夏の水槽の必需品「ライトリフト」
夏の水槽は、どんどん上昇する外気温につられ、水槽の水温も上がりがち。
特に熱帯魚や水草にとって、高水温は命に関わる問題です。そこで、今回は水温対策グッズの1つである「ライトリフト」について、20年前わたしが体験した物語とともに紹介します。
付属品で目立たない存在ですが、水温管理やメンテナンス性アップに効果的なんです。
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(これは20年以上前の物語。)
「……あつい、暑すぎる」
大学から帰宅すると、わたしは自室のドアを開けた瞬間に顔をしかめた。一軒家の二階、それは太陽に一番近いフロアであり、夜が近づいてもなお、空気が熱を帯びている。
クーラーはつけっぱなしにしておいたはずなのに、部屋の空気は熱気を含んでいて、肌にまとわりつくようだった。
煌々とライトがつき、ファンがうなる水槽。
水温計を見て、思わず目を疑う。
31℃だ。
蛍光灯だった、あの夏
夏の熱、水槽の熱
プレコを迎えて初めての夏。
それまでは、彼らが昼間どこに隠れているのか、どんな姿で流木をかじるのか、そんなことばかりに心を奪われていたが、今日ばかりは違った。
テレビのリモコンを置いた、水槽の1灯式蛍光灯に手を触れて驚く。まるでブラウン管テレビのような熱。
「これではいけない。なんとかしなくては……」
そのときすでに”ケータイ”を手に、お師匠様へ連絡を取っていた。
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・多くの場合、ライトリフトは付属品となっている |
応急処置
「それで、ボクに電話したのかい?」
電話越しの声は、相変わらず軽やかだった。
いつも相談に乗ってくれる、わたしのアクアリウムのお師匠様。
同じ大学に通っている、別学科の友人。サークル活動でひょんなことから知り合い、以来、水槽のことをなればこの人の右に出る者はいない……とすら思っている。
「たしか、キミの水槽はほとんど水草が入ってなかったよね?」
「アヌビアス・コーヒーフォリアしか」
「なら、とりあえず、こうするんしかなさそうだね~」
お師匠様の回答は、シンプルだった。
ライトの電源を切り、水槽からライトそのものをどける。それだけで、熱の大部分が軽減されるという。
「あははっ、もちろん、夏の間はライトの点灯時間を減らしたほうがいいかもよ?」
受話器の向こうから、いつもの笑い声が聞こえた。
なるほど、確かにそうだ。蛍光灯は思った以上に発熱しているのだ。もしかしたら、室内クーラーを使い冷却ファンを回しても水温が落ちない理由は、水槽の天井がカチカチ山になっているからなのかもしれない。
「そうだ! 今度、またあの熱帯魚屋さんに行こう。キミにピッタリのものがあるんだ」
お師匠様からの誘いは、毎回“なにかが起こる予感”がある。
きっと今回も例外ではないのだろう。
ライトリフトは課金アイテム?
数日後、炎天下とビル風が交差する街の中を歩くこと5分。
久しぶりのアクアショップの前に、わたしたちは到着した。
「わぁー! きたきた! ひっさしぶりー♪」
テンションが上がる声。
わたしも同じ気持ちだった。サークル活動でしばらく足が遠のいていた分、この場所の匂いや音が懐かしく感じられる。
「それで、見せたいものって?」
「ふふ、まぁ、待ちなって。きっと驚くと思うよ?」
こちらのはやる気持ちをよそに、お師匠様はにこりと笑い、わたしの袖を取って店の奥へとずんずん進んでいった。
「さぁ、これだよ!」
そう言って陳列棚から取り出し、わたしに手渡したのは、透明なプラスチックのただの板。
なのに、値札にはワンコインを超える価格がついていた。
「何この板! 高っ!」
「そうだよねー、そう思うよねぇ~」
思わず不釣り合いな価格に声が出てしまった。
お師匠様によると、これは「ライトリフト」という道具らしい。
水槽の上に載せたライトを持ち上げ、光源と水面の距離を開けるためのものだという。
「これがあれば、風も通るし、ライトの熱が水槽に行かないということ?」
「そのとーり。それがたったのワンコイン。お客さんどうでしょう~? あははっ」
わたしは思わず、ペラペラの板を照明に透かしてみた。
これひとつで、わが家の水槽が変わるのかもしれない──?
そんな予感がした。
※
最近の水槽用ライトでは、ライトリフトは付属品に含まれていることも多いです。しかし、昔はメーカーによってはオプションパーツで、学生には高く思える値段がついていたこともあったのです。
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・夏の水草ほど清らかなものはない |
熱は減ったか?
ライトリフトを導入してから、たしかに水槽内の環境は少しずつ変化していった。
夏が怖くなくなった……とまでは言わないが、ほんの少しだけ気持ちに余裕ができたのはたしかだった。
「ライトをリフトアップしたからって、過信は禁物だよ?」
お師匠様の言葉通り、相変わらず、外出時はクーラーをかけっぱなしにしていても、部屋に戻るとファンは全力で回っているし、水温は30℃を超えている日もまれにある。
それでも、息苦しさのような熱気が水槽の中に吸い込まれていくような気配はなく、異臭もない。もちろん、魚が鼻上げしている様子も見たことがない。
ライトの下で、セルフィンプレコが流木の影からそっと顔を出してこちらをうかがっている。
「大丈夫。今年の夏は、快適に乗り切れるかもしれない」
と、わたしに語りかけてくれているようだった。
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ライトリフトって何?
「ライトリフト」とは、水槽用のライトを水面から少し浮かせて設置するための器具、もしくは方法のことです。
たとえば、ライトスタンドを使ったり、専用アームを活用したり、あるいは自作で少し高く設置するだけでも立派なリフトになります。最近は、ライトの付属品に含まれていることが多いので、ぜひ利用してみてください。
さて、これがなぜ夏に有効なのか?
主な理由は3つあります。
理由① 水温の上昇をやわらげる
最近は意外に思う人が多いかもれませんが、水槽用ライト、特に蛍光灯やメタハラなどは、点灯するだけで大きな熱を発します。LEDライトになって随分マイルドになりましたが、それでも水面近くに設置していると、ライトの熱が直接水に伝わって水温が上昇してしまうのです。
そのため、ライトを数cm浮かせるだけ、熱が届きにくくなるため水温も上がりづらくなります。水温が高くなりがちな夏には、これだけで魚たちの負担がぐっと軽くなるのです。
理由② 空気が通って放熱しやすくなる
ライトと水面の間に空間ができることで、空気の通り道ができ、熱がこもりにくくなります。ここに冷却ファンの風を流せば、気化熱によって水温を効率的に下げることができます。
特にフタをしていないオープン水槽では、この効果が顕著。ファンの冷却効果を最大限に活かすためにも、ライトリフトは相性抜群です。
なお、フタを開ける際は、魚の飛び出しにくれぐれもご注文ください。
理由③ メンテナンスがラクになる
地味だけど大きなポイント。夏は水質悪化や水位の低下が早く、そのため掃除や足し水をする機会がどうしても増えます。こんな時にライトを少し浮かせておけば、水換えや掃除のときにライトを外したり持ち上げたりする手間が激減します。
とくに吊り下げ式の照明は、水槽上部のスペースができ、作業のしやすさが段違いです。毎日のメンテがストレスフリーになるのは、大きなメリットです。
もちろん、ライトリフトも同様のことができます。ライトを水槽の奥に設置しなおすだけで随分と作業感が変わるはずです。ぜひやってみてください。
理由④ 苔(コケ)対策にも一役買う
少し応用編ですが、水槽とライトの距離があくことで、光が弱くなり、苔が出にくくなる効果も期待できます。
吊り下げタイプのライトを少し高くするだけで、水草には必要な光を届けつつ、苔の発生をやわらげることができるんです。
わが家では、こんな風に高く設置することで、黒ひげ苔を撲滅できました。
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・最近はもっと高く上げています(20cmほど)。なお、撮影時につきフタはしてありません。 |
まとめ 魚たちの夏を涼しく快適に
ライトリフトは、小さな工夫で大きな変化をもたらしてくれるアイテムです。
見た目には気づきにくいですが、夏の水温上昇を防ぎ、快適な環境づくりに貢献してくれる優れものだと言えるでしょう。
冷却ファンやエアレーションとあわせて使えば、より効果的。
昔と違い、最近のライトはライトリフトが付属していますから、今年の夏は、あなたの水槽もぜひ利用してみてはいかがでしょうか?
水槽の中の住人たちも、きっと静かに満足してくれるはずです。
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