激痛・悶絶!! コリドラスに刺されたあの日
小さな熱帯魚のコリドラス。丸い目にのほほんとした顔、愛らしい姿を見ているだけで、つい笑顔になってしまいますよね。
でも、そんなかわいらしい彼らには、ちょっと意外な秘密が隠されているんです。見た目からは想像もつかないその一面に触れると、きっと「えっ、そうなの?」と驚きながらも、彼らを扱う時に用心するようになるはずです。
とにかく、コリドラスの毒にはご注意を!!
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これは2000年代とフィクションが織りなす不思議な世界の物語。
陰性植物水槽改め、新生コリドラス水槽は今日も静かにたたずんでいる。
田砂の白い粒がライトを反射し、壁にうっすらと水影を作り、湧き水用に組んだパイプの先では小さな砂粒たちが元気よく踊っていた。
「準備は整った。あとは、主役を迎え入れるだけ」
意中の子は、もう決まっている。コリドラス・アエネウス。
愛嬌のある丸い顔に、少し渋さを感じさせる黒い背中。あのコントラストに、わたしはずっと惹かれていたのだ。
コリドラス水槽を作る時に起きた悲劇
ゴム手袋の意味
そのアエネウスを見つけたのは、まさかの場所だった。
小さく古いペットショップ。近所のスーパーに併設されている。
子どものころ、インコを何度か買いに行った思い出の店だ。まさかそこで、今になって熱帯魚を迎えるとは。人生は本当に予想できない。
バイトの女性が分厚い手袋で苦戦しながらも、3匹を丁寧に袋へ入れてくれる。
その袋がわたしに手渡った時、彼女は自身の奮闘ぶりを苦笑いしてみせた。
「しっかり頼むぞ」
そう言われた気がして、こちらとしても身が引き締まる思いだ。
小走りで家へ戻り、水合わせを開始。
およそ30分。
待つ時間さえも楽しい。
これが終わるころには、きっとお師匠様も来てくれるだろう。
コリドラス捕獲大作戦
師:「お邪魔します♪」
私:「随分時間が掛かったんですね?」
師:「見てくれよ、この靴? いくら運動靴だからって酷い有様でしょ?」
私:「また農場で実習ですね?」
師:「そうなんだよ。それじゃあ、早速お魚を水槽へ移していこうよ!」
――しかし、これが惨劇の序章だとは、その時は思いも知らなかったのである。
バシャ!!
「あぁ……逃げちゃった」
師:「あはは!」
バシャバシャ!!
私:「うーん……捕まらないなぁ」
師:「んふふ♪ 右に左にすばしっこいでしょ? ナマズの仲間だからね」
私:「そうなんです。それに、グレーのバケツにアエネウスの色では、なんだか分かりづらいですね?」
師:「あぁ、それね! 彼らは今、新しい環境についたばっかりなんだ。だからほら、色も白く飛んでるでしょう?」
私:「ほんとだ……。あの黒く輝く背中が、グレーみたいな、薄い鉛色みたいな……不思議な色になってる」
師:「上手くカモフラージュして、キミから逃げているともいえるね。にひひ。」
私:「とは言え、このまま追いかけまわすのは良くないような気がします」
師:「まぁ、そぉだねぇ……。だから、ここはひとつバシっと捕獲してくれよ?」
私:「そう言われても。あっ……そうだ!」
師:「お? どうしたんだい?」
私:「こうやって左手で追い込みつつ……」
師:「えぇぇぇえ!?」
私:「これなら……いけるはず!」
師:「……あ、待って」
左手をバケツに突っ込み、ネットで挟み撃ちするように追う。両手の効果は絶大で、早くも一匹が角に追いつめられた。
――しめた、今しかない!!
ネットで誘導しつつ、手でそっと拾い上げようとすると、隣から悲鳴に似た声が上がる。
師:「わぁ! ちょっと待った待った!!」
が、今を逃せば元の木阿弥。彼女の声など気に留めることなく、左手を被せる。
その瞬間だった。
――チクッ。
私:「へっ?」
と、言葉が出たすぐ後に――
私:「うぉお! イッターーーッ!!」
猛烈な痛みがやってくる。
悲鳴とも叫びともつかない声が、6畳の小部屋に響いた。
激痛に悶絶!?
赤熱したかぎ針を無理やり刺し込まれたような激痛が、左手を駆け抜けていく。
あまりの痛さに呼吸が乱れ、患部を抱え込むようにしてしゃがみ込むと、意識が遠のき、目の前がかすむ。
師:「あぁ! ちょっと待っててね!」
お師匠様は焦りを押し殺した声を出すと、素早く部屋を離れた。
わたしは咄嗟に左手首を押さえつけ、痛みがこれ以上腕に上がってこないように必死に堪えた。ジンジンと脈打ち、冷汗が背中をつたう。こんな激痛、経験したことがない。
汗がポタポタと床に垂れ、シミができる。
まさかこんな目に遭うなんて。
地獄のような苦しみに苦悶していると、お師匠様が戻ってきた。
彼女が置いたのは、水の張られたタライだった。
私:「う゛ぅ……」
師:「さぁ手を!」
私:「……う゛?」
師:「とにかくこれに手を!」
私:「あ゛い゛」
師:「早く!」
チャポン♪
私:「……ん゛?」
師:「ちょっと熱めのお湯さ。ここにしばらく浸けていれば、多少は良くなるから」
私:「あ゛あ゛あぁ……」
師:「どうだい?」
私:「なんだか、冷汗が引いてきた気がします」
師:「でしょう?」
私:「それでも、まだ手全体がピリピリと痺れるような痛みがあります」
師:「しばらくの辛抱だよ?」
私:「うう、いったい何が起きたんでしょうか……?」
師:「コリドラスの毒だよ。背びれにある棘条(きょくじょう)――針の部分にね、毒があるんだ」
私:「棘条……?」
師:「うん。背びれ以外にも胸びれに持ってる子もいるよ。危機を察知すると針を立ててね、うかつに手を出すと刺さっちゃうんだよ」
私:「あんな小さな体で、キュートな顔つきをしているのに?」
師:「あぁ、そうなんだ」
私:「そんな武器を持っているだなんて。なんて考えもしませんでした」
師:「そうだよねぇ~。でも、タンパク質の毒だからさ、ちょっと熱めの湯につければ失活して、多少は和らぐはずさ」
私:「そうなんですね?」
師:「まぁ、すぐには治らないと思うけどさ」
私:「あ……あぁ、一応治るけど時間がかかるタイプの毒なんですね?」
師:「そうだね。たぶん1週間は痛むかなぁ」
私:「へぇっ? 一週間も!?」
段々と落ち着きを取り戻してきたが、それでもズキズキする指は、わたしの心を沈ませる。まさか、可愛いコリドラスにこんな痛い目に遭わされるとは。
師:「窮鼠猫を噛むだね」
私:「はい?」
師:「とにかく、相手は生き物さ。緊張してるときは、無理に追いかけちゃだめだよ?」
私:「コリドラスって……危険な魚なんですか?」
師:「いやいや、普段はとっても温和だよ。ただ、今日は新しい環境だしね。必死で身を守ろうとしてたんだと思う」
タライの水面を見つめた。アエネウスたちは、悪気があったわけじゃない。
そう理解すると、不思議と痛みよりも、申し訳なさが胸に広がっていった。
それから……
新しい水槽がわが家に完成した。
水草が揺れ、湧き水の気泡が絶え間なく上昇していく。その中をアエネウスたちがゆっくり泳ぎ、時折砂をつつく。その姿を眺めているだけで、指の痛みは少しだけ報われる気がした。
とはいえ、少なくとも2週間は左手が本当に痛かった。
授業はチクンとした痛みに納屋され、実験の操作に支障が出るほどだ。
だが、あの子たちが悪いわけじゃない。驚かせたのは、わたしのほうだ。
夜、ライトが消えた後、共用になった「ひかりクレスト キャット」を水槽に落とすと、アエネウスたちは興味津々で寄ってくる。ひとかじりすると、ビクッと体を震わせて止まる。そのぎこちない仕草が可愛らしくて、わたしはつい見惚れてしまうのだ。
もちろん、隣の水槽のポリプテルスも、落ちてきた餌を大きな口で「ハングハング」と嬉しそうに食べてくれる。
――これは最高だ。
手をさすりながら、己の愚かさをしみじみ思い返す夏の夜だった。
まとめ
コリドラスはとても小さくて愛らしい熱帯魚ですが、実は意外な一面を持っています。それが「毒」です。
え、かわいいのに毒!?
と思うかもしれませんが、安心してください。これは人を襲うものではなく、あくまで防御のためのものです。コリドラスの背びれや胸びれには、棘条(きょくじょう)と呼ばれる針状の部分があり、ここに微量のタンパク質系の毒が存在します。危険を感じると、この針を立てて身を守ろうとするのです。
この針に触れると、びりびりとした痛みや、ピリピリとした痺れを感じることがあります。熱帯魚に慣れている人でも、初めて刺されると驚くかもしれません。ただ、この毒は強力なものではないので、命の危険はありません。ぬるま湯につけるとタンパク質ゆえに毒が失活し、症状を和らげることもできます。とはいえ、1週間~2週間程度は痛みが続くことがあるので、小さいからと侮るのはやめましょう。
毒の存在を知っておくことは、生き物と対峙するうえで極めて大切なことです。
特に水槽の掃除や魚の移動のとき、無理に手で触ろうとすると刺される可能性があります。ネットで掬えば安全に扱えますし、魚にも余計なストレスを与えません。
かわいらしい姿の裏に、こんな小さな武器があると思うと、ますます愛着が湧いてしまいますね(え?。


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