2025年9月23日火曜日

生まれて初めてのソイルはコーヒー牛乳?やっぱり水換えは全てを解決

分かってても焦るソイルの濁り、肥料分

水槽にソイルを入れたとき、あの茶色く濁る瞬間にドキッとしたことはありませんか?
初心者から経験者まで、多くのアクアリストが直面するソイルの濁りや肥料分。
焦って放置してしまうと水草に負担がかかることもあります。

この記事では、濁りや肥料分の原因と、簡単に安全に対処する方法をストーリーでやさしく解説したいと思います。


**********************************


これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。

30cmキューブハイタイプ水槽。
30×30の幅と奥行に、高さだけが40cm。一見いびつに思えるサイズだが、裸眼でとらえれば誰もが納得する魅力を携えている。高い水面からストンと落ちる水底まで、落差ある水景に惹かれ、わたしはこの水槽を買ってしまったのだ。

今はまだ空の水槽だが、外部フィルターはすでにセット済み。今日はソイルを投入して水を張り、電源を入れようと思っている。
本来なら一気に水草を植えるところまで進めたかったのだが、

初めてなら、きっと驚くと思うから!

とお師匠様の忠告があり、段階を踏んで作業を進めることになった。
では、まずはパッケージに書いてある通り、軽くすすいで……

「んん?」

すすいでも軽く汚れが取れるどころか、茶色く濁った水が出てくる。
だが、濁るくらいなら、他の底砂やろ材でも経験がある。

「そんな物なんだろうな……」

ひとり呟いて、風呂場の天井をしばらく見上げたのち、すすぎもそこそこにして水槽へソイルを投入。そのまま、ひたひたに注水すると、見るも無残に水槽いっぱいの泥水となる

「いやいや、『そんな物』では済まされないだろっ!?」

大量のコーヒー牛乳に、ここにきて初めて異常だと認識し、わたしは頭を抱えた。
そうだ、お師匠様に聞いてみるしかない!


この話は20年前のソイルをもとに綴ったものです。
現在のソイルは微粒子が発生しづらく、濁り具合も異なるため、すべてが当てはまるわけではありません。



初めてのソイルは未経験のトラブルだらけ!?


閑散として

サークル終わりに、みぞれ交じりの雨のキャンパスを歩く。
入学試験を終えたばかりの赤レンガの舗装路は、枯葉が舞い散り歩く人もまばら、どこか物悲しい雰囲気を醸し出している。並木の下を歩くと、たむろしているムクドリからはギャーギャーと罵声を浴びせられ、逃げるように小走りすると、大きな赤い屋根が見えてきた。

それこそが、今日の集合場所である学生ホール。
普段はひっきりなしに開閉する押戸も今日は静まり返り、溢れる喫煙者の山もなく、内部はもぬけの殻となり、入口にあるバーガーショップだけが煌々とライトを付けている。

時間もまだあるので、ホットドッグとコーヒーを購入し、四人掛けのテーブルに腰を下ろして一息ついていると、いつもの調子で背後から声がかかった。

「やぁ? ソイルの調子はどうだい?」
「それが……聞いてくださいよ!」

もごもごしつつ口に水槽の窮状を訴えるように振り向くと、そこには今日もショートヘアにライトグリーンの作業着姿。
今まさにフィールドワークを終えたばかりといった風情の彼女こそ、わたしの水槽のお師匠様ことロゼッタだ。

「その口ぶりだと、おそらくは……ソイルの濁りだね?」

彼女はそう告げると、つば付き帽子をテーブルに置き、額の汗を拭った。

・これぐらいの薄濁りなら、フィルターを回していれば
自然と収まることが多い。


「よくあること」でもよくないこと

「キミは初めてでびっくりしたかもしれないけど、ソイルの濁りなんてよくあることさ!」

わたしの隣に座ると、眼鏡をクイッと押し上げ、にやりと笑ってみせた。
どうやら話す前から、水槽に起きたトラブルを察していたようだ。

「でも、そんな! 袋には濁りづらいって書いてあったんですよ」
「んふふふっ!」

鼻で笑うお師匠様の顔は、どろりとした目とひきつった笑みを浮かべており、おそらく彼女自身も大いに悩まされたのだろう。

「まぁ、メーカーも売らないといけないからね。“静音!”とか“濁らない!”、“ろ過能力抜群!”とか……色々と能書きを書くんだけどね。まるっきり信じて期待するとだ……」
「痛い目を見ると?」

「そういうこと♪ それでも最近は口コミが増えたからね、謳い文句の真贋は見極めやすくなったけど。昔はそんな誇大広告ばっかりで、本当に大変だったんだよ?」

――そんなことってあるの!?
衝撃の発言に、開いた口が塞がらず、膝の力もスルスルと抜けていく。

お師匠様はさも当然と言わんばかりに肩についた黒髪をかき上げると、さらりと揺れて土埃と甘い香りが鼻をかすめた。
だが、彼女もまた、目をつむり首をゆっくりと左右に振りると、少し大げさに肩をすくめる。こうした類の話が、アクアリスト全体を悩ませる問題なのだ、口を使わずに示唆しているようだった。

そんな現実から目を逸らし、力が抜けて俯いたわたしの肩を、ポンと彼女は叩くとぐっと身を寄せて目の中をのぞきこんできた。

「能書きの話はさておき、今キミは水槽の濁りに困っているのでしょう?」
「え? えぇ……」

「なら、まずはその対処をしないとね。キミの水槽はキミのものなんだからさ。しっかりしなきゃね?」

――あぁ、そうだ。ここが踏ん張りどころ、しっかりしなきゃ。
ここで、泣き言を言っても綺麗な水槽は戻ってこない。

お師匠様はにっこりと満面の笑みを浮かべ、話を続けた。

ソイル投入時の濁りは、品質そのものが原因だったり、運搬中や植栽中に潰れてしまうことが原因だったりするんだ
「でも、品質、運搬、植栽……って、どれも対処のしようがないじゃないですか!」

「その通り! だから、原因を解決することで濁りを避けるのは諦めて、素直に対処療法。これに限るんだ!」

対処療法。
そう聞くと素晴らしい響きをもつ言葉であるが……

「……もしかして、ひたすら水換えだったりしますか?」
正解! 濁りが取れるまでばんばん水換えだね! どうせ、まだ生体入れていないんでしょ? それとも何か嫌なことが?」

「……いや、たしかにそうですけど」
「なら、つべこべ言わずに、水換え水換え!」

「いやいや、言いたいことはわかります。でも水換えってすっごく体力と時間を……」
「逆だよ逆! 時間と労力で解決できるのさ! それが有り余っている大学生が何言ってんのっ!?」

――その通りだ。
弱音を吐いても始まらない。

「大丈夫、薄ら濁りになったら後はフィルターに任せていいんだからさ~」

プロジェクトソイルは吸着系。
こういった物がちらほらと出始めた時代。


水換えは全てを解決する

春休み。
一人でいると学生ホールは、死んでいるかのように静まり返っている。

大きな大学であるがゆえに、他県からの通学者も多い。
そのため、今ここにいるのは一人暮らしか、あるいは近隣の市町村出身の人間だけだ。
だが、その誰もが帰省やアルバイトで忙しい。

省エネのために切れた照明。数百人の学生を収容できるはずの広大な空間は、閑散としており閉店後の遊園地のように物音さえひとつもない。

しかし、お師匠様がポテトとコーヒーを片手に戻ってくると、アクア談義に花が咲き、キャンパスに再び灯がともり青春の舞台となる。

「それで、結局キミはどんなソイルを買ったのかい?」
「△■△社のソイルを……ブランド的にも、それが一番水草に効きそうだと思って……」

「△■△って、あの△■△社?」
「……はい。それがどうかしましたか?」

「いや、なるほどね~。それは、これからちょっと大変かもよ?」

と、言われても。
あそこまで泥水になるとは想像すらしていなかった。それなのに、まだ『大変』なことが起こるというのか!?
トラブルが連続するというい予想。
……正直に言って、わたしはソイルというものを甘く見過ぎていたことが、最大の原因なのかもしれない。

「そもそも……だ!」

とお師匠様は鼻息荒く口を開いた。

「ソイルには、肥料が入っている栄養系と、それが入っておらず土壌本来の特徴をもつ吸着系の2種類がある。そしてキミが選んだのは栄養系さ」
「でも栄養があるから、後から肥料を入れなくても簡単だって、わたしは聞いたんですが、違うんですか?」

「ところがね、そうともいかないんだ。というのは、ソイルの中に肥料分が含まれているのだから、手加減が難しいし……もし多すぎたら……」
「取り除くのが難しいということですか?」

「そうなんだ。特に植栽したばかりの水草は、水槽の水に適応できていなくて免疫力が低いからね。過度の肥料分でことごとく苔の餌食に……なんてこともあるんだよ?」

「うーん……濁りに肥料分。わたし、ソイル選び失敗しちゃったんでしょうか?」

肩をがっくり落としてうなだれると、隣から優しく声をかけられる。

「大丈夫、大丈夫。力技があるから!」
「力技?」

肥料分も水換えで抜いてしまえばいいんだから!

と、ここまで聞いて、わたしは抵抗するのを諦めた。
濁りを取るのも、肥料分を抜くのも、水換えなのだ、と。

だが、ひとつ気になることもある。

「その……っ、ソイルを使うたびに、みんなこんなにも苦労しているものなんですか?」
「うーん、どうだろう……。ただ、初心者のうちは栄養が少なくてもよく育つ水草を選ぶことが多いから、どちらかといえば吸着系がおすすめなんじゃないかな?

「でも、吸着系って肥料も少ないですよね? 栄養系じゃなくて大丈夫なんですか?」
「だって、肥料不足なら固形肥料を水草の根元に足せばいいだけじゃない。苔も出づらいしね

「あぁ、そういうことか!」



リサーチ不足がゆえに

――うーん。
どうやら、わたしはソイルをただの底床だと侮っていたようだ。
明らかなリサーチ不足だ。

実際には、掃除や硝化細菌の繁殖などを考えればよかった今までの底砂とは異なり、軟水化や肥料分など水質への影響、扱い方、そして運用方法に至るまで、何から何まで違うもののようだ。

水草には必須と言われているものの、こんなに奥が深いものだなんて。

その後、わたしは続々とトラブルに見舞われることになるのだが、それはまた別の機会に記そうと思います。



まとめ

アクアリウムを始めると、多くの人が直面するのがソイルの濁りです。

投入したばかりのソイルは、水を注ぐと一瞬で茶色く濁ることがあるからです。これはソイルの微細な粒子が水中に舞い上がるためで、決して珍しいことではありません。
濁りは、ソイルの品質や運搬中の衝撃、植栽の際に粒が潰れたことなど、さまざまな要因で起こります。そのため、初めてソイルを使う方にとっては驚きや戸惑いがあるかもしれません。

さて、ソイルには、大きく分けて「栄養系」と「吸着系」の二種類があります。
栄養系ソイルは肥料分を含むため、後から肥料を追加しなくても水草が育ちやすいのが特徴です。しかし、肥料が多すぎると苔が生えやすくなったり、水草にストレスを与えたりすることがあります。
一方、吸着系ソイルは肥料分が少なく、土壌本来の特性を活かした安定した水質を保つことができます。初心者の方は、栄養が少なくても育つ水草を選び、吸着系を使うのが、苔まみれの水草水槽を作らないひとつの方法となります。

そんな、ソイル由来の濁りや肥料分の調整には、水換えが最も基本的で確実な方法です。
投入直後の濁りは、水を入れ替えることで素早く解消できますし、栄養系ソイルの過剰な肥料分も水換えで適切に薄めることが可能です。
初心者さんでも、ちょっとした手間で水槽の環境を整えられるので安心です。ポイントは、濁りや肥料分の状態をよく観察しながら、素早く対応することです。

ソイルの特性を理解してうまく付き合えば、水草が健やかに育つ美しい水景を楽しめ、新しい世界を切り開いてくれるでしょう。



0 件のコメント:

コメントを投稿