても酸素供給が足りなくなりがちな場面でも、エアリフト式を補助として設置すれば、非常に頼れる存在になってくれること間違いなしでしょう。
夏場など、水温が上がり溶存酸素量が減少する状況でも、サブフィルターとして利用すれば水槽の安定感がぐんと増すはずです。
これらは、困ったときに頼れるフィルターだと言えるでしょう。
水作エイトは“オールインワン”型
さて、まず紹介したいのは「水作エイト」。丸いドーム型の見た目が特徴で、投げ込み式として昔から愛されてきたロングセラーです。
このフィルターは、砂利状のろ材とウールマットがセットになっており、そこにオプションで活性炭などを追加することもできます。物理ろ過・生物ろ過・化学ろ過のすべてをこれひとつでまかなえる、まさに“オールインワン”なフィルターだと言えるでしょう。また、水底に設置するタイプであるため、2~3cm底砂の中に埋めて底面フィルターの効果を求める愛好家もいます。
組み立ても不要で、水槽にぽんと入れるだけでOK。吸水口も複数あるため、目詰まりしにくく、とにもかくにも、初心者の方でも扱いやすいのが大きな魅力です。
お手入れも簡単で、本体を水槽から取り出してろ材を軽くすすぐだけ。たしかに、活性炭の入ったカートリッジは定期的な交換が必要ですが、ウールマットだけならやさしく洗うことで、長く使い続けることもで経済的です。
水槽の底面でしっかり仕事をしつつ、長く使える頼れるフィルター。初めての1台としても、ベテランのサブ機としても、多くのアクアリストに支持されてきた名品です。
テトラのスポンジフィルターは“生物ろ過に特化”
対する「テトラ ブリリアントフィルター」など、テトラ社のスポンジフィルターは少し性格が異なります。
こちらは円柱型の太いスポンジが目を引く構造。中に吸着剤などは入っておらず、純粋にスポンジろ材だけで生物ろ過に特化したタイプです。
最大の特徴は、その表面積の広さ。 時間が経つほどにスポンジの内部にバクテリアがしっかり定着し、水質の安定に大きく貢献してくれます。掃除もスポンジを軽くもみ洗いするだけと、非常にシンプルです。
また、吸水口がスポンジでしっかり覆われているため、稚魚や稚エビが吸い込まれる心配がないのも嬉しいポイント。特にシュリンプやベタ、メダカの繁殖水槽などでは重宝されるフィルターです。
さらに、キスゴムで貼り付ける構造により底床から浮かせられるので、底にフンやエサの残りが溜まりやすい中~大型魚水槽の水槽でも詰まりづらいという特徴があります。そのため、底砂なしの“ベアタンク”とも相性抜群だと言えるでしょう。
まとめ:フィルター選びは「目的しだい」
最後に、それぞれの特徴を振り返ってみましょう。
水作エイトは、バランスのよいろ過性能で、「とりあえずこれで安心!」と思える頼もしい一台だと言えるでしょう。置くだけなので初心者にも扱いやすく、底面化や改造などで中級者以上でも楽しめる逸品となっています。
一方、テトラのスポンジフィルターは、メンテが楽で生物ろ過にとことん強いフィルターです。稚魚や稚エビ水槽はもちろん、使い方次第では大きなゴミでうまく避けることができ、中型魚以上の水槽でも強い味方になってくれます。
どちらもエアレーションと水質の安定に寄与する効果を持っています。
水槽の環境や飼育している魚、生体の成長段階、アクアリウムスタイルによって選び方は変わりますから、うまく使い分けていきたいものです。
というわけで、今回はここまで。
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