水換えで火傷した話
水換えって、水を抜いて足すだけ……って思っていませんか?
実はその裏に、ちょっとした「落とし穴」が潜んでいるんです。
今回は、水換え時に電源を切るべき機器について、初心者さんにもわかりやすいよう、ストーリで紹介します。安全に、そして快適にお魚たちとの暮らしを楽しむために、ぜひチェックしてみてくださいね。
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秋の陽射しが柔らかく差し込むと、水槽のガラス越しに光がきらめいていた。プレコが2匹、底砂を這うように動きながらコケを削っている。
「ほんとによくコケるなぁ……」
わたしはため息をつきながら、スポンジを手にガラス面の汚れをこすった。
プレコたちがせっせと働いても、しばらく放っておくとこの有様になる。
いくら彼らがコケ取り職人でも、大食いゆえに自ら引き起こす水質悪化にはかなわないのだ。
だから、わたしは時折、徹底的に掃除することにしている。
のだが……
水換え前の電源OFFは大切な習慣
フィールドワーク
今日も、お師匠様を自宅に呼んでいる。
変わっているかもしれないが、水換えをしながらアクア談義をするためだ。
絶対的な数が少ない生物系オタクは、このようなことでもしないと楽しめる場所は絶望的に限られているのだ。いわば、フィールドワークの水槽版だとも言える。
そのロゼッタは、今ドリンクを買いに行っている。
プロホースで水を抜きつつゴミを吸い出し、流木を外してガラス面のコケをスクレーパーで削いでいく。
魚たちは二匹揃ってフィルターのパイプの陰に避難している。
いつもと違う水槽の雰囲気に、少し警戒しているようだ。
だが、急に鼻をくすぐるような、奇妙な匂いが漂った。
何かがおかしいと、匂いの先である水槽の右奥に視線を走らせると、
飛び込んできたのは、ヒーターが水面から3cm上に露出しているという異常な光景。
心臓が跳ね上がり、思わず叫ぶ。
「ん! やばっ!」
慌てて手を伸ばし、ヒーターを水中に戻そうと掴んだ
──その瞬間だった。
「ッ!?!!?」
瞬間的な熱に思考が吹き飛び、反射的に手を引っ込めた。
「あちちち!!」
あまりの熱さに、わたしは握りかけたヒーターを咄嗟に放すと……
――ッシュ……
熱せられたヒーターが水で冷却されると、小さな音を発したした。
水温は? 魚は!?
大丈夫だ、被害はない。
だが……
![]() |
・カバー付き安全回路あり! なんてヒーター20年前は少なかったような |
ヒーター過加熱はダブルショック?
「ちょっと! 大丈夫!?」
扉が勢いよく開かれ、駆け込む足音が響いた。
驚いた表情でわたしに駆け寄ってきたのはお師匠様。
彼女の視線が、わたしの赤くなった手と水槽の中のヒーターを交互に行き来する。
「やけど、大丈夫?」
「う、うん……ちょっとびっくりして」
「ちょっと! 見せて!!」
恥ずかしながら手を差し出すと、今しがた買ってきたばかりのペットボトル入りの緑茶を水槽用のたらいに注ぎ込んだ。
「とにかく冷やさないと!」
気まずさと恥ずかしさが混ざりながら、わたしがたらいに手のをためらっていると、腕を掴まれ強制的に入水。
想像以上に効果があり、ひりひりとした痛みが少し和らいだような気がして、思わずため息をつくと、お師匠様はきっと睨みつけてくる。
「慣れてきたとはいえ、まだ初心者。基本はしっかりと、だよ」
彼女は小さく肩をすくめ、呆れを隠しきれない口調で告げた。
だが、彼女が言う“基本”とはなんだろう?
首をかしげると、ロゼッタはわずかに呆れたような笑みを浮かべた。
「え? そんなことも知らないで水換えしてたの?」
「むしろ、水換えで水を抜く以外に何が基本なんですか……?」
「これは、みっちりと教え込まないといけないみたいだね♪」
そう言いながら、彼女は手早くコンセントに手を伸ばし、ヒーターの電源を引き抜いた。
そして、お師匠様は、わたしの赤くなった手を見て、表情を引き締めながら言った。
「まずは水換え前にヒーターの電源を抜こう! いくら安全装置が付いているとはいえ、今回みたいに火傷することもあるからね」
痛みが残る手をお茶の中でさすりながら、わたしは素直にうなずいた。
「それと、火傷した時は15分以上冷やすこと。ほら、手を水から出さないで!」
「……は~い。……はぁ、なんで触っちゃったんだろ」
状況を考えるだけでもなんだか情けなくなる。
あの時、水位をしっかり確認していれば、慌てて触れるようなことをしなければ、こんなことにはならなかったのだ。
とにかく、ヒーターをもう一度コンセントに入れて……
空いた手を伸ばすと、ロゼッタはさらりと告げた。
「何やってるの? このヒーターもう使い物にならないんだよ?」
狼狽した。
「えぇぇ?」
「こういうプリセットタイプは、安全回路が動作するとヒーターは通電しなくなることが多いだ。つまり、もう温めてくれないってこと」
ひと呼吸おいて、財布の中身を想像しながらつぶやいた。
「はぁ……これは参りました。また買わないと」
「そうだね。無駄になっちゃったね」
「火傷もしてヒーターも壊す、今日はさっぱりダメな日です」
ロゼッタはくすっと笑ったが、そこには責める気配はなく、むしろ励ますような優しさが含まれていた。
水換え時のフィルターの電源はONかOFFか
「そうだ!」
と手をポンと打つと、お師匠様にはいつもの得意げな顔が表れる。
なにか伝えたいことがあると、決まってこの顔つきになるのだ。
「それ以外にも、水換え時には電源を注意してほしい道具がいくつかあるんだ」
「……えぇ、いくつも?」
よほどわたしは目を丸くして驚いたのだろう、再びくすりと笑ってすぐさま頷いた。
「そうなんだ。まずはフィルターだね」
「え、フィルターもダメなんですか?」
「上部や外掛けと違って、実は外部フィルターは水位が低くても動くんだけどね」
「なら、よさそうな気もしますけど……」
ロゼッタは首を振りながら諭すように言った。
「でもね、清掃中に浮いたコケや汚れを吸い込むと、ろ材で漉しとられるワケじゃない? それがフィルター内に留まり続けるわけだから、あまりよろしくないよね」
「うーん、たしかに……それは、よくないですね」
「本来だったら、水槽外に排出されていたものでしょう? それが一番掃除しづらいところに入るわけだからね?」
――なるほど。
もし、流木の隅に落ちていた残飯が吸い込まれてしまったら、それを取り除くのは面倒だし、間違いなく水質悪化の一因となるだろう。
「そればかりじゃないんだ、これってサイフォンとパワーヘッドの力で水を引っ張っているでしょ? だから、もし掃除中にパイプがズレて空気をいっぱい吸うと、インペラまで空気が行って止まってしまうのさ!」
「それって、もしかして……フィルターを開けないと再起動しませんかね?」
「まぁ、ちょっとエア噛みしたぐらいなら、左右に揺さぶったりすれば何とかなるかもね。でも、いっぱい吸っちゃったら、フィルターケースの水を一回抜かないと、うまく呼び水できないかもね?」
「うーん、揺するぐらいならいいですけど、呼び水からの再起動はやりたくないですね」
「そうでしょう、そうでしょう? もう、呼び水ごっくんしたくないものね? あはは!」
――あぁ。
生ぬるい水、鼻に抜ける生臭さ。下に張り付くヘドロのような感触。
最悪だ。
脳裏にこびりついて、いつまでたっても消えてなくならないのだ。
想起した内容があまりにも酷いものだったので、思わずお師匠様に抗議をする。
「ちょっと! 嫌な記憶思い出させないでくださいよ! だいたい、あれは……」
「あはは、ごめんごめん♪」
少女のように目をクリンとさせて、口元に浮かぶ満足げな笑み、わたしも思わず苦笑いが漏れる。
「とは言え、フィルターの電源入れ忘れには注意! うっかり忘れると大惨事になるから、これが嫌でフィルターの電源を抜かない人もいるんだ~」
![]() |
・抜いたら挿し戻す! 忘れずに!! |
全ての失敗よ、血肉となれ!
すっかり、お師匠様モードになったロゼッタの話はまだまだ続く。
「それと、エアポンプも気を付けてほしい点さ」
「もしかして……あれですか?」
「お? 分かってるかな?」
「もちろんです。漏水ですよね?」
「その通り! キミは経験あるものね。ちょっとした反動でチューブ内が陰圧になると、水が逆流してくることもあるんだ!」
「絶対にチェックバルブは付け忘れないように、ですね?」
「その通り!」
わたしの正解に、ロゼッタは満足げに頷いた。
だが、彼女の講義はまだまだ続く。
「それとね、機種によってはライトも消した方がいいかもね」
予想外の一言に、思わず声を裏返らせてしまった。
「えぇぇ、そこまでする必要ありますか!?」
「まぁ、最近のLEDじゃなくて、メタハラや蛍光灯を使っている人に当てはまるんだけどね、すごく高温になるものもあるんだよ?」
「あ、もしかして……また火傷ですか??」
「そうなんだ! 肌に触れるとさっきのキミみたいに火傷を負うこともあるんだよ?」
わたしは自分の手をもう一度見つめ、軽く指を曲げる。
ほんのり赤い皮膚が、さっきの熱を思い出させた。
そうして、やっとお師匠様は話をまとめにかかった。
「もっとも、どれも停止させないで水換えする人なんて、いっぱいいるけどさ~。でもキミは初心者だから、基本に忠実であるべきだ」
落ち込んだように小さく返事をしながら、わたしは視線をそらして返答した。
「はーい……」
「大丈夫、いつかはきっと、今日のことを笑い話にする日が来るから♪」
「少なくとも今まで、ボクとほとんど同じ失敗をしてるからね」
そう言い切ると、ロゼッタは微笑みながらウィンクをして見せた。
一瞬見せた、女性らしい素顔にどきりとしつつも、ひとつひとつの失敗が、大きな経験値の違いになるんだろうと納得せざるを得なかった。
まとめ
アクアリウムを楽しむうえで欠かせないのが「水換え」。
でも、意外と見落としがちなのが、その時に電源を切るべき機器たちです。
ストーリーで紹介した、注意したいポイントをまとめてみました。
まず最重要なのがヒーター。水換えで水位が下がるとヒーターの一部が空気中に出てしまい、過熱で火傷や故障の原因になります。水換え前には必ず電源をオフにしておきましょう。また、安全回路が動くと、そのヒーターは再使用が不可能になります。無駄な出費を抑える点からも、よくチェックをしましょう。
次に注意したいのがフィルターです。水位が下がると稼働しなくなるものもありますが、もし清掃中に稼働させ続けると、掃除で浮いた汚れやゴミを内部に取り込んでしまいます。フィルター内で汚れが溜まると水質が悪化する原因になります。また、外部フィルターは空気を勢いよく吸い込んで、エアを噛んで停止してしまうこともあるので、作業前には一度ストップするのがベストです。
なお、フィルターの電源を止め後は、必ず通電を確認する癖を付けましょう。
さらに意外な盲点がエアポンプ。電源停止で陰圧によって水が逆流し、漏水事故になる可能性があります。チェックバルブを使用していれば、起きないことなので、必ず利用しましょう。
最後に、ライト。とくに蛍光灯やメタルハライドランプなどはかなり高温になることがあり、水換え中に手が触れると火傷することもあります。安全のために、消しておくと安心です。
慣れるまでは「水換え=電源チェック」の習慣をつけると、安全&快適なアクアライフを送れるはずです。
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