2025年6月18日水曜日

夜に消える金魚たち:ポリプテルスと餌金の記憶:その注意点

初めての捕食、本能と葛藤のあいだで

前回、ポリプテルスの話を書いていたら、20年前に維持していたポリプテルス水槽について色々と思い出したので、その時の話をしてみたいと思います。

今回は、ポリプテルスが夜行性だと深く実感した時の物語と、実際に餌金を与えるときの注意点を述べていきたいと思います。

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また、来てしまった。
年の瀬の飲み屋街。凍てつく風が路地に吹き抜け、赤ちょうちんの明かりに誘われるように、人々が吸い込まれていく。サラリーマン、若いカップル、疲れた顔の一人客。年齢も職業もまるでバラバラで、まるで人生の縮図のように感じられた。



ボーイ・ミーツ・ローウェイ


出会いの視線

目指すはその通りのはずれにある、小さな熱帯魚店。
ショーケースの水槽の中、イエローグリーンのスマートなポリプテルス・パルマス・ビュティコフェリーが、静かにこちらを見つめていた。パルマスのショートボディに惹かれて以来、ポリプテルスへの関心は深まるばかり。混泳にも支障ない絶妙なサイズ感の個体を事前にリサーチしておいたのだ。

「大丈夫、まだ値段が書いてある」

誰の手にもわたっていないようだ。



生き餌と葛藤と

「お、薬浴は終わったようだね。それで、言った通り餌はあげなかったかな?」

夕方、玄関のチャイムが鳴って迎え入れたのは、大学時代の学友。魚の飼育歴はわたし以上、「お師匠様」とも言える存在だ。

「キミがポリプテルスを買ったって聞いたからさ。様子見に来たんだよ。はい、これどうぞ♪」

差し出された紙袋は、ズシリと重かった。袋の中で、何かがボヨンと跳ねるような感触がする。

「えと、これは……?」

中を覗くと、鮮やかな赤を纏った魚が5匹、ゆるりと泳いでいた。

「金魚だよ。餌用のね。餌金ってやつ。ローウェイ、もしかしたら餌付けが済んでないかもしれないと思ってさ。これがあると便利だよ」
「生き餌……ですか?」

(※当時はビュティコフェリーではなくローウェイと呼ばれていました。)

ふだんは魚に癒されているのに、その魚の口から他の魚が消えるのを自分の水槽で見届けるなんて。ちょっとした罪悪感にさいなまれ胸がざわついた。



図星

「もしかして、こういうの初めて? 猛々しい姿に惹かれたんだと思ってたんだけどな?」

図星を付かれた。

「でも、ひかりクレストキャットは用意してありますし……」
「だったら、なおさら。泳がせておくだけだよ?」

そう言いながら、お師匠様はにやりと笑う。その笑みに、見透かされているようで反論できない。

「大丈夫。全部薬浴済みだよ。それにさ、ポリプの元気な姿を見たいんでしょ?」

たしかにそうだ。

「それとも、プレコの時のように、また餌付け地獄になりたいのかな?」

人工飼料の難しさは、嫌というほど味わった。
拒む魚に試行錯誤の末、ようやく木の茶色ではなく緑に染まった糞を見つけた時、あまりの嬉しさに涙が出てしまったのだ。
もし、人工飼料を食べてくれなければ、あのつらい日々が再来するのかもしれない。幸いこちらは食べ物だ。であるなら、今手取り足取り教えてもらったほうが良いに決まっている。

「はぁ……顔がかわいいから飼い始めたのになあ。まさか、こんなことになるとは」
「あはは、それも含めて“飼う”ってことだからさー」

「大丈夫、すぐに慣れるよ」



静かな捕食者

お師匠様が帰ったあと、水槽をしばらく眺めた。
中では金魚たちが、まるでこの空間が自分たちのものであるかのように、水流に身を任せながら右へ左へと群れていた。
その一方で、肝心の主役・ビュティコフェリーはというと、ガラスの前で「ふぁー」と大きなあくびをひとつ。完全に無関心だ。

「何もあげてないんでしょう? だったら、夜になると食べるはずさ」

お師匠様の言葉を思い出す。そうか、夜行性なのだ。プレコと同じなら、人の気配が消えてから動き出すのかもしれない。夕食を適当に済ませ、わたしは再び水槽の前へと戻る。

時刻は23時。豆電球だけを灯して、息を殺して様子をうかがう。
――だが、ビュティコフェリーは水底で動かない。まるで岩と一体化しているかのようだった。

眠い。
だが、今夜を逃せば、きっと食べる瞬間を見逃してしまう。
もう少し……もう少しだけ……。



夜に消えた1匹

鋭い痛みで目が覚めた。
首筋が焼けるように痛む。椅子に腰かけたまま、寝てしまっていたらしい。
救急箱を探して湿布を取り出し、寝違えてた首を傾けながら水槽の中に目を向けた。
金魚たちが、外敵から逃れるように隅っこで寄り添うように縮こまっているではないか。

指をさして数を数える。

――1、2、3、4。

止まったカウントに手が震える。1匹が消えていたのだ。

「次は誰にしようかな?」

水底に佇むビュティコフェリーは、満足げにガラス越しでこちらをじっと見つめていた。
夜は、彼の時間。
ほんとうの飼育が、これから始まるのだ。

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なお、このビュティコフェリーは結局人工飼料が大好きになり、パルマスと一緒にひかりクレストキャットをハムハムすることになります。が、それはまた別の機会に。



ポリプテルスに餌金を与えるときの注意点

というわけで、最後に餌金を与えるときの注意点を述べて話を終えたいと思います。

ポリプテルスは肉食性の魚です。存在感を隠しながら、一瞬で小魚を口の中に入れる姿は圧巻のそのものです。食いつきもよく入手しやすいため、餌として金魚(=餌金)を与える方も多いですが、いくつかの注意点があります。



寄生虫や病気をもちこむリスク

まず、餌金が寄生虫や病原菌を持ち込むリスクがあります。特にトリートメントしていない個体を与えると水槽全体に病気が広がることもあります。与える前に、数日間別水槽で塩水浴や観察を行い、健康状態を確認してから与えましょう。



栄養が偏る

また、餌金かぎらず生餌ばかり与えていると、栄養が偏りがちになります。乾物である人工飼料と比べ餌金は生体です。そのため、重量あたりの水分が非常に高い反面、タンパク質や脂肪、さらにビタミン類は不足気味です。可能な限り、人工飼料とローテーションしながら、栄養バランスを保つようにしましょう。



与えるときは消灯前

そして最後に、ポリプテルスは夜行性です。初めて給餌する場合、昼間では食いつかないかもしれません。消灯直前に投入し、翌朝水槽内をチェックしてみましょう。

ポリプテルスの健康を守るためにも、「狩る楽しみ」と「健康管理」のバランスを意識したいところです。

というわけで、今回はちょっと短いですがここまで。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。



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