2025年9月5日金曜日

ディフューザーでエアポンプの騒音知らず?知っておきたい利点・欠点

ディフューザーという魔法が解けた日

アクアリウムを楽しむうえで、「ディフューザー」というアイテムをご存じですか?
名前だけ聞くとちょっと難しそうに感じるかもしれませんが、実はとってもシンプルなエアレーション器具なんです。
今回は、ディフューザーについて、ストーリーでやさしく解説していきたいと思います。


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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。

窓の外は、粉雪が舞うように静かに降り続けていた。
街全体を薄く覆う透き通る白が、月に照らされた夜を明るく彩っている。

大寒波。

雪など滅多に降らぬ地域だが、いつもなら車が絶えない大通りも人影がなく、遠くから聞こえるのは雪をかき分け帰宅を急ぐ足音だけとなる。深夜になるとついに鉄道も止まり、ただ、冷え切った空気が支配する静寂の世界となった。

だが、耳を澄ますと――

――ブーン……。

部屋の片隅でエアポンプの動く音が、やけに大きく感じられる。
普段なら生活の一部でしかない低い機械音が、雪に包まれた夜の静けさに包まれて、逆に鮮明に浮かび上がってくる。
なんとも耳にまとわりつくこの音で、その日はなかなか寝付くことができなかった。



ディフューザーならエアポンプの騒音から解放される?


本日休講

翌朝、無事に電車も動いたので不慣れな雪道に悪戦苦闘しつつ大学に向かうと、キャンパスの掲示板に人だかりができている。

《本日、全講義休講》

拍子抜けするほど簡潔な文字。
仕方ないのでメールで学科の友人に知らようと手に取ると、とあるある人物からその旨を告げる連絡が着ていた。その人は、わたしの水槽のお師匠様ことロゼッタだ。

どうやら、大学周辺に一人暮らしをしていた学友たちは、早々に掲示板から休講を事前に察知していたらしい。無駄になった通学時間、何度肩をすくめても、やるせなさは晴れる気がしない。

であるなら、丸々空いた時間をどうにか過ごして、元を取ろうと考えるのが人というもの。

「そうだ、せっかくなら……!」



エアチューブの先はどこへ?

わたしたちは、まだ日も明るい昼間から、アクアショップ巡りをすることになった。

鉄道を乗り継ぎ、いつもの港町の数駅の数個先で降りる。
駅を出ると、そこはいきなり県内有数の要注意地帯。ケータイで地図と方位を何度も確認しながら、ほんの数百メートルの道のりを慎重に進む。
ここは、古くから荒くれ者の労働者が集まる街が広がり、酒と暴力が支配する一角となっている。幸い、水路や高速道路、さらには二車線で、ビルとマンション群からは隔てられているが、それでもズシリと重い雰囲気を漂わせているのだ。

そんな、人の心が荒んでゆく場所には、心の隙間を埋めるものが必ずある。
アクアショップもその一つだ。

慎重に歩を進めると、やがて白い小さなビルが見え、胸の奥でようやく緊張が解けていく。
お師匠様も、ドアをくぐると広がった既視感のある光景に、背を伸ばして深呼吸をした。


しばらくは二人して、リラックスしながらゆっくりと店内を物色する。棚から棚へ、水槽から水槽へ。すると突然、お師匠様が明るい声を上げた。

「あぁ! これこれ♪ これキミのプレコ水槽にピッタリだと思うんだよね!」

声には弾むような喜びが混じっていて、嬉しそうに水槽のガラス面に向かって空を切るようにつんつんと指し示した。

――シャラシャラシャラ~♪

耳をくすぐる細やかな水音。
視線の先の日淡水槽には、排水パイプの先に大砲のようなパーツが取り付けられており、そこから勢いよくエアが噴き出している。
よく見ると、胴体部分にエアチューブがつながっているが――。

顔を近づけ、パーツの形をじっと観察しながら尋ねる。

「これはいったい何ですか?」



すると、お師匠様は得意げに顎を少し上げ、
小さな笑みを浮かべながら答えた。

ディフューザーだよ!

――名前は分かった。
だが、依然釈然としないことがある。

「あの、外部フィルターの排水パイプについているやつですよね?」
「ん? そうだよ? その先端についているのがディフューザーさ!」

「うーん……、だとするとこのエアはどこから? あぁ! このチューブの先がエアポンプがつながっているんですよね?」

首を傾げた後早合点をすると、お師匠様は身をかがめ、指先である一点を示す。

「そうじゃない、ほら! ここから見てほしいんだ?」

そのまま、ロゼッタに言われた通りに場所を入れ替わり、再度ディフューザーから伸びるチューブの行方を追うと……。

エアチューブがどこにも繋がって……ない!?

視線は途中で止まり、思わず声が裏返った。

「空気を送ってないのに、どうして!?」



とにもかくにも水は空気を引く

「キミったら、目をぱちくりしちゃって、そんなに不思議だった?」

どうやら、開いた口が塞がらず、奇妙な仕組みを我を忘れて見入ってしまったようだ。
よほど可笑しかったのか、ロゼッタは目を細めて笑った。

「そりゃあだって、どこにもエアポンプがついていないんですよ? どうしてエアが出るんですか? ポンプで押していないのなら……あぁ、そうです。エア引いているんですね?」

自問自答しつつ1つの結論に至ると、彼女は大きく首を縦に振った。

「そう! それなんだ!」

そうして、身振り手振りを交えて説明を始めた。

「ほら、この内部にはね、キュッとすぼまっている部分があるんだ。そこに水を通すとどうなると思う?」

彼女は空中で指先を丸めて円にすると、指を折り曲げてクっと小さくして見せた。
それにつられるように、わたしも唇をすぼめて息を吹き、自身の直感を試してみる。おそらく、それだけでこんなにもたくさんのエアが出ると言いたいのだろうが……。

「うーん、水流は強くなると思うのですが……。果たして、それだけで空気を引けるかとなると……、わたしは疑問です」

途中でお師匠様が首を傾げたので一気に自信を失ったが、いたずらっぽく笑ってからウィンクをしてみせた。どうやら正解のようだ。

「んふふ♪ そうだよね? とにかく、空気や水などの流体が早く流れる、圧力が下がって周りのものを引っ張る性質があるんだ

「……なんか、スラっと物理学的なことを言いましたよね? ちょっと頭がクラクラします」

「ごめん、そうだよね? でも、これはね、『ベルヌーイの定理』によって起きることなんだ」

お師匠様は少し声を落とし、解説口調になる。

「まあ、ちょっと難しいよね。でも、飛行機の羽もこの法則で気圧を下げて、あの鉄の塊を空中へと引っ張っているって説もあるくらいなんだ! もちろん羽つながりで、レーシングカーにも応用されているし、実は『ディフューザー』という同じ名前のパーツもあるんだ!」

――そんなことにも?
なんだか信じられなかったが、ふと水の流れで空気を引っ張るという仕組みを聞いた時、苦しんでいたあの学生実験の器具を思い出した。

「えっと……うん、不思議としかいいようがないです。でも、なんとなく化学実験で使うアスピレーターとそっくりなような気がします」

そう答えると、お師匠様は横髪を手櫛で梳いて、にんまりとした笑顔となる。

「あぁ! それそれ! ブフナー漏斗と吸引ろ過だね! 空気を吸う力で素早く液体と固体の分離を……」

と、そこまで話したうえで突然話すのを止めてしまった。

「いや、この話は止めておこう。どの単語も水槽用語と被っていて、あらぬ誤解が生まれそうだ」
「そうかもしれません。吸引ろ過だのとアクアショップで話したら、みんな初めて聞くそれっぽい単語にびっくりするかもしれませんからね」

・水草水槽に使うと、黒ひげ苔対策に追われることになる

「あはは! その通りだね、まぁ、それでだ、この利点は何だと思う?」

エアチューブの先はどこにも繋がっていない。
となれば、答えはただ1つ。

「それは……うるさいエアポンプが不要なことですよね?」
「正解! これを使えばエアポンプなしでエアレーションが可能なんだ!」

お師匠様は力強く答えを言うと、急に肩をすくめてわたしの目を見ながらゆっくりと首を振った。

「でもね、デメリットもあるんだ~?」
「水流が強すぎるとか……ですか??」

「おしいね、半分正解! 水流と言ったら、どんな厄介者が来るかな?」
「あ! 黒ひげ苔ですね?

「その通り! ほら、この日淡水槽のここを見てごらん?」

指先を水槽に置かれた立方体のシェルターに向けると、黒ひげ苔が所狭しと生えて、フサフサと水流でなびいていた。

「もちろん、キミの言った通り、水流が強すぎるから、それに弱い魚はもちろん、水草にも使いづらい道具なのさ
「なるほど……もっと勢いを弱められれば、エアポンプいらずのアクアリウムが広がると思うんだけどなぁ……」

「そうなるんだけどね。空気を引っ張るのに、強い水流が必要だから、きっと至難の業なんだよね~」

お師匠様はぼやきつつも、さらなる注意点を挙げていく。
強い水流を作れるポンプが必要なこと、それ専用のディフューザーでなければならないこと。そんなわたしは、話を聞きながらも、すっかり目の前の機械に魅了されていた。

値段も手頃で、不思議な仕組みに心を奪われるし、なによりこれであのうるさいエアポンプとおさらばできる! 
わたしは迷わず購入を決意し、家に持ち帰ることにしたのだった。



ディフューザーとの生活のリアル

そうして、導入してからの数週間、確かに部屋は静かになった。

――シャラシャラシャラ~♪

可憐な水音が、日常のBGMとして心地よく響く。
だが、ある夜――。

シュー……♪

静寂の中に紛れ込んでいた、異音が耳につくようになる。
吸気音だ。

最初は気にならなかったその音が、だんだんと耳に残るようになっていく。
人間とは不思議なもので、一度静けさを知ってしまうと、小さな音でも我慢できなくなる。
いまや、壁の反対にある部屋にすら漏れていない小さな音に、睡眠の邪魔をされている。

あぁ、あの大きなブーン音でも眠れた夜が懐かしい。

音に慣れることの大切さを、身をもって知った気がした。
この「シュー……♪」も、きっとそのうち当たり前になるだろう。
そう信じて、わたしは研ぎ澄まされた耳を誤魔化すように、頭まで布団に包まり目を瞑るしかできないのであった。



まとめ

ディフューザーは、水槽内に空気を細かい泡として送り込む装置のことです。
ベルヌーイの定理を利用したディフューザーは、水が速く流れる部分で圧力が下がる仕組みを活かしています。
エアポンプがなくても水の流れる力のみで空気を自然に引き込めるため、比較的静かな環境を実現できます。
また、強い水流を生み出すため、水槽内に対流を生み出して、満遍なく溶存酸素量を上昇させる効果があります。

エアと対流、そして静音性。
まさしく、願ったりかなったりなエアレーション器具だと言えるでしょう。

とは言え、ディフューザーは万能ではありません。

まず、水流が強くなるので、水草や繊細な魚に負担がかかるほか、黒ヒゲ苔が増えすぎて手に負えなくなる場合もあります。こういった場合は、微調整の利くエアポンプ式に軍配があがります。

また、ディフューザーは専用のものを使うことが重要です。
パイプ径が同じであっても、各外部フィルターや水中ポンプが生み出す水流の強さに最適化されてあるため、うまくエアを巻き込まないことがあるからです。

そして最後に気を付けてほしいのが、ディフューザーが必ずしも静かなわけではないということです。大きな外部フィルターになると、強い水流で勢よくエアチューブから空気を吸い込むため、常に「シューッ」という吸気音が聞こえたり、水流が極端に強い場合には「ジョボジョボ」とした水の音が生じることもあります。

したがって、目的や外部フィルターのサイズ、設置場所や飼育している魚の種類に応じて、エアポンプかディフューザーか適切に選ぶことが望ましいでしょう。



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