2025年8月12日火曜日

活性炭は短寿命。アク・臭い・魚病薬の除去、目的をもって使いたい

活性炭とプレコとわたし──知らずにやりがちな活性炭放置のはなし

流木を入れたら、水槽の水がいつの間に真っ黄色!
そんなときに活躍してくれるのが「活性炭」です。目に見えない不純物をぐんぐん吸着し、水をすっきり透明に保ってくれる頼もしい存在なんです。

が……、意外と「短命」で終わるろ材でもあります。
今回は、それについてストーリーで紹介します。

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知らなかったことがある。
ウールマットを交換するたびに、目の前に現れる黒い円盤のことだった。

購入時には青いスポンジろ材とウールがセット済み。
この円盤は大切そうに別の袋に包まれていた気がする。

だが、新しい外部フィルターのオーナーになったわたしは、汚れ一つない外部フィルターを前に浮足立っていたような記憶がある。結果、ルンルンと浮かれた気分で深く考えず、ろ材コンテナにセットした……ような気がする。
もちろん、水槽のお師匠ことロゼッタには、強く何かを言われた気もあるのだが……。



活性炭の寿命は短い。だから……


黒い円盤

「ここまで曖昧だとは、正直まいったな」

頭を抱えて、天井を見つめみるものの、何一つとして浮かび上がってこない。
だが、円盤についての記憶は定かではないものの、記憶を消し飛ばした理由ならはっきりとわかる。

直後に彼女に騙されて起きた、呼び水大失敗でごっくん事件の記憶が強いせいだ。

生ぬるい水、ほのかに鼻に抜ける生臭さ、強烈な思い出が全てを上書きしてしまったから、いまいちよく思い出せないのだ。

「……うぇ、気持ち悪るっ!」

今でも水槽の前にしゃがみ込むと、湿った空気とともに立ち上る、土の匂いを思い出す。知ってか知らずか、中では尻尾がゆらゆらと揺れ、小さな気泡が光に反射してキラキラと輝いている。

だが、フィルターは問題なく立ち上がっているようだ。
今になっては、あの黒い円盤が何だったかわからない。
しかし、なにかしらのろ材だろう。

そして、深く考えもせず今日まで来てしまったのだ……。



活性炭パッドの寿命は……?

「ももぉー! あの時言ったし、わからないなら説明ちゃんと読んでよぉ!?」
「えぇ、これが……活性炭ですかぁ?」

呆れと怒りの混じった声が、背後から飛んできたので、わたしは反省するそぶりをしながら、黒い円盤をつまみ上げた。


今日はフィルター清掃をする日だ。
水槽の維持管理になくてはならない、“面倒”な作業である。
しかし、わたしのお師匠には、そんな常識など通用しない。

いままさにパワーヘッドを開ける彼女は、口角が吊り上がり目を輝かせている。
ガゴッ!とハンドルが下まで落ちると、窓の外から差す柔らかな陽射しが、小さな女性の横顔を照らしていた。
狐のようにスラリとした目が美しかった。
のだが……、生き物の話となると、どこか得意げな顔をして薄ら笑いしてみせる、生物オタクとなっている。

こういった素性を隠した謎生物が、キャンパスには溢れかえっている。
もっとも、約半数にあたる男子学生の方が、それ以上の危険生物なのも問題なのだが。
今ここでぼやくことでもない。


だが、その水槽のお師匠様ことロゼッタは、腕を組んで目を光らせている。

とにかく彼女は、ろ材コンテナのから出てきた黒い円盤を、信じがたいことに活性炭だと言ってみせたのだ。
思わず、眉を寄せながらたずねると、彼女は得意げに頷いた。

活性炭って、そもそも炭ですよね? 炭ってこんな形してましたっけ?
「あぁ! もちろん、言いたいことはわかるよ? おそらくはパウダー状にして練りこんであるのだとは思うけど、ボクだって信じられないんだからさ」

本来なら、炭ならば木材の形に近い円筒形状になっているはずだ!
と声を大にして噛みつくところではあったが、すでに砕かれたものがパックに入っているものや、ウールに包まれていたりしたものをいくつも知っている。
反論するその気すら起きない。

第一、お師匠様ですら「信じられない」と言っているんだから、これ以上話題に上げても不毛な議論になるだけだ。

だから、わたしは首をかしげながら尋ねることしか出来なかった。

「では、この薄いスポンジ状のものが活性炭で、それがわたしのフィルターに入っていたと?」
「その通り。エーハイム製の活性炭は、外部フィルターに使いやすいような形になっていて、あの時ボクもキミに言ったはずだよ?

――あぁ!
もしかして、飛んでしまった記憶は、これのことだったのかもしれない。
だが……

「……やっぱり、わたしはこれが活性炭だなんて信じられません」

そう言い切ってみると、なぜか彼女と目が合い、二人で声を出し腹を抱えて笑ってしまった。
おそらく、お師匠様もどことなく納得が行かないのだろう。
とは言え、現実を見つめなければならない。

ロゼッタは、わたしの本棚から説明書を引き抜くと、流れるような動きでページを開き指さした。

「でもね、ほら、ここ、ここだよ?」
「どれどれ? あっ……本当だ!」

紙面には、しっかりと「活性炭パッド」と記されている。
あの硬い塊がこんなスポンジになるなんて不思議でしかない。
しかし、感心している間もなく、お師匠様は黒いパッドを見つめながら、静かに言い放った。

「でも、これ、きっと寿命を迎えてるよね?」
「どうして? まだフィルターを動かしてから1か月も経ってないんですよ?」

だって、寿命が2週間なんだもの
「えぇ!?」

思わず声を上げ、心の中で叫んだ。
――おいおい、寿命が二週間だなんて嘘だろ!?

だから、肝心な時に使わないとね?



いつもまにか効力切れ?

この45cm水槽には、それぞれ10cmにも満たない幼魚だが、グリーンロイヤルプレコとセルフィンプレコが住んでいる。
双方ともプレコの中では、喧嘩をしやすいタイプだ。

そのため、シェルター兼、水槽内の構造を複雑にして、各々が持てるテリトリーを広くするために、2本の流木が入れてある。
だが、それから出るアクは酷く、水はすぐに濃い茶色に染まり、水面に差す光は、褐色の揺らめきとなって天井へと反射した。

だから、わたしは……アレを入れたのだ。


「あぁ! なんてことだい!?」

今、ガラス越しに見える水面が揺れ、揺らめく白い光の筋が壁に映る。 水換え中であろうとも、水槽は優雅な姿を見せてくれる。

しかし、それも束の間、コンテナを覗き込んだロゼッタが再び叫んだ。
今度は何だと彼女の手元を見ると、現れたのはロジンバッグを小さくしたような活性炭のパック。

――あぁ、これは、酷いアクを取るために、後からわたしが入れたものだ。

少し呆れたように、お師匠様は眉をひそめた。

「パックが1つ、2つ。さらに活性炭パッドが1つ。もぉ活性炭を計3つも入れてどうするんだい?」
「だって、知らなかったから……」

冷汗をかきつつ、視線を泳がせながら、しどろもどろに答えると、案の定、お師匠様の口から返ってきたのは、正論だった。

「だから、フィルターを動かす前に、説明書はよく読まなきゃ!
「……は~い」

ぐうの音も出ない。
あのパックは、以前流木のアク対策で購入した、外掛けフィルター用のものだ。
1つでは効かないのは明らかだったので、2つ忍ばせて置いたのだが、まさかお師匠様の前で大失態をさらすことになるなんて。

しかし、お師匠様はゆっくりとした瞬きをすると、優しい目をしながら指をさして見せた。

……とは言え、もう効力切れかもね?
「え?」

小首をかしげて返すと、
彼女が指さした先は水槽の水。
その先には、水槽のガラスに映る小さな水滴が、まるで水の精のように黄金色に輝いている。
だが、それを否定するように首を振った。

「この水、黄ばんでいるように思えないかい?」
「いえ……?」

水面は静か美しく、わたしには透明に見えた。
何がダメなのか訳も分からず、ぽかんと口を広げていると、埒が明かないと悟ったロゼッタはコップに水道水をくんできた。
そして、双方を並べて比べてみると……

「あぁ……! うそでしょ? 黄色い!」
「あはは、そうでしょう、そうでしょう?」

目を見開いて驚くと、にんまりと笑みを浮かべて満悦のお師匠様。
腕を組んで、何度か体を揺らすように大きく頷くと、得意げな顔でショートヘアの横髪をさらりとかき上げて見せた。

「んんふ、だって、新しい流木が入ってるだもの、アクが出ないわけないさ!」
「慣れって、恐ろしいですね……」

苦笑いを浮かべながらつぶやく。

「とにかく、活性炭の吸着力は有限さ。メーカーの推奨する期限にかかわらず、水の色が黄ばんできたら、こまめに交換するべきなのさ
「でも、今回みたいに気がつかなかった時はどうすれば?」

不安げにロゼッタを見上げながらたずねると、彼女も宙を見上げた。

「それはだね……」



流木のアクは有害か?

「そもそも、流木のアクは、生体に有害なもの"ではない"んだ。何が漏れ出ているかは、前にも教えたよね?」
「えーっと……タンニンと、腐植酸です」

以前、白くて小さなアクアショップを尋ねた時の会話、その時の記憶をたどるように、考えながら小さな声で答えると、大きな声で返ってきた。

「その通り! これらは水を弱酸性の軟水にするんだ。そして、『熱帯雨林原産』の熱帯魚には、この水質が好ましいというわけさ」

フィルター清掃中の室内。
水槽から聞こえる微かなエアレーションの音だけが、静けさの中に溶け込んでいた。

「とは言え、キミの水槽はプレコ水槽、そしてキミは水の黄ばみに気づいていない。となれば……」
「……無理に変える必要がない、というわけですか?」

半信半疑ながらも、腹の底から声を出すと、お師匠様はにこりと微笑んで頷いた。

「そう、そうなんだよ! 真っ黒で魚体が観察しづらいならまだしも、今の水でも十分ということさ」
「つまり、そろそろ、使わなくてもいいということですか?」

「そう、その通りだと思う。とにかく、アクがまた出てきたらまた入れればいいだけだから、柔軟に考えてみていいんじゃないかな? その方が……」
「お金がかからない?」

「あはは! そこはしっかり理解しているんだね」
2週間毎に交換していたら、お金がいくらあってもたりませんからねっ!

「そうなるよね?」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

カーテンの隙間から差し込む夕日が、水槽のガラスで翻り、淡く輝いていた。
ゆらりと泳ぐプレコの黒い身体が、その光を受けて静かに影を落とす。

結局、その時のお師匠様との会話どおり、わたしはいつしか活性炭を使わなくなっていた。
理由は2つある。

1つは、アクが出きって、活性炭を使わずとも水が透明になったからだ。
プレコ水槽は水換えが激しい。いつの間か黄色かった水はどこかへ行ってしまったのだ。

そしてもう1つが、観察できるなら、無理に活性炭で吸着する必要もないという結論。
アンモニアや亜硝酸は吸着してくれないのなら、多少色味が付いても、それはプレコにとって好ましい水。であるなら無理に透明にしなくてもいいのではないか、という結論に至ったのだ。

魚病薬を除去するときや、水槽の匂いがきつくなった時に利用しようと、お守りとして大切に保管してある。

魚のためのアクアリウム。
それが、わたしとロゼッタから教わった飼育の基本だった。



まとめ

活性炭は水中の不純物や臭いを吸着する役割があり、水をクリアに保つために便利な素材です。
しかし、吸着力には限界があり、寿命はだいたい2週間~2か月程度と意外に短いのが特徴です。そのため、流木のある水槽なら、フィルターを回し始めてから1ヶ月たっても交換していないと、すでに吸着力はほとんどなくなっていることが多いのです。

水槽の水が黄ばんでくるのは流木から出る「アク」と呼ばれる成分が原因です。これにはタンニンや腐植酸などが含まれていて、水を弱酸性の軟水に変える役割があります。「熱帯雨林」が現生地のプレコなどの熱帯魚にとっては、こうした水質がむしろ好ましい環境なのです。ですから、必ずしも水を透明にすることが魚にとってベストとは限りません。

実際、プレコ水槽の水は黄ばんでいても魚たちは元気に暮らしています。むしろ、その色に慣れていることも多いので、透明な水より安心感がある場合もあります。活性炭を使うかどうかは、魚の状態や水の色を見ながら判断するのが賢い選択です。


活性炭はあくまでも補助的な役割。使い続けるなら、こまめに交換して活性炭の吸着力を保つことが大切です。また、無理に水をクリアにしようとせず、魚にとって快適な水環境を優先することが、長くアクアリウムを楽しむコツと言えます。

活性炭の仕組みや特性を知って、賢く使いこなせば、水槽の管理ももっと楽しくなるはずです。

なお、ストーリーでは触れませんでしたが、もちろん弱酸性の軟水が苦手な魚もいます。
ベタやグッピー、硬度の高い水質を持つマラウイに住むアフリカンシグリッドや、汽水域にすむミドリフグがそれにあたります。
ベタとグッピーはともかく、後者2種に関しては、そもそも水を酸性に傾ける流木設置が適しているとは言えません。そのため、よほど匂い気が気になる場合をのぞいて、活性炭を使う機会は少ないと思われます。



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