2025年8月3日日曜日

口コミなんて信じられない?パッケージからひも解くライト選び

疑心暗鬼のライト選び

水草水槽をはじめたいけれど、ライト選びで立ち止まっていませんか?

「育成に向いてるってどういう意味?」
「明るさはどれくらい?」

でも、口コミって信じされない!

――そんな人のために、パッケージからでも分かる選び方をストーリーで紹介します。

**********************************

(これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語)

モノレールの終点から降りて、排気ガスまみれの国道を歩く。
わたしの隣を歩くのは、お師匠様――ロゼッタ。
いつもより無口なのは、煤けた煙のせいだろうか。

交差点を一歩踏み出すと、一気に農園が広がった。
清らかな風のシャワーを浴びると、ガソリン臭さに気負けして、忘れていた決意を思い出した。

「今日は新しいライトを買うのだ」

そう宣言して家を出たのだが。
実のところ、わたしはまだ何も決められていない。

スペクトル、演色性(Ra)、色温度(ケルビン:K)、光量(ルーメン:lm)……。さっきまで意味不明な言葉の羅列だったが、お師匠様の熱心な説明で理解はできた。

だが……



ライト選びの迷宮へようこそ



口コミを信じなければ何を信じるとうのか?

それから15分歩き続け、大きなアクアリウショップにたどり着いた。
白を基調とした二階建てのその店は、わたしが知っているどれよりも大きく、さながら白亜の城塞のように感じられた。

しかし、中に入りいざLEDがずらりと並んだ棚の前にたどり着くと、わたしはここが大迷宮だと気が付いた。

選べない、選べないのだ。

足がすくみ、手が動かない。
不思議なことに、どれも同じに見えるのだ。

たしかに、パッケージを見ればスペクトルやルーメンは書いてある。
ご丁寧に演色性や色温度まで書いてあるものもある。
だが、実際に目の前に並んでいるライトとが、頭の中の理想像とまるっきり繋がらないのだ。

ライト選びは、光で選びだ。
だが、今選んでいるのはアルミでできた銀の箱。
いくら記号の羅列やグラフでアピールされても、まるで頭の中に入ってこない。

見れば見るほど、食指が止まる。
果たして求めているものは、これなのか?
なんだか別の次元に存在しているかのようさえ思えてくる。

そんなわたしを見かねたのか、お師匠様がのぞきこむように静かに尋ねてきた。

「どうしたんだい? もう、決まっているのじゃないのかな?」
「実は、さっきの話がイメージに全くつながらなくて。それに、口コミと言われても、どこまで信用していいのやら……」

「なるほどね。そうだね、じゃあそのライトが水草が育つかどうか、パッケージだけでも選べるように説明してみよう♪」

ロゼッタは穏やかな雰囲気を出しつつも、いつもの得意げになお師匠様の顔になった。
売り場の蛍光灯に照らされながら、軽やかに棚の前へと歩いていくその背中は、なんだか、頼もしくもあり不思議と安心する。



スペクトルという蟻地獄

「まず、パッケージから見つけたいのはスペクトルの曲線が載っているグラフだね

わたしはうなずいた。スペクトル――それは、光を構成する様々な波長を順に並べたものだ。虹のような配列、と言えばいいだろうか。そして、その色の配列にも強さがある。
横軸を配列、縦軸を強さとすると、波のようなグラフができる。このグラフが重要なのだ。

「水草用として販売されているライトには、このスペクトルのグラフが載っていることが多いんだ♪」

たしかに。
水草育成用であるからには、育つとことの一番の根拠となるのがスペクトルだ。
とは言え、前々から不思議に思っていることもある。

「でも、載っていないのは、絶対にダメなんですか?
「いいや、載っていないライトでも水草が育つことはある。たとえば、グラフはないけど、LEDの素子に赤と青がばっちり配列されてある……とかね?」

――そう、そうそれだ。
気になっていた1つ、某メーカーのライトは、口コミでは水草が育つと報告が上がっているが、肝心のスペクトルの図がないのだ。

「そういう機種は判断が難しいから、ボクなら、口コミで判断するかなぁ~」
「でも、もし、レビューの数が少なく信憑性がないときは、どうすればいいんですか?」

むむむとお師匠様は唸ってしまった。
頬杖をついて黙り込んだのち、しばらくしてからゆっくりと口を開いた。

「まぁ、そうなってくると、能書きを信じるしかないよね?」
「はぁ……、でもそれじゃあ口コミを信じるのと、同じような気がするんです」

「あはは、ずいぶん疑心暗鬼だね? そうだねぇ、たとえ能書きに水草が育つと書いてあっても、スペクトルのグラフがない以上、怖くて買えないというのが、本当のところだと思うんだ

――やはりそうか。
ライト1つで、5,000円。
ギャンブルでライトが買えるほど、アクアリストの懐は温かくない。

「まぁ、その……、もし、キミがスペクトルを測定する機械を持っているとか、人柱になる覚悟があるのなら、話は別だと思うけどね」

お師匠様は足を交差しつつ腕を組み、宙を見上げて未だに唸っている。
これはよほど難しい問題なのだろう。

「まぁ、それはそれ、これはこれだね」

と、可愛らしくポンと手を叩いて、話を勧めた。

「それでね、スペクトルを見るにあたって、どの波長も良くチェックすること」

植物が光合成で利用できる波長は葉緑素によって決まっている。
それ以外の波長は意味がまったくないわけではないが、現状では軽視されている。

「えーっとですよね?」
「その通り。青と赤の双方がバランスよく入っているのが大切なんだ」

説明しながら、お師匠様は手近な製品の裏面を指さした。そこにはスペクトルのグラフが描かれており、青と赤の山がしっかりと立っている。

「とは言え、自信満々にグラフが書いてあるほとんどの場合、青色と赤色が突出している曲線になっていることが多いんだ」
「どうしてですか?」

「だって、メーカー自ら、うちの商品は水草が育ちません! とは言わないものね?」



ルーメンで遭難した話

次に抑えておきたいのが、光量。ルーメン、lmで表されているね

それも、さっきモノレールの中で覚えたばかりだ。
――えーっと確か……

「明るさなんですよね?」
「その通り! だいたい60cm規格水槽で1000lmくらいあれば大丈夫かな。最近はもっと明るいのもあるけどね」

「でも、あくまで明るさだけなんですよね」
「よく覚えているね! 人間に明るく見えても、水草には効果のない光もある。同じ白色でも、青と赤が入っており水草が良く育つものもあれば、そうでないものもあんだ」

曰く、その具体例が安物のインテリア用の照明なのだという。
安価で明るいこれらは、残念ながら水草が育つスペクトルをあまり含んでいないようなのだ。

「実際ボクも2灯揃えて使ってみたんだけどね、マツモですら育たなかったよ」
「だからこそ、スペクトルがはっきりしていて、ルーメンがあることが、パッケージから選ぶ基準なんですね」

「そういうこと、やっぱり波長って大事だね。あれは失敗だったなぁ~」

お師匠様は肩をすくめて首を傾げた。

――なるほど

と口が開きそうになった時、矢継ぎ早に彼女は言った。



ライト売り場という魔境

「あぁ、それと、ライトの区分も大切だよ? 水草育成用なのか? それとも鑑賞用なのか?
「その……鑑賞用って、どう違うんですか?」

「鑑賞用かい? これは魚の見え方、水の美しさに重きを置いたものさ」
「どういうことですか?」

「ほら、金魚水槽や大型魚水槽とかね? ああいう水槽で水草が育つライトを使うと、困ることがある」
「???」

「だってほら、そういった水槽は汚れやすいでしょ? もし、水草育成用ライト使ったらどうなる?」
「それは……コケます……よね?」

こくこく。お師匠様は満足そうに頷いた。

「だから鑑賞ライトは、そもそもスペクトルが記載されなかったり、『鑑賞用』と記されていたり、不自然に安かったりするんだ。だから、一応見分けはつくと思うよ。でもね……」

曰く、今の売場には水草育成用も鑑賞用も、すべて同じ場所に並べられてしまっているのが、そもそもの問題なのだという。
目的の異なる製品が、同じ“アクアリウムライト”という棚に押し込まれている。それは初心者にとっては、罠にも等しい。

「これじゃあ、金魚水槽はコケだらけ、水草水槽はスペクトル不足で生長障害……なんてことにもなりかねないよね?」

なるほど。
大事なのは、合った光をパッケージの情報から選ぶこと。
だから、わたしは迷っていたのかもしれない。



プレコ水槽+アヌビアス-コケ=?

だが、それが分かると段々と不安になってきた。
プレコ水槽に水草育成用ライト。
コケまみれに一直線ではないか……?

「その、プレコ水槽のアヌビアス・コーヒーフォリアなんですが……」

「おっ! やっと本題だね。ボクとしては光量が控えめのものをお勧めしたいところだね。値段も安いしね

――光量控えめ!?
あぁ! そういうことか!

「それは、スペクトルがあっても光量を抑えれば、コケも抑えられるということですね?」
「ご名答!」

お師匠様の言葉に、ようやく視界が開けた。

たしかに陰性植物には過度な光はいらない。
無駄な光は、コケを呼び込むだけだ。
育てるために必要なのは、ほどよく計算された光――その見極め方を、わたしはなんとなく掴んだ気がする。

売場のど真ん中に鎮座する2つのライトを見る。
双方とも人気機種で値段も安い。
その裏面をみるとなるほどスペクトルは十分だが光量が低い。

とは言え、困った。ほぼ同じ性能どちらを選べばいいのやら……
そうなるのを見越していたのか、お師匠様からアドバイスが飛んでくる。

似たようなスペクトルと光量で迷ったら、演色性と色温度、さらにメーカーで選んでね?

――あぁ、だから、モノレールの中で口酸っぱくその説明をしていたのか!
演色性をみる。どちらもほぼ同じ。ならばと色温度を見比べてみる。

「……決めました」

「んふふ。じゃあ、レジに行こうか♪」

お師匠様の横顔が、ほんの少しだけ笑って見えた。
その一瞬を胸に刻みながら、わたしはようやく一歩を踏み出せた。



まとめ

アクアリウムライト選びは、ほんとうに難しいものです。

特に水草育成用を選ぶときは、スペクトルやルーメン、演色性、色温度と、専門用語がたくさん出てきて大混乱に陥ることもあります。
また、せっかくパッケージに書かれている情報も、数字とグラフばかりでピンとこない……そんなことも起きうる、まさしく初心者キラーなお買い物です。

そんなときはまず、スペクトルのグラフをチェックしてみましょう。
青と赤の波長がしっかり入っているかが、水草育成のカギです。
そして光の量、つまりルーメン(lm)も重要なポイント。
明るすぎてもコケの原因になってしまうので、特に初めて水草を育てる方は、光量やや控えめのものを選ぶのがおすすめです。

なお、光量こそ正義!を地で行くとコケ地獄が待ち受けています。
これはベテランさんでもドツボにはまる失敗で、育成する水草に合わせて光量を合わせるのが理想だといえるでしょう。

また、パッケージに「水草育成用」や「鑑賞用」と書いてある場合は、それも重要な見分けポイントです。前者は水草水槽向け、後者は生体水槽向けとなります。混在して売られていることも多いので、情報をしっかり見極める目が求められます。

最後に迷ったときは、演色性(Ra)や色温度(K)、そして信頼できるメーカーかどうかを判断材料にすると◎です。

ちょっとした知識が、後悔のない水草育成環境へと繋がります。
よく理解してから、商品を購入したいものです。



0 件のコメント:

コメントを投稿