プレコのおやつは数あれど
水槽の中で、ゆったりと泳ぐプレコたち。その姿を見ていると、なんだか癒されますよね。
でも、ふとしたときに「もっと仲良くなれたらいいのに」と思うことはありませんか?
そんなときにおすすめなのが、ちょっとした“おやつタイム”。手間をかけずに、プレコの喜ぶ姿を間近で見られる方法、ストーリーで紹介します。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
ほんのりとした灯りに照らされた水槽の中で、グリーンロイヤルプレコとセルフィンプレコが、ゆるやかに体をくねらせながら過ごしている。夜の静けさが室内を包み、エアレーションの泡の音だけが心地よく響いていた。
プレコたちの顔をじっと見つめていると、不思議とこちらの心までやわらいでくる。
見れば見るほど愛らしい。ごつごつとした体に似合わぬ丸い目とふっくらとしたお腹。そして悠々とした尾びれの動き。
まるで時の流れから切り離されたような、その静けさが心地いい。
ただ、問題がひとつある。
彼らに餌を与える時間帯が、わたしの就寝時間直前なのだ。つまり消灯後にしか動き出さない彼らの食事風景は、ほとんど見られていないのだ。
もぞもぞと動き出すプレコたちの背中を見ながら、電気を消すたびに「味気ないな」と思ってしまう。
だったら、日中にも見られるように、おやつを与えてみてはどうだろうか。
でも、どんなおやつがいいのか。適当なものを選んで水質を悪化させたら、元も子もない。わたしは、水槽のお師匠ことロゼッタに相談することにしたのだ。
おやつアレコレ
横顔を見上げて
夕暮れどきの風には、かすかに冬の気配が混じっていた。
街路樹の葉は赤く染まり、足元に降り積もってはパリパリと乾いた音を立てる。
キャンパスの小道は、まるで秋の絨毯を敷いたかのように鮮やかだった。
その日は、講義が終わってすぐに帰るつもりだったのに――ロゼッタから連絡が来ていた。
大慌てで向かうと、彼女はバルコニーのベンチで座って空を見上げ、頬杖をついていた。
光の角度のせいだろうか、下から見る彼女は、いつもしたり顔の生物マニアではなく、スラリとした狐目とカールしたショートヘアの美しい女性だ。異性として認識せざるを得ない。
が……
「はいはーい♪ おやつ、買いに行くよ~」
半分ふざけているかのような明るい声で、そんなことを言うものだから、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「へえ? どこにですか?」
「もちろん、プレコのだよ? 隣町の『ぽぽラート』さ!」
そう言って立ち上がると、ポケットから何かのメモを取り出し立ち上がった。
艶やかな黒髪を揺らし歩き出した彼女、その後ろを追いかけながら、わたしは少し複雑な気持ちになっていた。
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・プレコのおやつと言えばやっぱり、ナマズ用タブレット |
おやつ候補
冬の入り口、夕暮れどき。
商業複合施設の『ぽぽラート』に向かう途中の街並みは、クリスマスイルミネーションと、赤と緑のデコレーションともに冬の訪れを告げているようだ。その光を浴びる横顔は、普段より少しだけお淑やかに見えた気がした。
だが、ほんの少しいい雰囲気だったのも束の間。店内に入ると彼女はいつもの得意げな顔に戻っていて、わたしの幻想はあっけなく崩れ去った。
「そのっ……、家の冷蔵庫でひと悶着ありまして、なるべくなら台所を使わないような、安いプレコのおやつはないでしょうか?」
これが、お師匠様に対するわたしからの"今日のお題"である。
が、彼女はそれを無視して、満面の笑みでまるで常識を語るように言い放った。
「それはやっぱり、きゅうりしかないね!」
わたしは思わず、吹き抜けを通すように設置されたクリスマスツリーを指さしながら絶叫せざるを得ない。
「いや、今、冬ですよ、冬!? きゅうり、見ました? 高いんですよ?!
「ふむ……だって、洗うだけで食べれるし……」
「人間のおやつじゃなくて、プレコのおやつを考えてください!」
ロゼッタはあごに手を当て、わざとらしく考え込む。
だが、その目はキラキラと輝いたままだ。反省の色なんて、影も形もない。
「じゃあ、今の季節にあるほうれん草だね!」
「……それはどうやって、プレコにあげるんですか?」
すると、シャッシャッと菜箸で混ぜるそぶりを見せた。
「こう、軽く湯がいて……?」
「ていうか、人の話聞いてました!? 台所はどうしても使えないです!」
「えぇぇ~?」
口を尖らせてすねた素振りを見せたが、まだ瞳の奥はひかり、どこかいじらしい目つきになっている。
「ふぅぅ……」
真面目な相談をしていたはずなのに、なぜこんな漫才みたいになっているんだろう……。
どうやら、イルミネーションの光にあてられたとしか思えない。
「あはは、冗談だよ、冗談。それで? どんなのが欲しいのかな?」
今度はちゃんと聞いてくれるらしい。わたしも少し落ち着いて要件を告げる。
「なるべく、手がかからなくて、日持ちして、安くて、臭くなくて、それと、なるべく台所を使わなくて済むやつです」
条件が多すぎて、自分でも笑ってしまいそうだったが、ロゼッタは一切顔をゆるめず頷いた。
「うん、なるほど……それなら昆布はどうかな?」
「えっ、昆布!?」
予想のはるか上を行く回答に、目が点になる。
「冗談じゃないですよね?」
「もちろんさ! ミネラル、食物繊維、ビタミン、それに褐藻類に特有の赤褐色色素のフコキサンチンは抗肥満もあるって言われてるぐらい、体に良いものなんだよ!」
「……ん?」
「はい? なにかなぁ~?」
「それって、人間の話ですよね?」
「んははっ、ばれた?」
真面目に聞いていた自分が恥ずかしくなった。
やっぱり、今日の彼女はどこか違う。
そんな疑いを気にもせず、お師匠様は話を続けた。
「でも栄養の話はともかく、おやつになる話は本当だよ?」
「――んなもの、魚に与えて大丈夫なんですかぁ?」
「あぁ! 疑ってるなぁ? 本当だってば。昆布は、オトシンクルスからプレコまで、乾燥してるから長持ちするし、草食系には定番なんだ」
と言われても――。
さんざん弄ばれてきた。そう簡単に信用なんて、できるわけがない。
ならば、やることはひとつ。
嘘のほころびを、見つけてやるまでだ。
「じゃあ、与え方はどうするでしょうか? 乾燥したものを小さく切って、そのまま入れるんですかね?」
「まさか! それじゃあ水槽が出汁だらけになっちゃうよ!」
「え? それじゃあ?」
またもや何かを菜箸でぐるぐると混ぜるそぶりをして見せた。
「よーく煮てから入れるんだよ♪ んふふっ!」
あぁ、やっぱり。
あの真顔は、絶対わざとだ。信じた自分がバカだった。
ロゼッタは笑いをこらえるでもなく、クスクスと喉を鳴らしながら目を細める。
その目は、どこか子どものように無邪気で、同時にひどく意地悪だ。
「なるべく台所を使わないおやつを探してるんだってば!」
冷凍庫事件
お師匠様はふぅとため息をついた。
「それで、どうしてキッチンを使えないのさ?」
わたしは、肩をすくめながら答える。
「先日、買ったグリーンロイヤルの一件があったからなんです」
そう――あの日。新たに迎えたプレコは、赤虫しか食べてくれなかった。
仕方なく冷凍赤虫のパックを買い、何重にも袋を重ねて、家の冷凍庫に忍ばせた。
結果、作戦は、あっさりと破綻した。
「お風呂上がりにアイスを探してた家族に、見つかってしまったんです!」
「あははっ、まさか、スイーツと間違えた?」
「半分、合ってます。開けようとしたところで『赤虫』ってでかでか書かれたラベルを見て……思わず投げ出したらしいんですけど。はぁ……」
わたしは苦笑いを浮かべ、床に目を落とす。
「でも、わたしだけ怒られたんですよ。冷凍庫漁ってた本人はお咎めなし。理不尽すぎます……早く一人暮らししたいなあ」
ロゼッタは静かに腹を抱え、肩を震わせて笑っていた。
「まぁねえ、ボクたちみたいな人間が冷蔵庫持ったら、なかなか大変なことになるのは間違いない」
笑い終えると、彼女は手を組んで顎に指を添え、ひとつ唸る。
「ふむむ……それにしても、なかなか条件が厳しいね。いろいろ提案したけど、全部だめとは」
「はい……そこをなんとか、『台所フリー』でお願いします」
わたしがそう言うと、ロゼッタの目がふと光った。
「じゃあ、ナマズ用のタブレットはどうだい?」
「はい?」
あまりの唐突さに、つい聞き返してしまう。
「でも、プレコって草食ですよね?」
ロゼッタは身を乗り出し、まるで先生のように語り出す。
「もちろん。でも雑食寄りの草食なんだよ。流木も食べるし、赤虫だって喜ぶんだ。だから実際、タブレットは実は相性がいい」
なるほど、と思いかけたとき、ロゼッタはさらに畳みかける。
「しかもね、あの強烈な匂いが、すごく食欲を刺激するらしいんだ! プレコまっしぐらさ!」
わたしはしばし沈黙し、それからぽつりとつぶやいた。
「……試してみる価値は、ありそうですね」
「もうっ! ほんとだってば~!」
ロゼッタはいたずらが成功したような顔で、にやりと笑った。
結局コレ
そして今日。わが家のおやつは、ナマズ用タブレットとなった。
封を切った瞬間、強烈なにおいが鼻腔を突き刺す。人間でさえ涎が出そうなほどの、香ばしさと濃厚さが混ざった香り。これは……すごい。
水槽のふちに手を伸ばし、タブレットを数個、ぽとん、ぽとんと落とす。
するとどうだろう。つい先ほどまで岩陰に隠れていたプレコたちが、ぬるりと体をくねらせながら浮上してきた。
グリーンロイヤルは、ガラス面に吸い付きながらも方向転換し、真っすぐにタブレットに向かって泳ぎだす。その姿は、まるで目当ての宝石を見つけた猫のようだった。
セルフィンプレコは、少し遅れて、しかし確実に同じ方向へ。大きく広がる背びれがゆらりと揺れて、その影が水中にひらひらと落ちる。
思わず、わたしは見とれていた。
おやつをめぐる小さな冒険。それが、こんなにも豊かな時間になるなんて、思ってもみなかった。
後日ロゼッタ会ったあと静かに目を細めながら、わたしへと微笑んだ。
「ね? 本当だったでしょう?」
その声は、ほんの少しだけ誇らしげだった。
プレコにぴったりのおやつとは?
プレコといえば、ゆったりと水槽の底を這うように動く、ちょっと個性的な熱帯魚。そんな彼らにも、ちょっとした「おやつタイム」を楽しませてあげたいと思うこと、ありますよね。とはいえ、どんなものをあげればいいのか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
実は、プレコのおやつに向いている食材はいくつかあります。たとえば、乾燥昆布。栄養価が高く、ミネラルや食物繊維も豊富なので、草食性が強いプレコには相性ぴったり。ただし、そのままではお出しが水に溶け出してしまうので、軽く煮てから与えるのがポイントです。
「台所を使いたくない」「もっと手軽にあげたい」という方には、ナマズ用のタブレットがとってもおすすめ。乾燥タイプで日持ちもよく、水槽の中に入れるだけでOK。プレコの嗅覚を刺激する香りがあり、見事に食いついてくれます。実際、流木や植物だけでは足りない栄養を補えるため、サブフードとしても優秀です。
このほか、茹でたほうれん草やカットしたきゅうりも定番のおやつ。ただし、これらは与えすぎると水が汚れやすくなるので、様子を見ながら少量ずつが基本です。
「見て楽しめるおやつタイム」をつくることは、プレコとの距離をぐっと縮めてくれるはず。普段は隠れてばかりの子たちが、タブレットめがけて出てくる姿を見ると、きっとほっこりした気持ちになるはずです。
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