水草水槽のライト、なんとなく選んでいませんか?
実は、光の質や色合いが、水草の育ち方や水景の印象を大きく左右することもあります。
今回は、ライト選びで迷わないための大切なポイントを、ストーリーでやさしく解説していきます。
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(2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)
わたしの45cm水槽で、困ったことが起きた。
ライトが、よろしくないのだ。
もともと20Lの小型水槽で使っていたライトを、そのまま流用していたのが、どうにも照射範囲が足りない。
左右の隅は薄暗く、中央がまるでスポットライトを照らされたようになっている。
それに、アヌビアス・コーヒーフォリアの葉先には、薄くコケがつきはじめ、色もくすんで調子がよくないような気がするのだ。
「新しいライト、買わなくては……」
スペクトル、演色性、色温度、ルーメン、どれを選べばいいのやら?
コーヒーフォリアのご機嫌
しかし呟くと、女の声が頭の中で再生された。
「でもキミの水槽、プレコ水槽でしょ? ライト居る?」
わたしの水槽のお師匠様――ロゼッタだ。
先日自室に招き悩みを伝えたところ、手痛い指摘を受けてしまった。
彼女はそう言って、すっと伸びた指先で、水槽の暗がりをさして見せるのだった。
確かに、あの子たちは光をあまり好まない。
ライトをつけると、そそくさと流木の陰に隠れてしまう。
「……いや、でも、このままではアヌビアスが……」
プレコとアヌビアス。
どちらが優先なのか、自分でも分かっている。
でも、助けてあげられるのなら助けてあげたい。
正直、アヌビアス程度なら多少暗くても大丈夫だとは思う。
でも、毎日眺めるものだし、気に入った水景をつくるなら、光はやっぱり大事な気がするのだ。
「行くしかない!」
覚悟を決めて、わたしは立ち上がった。
※
今回からお師匠様の性別ははっきりと「女性」と記載したいと思います。
実は、そのイメージは実在する数人から着想を得ており、その中の男性もいたため、あいまいなものとしていました。
一時は男性を意識して記してみましたが、どうにもしっくりこないものでした。
今後、書き続ける中で、双方の性別を分けた方が若い二人をイメージするにはぴったりだと思われましたので、今回からそのように方針転換した次第です。
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光量こそ後発品に負けるものの、 高い人気と手ごろな値段が人気の GEXパワーIII |
水草の育つライトを探すと生まれる混乱
大学から乗り継いで、モノレールに乗った。
車両は高架を上がったり下がったりしながら、ビル群や住宅街を縫うように駆け抜けていく。
「うわぁぁ♪」
景色の奥では、動く山並みの中に特徴的なコニーデが現れては消え、消えては現れる。
そのたびに、お師匠様は、まるで少女のような声で歓声をあげた。
普段は冷静沈着なお師匠様だけれど、こういうときは年齢が分からなくなるほど無邪気になる。
「ほらほら、見て見てて!」
かく言うわたしはというと、ケータイの画面をにらみながら、何度もページを行ったり来たりしていた。ライトのスペックを比較するために。
「もう! せっかく遠くに来たのに、景色見てかないの?」
ぷぅ、とふくれたロゼッタに促され、しぶしぶ視線を窓の外に向ける。
丘陵やビルの隙間を縫うように掛け抜けるモノレール。
そして、頂上に雪を湛えたあの山。
少し視点が違うだけで、こんなにも景色が変わるものなのかと感心をする。
だが……
「景色はキレイだけど……」
そういった瞬間ロゼッタの顔が曇ったような気がした。
だが、すぐに心配そうに瞳の中をのぞきこんできた。
「何か悩んでるんだね?」
――そうなのだ。
わたしの頭の中は、今たくさんの単語で頭が一杯なのだ。
「うん、ライトのことでね。スペクトルとか、Raとか、ルーメンとか、色温度。もう、わけが分からなくなってきて」
促されるようにして、不安を吐露すると、彼女は小さくため息をついて、短い髪を耳にかけた。
すると、今までの幼い顔つきはどこへやら、すっかり自信に満ちた顔つきになっている。
いつもの、お師匠様だ。
「仕方ないな。それじゃあ、1つずつ整理しよう」
スペクトルの見かた
「まず、スペクトル。簡単に言えば、これは光の波長ことだよ」
語りはじめるときの彼女は、まるで講義をする教授のように口元が緩む。
本当に好きなことを人に教え、それが役に立つと確信している顔だ。
「キミ、生物系だったよね? 光合成の色素が吸収する波長、覚えてる?」
「青と赤……ですよね?」
「正解。だからその2色を多く含んだライトが、水草に適しているんだ」
ふんふん、と頷きながらも、正直それだけで良いのか不安だった。
「とは言え、青がどれくらいとか、赤がどれくらいとか、はっきりと書くのは難しい。だって全部混ざって白に見えるんだからね?」
「じゃあ、どうすれば?」
「だから、全色を分解して横軸にならべ、相対的なその強さを縦軸にとって、グラフにしたものなんだ! これがスペクトルだね」
「んん? どういうことですか……?」
「スペクトルという波のなかで、青と赤が突出しているものがいいということさ」
特に青い光(おおよそ450ナノメートル)と赤い光(おおよそ660ナノメートル)が、光合成を促すうえで効果的なのだという。
となれば、水草育成に用いるLEDライトは、この青と赤の波長をしっかりカバーしていることが1つの条件だと、胸を張って言い切った。
演出性(Ra)とは?
モノレールが止まり、両端のドアが開くと、山のように制服姿が飛び乗ってきた。
とたん、ガヤガヤとにぎやかになる車内。
だが、彼女はそんなことを気にもせず、話を続ける。
「でも、そればっかりじゃあダメなんだ」
「どうしてですか?」
「だって、考えてみてよ。青と赤を混ぜたら何色?」
――あっ! それは、きっと赤味を帯びた紫だろう。人によっては……ピンクに見えるかもしれない。
「だから、演色性(Ra)があるんですね!」
「おっ、鋭いね。だから“演色性”が大事になるんだね。」」
嬉しそうに微笑むお師匠様。わたしも、ちょっと誇らしい。
水草用ライトを選ぶ際、演色性(Ra)は見た目の美しさに大きく関わる。
Raが高いほど、太陽光に近い自然な色で水草や魚を照らすことができ、観賞性がぐっと高くなるのだ。
「もっとも、これは育成にはあまり関係しないはなしなんだけどね?」
「それでも、わたしなら、水槽が真っピンクに染まったら嫌ですね……」
「そうでしょう?」
通販で販売されている安い植物育成用ライトを思い出す。
どれも、不気味な赤紫に染まり、見るに堪えないものであった。
やはり、演色性は大切だ。
「Ra80前後なら合格点。90以上ならより自然かな」
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パワーIII(45cm)の裏側。 青と赤のLEDがいくつも埋め込まれている。 |
色温度
眼下には大きなショッピングモールが広がる。
車利用が止まり若人が降りてくと、今度は両手に買い物袋をぶら下げた婦人方で溢れた。各々おしとやかにつつましく話し、穏やかな声色に包まれた。
その中でわたしは、今までの話をまとめてみた。
「つまり、スペクトルが良くて、Raが高いものを選ぶのが基本ですね」
しかし、お師匠様は首を振った。
「そうとも限らないよ」
そう言って、悪戯っぽく人差し指をを左右に振ってみせた
「キミ、夜空をちゃんと見たことあるかい?」
「……あまり。実は空の星より、地面の生き物を見てる方が楽しくて」
「そうだろうね。じゃなきゃ生物系の大学にいないものね」
彼女は笑いながら続ける。
「ほら、星の色が違うの、気づいたことある?」
「えーっと……あります。青っぽい星、赤っぽい星……、冬の大三角形のシリウスとベテルギウスでしたっけ? 中学校の授業の余興で聞きました」
「そう、それなんだ。それは温度の違によるものなんだよね。つまり、高温の星は青く、低温の星は赤く見える。これが“色温度”なのさ」
「だから単位が絶対温度のK(ケルビン)なんですね?」
「その通り!」
水槽のライトでも同じことが言える。
同じ白色の光でも、色温度が高ければ(7000K以上)、水槽は青みがかり、クールで清涼感が出る。低ければ(5000K以下)、温かみのある色味になる。好みで選べるし、多少の水の濁りも補正できるのだ。
「つまり、青いシリウスの方が赤いベテルギウスよりも高温だと言うことができるわけだね」
「なるほどぉ……」
「それで、……水槽って、不自然だと思わないかい?」
「え?」
「だって水槽は、自然のようで人工物。ライトから降り注ぐ色は太陽のように時間で変化することなく、常に同じ色なんだ。となれば、飼育者のセンスが出てくるのさ」
夕暮れの水辺がすきなのか、それとも朝のクリアな水が好みなのか、それとも、昼間の明るい色が良いのか、それは飼育の好みでもある。
「とにもかくにも、色温度で魚や水草の見え方が全然変わってくるのさ」
ルーメンを無視できない理由
モノレールは先ほどとは一変し、平野を一直線に走る。
細ごまとした住宅が密に並び、ところどころに大きな畑が見え隠れしている。
ドアが開くたびに、だんだんと乗客はまばらになってきた。
「さて、スペクトル、演色性(Ra)、色温度、全部わかったてくれたかな?」
お師匠様は話をまとめにかかるのだが、ふと疑問が沸いた。
まだ「明るさ」について触れていないのだ。
疑問を率直にぶつけることにした。
「ところで、明るさについてはどうなんでしょう? いままでのほとんどが色の話でしたが、ルーメンの数字が高いほどよく育つと聞きます」
「よく気が付いたね、実はこれが一番難しいとこなんだ」
「ルーメン」は、光の明るさを人間の目にとっての感じ方で数値化したものなのだ。
数字が高いほど明るく感じるが、これはあくまで「見た目の明るさ」であって、水草の光合成に役立つかどうかとは別問題。
「たとえば、緑色光は光合成で使われるかい?」
「いいえ、使われないからこそ反射して、緑色に見えるとききます」
「お! よく知ってるね! その通りなんだ~」
たとえば、緑色の光は人間にはとても明るく見えるが、水草の光合成にはあまり使われない。つまり、ルーメンの数値が高くても、水草の育成にはあまり意味がないこともある。
「とは言え、ルーメンをまったく無視してもいいかと、そうでもないんだ」
「どうしてですか?
「だって、考えてもみてよ。いくらスペクトルがよくても、光が弱ければ意味ないじゃない?」
なるほど、確かにそうかもしれない。
いくら光の質は良くても量が不足していれば意味はない。
見た目の色に関わるRa,色温度はともかく、ルーメンとスペクトル。
両者のバランスをみて購入する必要がありそうだ。
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アクロトライアングルグロウ(45度)の裏側。 青・赤に交じって緑のLDEが……。 その理由はいつか書きたいと思う。 |
ライト選びは混迷を深めるも……
「ついでだから言うけど、実はね、スペクトルだけに着眼していると、別の問題もぶち当たるんだぁ~♪ きっとキミもこれで迷ってるから、ボクに聞いてきているんだと思うんだけど?」
――はて?
演色性や色温度は好みである以上、スペクトルが良く、ルーメンが高いものがよいと思えるのだが。それ以外に何が、いやその口ぶりからすると、問題の原因とはいったい何なのだろうか。
「キミは、今気になった機種を全て調べている思うんだけど、そもそもスペクトルが全くわからない機種があったでしょう?」
――あっ!?
「だからこそ、商品間の比較ができず、ルーメンの話題が出てきたんだと思うんだ~。もっともルーメンですら記してないのもあるけどね」
そうなのだ。一番の問題は、機種間の比較が簡単にできないことなのだ。
結局、価格が高ければスペクトルが書いてあるともいえず、スペクトルが無くても人気の機種はいくつかある。
それが、高価なほど良品という価値観を混乱の地の底に突き落とし、選択を難化させているように感じられたのだ。
「では、ライト選びの決め手は、お師匠様はなんだと思うんですか?」
「結局はメーカーと口コミだね」
「え?」
「スペックがいくらご立派でも、実際に育たなきゃ意味がない。人気のあるライトってのは、ちゃんと実績があるのさ」
わたしは思わず唸った。
「だって、キミはライトを飼育するわけでも、スペック自慢するわけでもないでしょう?」
たしかにそうだ。
スペックを調べに調べたけれど、結局のところ、そういう結論に至るのかもしれない。
「それと、口コミが良いものは、よく売れる機種は量産され、値段も安くなる。ありがたい話でしょう?」
たしかに、それは嬉しい。
「とは言え、その中でも、自分が信じて使えるメーカーでないと、長期間使えないよね?」
ガラガラのモノレールは終点が近づき、チャイムが鳴る。
わたしの中では、次に選ぶべきライトの姿が、うっすらと形を成していた。
光を選ぶということは、わたしが描く“水の中の景色”を選ぶということ。プレコのためでもあり、水草のためでもある。
そして、なにより水景を楽しむ、わたし自身のためでもあるのだ。
まとめ
水草水槽のライト選びは、見た目の美しさと水草の健やかな育成、どちらも満たすために欠かせない要素です。
ポイントとなるのは、「スペクトル」「演色性(Ra)」「色温度」「ルーメン」の4つです。
まず、スペクトルとは光の波長のバランスのことで、水草にとって特に重要なのは青(約450nm)と赤(約660nm)の光。これらは光合成を促進する波長なので、含まれている量が多いライトが理想です。
次に演色性、Raと表記されることもありますが、これは照らされたものの色が自然に見えるかを示す数値。一般的にはRa80前後、Ra90以上で太陽光に近く、水草や魚の色がより鮮やかに見えます。水景の美しさを楽しみたい方には、ここも大事なチェックポイントだと言えるでしょう。
色温度は光の「雰囲気」を左右する指標。6000K前後を中心として、5000K以下はあたたかみのある色、7000K以上になると青白くクールな印象になります。自分の好みに合わせて選ぶと、水槽全体の印象もぐっと変わるはずです。
最後にルーメン。これは光の「明るさ」を示す指標ですが、数字が高いからといって水草が育ちやすいとは限りません。
とは言え、いくらスペクトルが良くても光量が低いのは困りもの。
大切なのは、光の“質”と“量”のバランスです。
この4つを見極めることが、満足のいくライト選びの鍵になります。
とはいえ、数値だけでは判断が難しいのが現実です。
そこで参考にしたいのが、信頼できるメーカーと、実際に使っている人たちの口コミです。水草が育つのか、安心して使えるかは、使い手の声がいちばんリアル。情報を集めつつ、自分の水景に合った一台を選びたいですね。
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