2025年9月25日木曜日

初めての陽性植物は黒ひげ苔で挫折。ソイルと発酵式CO2の注意点

初めての有茎草は黒ひげ苔で終わった

水槽を眺めていると、いつの間にか黒いフサフサが広がっていた…そんな経験はありませんか?
せっかく整えた美しいアクアリウムを台無しにする「黒ひげ苔」。
効果的な対策を知っておくことで、水槽との付き合い方がぐっと楽になります。

今回はそんな黒ひげ苔について、ストーリーでやさしく解説します。


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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。

買ってしまった。
ウォーターバコバという名前らしい。
透き通るような碧緑に、小ぶりでありながら凛とした葉をつける可愛らしさ。
――ずっと狙っていた水草だ。

滅多に訪れない地元の郊外型ショップで、それが1,000円もしない価格で売られていた。
わたしは、すっかり魅力に負けて、計画的ではあるものの、半ば衝動買いの気持ちでお迎えを決めてしまった。



黒ひげ苔の基本は水流と養分の見直しだが……


1週間ももたなかった水草水槽

30cmキューブハイタイプ
栄養系のソイルを入れ、CO2も添加して、愛しい水草を植栽した。
もちろん、外部フィルターでろ過を行い、ライトも水草育成用を使い、種水はプレコ水槽から持ってきている。

これ以上の栽培環境はない。

当然、いままで20Lの水槽にいたネオンテトラとアヌビアス・コーヒーフォリアも一緒に引っ越し、わたしの小さな水草水槽が完成した。

……と喜んでいたのだが。

それから1週間後。
今やその姿は見る影もない。

黒ひげだ。
黒ひげが全てを台無しにしたのだ。

ライトグリーンの葉の輪郭すべてに、フサフサとしたものが蔓延っており、水槽全体の色を黒く染め上げている。あの小さくともエッジの利いた姿はもう存在しない。

アヌビアス・コーヒーフォリアも例外ではない。
濃緑の大きな葉も、それが活着している流木さえも、もはや彼らの手に落ちて久しい。
幸いにも、これらは定期的に木酢液で勢いを抑えることができるが、残念ながらお酢に耐性のない有茎草のウォーターバコバは、もう手遅れだ。

考えあぐねた挙句、最後の手段として起死回生のトリミングをしてみたのだが、完全に生長は止まってしまった。どうやら悪手を指してしまったらしい

完全に、ウォーターバコバの栽培に行き詰まってしまったのである。

とにもかくにも、水槽のお師匠様ことロゼッタに相談するしかない。

これはバコバではなくロタラ。
もわもわとしひげ苔の仲間にすっかりやられている。


原因は水草由来なのか? 環境由来なのか?

「えぇ! また買ったの!?」

ハンチング帽の下で目がギラリと光ると、梅の木が広がる小さな丘にこだました。
ガチョウにダチョウ、ハクチョウやウコッケイまでもが、こちらの方を何事かとうかがい、ギャアギャアと騒ぎ立てている。

ここはキャンパスのはずれ、動物系の学科が実習する施設だ。
この地に縁もゆかりもない二人だったが、せっかくサークル終わりに会ったのだからと、広すぎる構内を散策することにした。

とはいえ、話題の中心はアクア談義である。

「まぁ……ねぇ? ウォーターバコバはこの間、欲しいって言ってたしね。責めるつもりはないよ? でもね、一言ぐらい、教えてくれたっていいんじゃないかな?」
「その、ごめんなさい! だから、今こうして事後報告しているワケでして」

「もぅっ! そういうことを言ってるんじゃないのっ!!」

と、たいそうおかんむりの彼女だが……

「実はそのことで相談したいことがあるんだ!」

と助けを求めると、アクア談義の餌の香りを嗅ぎ取ったのだろう、今後一切の衝動買いをしないと約束を取り付けたうえで、にんまりと微笑んだ。

「それで、キミのウォーターバコバにいったい何が起きたって言うんだい?」
「その……植えてから1週間もしてないのに、黒ひげにやられてしまって……」

「あぁ、それはやっぱり植栽したばかりだから抵抗力が……。いや、まずはそれよりもアヌビアス・コーヒーフォリアはどうなんだい?」

わたしが両手をクロスさせて×印を作ると、彼女は大きく頷いた。

「であるなら、ウォーターバコバがどうこうというよりも、水槽の環境によるところが多いはずだよ?」
「環境……ですか?」

そう! 黒ひげ苔はね、強い水流と肥料分が大好きなんだ





時としてエアレーションですら黒ひげ苔の原因に?

動物がいた場所からさらに南に進むと、あたり一面が茶色い地面の剥き出しの耕作地帯となった。

こうなるともう、どこからどこまでが大学の敷地なのかわからない。
というより、キャンパス内に公道が走っているのだから、その広さを把握するのは手に負えないのかもしれない。

畑のさらに先、一直線にどこまでも伸びる道路をぼんやりと見つめていると、お師匠様は首を振ってUターンした。わたしも彼女の後に続いて背を向ける。
平らでだだっ広い大地に建ち並ぶ高架線、その先に広がる青く澄み渡った冬の空を見つめると、おぼろげながら黒ひげ苔の原因が脳裏に浮かび上がってきた。

「やっぱり、水流が強すぎるということは、外部フィルターがまずいんですかね?」
「まぁ、そういうことになるよね? それで、シャワーパイプの向きはチェックしてあるのかな?」

「もちろんです。しっかりガラス面を向けてあります。だから水流も落ちているはずなんですが……」

と、シャワーパイプの設置状況を伝えると、彼女は考え込んでしまった。
いくつかの交差点を超えて、遠くに大学の建物が見えてきたとき、考えがまとまったと見え、目を大きく見開き口を開いた。

「もしかしたら……なんだけどね? 原因はエアレーションかもしれない。キミの水槽は発酵式でしょ?」
「え? はい、そうですけど」

「なら、夜はCO2を逃がすために強めにエアレーションしているんでしょ? 水槽が縦型ということもあって、エアが強い水流を生んでいるんじゃないかと思うんだよね?

「あぁ! そういうことでしたか! じゃあエアレーションを……」

と口から出かけたところで、上からかぶせるように彼女はピシャリと否定する。

ダメダメ。だってエアレーションを緩めたら、CO2常時添加なんだから魚が危ないじゃない。かといって適正水量なんだからフィルターの通水量を弱めるわけにもいかないでしょ?」

「そこを何とか……なりませんかね?」

「うーん、そうだねぇ……エアレーションは手を付けたくないな。でも、外部フィルターなら。シャワーパイプの穴を大きくするとか、ナチュラルフローパイプのような漏斗状の排水アクセサリーを付けてみるのはどうだろう?

なるほど。
エアレーションはそのままでも、外部フィルターの排水口を工夫すれば、トータルでの水流は抑えられるだろう。
「さすがはお師匠様だ、すごいや!」と伝えようとしたそのとき――

「あぁ、わかった!!」

彼女が鋭い声をあげた。

エーハイムのナチュラルフローパイプ


ソイルに含まれている肥料が悪さをすることも

サークル棟まであと少しというところで、彼女は大きく手を挙げた。
あまりにも珍しいジェスチャーに、思わず理由を聞くと、こう答えた。

「もしかして、ソイルじゃない?」
「えっ?」

ソイルの肥料分がまだ多すぎるんじゃないかな? 硝酸値を測ったことはある?

――そういえば測っていない。
立ち上げ時には亜硝酸値は追っていたのだが、種水と使い古しのウールマットの効果が絶大で、ドタバタすることもなく立ち上がったので、硝酸のことなどすっかり忘れていたのである。

とはいえ、もう何度も水換えをしている。
十分に抜けきっているとは思うのだが……。

いや、もしかしたら、それが原因なのかもしれない。
なぜなら――

「あっ! 硝酸が多いと、うっすらとガラス面に緑色の膜状の苔が生えることがありますか?」
「それだね! キミの水槽に出たのかい?」

「はい……」
「うーん、とにもかくにも、後で試験紙を渡すから一度調べてみるといいかもしれない。ソイルの中に緩効性肥料のような物が入っていれば、長く持続的に養分を出し続ける可能性もあるからね!

「そうですね、今度やってみます」

――ひゅるるる。

裏門を入ると猛烈な北風が二人の間を通り抜け、お師匠様のハンチング帽が飛んだ。
バサバサとなびく前髪、隠れていたスラリと切れ長で端麗な目鼻立ちがあらわになると、わたしは思わず息をのむ。

が、彼女はにんまりと笑ってアクア談義を続けた。

「とはいえ、もうトリミングしてしまったのでしょう? 水草も調子を落とすから、運を天に任せるしかないかもね」

……

その後、わたしは外部フィルターのシャワーパイプをピンバイスで拡張し、高すぎた硝酸値を下げるために連続的な換水を決行したものの、ウォーターバコバには思いは届かず。
ほろ苦い陽性植物デビューとなってしまった。



まとめ

黒ひげ苔は名前の通り、水草や石、流木の表面に黒っぽいフサフサした姿で現れるコケで、そのしつこさから多くのアクアリストを悩ませています。
水景を彩るはずの水槽が、いつの間にか黒く覆われてしまうと、せっかくの美しさが台無しになってしまいますよね。

この黒ひげ苔が好むのは「強い水流」と「豊富な栄養分」です
特に外部フィルターやエアレーションで水の流れが強すぎると、そこに繁殖しやすくなります。
また、立ち上げ間もないソイルの肥料が効きすぎている環境も大好き。気づいたときには葉やガラス面、流木まで真っ黒にされていた……なんてことも。

対策としては、まず原因を一つずつ見直すことが大切です。シャワーパイプの向きを工夫したり、排水口を広げて水流を和らげたりといった調整が有効です。
また、硝酸塩の蓄積を防ぐために定期的な水換えを欠かさないことも基本中の基本。肥料の与えすぎにも注意が必要です。

さらに、木酢液や食酢などを使ったピンポイント処理も一つの手
ただし水草によってはダメージを受けやすいため、種類を見極めて慎重に行う必要があります。

黒ひげ苔は「完全駆除が難しい」厄介者ではありますが、水槽環境のバランスを見直すきっかけにもなります。水流、照明、栄養、換水――アクアリウムに必要な要素を総合的に整えることで、自然と黒ひげ苔の勢いは弱まっていきます。

もし水槽に黒ひげ苔が出てきたら、「あ、環境改善のサインだな」と思ってください。
焦らず、根気強く手を入れていけば、また美しい水景を取り戻すことができるはずです。



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