知らずに買って失敗
水草水槽の中を、きらりと光る青い影がすいすいと泳いでいく。
そんな幻想的な光景をつくってくれるのが、小型美魚「ブルーテトラ」です。
丈夫で飼いやすく、泳ぐ姿がとても美しい熱帯魚ですが、気をつけたいポイントがあります。
今回は、わたしが大失敗した物語とともに紹介したいと思います。
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(これは、今から20年前の物語。)
30cmキューブ水槽にささやかな水草の森を育てはじめていた。小さなネオンテトラたちが、青と赤のラインをきらめかせて群れる姿は、まるで水中の万華鏡のようだった。しかし、きらめく数が少なく、少し空虚にに感じられた。
おさまりきらない宝石の行方
運命の出会いはデパートの片隅で
春の訪れがほんの少しだけ感じられる、ある休日の午後。
ふらりと立ち寄った街のデパートで、思いがけず足を止めた。1階フロアの片隅に、熱帯魚店があったのだ。
展示水槽の中、宝石のように輝く魚が泳いでいた。透明な体に、深い青を差し込んだブルーテトラ。そして、赤い鼻をチャームポイントのラミノーズテトラ。
「混泳? 大丈夫ですよ~」
と、自分と同い年ぐらいの若い店員の甘い言葉に乗せられて、気づけば2種合わせて5匹、別々の袋に入れてもらい自宅の水槽へと迎え入れていた。
青の暴れん坊
しかし翌朝、水槽の前に立ったわたしは、目を疑った。
ラミノーズが、2匹のブルーテトラに激しく追い回されていたのだ。逃げても逃げてもしつこく泳ぎ回り、先住民である5匹ネオンテトラたちでさえ、怯えてパイプの影に身を寄せている。
夜になっても様子は変わらなかった。
電気を消しても、月明かりでお互いの違いがわかるのだろう。
ビシャッ! バチャン!
水音が止む気配がない。
「これではいけない」と、雨戸を閉めて肉眼でも室内が見えないくらい暗くすると、ようやく静けさが戻ったが――。
翌朝、学校の準備中に悲劇が起こった。
チャパッ!……ビチビチビチ!!
水槽の外で跳ねる音。
ついに、ブルーテトラがラミノーズテトラを追い出したのか。
大慌てて駆け寄ると……、
なんと攻撃を仕掛けていたはずのブルーテトラが床にいた。
追いかけまわし、勢いあまって飛び出してしまったのだろう。
責任をもって最後まで
「はぁ? ブルーテトラ!? 相談してくれればよかったのに!!」
電話越しに聞こえるのは、お師匠様の怒鳴り声。わたしの大学時代の学友であり、魚飼育の大先輩。
暴走機関車の気の収め方について縋ったのだが、愛のあるお叱りを受けてしまった。
その話では、どうやら、ブルーテトラは見た目に反して気が強く、飛び出しやすい魚種らしい。
そのため、セパレーターで隔離しフタをするのが普通だとか。しかし、状況を説明するにつれ、なお興奮は高まったようで、「たったの2匹で?」と電話越しに聞こえるのは驚き興奮する声が聞こえた。
「それがラミノーズとネオンの計8匹に喧嘩を仕掛けたの?」
「なんとまぁ! 噂には聞いていたけどもさー」
怒り、興奮、そして失望。
感情をすべて吐き出し、段々と落ち着きを取り戻したお師匠様は、最後に話を締めくくった。
「とにかく、最期まで飼育するのはもちろんのこと、今度はよく調べてから買うべきだね!!」
わたしは黙って頷くしかなかった。
訪れた静寂
隔離の準備を始める。お師匠様に言われた通り、以前使っていた20Lの水槽を用意した。
ここに、以前使っていた外掛けフィルター、さらに30cmキューブでサブフィルターとして使用中のスポンジフィルターもセットしよう。もちろんフタも忘れずに準備だ。
おまけとして、プレコのために準備しておいた、板状の流木を配置。これで喧嘩も和らぐだろう。
急いで勉強机の上にセッティングし、飼育水を拝借。
最後に、できた水槽にブルーテトラ2匹を仲裁するよう、網で掬って隔離した。
途端、わたしの水草の森に静寂が訪れた。
こうして、青い宝石はひとつの水槽に収まりきらないことを、わたしは身をもって知ったのだった。
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※なお、ここで登場したブルーテトラは、思いのほか長期間元気な姿を見せてくれることになるのですが、それはまた別の機会に記そうと思います。
飼育者を悩ませるブルーテトラの気質
青い体が宝石のように美しい「ブルーテトラ」。一目惚れでお迎えしたものの、水槽の中が一変、「こんなはずじゃなかった!」という声も少なくないようです。
爽やか見た目に反して、実はその気質には少しだけ“やんちゃな一面”を持ち合わせています。
ブルーテトラの性格と混泳の難しさ
ブルーテトラは、テリトリー意識が強く、気の強い性格をしています。特に自分より弱い相手の数が少ない場合、場当たり的に魚をしつこく追い回し、突いたりすることさえあります。
以下、このような魚に対する典型的な対象方法を紹介したいと思います。
対策項目 | 説明 |
---|---|
隔離水槽の準備 | 混泳がうまくいかない場合、すぐに移動できるように小型水槽やセパレーターを用意しておきましょう。 |
ターゲット分散 | 弱い魚でも多数いればターゲットが分散され、被害を抑えることができます。また、過剰なテリトリー意識を抑えることにも繋がります。 |
大きな魚と一緒に | いくら喧嘩っ早くても自分より大きな魚には引いてしまう側面もあります。もちろん、ブルーテトラを捕食する可能性のある魚との同居はやめましょう。 |
混泳は慎重に | 多頭飼育のコミュニティタンクで成功しているように見えても、ちょっとした変化で水槽内のバランスが崩れることがあります。攻撃性が再燃し、水槽が「ケンカ場」と化すことも。 |
飛び出し注意 | 「~テトラ」と名のつくカラシンの仲間は遊泳力が高く、喧嘩しているときや驚いたときに、水槽から飛び出すことがあります。フタのないオープンアクアリウムでは特に注意が必要です。 |
まとめ:魅力と向き合うために
ブルーテトラは、美しさとトラブルメーカーな性格が同居した、ちょっとクセのある魚です。適切な環境と距離感を保てば、しっかりその魅力を楽しむことができますが。とは言え、やはり中級者~上級者向けの魚であるのは確かなことです。
「青い宝石」とうたわれるほどの美しさを、水槽で輝かせるためにも、「備えあれば憂いなし」の気持ちでお迎えしたいですね。
と、なんとなく、うまく締めくくってしまいましたが、今回このような話を投稿したのは、わたしのように失敗して欲しくない、これ以上犠牲となる魚を生み出したくない、という強い思いがあるからです。魚を購入する際は、入念に下調べをするようにしましょう。
というわけで、今回はここまで。
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