暑い季節に忘れちゃいけない、毎日のひと手間
夏。気温も上がり、エアコンが切れればも室内はすぐに蒸し風呂状態。そんな中でもアクアリウムを支えるのが、冷却ファンです。
でも、ちょっと目を離すと水位がぐっと下がっていた、なんてことありませんか?
実はこの季節、室内クーラーに冷却ファンにと、水槽から水が蒸発するスピードは想像以上。これが、魚にとってはストレスの起点となってしまうことがあるのです。
今回は、夏だからこそ大切な「足し水」について、わたしが重要性に気が付いた物語とともに詳しくお話ししてみましょう。
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(これは20年以上前のこと……)
プレコを飼育して、もう2年。
最初は一匹だったはずなのに、いつの間にか三匹、四匹となり、水槽の中がにわかににぎわい始めてきた。流木に隠れ、流木を争い、夜になると餌を求め、活発に活動を始める小さな生き物。わたしはすっかり夢中になってしまっていた。そう、今までの小型水槽ではもう狭いのだ。
たった3cmの水位低下がもたらすもの
水槽サイズアップ計画
ある日、ついに60cm規格水槽を手に入れた。意中のものではなかったが、水の中の世界との境界が溶け込むオールガラスの美しさに惹かれたのだ。新たにレイアウトした水槽は、ガーネットサンドに大きな流木を1本、そしてカミハタSEIOという強力な水流ポンプを装備した自慢の作品となった。
今日はそのプレコ水槽を、学友であり熱帯魚のお師匠様に見てもらう日。わたしは扇風機の風を受けながら、玄関のインターホンが鳴るのを今か今かと待っていた。
うなる冷却ファンの裏で失われるもの
やってきたお師匠様は、ドアを開けるなりクーラーの風に和むことなく、開口一番こう言い放った。
「キミ、ちゃんと足し水してる?」
指摘されたその瞬間、水槽に目を向ける。確かに、白いラインが何段か水槽壁面に浮かんでいるようだ。
「ふふーん、まだわからないのかなぁ~? こんなに冷却ファンはがんばてるのにねぇ?」
お師匠様は、硬い表情で水面とそのラインの間にさっと手をあててみせた。
するとどうだろう、見慣れていたはずの白い段々だが、今や注意喚起のサインのように見えならない。
しかし、ここへきても、わたしにはさっぱりわからない。一体、なにがだめなのだ?
どうやら時間切れのようだ。腕を組み、至らぬ弟子をプンプンとわざとらしく怒って見せた。
「指で測ってざっと3cm。曲がりなりにも理系なら考えてほしいなぁ」
「でも、水換えも5日前にはすませてあるので……」
「わかるよ、わかるよその気持ち。でもそうじゃないんだ。違うんだよなぁー」
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・たったの数リットルだが…… |
失われた“6リットル”
にやりと笑って見せたお師匠様に、怒るというより、楽しんでいるのでは? という疑念がよぎったが、わたしは黙って話の行く末を見守っていると、お師匠様はバッグの中から、かわいらしいい手帳を取り出した。
「どれどれ、式を書いてみればすぐにわかるはずさ」
パタンと開いてページをめくりつづけ、真っ白なページを見つけると、そこでサラサラと比例式を書き始めた。
「60cm規格水槽の水量は?」
「だいたい60Lかな?」
「その通り。じゃあ高さは?」
「だいたい35cmぐらいのはずです」
「正解! じゃあ高さ1cmあたりに入る水量は?」
「うーんと、2リットルより少し少ない感じですか?」
「そう! それが3cm分なくなったということだね」
大きくうなずいた後、今度は別の問題を出してきた。
「2×3で6リットルの水が蒸発しました。どんな問題が起きているでしょうか?」
お師匠様は満足げにニマリと笑い、期待通りの回答が返ってくるのを待っているようだった。
熱帯魚のためにできること
ここで、ようやくはっと気がついた。水槽の水には水そのものだけではなく、たくさんの成分が含まれている。溶け込んでいる酸素や二酸化炭素、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル、そして魚たちの排泄によって生まれる硝酸塩などの汚れ──。
その溶媒たる水が蒸発すれば、濃縮されていくのだ。
「ということは、水がさらに汚れたということですか?」
「正解! そうなんだ!」
ふと、お師匠様の視線と合わさった。眉はつりあがっているが、瞳の中は穏やかな海がひろがっているようだった。
「60Lのうち6Lもなくなったんだから、どれだけ悪影響かわかるでしょう?」
クーラーの効いたこの部屋で、それでも回り続ける冷却ファン。その先で暮らす彼らのために、わたしはもう一度、水槽の側面にできた白い段々に目をやった。
「これで分かってくれたかな? プレコは水質に敏感なんだ。なるべくベストの状態を維持したいじゃない」
そして、わたしはバケツを用意し、水を汲み始めた、彼らの住みよい水を目指して。
なぜ夏は足し水の頻度が増えるの?
と、いうわけで……
夏の高温、水槽内の水はどんどん蒸発する傾向にあります。特にフタのないオープン水槽や冷却ファンを使っている人は注意が必要です。ファンやクーラーなどの風が直接あたりよく冷える分、気化熱で水分はぐんぐん失われていくからです。
たとえ水換えをしていても、足し水を怠ると、水位低下と水質の濃縮で魚へのダブルパンチ。特に硝酸塩やミネラルが濃縮されると、生体の健康にじわじわ悪影響を与えることもあるのです。
抑えておきたい足し水のポイント
ここでは、足し水のコツを簡単にまとめてみました。
ポイント | 説明 |
---|---|
毎日水位を知る | 水槽のふちにテープで目印をつけておくと、減り具合がすぐにわかります。2~3cm減っていたら迷わず補給しましょう。 |
水温差に注意 | 猛暑日には水道管から生暖かい水がでることがあります。必ず、水温計や手で触って温度差が少ないことを確認してから足しましょう。 |
カルキ抜きしよう | 塩素は魚やバクテリアにダメージを与えます。中和剤を使いましょう。夏場は特に水道水の塩素濃度が高くなりがちなので要注意。 |
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・45cm規格水槽までしか対応していませんが、自動的に足し水をしてくれる道具もあります。 この道具の話はこちらから。 |
水槽は、夏の暑さに意外と弱い存在です。毎日の足し水という小さなケアを続けて、最も厳しい季節を乗り越えたいものです。
というわけで、今回はここまで。
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