水槽の底砂掃除、なぜ必要?
底砂は、水槽の中で最も汚れがたまりやすい場所。見た目には分かりにくくても、放っておくと水質の悪化や病気の原因になってしまうこともあります。この記事ではストーリーで、底砂掃除の理由についてわかりやすく紹介したいと思います。
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(これは20年以上前の物語。)
それは、初めてのプレコタブレットだった。
寝る前に小さな円盤状のそれを、そっと底に沈めたのだが、どうやら意中の相手に見向きもされず、残飯になってしまったようだ。このままでは水を汚すだけだと思い、わたしは早々にピンセットで取り出そうとした。
ところが――。
「へにゃっ」
情けない音を立てて折れたタブレットは、取り出す途中で二つに分裂し、さらに着底と同時に四つに砕けた。その一部は、底砂と流木の隙間にすっぽりと入り込んでしまった。
底に眠る晩餐の行方
崩れたタブレット
「これは、もうだめだ」
どうやら、つまんで取り出すのは絶望的だ。
わたしは、学友であり熱帯魚の“お師匠様”に頼ることにした。
夏の夜の街には、炭火の煙と汗のにおいが入り混じって立ちこめていた。
ネオンが交差する道を進む。あからさまな看板、門番の立っている店、そして、書くのも憚られる劇場。ここは男の街だ。
わたしは次第に無言で早足になり、その隣を歩くお師匠様はというと、こちらも明らかに目をそらし、挙動不審なままついてきている。
場違いな二人が目指すのは、喧騒の一角にぽつんと佇む熱帯魚店。
そこにだけは、清涼感があり心が落ち着く。小さなガラス越しの世界に、広大な大海が広がっているからだ。
プロホースとの出会い
「あった! これこれ!」
店内に入るなり、お師匠様が声を上げた。手にしているのは、プラスチックパイプがくの字に曲がった絵の描かれたパッケージ。
「プロホースっていうんだ。見たことあるか?」
「それって水換えの道具でしょ? ホースは持ってるけど……」
そう答えると、お師匠様は小さな鼻をこすりながら、語気を強めて言った。
「これはね、底砂の掃除も一緒にできる道具なんだ」
曰く、水流の力で底砂の中の汚れを吸い出すための道具らしい。
肝となるのは、パッケージの絵にもなっている透明なパイプで、この中で底砂が竜巻のように回転し、中に含まれているゴミだけが水槽の外へと吸い出されていく仕組みらしい。
「その汚れの取れっぷりと言ったら、この道具の右に出るものはないさ!」
たしかに。
水流の力をうまく使えば、あの崩れたプレコタブレットも一網打尽にできそうだ。
とはいえ、よくよく考えれば、魚掬いネットでもできそうな気もする。
その心中を察したのか、師匠は唐突に咳払いをして、腕を組みながら話し始めた。
「こほん! そもそもだ」
長くて重たい”主張”
「プレコという魚は大食漢だ。餌をがつがつ食べて、流木までかじる。すると、どうなるか」
「水を汚すってことですよね?」
「あはは、まあそれもある。でも、今話しているのは、糞のことさ」
お師匠様はさっとわたしの腕をつかんで、ある水槽の前へと引っ張った。
「ほら、この通りだよ」
目の前にいたのは、体長30cmはあろうかというロイヤルプレコ。その水槽の隅には、優に10cmはある細長い排せつ物がびろーんと一本。ふわりふわりととぐろを巻きながら、水底を漂っていた。
「プレコからはね、出るんだよ。長くて重たいのが、底にドンとね」
わたしは小さくうなずいた。小学校で見慣れたメダカのものとはまったく違う。
飼育を始めて数日とはいえ、プレコの“主張”の強さは、薄々と感じていた。
「この中には木くずが入っているんだ。放っておけばフィルターが詰まり、底砂に埋もれて水質悪化の原因になる」
「だから、底床掃除をするんですね」
「その通~り。だが、それだけじゃない。苔の発生源になったり、嫌気性バクテリアが湧いて硫化水素を出したり、最悪、病原菌の温床になることもあるんだ」
たかが底砂、されど底砂。そんなことになるとは……。
プレコの糞と残飯でここまで話を広げられるのは、さすが“お師匠様”である。
「もっとも、最後の話は“そういうことになっている”程度のことだから、人によって見解は違うかもしれないよ」
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・きれいに見えても、底砂にはゴミが溜まっていることも |
底はプレコの暮らしの場
「でも、一番気にしてほしいのは、底床はプレコの生活の場だということだ」
そう言ってから、彼はわたしの顔をじっと見た。
「キミだって、一緒に暮らしてるんだから知ってるだろ?」
プレコは流木に貼りついたり、底砂の上でじっとしていたり。基本的に地面の住人だ。
考えてみてほしい。もし自分の糞や食べ残しと一緒に暮らすことになったら、キミは耐えられるのか。
「だから、プレコを飼うなら、底床掃除はすごく大切なんだよ」
わたしはうなずいた。何も言い返せない。正論だった。
それ以来、わたしは週に一度、かならずプロホースを片手に水槽の底と向き合うようになった。
水の中で、時折ゆらりと流木の影から姿を見せるプレコ。あのときより、少しだけ機嫌が良さそうに尾びれを振っているのは……たぶん、気のせいじゃないと思っている。
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底砂掃除が必要な理由
というわけで、最後にストーリーで紹介した解説をまとめたいと思います。
掃除する理由1:汚れが溜まる場所だから
魚のフンや餌の食べ残し、枯れた水草の葉。こうしたものは水流に乗って底砂へと沈み、日々蓄積していきます。時間が経つと腐敗し、アンモニアを起点とした硝化作用が行われ、硝酸といった有害物質が発生する原因となります。せっかくの水換え、水ばかりでなく砂の中の汚れも取り除きましょう。
掃除する理由2:底床の酸素不足を防ぐ
底砂が長く掃除されずに通水性を失うと、酸素がいらなくても増える細菌「嫌気性バクテリア」が増えてしまいます。この生き物が怖い理由は硫化水素などの有毒ガスを発生させることです。人間にとっても猛毒ですから、魚やエビなどひとたまりもありません。
また、病原性微生物の温床となることもあります。
まとめ
底砂掃除は地味ながら、水槽管理には欠かせない重要な作業です。正しい頻度と道具、魚に合わせたやり方で行えば、水質は安定し、魚たちも元気に過ごしてくれます。特に底床を主な生活空間とする魚を飼っている場合、掃除の質がそのまま健康に直結します。
掃除のたびに水槽がクリアになるのを見ると、ちょっとした達成感もあるはず。定期的なケアで、快適な水景を維持しましょう!
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