キスゴムは全ての重要パーツの礎だ
水槽を見ていると、小さなパーツひとつで魚たちの安全や水槽の安定が左右されることに気づきます。
中でも「キスゴム」は、目立たないけれど実は大切な存在。しっかり固定してくれるおかげで、プレコや他の魚が元気に泳いでもフィルターは安全に動き続けられます。
今日は、そのキスゴムの寿命やちょっとしたお手入れ法をストーリーでわかりやすくご紹介します。
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
ついこのあいだまで冬将軍が居座っていたはずなのに、気が付けばキャンパス奥にある農場の梅がほころび始めている。朝にはさえずりがサラリーマンでごった返すホームを癒し、電車で通り過ぎる小川には人々を見送るように一羽のシラサギが立っていた。
風はまだ冷たいが、日差しにほんのりと春の匂いが混ざっているのがわかる。
一歩ずつ、季節は春へと歩み始めているようだ。
劣化したキスゴム、どうする?
キスゴム事件
今日は休日。わが家の45cmプレコ水槽を清掃している。
袖を濡らさぬよう肘までまくりながら、フィルターの吸水パイプをキスゴムから外して、普段は手の届かない箇所の藻や汚れを落としていく。
水槽を見つめるお師匠様ことロゼッタも、いつものように椅子に腰掛け、足をぶらぶらさせながら1週間に一度しか味わえない水換えを楽しんでいる。
水槽の中では、グリーンロイヤルとセルフィンプレコが悠然と泳ぎ回っている。最近は、互いの縄張りを主張するように、深夜の小競り合いが増えてきた。どちらも2センチは大きくなり、手狭になってきたのだろう。
「そろそろ、喧嘩の解決策も考えなきゃなぁ……」
そうつぶやきつつ、キスゴムの掃除をするため剥がそうと指先に力を込めた瞬間
――硬くなったゴムが爪に食い込み、思わず顔をしかめる。
「いててっ!?」
椅子の上でにやけ顔だったお師匠様が、唐突な悲鳴を聞いて身を乗り出してきた。
「大丈夫?」
覗き込む瞳が、わたしの指先を映す。
劣化して外周が鋭利になったキスゴム。
プレコの喧嘩より、これを何とかするほうが先かもしれない……そんな気がしてきた。
お湯での復活も限りがある
「どうしたの?」
身を案じたお師匠様に、わたしは苦笑いを浮かべながら、手のひらに乗せたキスゴムを見せる。
「実は、このキスゴムが硬くなってて……。吸着力はまだあるんですが、取り外すときに爪に食い込んで痛いんですよ」
すると、彼女はわたしの手からキスゴムを取り、グニグニと親指で押してから、ちっとも変形しない末端の硬さに眉をひそめた。
「あー……これは劣化してるね。まだ使えるとは思うけど、そろそろ交換を考えたほうがいいかもしれないね?」
「やっぱり……ですか?」
お師匠様が小さく頷いた。
そして、彼女は少し視線を上げ、思い出すようにゆっくりと口を開いた。
「まぁ、それぐらいなら、一応熱湯で戻すと、少し柔らかくなるんだけどねぇ……」
天井を見上げながら吐き出されたため息は、どこかあきらめの色を帯びていた。
「でも、復活しても一時的だし、そもそも外すときに食い込んで痛いんでしょう?」
「……そうなんです」
「水槽の中に熱湯を注ぐわけにはいかないもんねぇ……」
わたしもお師匠様に合わせて深く息を吐き、視線を天井に泳がせる。
「うーん……そこを、なんとかならないものですかね?」
たしかに外部フィルターの使い心地は素晴らしい。
外掛けフィルターやスポンジフィルターに比べれば、ろ過容量は桁違いで、水流もプレコには十分だ。おかげで水質は安定し、今日も水槽は透き通るような輝きを放っている。
しかし、メンテナンスは面倒だ。
パワーヘッドを外して開けなければろ材の掃除ができないし、交換用パーツの在庫は十分だが、どれも高価だ。
キスゴムだって学生のわたしにがポンと手を出せるものではない。
1つ取って手のひらに押し付けると、鋭利になプラスチックのような鋭さに、わたしは小さく首をかしげた。
「困ったなぁ……キスゴムって、半年ぐらいで寿命なんですかね?」
するとお師匠様も肩をすくめて首を振った。
「まぁ、だいたい半年から一年半ぐらいかなぁ……もっと長持ちすることもあるんだけど。でもキミの水槽でしょう? キスゴムって柔らかいし、苔が付きやすいから……」
と言いかけると、彼女の声色が少し沈み、キスゴムをわたしに返してきた。
それを手に取り、ライトに照らしながらゆっくりと観察する。
――しかし、不思議なものだ。
ゴムよりもパイプを支えるプラスチックのパーツが汚れているのだから……
え、どういうことだ?
いや、待てよ?
「あ! もしかしてキスゴムがプレコの標的に?」
「おそらく……ね。だから劣化が早いのかもしれない」
お師匠様は水槽内のプレコをちらりと見やった。
ローテーションとお勧めできない裏技
お師匠様が何かを思い出したように、ポンと手を打った。
「その、一応、裏技もあるんだよ?」
指さしたのは、水槽のオーバーフローパイプだった。
そのパイプのキスゴムは、ガラス面の外側についている。
試しに取り外して指で押してみると、まだぷにぷにと柔らかい。
「あ! わかりました! この外側のキスゴムと交換すればいいんですね!」
と答えると、彼女の顔がぱぁっと明るくなる。
「お、なかなか鋭いところに目を付けるね。確かにそれも1つの答えさ。ボクとしてもローテーションをお勧めしたい」
だが、お師匠様はゆっくりと首を振った。
「でも、そうじゃないんだ」
「え?」
わたしは瞬きをして続きを促すと、彼女は髪をさらりとかき分け、得意げな表情を見せた。
「吸水パイプも、排水パイプと同じように外側にキスゴムを付ければいいのさ!」
「あっ……なるほど! たしかにそれなら水中より劣化が遅いかもしれませんね」
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| たまたま、我が家では20年間無事故なだけ。 人には断じて勧められない。 |
だが、そんなことをして大丈夫だろうか?
たしかに、エーハイムのキスゴムは強力だが、それは水槽内での話。
水槽外では吸着力が半減する。
もちろん他の製品よりは強いのだが……
すると、お師匠様は人差し指を左右に振って、念を押すように言う。
「きっとキミも気付いてるだろうけど、実はこの方法は外れやすい。だから何が起きても自己責任!」
まるで知っているかのような口ぶりをしたので、少し問い詰めるみることにする。
「実際に外れてトラブルになったことは?」
「そりゃ……、何度もキスゴムから外れたよ? でも幸い被害はゼロ。というのもね……」
と苦笑いをしながら、鼻の下をぽりぽりとかいた。
「ホースで下に引っ張ってるし、排水パイプがフックみたいな役割をしてるから、水槽の縁に引っかかって完全に外れることはない。ただ、グラグラ動くから注意は必要だよ?」
わたしは指で空中に簡単な図を描きながら、納得の声を上げる。
「なるほど……ホースを少し短めにすれば、排水パイプが引っかかって外れませんね」
わたしが大きく頷くと、お師匠様はブンブンと大きく手を振った。
「やっぱりダメだ、ボクはお勧めできないよ。だって、明らかにメーカーの想定外の使い方なんだから。トラブルが起きても自己責任だし、ボクも絶対の絶対に勧めないよ?」
もしこのパイプが外れれば、フィルターは停止するだろう。
外部フィルターなら、30分でろ過槽は酸欠状態になり、フィルターをリセットしなくてはならない。
果たして、そのリスクに1,000円の価値はあるだろうか――。
たったの1,000円でリスクを回避できるなら
短い沈黙のあと、わたしはため息をつきながら財布の中身を見た。
たったの1,000円。それぐらいの余裕は、わたしにだってある。
結局、あの後すぐにお師匠様と一緒に、キスゴムを買いにショップへと向かうことになった。
たしかに、彼女の提案は魅力的だった。
しかし、たかだか1,000円の節約のために、フィルター停止というリスクを背負う気には到底なれない。
いくら貧乏学生アクアリストでも、守るべき矜持はある。
帰宅して新品のキスゴムを箱から出すと、その柔らかな感触はまるで春の空気のように心地よく、改めていままで使っていたキスゴムの劣化具合に驚かされた。
水槽の中では、相変わらずプレコたちが水底を忙しなく行き来している。
春はもうすぐそこまで来ている――そんな予感とともに、水面に小さな波紋が広がっていった。
まとめ
キスゴムは、水槽やフィルターを支える小さな存在ですが、その役割は非常に大きいものです。ガラス面や重要なパイプ類をしっかり固定し、プレコや他の魚たちが動き回っても安全にフィルターを稼働させることができます。
しかし、キスゴムにも寿命があります。
長期間使用していると次第に硬くなり、吸着力が残っていても取り外すときに爪に食い込んだり、ガラス面に長時間吸着できなくなったりすることがあります。
材質によって寿命はさまざまですが、高品質なキスゴムでも、半年から一年半ほどで交換を検討するのが安心です。
そんなキスゴムですが、実は劣化を回復させたり、劣化を防いだりするちょっとした工夫もあります。
1つは熱湯をかけること。柔らかくなり、一時的に復活します。
もう1つは、水槽外で使用しているキスゴムがある場合は、ローテーションすること。劣化の速度が均等になり、トータルでの寿命が長くなります。
そのほか、水槽外にキスゴムを配置することで、水や魚との接触を減らし、劣化スピードを抑えられる場合がありますが、この方法はメーカーの想定外の使い方になることもあるため、取り扱いには自己責任が伴い、推奨はできません。
とにもかくにも、フィルターに通水するパイプが外れれば大惨事になります。
安全性を最優先に、定期的に状態をチェックし、必要に応じて新品に交換しましょう。にチェックして、必要なら新品に交換してあげましょう。


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