今も思い出す20年前の悪夢と外掛けフィルター
今回は、外掛けフィルターとその失敗談について。
初めて水槽を立ち上げた時に、アンモニアや亜硝酸が下がらないのはフィルターが悪いと決めつけ、無謀にも外掛けフィルターのろ材を交換したことがあります。
今回はその物語と、外掛けフィルターの特徴について述べていきたいと思います。
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真夏の夜、港町に吹く風は清らかで、日中の熱気をすべて海に返したようだった。ライトに照らされたホームセンターの出口を出るとき、わたしの両手には、ずしりと重たい20L小型水槽セットと、小さな生命を宿したビニール袋。覗き込むと小さなプレコがひとつ、ぐるりと回転して見せた。ついに買ってしまったのだ。
初めての水槽、初めてのろ材交換
水換え地獄から逃げたいばかりに……
数日後、水槽を見にわが家に学友の「お師匠様」がやってきた。バッグからすっと取り出した亜硝酸試薬。水槽から試料を取り、薬液を垂らしてみると、鮮やかな赤に染まった。
「アンモニアは出なくなってる。ということは、もう大丈夫なのですかね?」
「たしかにそうだけど、でも十分な亜硝酸も毒だから!」
「えっ?」
アンモニアは猛毒、亜硝酸は毒。その程度の認識で止まっていたので、「ちょっとだけ安全」になったと思っていたのだ。ところがだ……。お師匠は続ける。
「亜硝酸はね、終わるまでが長いから、あと2週間は気を抜けないよ!」
まるで換水地獄の延長戦を宣告されたようだった。
「とにかく水換えをして!」
「その、なんとか楽をする方法は……?」
「水換えしかないから!!」
諦めてその場で水換えをする。どんな有害物質でも、水を換えてしまえば薄められるからだ。バケツを持ち出し、半分の水を抜き、新しい水をそっと注いだ。試薬で再度測ると、色は薄いオレンジ色になっていた。
「ほら、ね。これなら大丈夫」
と、お師匠様は安堵して帰っていった。
外掛けろ材の仕組み
だが、翌朝。
残された試薬で再び測ってみると、数値は元に戻っていた。鮮やかな赤色透明、まるで何事もなかったかのように。
そもそも、外掛けフィルターのろ材は、生物ろ過を担うウールマットと、化学ろ過を担う黒い活性炭から構成されている。ろ材交換後や立ち上げ中は生物ろ過が弱いため、そのつなぎとして活性炭が化学ろ過を肩代わりしてくれるしくみなのだが、それにも限界がある。
今回は導入したプレコはたった1匹だけだったが、その時点で活性炭の吸着能力を優に超えてしまっていたのだ。
こんな状況では、毎日の水換えは当然として、さらに水換え頻度を上げるか、それとも別のフィルターを併用するかだ。
どちらにせよ、生物ろ過が立ち上がるまで耐え忍ぶことになる。
しかし、初心者のわたしにそんな発想はなく、出した結論はあまりにも単純だった。
「フィルターがダメなんだ!」
そう思い込み、ろ材を丸っと交換してしまったのだ。最悪のタイミングで最悪の判断だった。
それから数日。水槽の角には不気味な泡が付き、部屋にはインクのような奇妙な香りが漂いはじめた。プレコはあまり動かなくなり、状況が悪化したのは明らかだった。
結局、前回記した通りスポンジフィルターにたどり着き、必死に水換えをしたこともあり事なきを得た。その一連の経過を乗り越え、餌にかぶりつくプレコの姿を見て、水槽には神さまがいるのだと信じることになった。
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外掛けフィルターの特徴
以上のように、実は多くの初心者が壁にぶつかるタイミングに利用しているフィルターは、外掛けフィルターなのではないでしょうか?
ここでは、その外掛けフィルターの特徴について利点、欠点を織り交ぜながら紹介していきたいと思います。
設置もメンテナンスも手軽
水槽のフチに引っかけるだけで使えるフィルターです。そのため、設置に手間や時間はかかりません。複雑な配管も不要で、初めて水槽を触る扱いやすいのが大きな特徴です。
ろ材の交換も非常に簡単で、ろ過槽手を入れて引き抜くだけというシンプルな手順で完了します。定期的なメンテナンスが苦にならないのは、大きな利点といえるでしょう。
逆にあまりにもメンテナンスしやすいため、これから自分が行う行為がどれほどのものか理解できないまま、初心者さんが実行に移してしまう危険性が高いとも言えます。とほほ。
「汚れて通水性が落ちてきたら、基本はやさしくもみ洗い。どうにもならなくなったら、初めて交換するもの」だと、過去の自分に会えるものなら強く言っておきたいものです。
それでもろ材を交換となれば、その後は水質が不安になりやすいため、なるべくならサブフィルーとしてエアリフト式のフィルターを併用しましょう。交互にろ材掃除や交換をすれば、硝化細菌の定着したろ材がどちらかにあることになるので、人も安心魚も安全です。
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・もちろん投げ込み式でもOK! |
酸素を自然に供給できる
さて、このフィルター、確かに便利なのですが、これ単体にすべてをお任せするのは、少々リスキーだと言えるでしょう。それは冒頭の文にも上げた通りで、何かしらのサポートをしてあげたほうが、おそらく目指している成功に近道だと言えるでしょう。
「あ、あれ? 熱帯魚飼っていたはずなんだけど、フィルターとかいうのも1匹飼っていることになってるのだけど?」
時として、初心者さんがこのような心境になるのは当然です。フィルター、いえいえ水槽の環境そのものが、実は手がかかるものなのです。
さて、話が随分とそれました。
ここでお話ししたいのは、外掛けフィルターのエアレーション能力について。この手のフィルターは排水部が滑り台のようになっており、水が上部から流れ落ちる構造のおかげで水面がよく動きます。この揺れが酸素の取り込みを助け、簡易的ながらもエアレーションの役目も果たしてくれます。
とは言え、水温が高くなる季節には注意が必要です。気温の上昇とともに水中の酸素量が減りやすくなり、フィルターだけに酸素供給を頼ると酸欠を引き起こすこともあります。また、追い打ちを掛けるようにろ材量が少ないため、水質が不安定になることもあります。
夏場はなるべく、別途エアレーションやエアリフト式のフィルターを併用しましょう。たしかに便利なフィルターですが、環境に応じたサポートを加えることで、より安全な飼育が可能になるはずです。
そう、アクアリストはフィルターも飼育していると言っても過言ではないのです。
設置場所に融通が利くが……
外掛けという名前の通り、水槽の背面や側面に引っかけるだけで簡単に取り付けられます。スペースが限られている場所でも使いやすく、自由度の高さが魅力のひとつでもあります。壁面が曲線でなければ、どんな水槽にでも取り付けることができるでしょう!
そう、取り付けるだけなら、ね……。
実は、取付位置の問題でフタと干渉しやすく、設置位置やサイズによっては、フタがきちんと閉まらないこともあります。とりわけ、ジャンプする習性のある魚はもちろんのこと、立ち上げ最中などアンモニアや亜硝酸が出ている水槽やタンクメイトが喧嘩ばかりしている水槽では、魚が安全な新天地を求め、隙間から魚が飛び出すことも十分に考えられます。
可能な限りフタを自作したり、隙間の修正をしておきたいとところです。
ろ材の量に限りがあるため、生体選びには注意
幼魚と言えども、プレコ1匹のすべてを任せるには、少々荷が重すぎます。
残念ながらコンパクト設計により、内部に入るろ材の量はどうしても限られてしまうからです。とは言え、ろ過槽を大きくすれば、ガラス壁面に引っかけるという構造上、どうしても水槽に無理な負担がかかるため、例外があるものの大型化は見送られてきた歴史があります。
「生物ろ過できないなら、化学ろ過でいいじゃない!」
と、言わんばかりにウールマット内部に活性炭が標準装備されていることが多く、基本的なろ過はこなせるものの、吸着量以上に有害物質が生まれた場合、冒頭の文章のよう水換えですらにっちもさっちもいかず、危険な状態になることもあります。
そもそも……
体の大きい魚や大食漢の魚は、水質の悪化を早めてしまうことがあります。プレコのような魚を小型水槽に入れるのは、なるべく避けるべきですが、そうはいっても初心者向けだと宣伝されているフィルターですから、初心者さんが知らずのうちに選んでしまうこともあるでしょう。だから、「使うな!」とは言いません。
しかし、先にも述べた通りサポートが必要です。たしかに、セラミックろ材を自分で入れる改造も可能です。でも、手間を考えるとスポンジフィルターや底面ろ過などの併用が現実的です。おだやかな水流を保ちながら、ろ過力を補強してくれるはずです。
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・亜硝酸チェックは試薬から試験紙の時代 |
音が気になることも
設置する場所がよくありません。モーターの振動が水槽の壁面を伝い、意外と音が響いてしまうのです。
たしかにエアポンプに比べると音は小さいですが、「ウ゛ーーー」というような駆動音がありますから、寝室ではどうしても気になることもあるかもしれません。寝つきの悪い人は要注意です。
また、これはわたしだけに起きたことかもしれませんが、プラスチック製の軽いフタを利用すると、モーターの振動によって共鳴し、「ビビビッ」とした音を立ててしまうケースもありました。特に夜間は音が目立ちやすく、眠りを妨げる原因にもなります。
対策としては、接触面にスポンジなどの緩衝材を挟んだり、フタに重しをのせるといった方法が有効で、少し工夫するだけで静かな飼育環境を保つことができるようになるでしょう。
とにもかくにも、コンパクトで使いやすいフィルターですから、足らない部分はこちらで補い、末永く付き合いたいものです。
今回はここまで。
長文読んでいただきありがとうございました。
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