変幻自在のシャワーパイプ
水槽の水流、なんとなくそのままにしていませんか?
実は、水の流れひとつで魚や水草の健康状態が大きく変わるんです。
そこで活躍するのが「シャワーパイプ」。使い方次第で油膜やコケの悩みも軽減でき、見た目以上に頼れる存在です。
今回は、そんなシャワーパイプの魅力と活用方法をストーリでやさしく解説していきます。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
月夜に照らされた気泡が水面に達すると、プツプツと弾けて乾いた空気を潤す。
薄暗い水槽にはプレコが2匹、流木に身を任せて、大きな尻尾を右に左にと揺らしている。
初冬の空気はツンと冷たく、湯上がりのまま布団に滑り込むと、自然とまぶたが重くなる。
だが――
ブゥゥゥゥーン……♪
近頃、これがわたしの安眠を邪魔している。
「うう……またこの音か!」
シャワーパイプという希望と幻
夜な夜な悩まされるあの音
水面にはうっすらと銀色の膜。
この正体が「油膜」だと知ったのは、数か月前のことだった。
プレコ用の餌、これを半分に割ったものを毎日2枚沈めている。
必ずと言っていいほど出てくるこの憎き膜。
お師匠様ことロゼッタに相談したところ、「これで油膜が出ないわけがない」と苦笑しながら勧められたのが、今のエアポンプでのエアレーションだ。
ブーーーーン♪
これは、必要なもの。
必要なものなのだ。
――だが。
部屋中に響くエアポンプの振動音。
たしかに、慣れれば音自体は気にならなくなる。
それは本当だ。
しかし、今のわたしは学生実験で追い詰められている。
予習して、実験をして、その場でレポートを書いて、放課後は図書室で文献を集める。
張り詰めた日々が2週間続いており、明日の講義とテストさえ終われば、すべてが丸く収まるのだが――
こんな時に限って、この低音が、じわじわと神経を削ってくる。
時計を見れば、もう0時を回っている。
今すぐ寝なければいけないのに!
なんとかしたい!!
だが、焦れば焦るほど音は大きくなる。
2時間騒音に抗い続けた結果、わたしは負けた。
寝ることを諦め、ケータイでエアポンプの騒音対策を調べることにした。
「ん? ……なになに?」
呟きつつ、1つの文言に目を落とす。
『――シャワーパイプならエアレーションも油膜対策もできます♪』
「これかもしれない!」
が、いったいシャワーパイプというものでどうやって?
イメージを膨らませてみるものの釈然とせず、 気が付けば眠りに落ちて朝を迎えていた。
内径と外径
あの後のテストは酷いものだった。
何とか「可」の点数は取れたものの、今までのレポートの点数をすべて無に帰すような出来だった。
そんな今日、向かっているのは、同市内の旧市街地にあるショッピングモール。
その中のアクアショップは、正面に神社、大きな病院のはす向かいという不思議な立地ではあるが、店内は意外にも広く、品揃えも充実していた。
「シャワーパイプ? あぁ、いくつか選択肢のあるうちの1つだね」
そう言いながら、お師匠様は棚の一角を指さす。
ショートヘアにスラリとした目鼻立ちは、どう見ても若い女性そのもなのだが、ショップに入ると口角を吊り上げ鼻の下を伸ばし、生物オタクの顔になる。
だが、わたしの質問を聞くと、いつもの得意げな顔に戻り、目を輝かせた。
そして、外部フィルターのパーツ売り場まで進むと、濃い緑色のパイプを手に取って、1つわたしに渡してくれた。
「これが、シャワーパイプだよ」
「まるで、縦笛みたいですね?」
わたしは困惑しながら眉をひそめ、実物を見る。
思ったよりも軽く、穴も小さいようだ。
その長さは30cmと言ったところだ。
が、ふと気になる商品を見つけた。
今手に取っているもの以外にも、まるっきり似たような商品が2つ。
そのパイプと隣の製品を見比べる。
「それは9/12、キミのフィルター12/16でしょ?」
「はい? なんですって?」
彼女はふふっと微笑んだので、わたしは小さく首をかしげた。
「実はね、太さが違うんだ。○○/□□と書いて、ホースの内径と外径を表しているんだ」
としたり顔をした彼女の話を聞くと、わたしの頭の中でもちょっとした電流が流れたのが分かった。
「あぁ! それはつまり、内径12mm、外径16mmということですか!」
「その通り!」
試しに、9/12と書かれたパイプを手に取り、12/16のシャワーパイプと比べてみる。
「……あぁ! 確かに違う!」
だが、またしても疑問が生まれてきた。
この外径12mmのパイプを小指に当てがってみる。
「やっぱり」
不思議なことに、直径1cm前後の小指より、はるかに細いのだ。
それを見ていたお師匠様は、おかしそうに肩を揺らして笑った。
「もしかして、自分の指と比べてみた? ンハハ! 違うよ! そうじゃないんだ!」
わたしはきょとんとしながら、思わず彼女の顔を見上げた。
「今キミが調べているのはパイプの外径でしょ?」
「はい、そうですけど……?」
彼女は少し語気を強めて、じれったそうに言葉を続けた。
「さっきも言った通り、ホースの内径と外径が基準なんだ!」
「ん?」
「だって、同じサイズだったらはまらないでしょう?」
「あっ! わかりました! じゃあこのパイプは、内径12mm・外径16mmのホースに合うサイズということですね?」
「その通り! 実は詳しい値は表記されていないんだけど、おそらく内径12mmより小さい、10mm前後のはずだよ?」
「なるほどぉ。でもどうしてこんなことを?」
肩をすくめながら、彼女は少し視線を上にやった。
「まぁ、おそらく、数字がいっぱい並んでややこしくなるのを避けるためじゃないかな? 他にも9/12や16/22というサイズもあるからね」
たしかに。
もしパイプの外径まで明示したら、種類は倍に増える。
9/12、12/16、16/22――ホースだけで3種類。パイプの太さまで書けば6種類に。これは混乱を招きそうだ。
「そういうことだったんですね……」
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・水が叩きつけられると? |
使い方次第でいかようにも
が、そこまで話すと、途端にロゼッタがじっとこちらを見つめながら、意地悪そうな笑みを浮かべた。
「もしかしてキミ、シャワーパイプの使い方も知らなかったりする?」
わたしはうつむきながら、不安げに目を上げて答えた。
「使い方って……ただオーバーフローパイプとホースで接続するだけじゃないんですか?」
彼女は手でおでこを押さえると、深いため息をつき、その場にへたり込んでしまった。
「はぁぁ~、やっぱりね。でも聞いておいてよかったよ!」
そのしぐさは呆れと諦めが入り混じったようで、少しだけ申し訳なくなる。
「実はシャワーパイプは使い方次第では、酸素供給にも油膜対策にも、そして水草用としても使えるんだ!」
彼女は指を動かしながら例を示すように、やや得意げに語り始めた。
「ポイントは、シャワーの向きだね」
「向き? どういうことですか?」
「これはね、穴の向き、つまり水流を出す方向のことなんだ」
お師匠様は、わたしが持っていたシャワーパイプをすっと手から取り、その穴が横になるように見せてくれた。
「例えば、油膜を落としたいのなら、どうするべきかな?」
「うーん、水面を波立てるのが正解だと思います」
「そうだね。水面に波が立つように斜め上を向けるといいかもしれないね?」
そう言って、シャワーパイプの両端の円中心が軸になるよう回転して見せた。
「じゃあ、水草に使うために水流を抑えたいときはどうすればいい?」
「それは……」
「ほら? シャワーパイプの後ろには何があるかな?」
「あぁ! 分かりました! ガラスの壁面に向けて水流を抑えればいいんですね!」
「その通り! 他にも、1つ1つの穴をドリルで大きくする人もいるんだよ?」
そう言い切ると、これが最後と言わんばかりに足を広げて腕を組み、質問を投げかけてきた。
「実は、油膜を除去しつつ、効果的に酸素を取り入れられる設置方法があります。ソレハナンデショウカ? んふふ♪」
突然出題されたクイズ。
よほどわたしが正解に至らないと確信しているのか、その顔は口元が緩み、笑いを堪えている。
が、わたしだって、無駄に数か月プレコを飼育していたわけではない。
油膜、酸素、とくればエアレーションだ。
シャワーパイプをどうすれば?
しかし、これは、わたしが昨日分からなかったことでないか?
昨夜、それを考えすぎて寝落ちしてしまったが……。
しかし、なんだか答えが喉元に引っかかっているような気がする。
要はシャワーパイプの向きのはずだ。
わたしが、今まで見てきたシャワーパイプは……
あっ! どこかの店で実際に見た気がする!
思い出せ! 思い出すんだ!!
――っ!?
「もしかして?」
「おぉっ? わかったの?」
「以前、水草に強いショップで見たんですが、シャワーパイプを水面より上にして、水を叩きつけるんですか?」
答え終わると、ロゼッタの顔はぱぁっと明るくなった。
「わぉ! 大正解!! その通りだよ! そうすれば油膜対策にもなるし、酸素供給にもなるんだ!!」
それこそ、酸素が溶け込み、油膜も防げる。
わたしのプレコ水槽には、ぴったりの答えだ。
「もっとも、高く上げすぎると外れた時に心配だから、少し水を減らして、水位を下げて使うのがいいと思うけどね」
「なるほどぉ!」
わたしは、その日のここで、シャワーパイプを買い、家路を急いだ。
理想と現実の違い
だが、期待に胸を膨らませて取り付けた新しい仕組みは――
1週間で、あえなく敗北した。
ジャボボボ……♪
落水音。
これが想像よりもはるかに大きかった。
静かな夜に、水が跳ねる音が響き渡る。思った以上にうるさいのだ。
水面との距離を縮めれば軽減できるはずだが、それには常に一定の水位が必要になることを意味する。
しかし現実には、蒸発によって水位は日々変わる。エアレーションの有無、気温、湿度――さまざまな条件で左右される。
それに、水位を落としたということは、言い換えれば総水量が減っていることになる。
つまり、水質悪化のスピードが早くなり、コケの侵略に勢いがつく。
「……うーん……思ったより良くない……」
わたしが息まじりに不満げにつぶやくと、プレコたちは目をぱちくりさせながら、流木の陰に身を隠した。
それに、まだまだ問題もある。
そもそも、シャワーパイプは水流を分散させる器具だ。
急流を好むプレコに向いているのかといえば……少し疑問が残る。
「あぁ、お師匠様! なおさら分からなくなってきました……」
わたしは小さくため息をついた。
もちろん、この類の試行錯誤が嫌いではない。
悩んで、工夫して、それでもうまくいかなくて――
そのたびに、ほんの少しずつ前に進んでいく。
だが、時には大いに落胆する時もある。
わたしのエアポンプの撤去計画は頓挫してしまった。
まとめ
最後にストーリーをまとめつつ、紹介しきれなかった部分を述べて終えたいと思います。
シャワーパイプは、水槽で使うと意外と便利なアイテムです。
見た目はただの穴の開いたパイプですが、これを使うことで水流の方向や強さを調整でき、水槽内の環境をぐっと整えやすくなります。
特に、油膜対策や酸素供給、さらには水草の黒ひげコケ対策にも一役買ってくれるのが魅力です。
たとえば、水面に波を立てたいときは、シャワーパイプの穴を斜め上に向けて設置すると効果的です。
水面が揺れることで酸素が取り込まれやすくなり、嫌な油膜も自然と解消されやすくなります。
一方で、水流を抑えたいときは、パイプの穴を奥側のガラス面に向けると水の勢いが和らぎます。
これは水草水槽や、流れを嫌う生体にぴったりの使い方です。また、水流を好み、一度発生すると除去が難しい黒ひげコケの対策にもなります。
さらに、パイプを水面より少し上に設置して落水させれば、水が落ちることで酸素が取り入れやすくなり、油膜も抑えられるという利点があります。
ただし、この方法は「落水音」が大きくなるため、静かな環境を保ちたい方はご注意ください。
さて、ホースのサイズに合ったパイプを選ぶことも、シャワーパイプを導入する際に注意したいポイントです。
「12/16」や「9/12」といった表記は、内径と外径を示しています。
お手持ちの外部フィルターに合うものを選びましょう。
これは実際のシャワーパイプ自体の太さとは異なるため、選ぶ際には注意が必要です。
シンプルながら奥の深いシャワーパイプ。
今回のように期待外れなこともありますが、水槽の状況や目的に合わせて上手に活用すれば、飼育環境はぐっと快適になるはずです。
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