2025年9月19日金曜日

ソイルと外部フィルター、CO₂を効率的に利用し陽性植物を栽培する

CO₂を効率的に利用し陽性植物を栽培しよう!

水槽の中で鮮やかな赤や深い緑がゆらめく景色、憧れますよね。でも実際に育ててみると「思ったより難しい…」と感じる方も多いはず。
特に陽性植物は光やCO₂、水質にちょっとした工夫、いえ道具が必要なんです。コツさえ掴めば、水槽の中に小さな水草の森をつくることができます。今日はそのポイントをやさしくストーリーで解説します。


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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。

水槽のお師匠様ことロゼッタと電車に揺られること数時間。
いま、わたしたちは途方もない大都会に来ている。

2月の風は鋭く、ビル群の谷間を切り裂くように吹き抜けていた。
平日の昼間、いつもと違う道を選び、あえて階段を上って人影のまばらな大都会の広場に出たのだが、わたしとお師匠様はあまりの寒さに立ち尽くしてしまった。

極寒の北風は、無数に建ち並ぶ超高層ビルから吹き下ろしていた。
頬に突き刺さる冷気に耐えきれず、10mほど歩いたところで見慣れた地下道の階段が目に入ると、逃げるように駆け込んだ。



外部フィルターにソイルという意味


真冬に大都会へ

しかし、地下はまさしく都会だった。
狭い空間に溢れる人の群れ。

排水溝から漂うむっとしたかび臭さと、行き交う人々の防虫剤交じりのコートの香り。田舎育ちのわたしたちは思わず顔をしかめるが、それでも吹き荒れる寒さよりは遥かにましだった。

ぼそぼそと他愛もない話をしつつ、エスカレーターを降りて、十字路を曲がり、ランジェリーショップの前で目をそらしながら通り過ぎると、奥に広がっていたのは水草の楽園。

「わぉ!」

と、お師匠様はやっと明るい声を漏らした。弾むように近寄ると、どの水槽も明るく、水草たちも生き生きとしている。
だからこそ、わたしの胸の奥からも小さな声が漏れてしまった。

「あぁ、わたしも陽性植物を育てたい」

・ソイルは陽性植物栽培の重要な1ピース


陽性植物が育てるためには?

「あはは、今の水槽ではちょっと厳しいかな?」

ロゼッタは首を振り柔らかく笑った。その冷静な指摘に、わたしはたちまち現実へと引き戻され、落ち着きを取り戻す。

「そもそも、キミの陰性植物の水槽と陽性植物の水槽は、どこが違うかわかる?」
「え? えぇ? そんなこと突然言われても……」

「ほら! こっちこっち!」

狼狽えるわたしをよそに、彼女はひょいと手を伸ばしてわたしの袖を引いた。
いたずらっぽい笑みを浮かべながら、入口近くへ向かって歩き出す。そこに置かれていたのは、小さな展示水槽。目立たない片隅に追いやられるようにして並んでいたそれは、砂利を敷いた底にごく一般的なライトを据え付けただけのものだった。中ではマツモや陰性植物がゆるやかに揺れ、静かに溶けるCO₂タブレットが泡を放っている。

「うーん、実にキミの水槽に近い」

その言葉に、わたしも同感だった。
そこで、わたしから尋ねてみる。

「でも、やっぱりこのままじゃ陽性植物は無理ってことですよね?」
その通り。マツモや陰性植物ならまだしも、それ以上となると……厳しい

「いったい、何がダメなんですか?」

ロゼッタは短いショートヘアを指で梳きながら、反対側の華やかな展示水槽に視線を移す。そこには光に照らされた陽性植物の森が広がっていた。鮮やかな赤や深緑が絡み合い、流木の周りには小さな森を形作っている。

そして、わたしの目を見つめると、いつもの得意げな顔になり、にやりと笑った。

「この陰性植物水槽は、簡単に言えば、普通の水槽に水草用のライトを加え、少量のCO₂をタブレットで補給しているだけ。たしかに、CO₂の要求が少ない陰性植物やコケ、金魚藻なんかは緑を保つことができるけど……」

そこまで言ったところで、彼女は再び陽性植物の水槽に目を向けた。
ミストのように漏れ出るCO₂、茶色い底床には別世界のように輝くライトの光が乱反射して白みを帯びている。
これをじっくりと見やった後、ゆっくりとした口調で述べ、再度陰性植物に目を戻すと、問題点を指摘した。

こっちの水槽じゃCO₂が不足気味なんだよね。陽性植物の栽培は一気に厳しくなる
「え? どうして?」

わたしは無意識のうちに続けて問いを投げた。

「だって、CO₂タブレットも使ってるし、問題ないように思えます!」

お師匠様の声は静かだった。

「CO₂……ね。でもね、それはただ添加すればいいってものじゃないんだよ?」
「……そ、そうなんですか?」

・外部フィルターもあったほうが良い


CO₂を使いきるにはソイルとフィルター

水槽の光が反射して、ロゼッタの横顔を淡く照らしていた。
彼女の瞳は真剣に水槽を見つめている。

「陽性植物はもっとCO₂が必要なんだ。それを補うためにいくつかの器具を利用することになるのさ」

彼女は指を折りながら語り始める。

「ひとつは添加。最低でも発酵式。できればボンベ式かなぁ。やっぱり細かい調節が利くのとそうでないのとでは雲泥の差だからね」
「でも、ボンベって高いんですよね?」

「そうなんだ。1か月で1本、600円ぐらいかなぁ。それが負担に感じるようなら、次点で発酵式だね」

言い切ると、うるんだ瞳で青々と生い茂る緑をのぞきこみ、ため息をついた。
だが、わたしの疑問はまだ尽きない。

「そこまではわかりました。でも他は?」
「おっと、そうだったね。ふたつ目はフィルター。ろ過時に空気に触れず、排水口が水面以下にあるのが望ましい。落水があるとCO₂は逃げてしまう。その条件に当てはまるのは水中フィルターか外部フィルターかな?」

――えーっと、そうなると?

「つまり、上部フィルターや外掛けフィルターは向いていないということですよね?」
「そればかりじゃないよ。なるべくならエアリフト式のフィルターも避けたいね。添加したそばからCO₂が逃げていくからねぇ」

「なるほどぉ……」

フィルターの制限は思ったより厳しいようだ。
30cmキューブハイタイプに作ったわたしの水草水槽。
このサイズに合う水中フィルターを探すと、種類は極めて限られる。
となれば、外部フィルター一択と考えたほうがいいのかもしれない。
とはいえ、それではまた散財することになるだろう。

わたしが悩みで頭を抱えているのを横目に、彼女はまだまだ話を続ける気満々のようで、胸を張り足を広げると、バシッと茶色の底砂を指さした。

みっつ目はソイルだね。土でできた底床材さ
「土ってことは……やっぱり根の張り方が大切なんですか?」

「もちろんそれもあるけど、もっと大切なのはソイルが弱酸性の軟水を生み出すことなんだ」

ロゼッタの声には、まるで長年の経験が凝縮されているようだった。
彼女はさらに言葉を重ねる。

「実はCO₂は水に溶けていても、一定の割合で別の形になっているんだ。だが、残念なことに多くの陽性植物の光合成の酵素はCO₂しか吸収できない。そこでpHさ!」

「pHって、水素イオン濃度のことですか?」

「その通り! その割合はpHに左右されるんだ。ちょっとだけかいつまんで言えば、弱酸性に傾くと吸収できるCO₂の量は増えていくんだね

――ん? ちょっと待ってほしい。
大磯砂は弱アルカリ性に水質を変える底砂だ。
だから……

「それじゃあ、いくらCO₂を添加しても、アルカリ性の水では無駄だってことですか?」

「まぁ、あくまでも割合だからね。無駄ってことはないけど効率が悪いんだ。都合がいいのがソイルが作り出す弱酸性の軟水というだけさ」

――だが、うちのアヌビアスはぐんぐんと生長しているのだが……?

「あぁ! それに、弱アルカリ性を好む水草は、吸収できない形のCO₂でも光合成に使えると言われているんだよ。アヌビアスの仲間とかね?」
「うーん……なるほど!」

わたしは目を瞬いた。世界が一気に広がるような感覚。

「とにもかくにも、今必要なのはソイルと外部フィルター」

未来の水槽が鮮明に思い描かれ、心臓が高鳴っていた。



ハマった沼から抜け出せない

一通り見終わったので、近くの喫茶店で休憩。

天下の大都会なのに、まさかわたしの知っているチェーン店があるなんて驚きだ。
二人で丸テーブルに座っていると、お師匠様はわたしに問いかけた。

「それで、キミは何を栽培したいんだい?」

彼女は少しだけ唇を吊り上げ、わたしの顔をのぞきこんでいる。
だが、名前が浮かんでこない。
韻を踏んだ三文字だった気がするのだが。

――はて、バコバだったか? それともロタラ?

まごついていると、すかさず彼女から突っ込みが入った。

「あ、もしかして? 名前分からないとか?」
「……はい、その――」

「じゃあ、もう一回見て帰ろうか?」
「!?」

彼女のアクア熱は尽きることがなさそうだ。



まとめ

陽性植物を水槽で元気に育てたい――そう思ったときにポイントになるのが、「光・CO₂・底床」の三つです。
陰性植物は比較的育てやすく、少ない光量やCO₂でも成長しますが、陽性植物はその逆で、より強い光と安定したCO₂供給が欠かせません。

まずは光。こちらは以前触れたので今回はあえて書きませんでしたが、一般的な観賞用ライトでは不足しがちなので、水草専用のライトを選ぶのがおすすめです。明るい光が十分に当たることで、赤系や鮮やかな緑を美しく発色させることができます。

次にCO₂。タブレットを入れる方法もありますが、本格的に楽しみたいなら発酵式、さらに安定を求めるならボンベ式が安心です。ボンベ式はコストがかかりますが、調節がしやすく安定的かつ持続的に供給できるため、陽性植物にはとても相性がいいのです。

そして底床。大磯砂などの砂利では水質がアルカリ性に傾きやすく、CO₂の効率が落ちてしまいます。そこで頼りになるのが「ソイル」。弱酸性の軟水をつくり、陽性植物がCO₂を吸収しやすい環境を整えてくれます。根張りも良くなるため、元気に育ちやすくなるのです。

さらに忘れてはいけないのがフィルター選び。上部フィルターや外掛け式は水面を揺らしやすく、せっかく添加したCO₂が逃げてしまいます。おすすめは外部フィルターか水中フィルター。水面を乱さずCO₂を保ちやすいのがメリットです。

つまり、陽性植物の水槽づくりは「光をしっかり当て、CO₂を逃がさず安定供給し、ソイルで水質を整える」――この3点に尽きます。環境を整えることは、赤や緑のコントラストが美しい小さな水中の森を育てる第一歩となるでしょう。



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