水槽を再スタートする前に確認しておきたいこと
昔使っていた水槽を、久しぶりに手で触れた瞬間。ガラス越しに揺れていた水景や、水音のある暮らしを思い出して、少し胸が高鳴ることはありませんか?
けれど、長い年月を経たアクアリウム用品には、見た目だけでは分からない変化が潜んでいることもあります。
再び魚たちを迎える前に、本当にそのまま使っても大丈夫なのでしょうか?
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ここには青空なんてない。見上げれば高速道路のコンクリートと、その先にあるのは天へと貫くオフィスビルの白い壁しかない。午後の始業開始まであと15分、汗ばむ陽気を期待して外に出てきたのだが……。エントランスでうだうだしていても仕方がないので、きびすを返し高層階行きのエレベーターの列へと並んだ。
まずは水槽と外部フィルターの水漏れチェック
残ったのは水槽と外部フィルター
プラチナロイヤルを導入してから5年。気が付けばビルの森の中で働いている。青々とした深緑のなかで生きていきたい。そう願って生物系の人間になったのだが、人生、何が起きるか分からないものだ。
飼育していた魚たちは、全てキャンパスで知り合った水産系学科の後輩に託してきた。プレコもポリプもコリドラスもだ。水槽はほとんど整理し、器具も半分以上を安く譲った。今や部屋に残っているのは、お気に入りのエーハイム2222と予備用の2231、そして空っぽの30cmキューブ。すっかりアクアリウムとは無縁の生活になってしまったのだ。
それでも、まだ水槽が忘れられず、月に1度は仕事帰りに付近の有名店へ通っている。カフェでコーヒーを飲み、気持ちを落ち着け、ショップの水槽に思いをはせる。
これぐらいしか、アクアリウム成分を摂取する方法がないのだ。
「よお、待った?」
しかし、彼女との繋がりは未だ健在である。
わたしのアクアリウムのお師匠様がやってきたのだ。
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| ・こんな感じで水槽を屋外保管していませんか? |
水槽と外部フィルターの劣化
いつもの赤い看板の喫茶店。アクアリウムショップに近いという理由で、いつもここを集合場所としている。静かな空間には、コーヒーの香り、タバコの煙、そしてかすかに感じる水槽の土臭い匂いが広がる。仕事後の喫茶店は、いつも大人の雰囲気があり、どこか居心地がよい。ついつい終電間際まで話してしまうことも、ままある。
私:「最近、やっと『仕事にやっと慣れて来たね』と言われるようになってきたんですよ?」
師:「アハハッ! キミはなかなか手こずってたものね?」
私:「そうなんですよ。そもそも、業界が違いますからね」
師:「でも、5年目でしょ? 新入社員からは先輩として見られてるんじゃないの?」
私:「それはあります。でも、年配の社員からは、まだまだヒヨッコ扱いですよ」
師:「むはは! でも、そういう風に客観的に見れるようになってきたってことは、仕事が板についてきたんだろうね~。ナハハ!」
私:「……コホン。実は……」
師:「ん?」
私:「実は……そろそろ再び水槽を始めるときではないか、と思ってるんです」
師:「お! やっとだね?」
私:「フィルターも水槽もありますし、簡単に再開できると思いまして」
師:「なるほどね? 後は魚を入れるばかりじゃないかって?」
私:「そう思いまして……」
師:「残念だけど、そうもいかないんだよ」
私:「え゛っ!?」
師:「だって、水槽もフィルターも5年間放り出してあったんだろう?」
私:「……たしかにそうですけど、何か問題があるんですか?」
師:「ゴム類がダメになってるかもしれないじゃない?」
私:「?」
師:「例えば、ガラス板同士を接着しているシリコンゴムは、経年劣化はもちろんのこと、紫外線や、熱や乾燥、時には物理的損耗で劣化が一気に進んでいることもあるんだ」
私:「え?」
師:「まさかとは思うけど、ベランダとか庭にオールガラス水槽を放置してなかっただろうね?」
私:「あ゛っ!ちょっと、置き場所がなかったから……」
師:「むはっ! その様子だとガラスの欠けがあったり?」
私:「それは大丈夫ですっ! だから、再利用をしようかと……」
師:「なははっ! それで、フィルターはどうなんだい?」
私:「外部フィルターは、しっかり室内保管していましたから、きっと万全ですよ?」
師:「そのOリング、現役当時に正しく使用していたかい?」
私:「どういうことですか?」
師:「ワセリンを全然塗っていなかったり、砂やろ材のクズを噛んだまま使用したりしていると、傷ついていることもあるんだ」
私:「う゛~ん……」
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| ・ハイタイプ水槽の魅力は現物で見なければわからないはず |
ともかく水漏れの有無を確認するべし
蛍の光が流れ始めた。
あたりのサラリーマンたちが無言でパタリとノートPCを片づけ始め、行き場をなくした灰皿がカタカタと棚へと戻っていく。わたしたちも帰り支度をしつつ、構わず熱っぽく談義を続けた。
私:「状況は芳しくないようです……」
師:「とにもかくにも、水槽のガラスが破損していないのは絶対として、それを接着しているシリコンが傷んでいる危険性があるんだ。それに……」
私:「外部フィルターのOリングに傷が入っているかもしれないし……ということですね?」
師:「その通り! そして、それが原因で起きることは何かな?」
私:「それは……漏水です」
師:「だよね? 漏水が起きれば大変なことになる。床はめくれ上がり、家具は水で歪み、絨毯は汚れる」
私:「……つまり、水槽道具を全部、買い直せということですか?」
師:「いやいや、そんなことはしなくていい。ただ、水を入れてみてほしいんだ」
私:「水を入れるだけでいいんですか?」
師:「水槽は洗浄ついでに水を入れて、最低限3~4日は漏水が起きてないかチェックしてほしい」
私:「外部フィルターは?」
師:「実際に通水してみて、Oリングからポタポタ漏水してこないか確認だね」
私:「なるほど……」
師:「もちろん、魚を入れる直前にも、必ず水槽も外部フィルターも組んだ状態で、最低1週間は水を回してみて?」
私:「思ったより入念にチェックした方が良さそうですね」
師:「魚を入れてからだと、水を入れたり抜いたりははもっと大変だからね」
私:「なるほど」
師:「とにかく、双方とも水を入れてみるだけだから、チェックしてみて?」
私:「劣化かぁ……。プラスチックやガラスでできた器具ばかりだから、てっきり半永久的に使えるものかと思ってました」
私:「半永久的!? なはは! そういう道具もいくつかあるけどね。だけど、そうじゃない素材もある」
私:「それが、ゴム類だと」
師:「そうなんだ。Oリングとかシリコンゴムとかだね。水と接する部分は劣化しやすいから、必ずチェックしてから使うこと」
私:「水漏れが無ければ問題なく使えるんですね?」
師:「いや、経年劣化しているのは間違いない。だから、特に屋外に置いてあった水槽は、早めに買い替えを検討した方がいいかもしれないね?」
私:「むーん……」
かくして計画はスタートした
あれこれ悩んだ末、5年ぶりに水槽を設置することをその場で決意した。
そう決めて店を出たのだが、駅に向かって数歩歩いたところで携帯が鳴った。
残業中の同僚からだ。
どうやらトラブルがあったようだ。明日は始発で出勤しなくてはならないようだ。
途端に、水槽を再開するという信念が揺らぐ。ふぅとため息をつくと、「アカヒレなんてどうだい?」とお師匠様は勧めてきた。なるほど、たしかに飼育が簡単な魚をゆったりまったりお世話して、癒やしてもらうのはありかもしれない。
時間の全てを熱帯魚に捧げるのも面白いが、今度はゆとりのあるアクアライフもいいかもしれない。
かくして、わたしの水槽生活が再び始まることになった。
まとめ
久しぶりにアクアリウムを再開しようと思ったとき、まず確認しておきたいのが「昔使っていた器具は、そのまま使えるのか?」という点です。見た目には問題がなくても、長期間しまっていた水槽や外部フィルターには、思わぬ劣化が潜んでいることがあります。
特に注意したいのが、水槽を接着しているシリコンゴムや、外部フィルターのOリングといったゴム類です。これらは紫外線や乾燥、日々のわずかな負荷によって少しずつ傷み、気づかないうちに漏水の原因になってしまうことがあります。もしベランダや庭など屋外で保管していた場合は、より慎重に確認しておきたいところです。
再開前には、まず水槽に水を張って数日間そのまま置き、漏れがないかを確認してみましょう。外部フィルターも実際に通水し、接続部やOリング周辺から水がにじんでこないかを丁寧にチェックしておくと安心です。魚を迎える前に、実際の設置状態でしばらく水を回しておくと、さらに安心してスタートできます。
また、Oリングはただ無事ならよいわけではありません。細かな傷や汚れの噛み込みがないかを見て、必要に応じてワセリンで保護しておくことも大切です。プラスチックやガラスは長く使えても、こうした柔らかな部品には寿命があります。
久しぶりのアクアリウムだからこそ、あわてず丁寧な準備を。少しの点検が、これから始まる穏やかな水槽時間を、より心地よいものにしてくれるはずです。


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