マツモの育成環境とトリミングの話
水槽に浮かぶマツモを見ていると、「こんな細い水草が、本当にどんどん増えていくの?」と不思議に思うことがあります。実際、丈夫だと聞いて迎えたのに、なかなか思うように育たなかったり、逆に気がつけば水面を埋め尽くすほど増えていたり。その違いは、ほんの少しの育て方のコツにあるのかもしれません。
焦って行き過ぎたケアをする前に、まずはマツモという水草の栽培方法を改めて見つめ直してみませんか?
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仕事終わりの喫茶店。今日もお師匠様とアクア談義をしている。コーヒー1杯で小一時間、水槽話に花を咲かせる。たったそれだけで、胸の中に青々とした麗しい水景が広がり、日々酷使している心の疲れも自然と癒される。ちょっとした想像でリフレッシュできるのだから、ストレス社会にこれほど都合のよい趣味はない。
増えろよマツモ大作戦
マツモを入れた良いが、どうしたら……?
今、1つの問題を抱えている。マツモだ。先日購入したカップ入りのマツモ。中に入っていたものこそ、ピンと張った葉が濃いグリーンに色づく調子のよいものだったのだが、その数たったの5本。これでは現在いじめが勃発中のシェルターには、いささか足りないのだ。
ホームセンターに買い足しに行けばいいのだが、生憎、仕事で忙しく、家とコンクリートジャングルの往復で精一杯なのだ。
「じゃあ、自分で増やしてみたら?」
と、わたしのアクアリウムのお師匠様は、にんまり顔で言い放った。たしかに、彼女の言う通り、家には数年前に買い集めたCO2添加器具が揃っている。しかし、わたしには5年間のブランクがあり、さらに陽性植物を栽培して腐海を作り出した苦い記憶がある。
「こんなわたしにも、マツモを増やすなんて、できるでしょうか?」
マツモを育成できる条件とは?
疲れた顔をしたグレーのスーツの大群が、我先にと地下鉄の出入口へ群がっている。カフェの窓越しに見える外の世界は、天は巨大ビルと高速道路に、地面はコンクリートとアスファルトに覆われ、オフィスは宙空の牢獄に見える。あんな場所で日々仕事にいそしんでいるのだから、帰りぐらい表情が虚無になっても無理はない。そして、わたしもその一部なのだと思うと、ちょっと自分の人生に疑問が生じてきた。
しかし、現実の世界に連れ戻すかのように、お師匠様はわたしの目をじっと見て、そしてにまっと笑った。すると、不思議なことにわたしもつられて笑ってしまい、嫌な気持ちが吹き飛んでいく。持つべきものは、友人なのかもしれない。
師:「なはは、何か会社で嫌な事でもあったのかな?」
私:「あ……いえ。それは……」
師:「まぁ、言いたくないなら言わなくて大丈夫。さて、キミは随分と水草栽培に自信がないみたいだけど?」
私:「そうなんです。昔、水草で大失敗したことを思い出して」
師:「んはは、それはバコパにヘアーグラスでしょ? ボクもあの苔だらの水槽を見たよ?」
私:「んげ……そうでしたっけ?」
師:「まぁまぁ、マツモはもっと簡単だから大丈夫♪ だいたい、キミの水槽でも立派に栽培されてたじゃないか?」
私:「えーっと、そう言えば……そうだったかもしれません。何せ5年以上も前の話ですから……」
師:「もう、キミはいつも自信がないなぁ。得てして、失敗体験というのは成功体験を上書きしてしまうものだから、悪いことばかり想定していてはダメだよ?」
私:「……しかし、ヘアーグラスの腐海が、わたしの脳裏に張り付いて剥がれないんです」
師:「しょうがないなぁ、マツモが元気よく育つ環境の復習といこうじゃないか!」
師:「そもそも、増やすということは、マツモを元気よく育てるということ」
私:「それはわかります。でも、どんな栽培環境がいいんでしたっけ?」
師:「まず、見直してほしいのはライトだね。なるべく水草育成用を使ってくれよ?」
私:「それが残念なことに、以前、水草で使ってたLEDライトは、大学卒業と同時に知人に譲ってしまって」
師:「ふーむ、他にアクア用のライトとか残ってないかい?」
私:「最初の水槽セットについていた蛍光灯ならありますけど、今時、蛍光灯だなんて……」
師:「おっ! それだよ、それ。蛍光灯には水草が育つ光の波長が含まれていることがあるし、なによりマツモは必要光量が少ないからね。もしかしたら、もしかするかもよ?」
私:「えぇぇぇ……(ドン引き)。蛍光灯ですよ? とりあえず使ってみますけど……」
師:「まぁ、ダメだったら、きっぱりと水草育成用のLEDライトを用意するんだね」
私:「……ですよね」
師:「そんな高い物じゃないから、5,000円もあれば足りるはずさ」
私:「となれば、蛍光灯で育ってくれるのを祈るばかりです」
師:「そうだ、CO2添加はどうなってるのかな?」
私:「やっぱり、添加が必要ですか?」
師:「一応、無くても育つけど、CO2はあったほうが楽して綺麗に育つんだなぁ」
私:「実は、小型ボンベ式が一式、まだ保管してあるんです」
師:「おぉ! なら、それを使ったほうがいいかもね」
私:「でも、お金かかるし……。以前使ってた発酵式やCO2タブレットではダメなんですか?」
師:「もちろん、それでも十分だよ? とは言え、発酵式は手間がかかるから社会人には厳しいし、タブレット式は添加具合の調節が難しいからねぇ……」
私:「ボンベ式を使えるなら、使ったほうが良いということですね?」
師:「そうだねぇ。その方が簡単に育てられるからね。費用がかかっても、労力と時間で採算が採れるはずさ」
私:「なるほど。それと、"費用"で思い出したんですが、"肥料"も定期的にあげた方がいいんでしょうか?」
師:「ナニソレ!? あはっ、ひどいダジャレだね。しかし、無理しなくて大丈夫。魚が全くいないとか、貧栄養の水質でない限り、肥料は不要だよ」
私:「う゛、そんなに言わなくても。でも不安です。もし、全く生長している気配がない状況になったら、どうしたらいいんですかね?」
師:「うーん、そんな時は、肥料よりライトかなぁ。次にCO2の添加速度を上げてみたり。それでも伸びないなら、K液肥や微量要素かなぁ」
私:「早く大きく育てて、トリミングしてみたいものです」
師:「あははっ! 大丈夫、すぐに嫌というほどできるさ。それほど強い水草なんだからさ」
トリミングに際して注意してほしいこと
再び喫茶店の窓から外をのぞく。相も変わらず、青い看板の下にある入口は、都会で生まれた疲れを吸い込んでいる。
ふと、アスファルトから伸びるイヌムギと目が合った。雑草の穂が、夜露にぬれて風で揺らされるたびに、街灯の光をキラリキラリと反射させている。これこそが豊かな生命力の象徴に思え、命の炎を燃やして光り輝いているようにさえ感じられた。
そんな風に、ぼんやりと外を見ていると、お師匠様から再び茶々が入った。
師:「随分と感傷的な顔をしてるねぇ。こりゃ重症だわ、なははっ!」
私:「あ……すいません。ぼーっとしてました。それで、マツモの栽培環境ときたら、次はきっとトリミングの話ですよね?」
師:「その通り♪ まぁ、とにもかくにも、マツモをトリミングする際には、いくつか気にしてほしい事があるんだ」
私:「でも、マツモのトリミングって好きな長さに切るだけですよね?」
師:「あぁ、そうだとも。マツモは根が出ない水草だからね」
私:「なら、気にする点だなんてありますか?」
師:「そう、ピンチカットも差し戻しもないね。今のキミみたいな考えになりやすいのさ」
私:「はぁ……?」
師:「まず大切にしてほしいのは脇芽だよ」
私:「脇芽?」
師:「こんな風に、上に向っている茎頂以外で、茎から横方向に向っている新芽のことだね。これを見つけたらラッキーだと思ってほしい」
私:「はて? どうして運がいいんですか?」
師:「まぁ、最後まで話を聞いておくれよ。その脇芽が10cmぐらいになるまで、大切に育てるんだ。そうすれば1株がY字柄になるだろう」
私:「たしかに、そうなりますが? それがどうかしたんですか?」
師:「最初からあった茎頂と、脇芽の茎頂。これをトリミングすれば、どうなるかな?」
私:「あぁ……、何が言いたいかわかりました。脇芽が大きくなってから切り取れば、1株から2株になるということですね?」
師:「その通り! 脇芽は水上に出る勢いの調子が絶好調の株はもちろん、調子が上がらなくて色づきの悪い古株でも生まれることがあるんだ」
私:「つまり、よく観察して脇芽を見つけたら、トリミングで捨てないで大切に育てろ……と?」
師:「そういうこと♪ あんまり小さい状態でカットしても、そのあと育てるのが大変だからね。マツモを増やす予定があるのなら、大きくなるまで手を出さないほうがいいかもね」
私:「うーん……、正直、水槽にはよく"待つ"とか"見守る"とかありますが、これがなかなか曲者で、すごく難しく感じるんです。すぐ手を出したくなる衝動で、いつもイライラさせられます」
師:「まぁ、学校ではなかなかそういう動作は習わないからね。でも、生き物を育てるうえでの大切なことだから、業を煮やして手を出さないようにね?」
私:「大切なことなんですか? うーん、納得できないですけど、とりあえず、すぐに手を出すのは我慢してみます」
師:「慣れるまで時間がかかるけど、まぁ辛抱さ。特にボクたちみたい若い人間はね。あぁ、それと、マツモは大きく育ってからトリミングしておくれよ?」
私:「へ? ここでも待つんですか? すぐ切っちゃダメなんですか?」
師:「水槽の水面に届くまで、いや、届いてなお5cmぐらい伸びるまで大きく育ててほしい」
私:「どうして、そんなに伸ばす必要があるんですか?」
師:「マツモは水面に近づけば近づくほど大きくなり、調子が上がるものさ」
私:「あぁ、なるほど。その状態でトリミングすれば、その後の生長も早いんですね?」
師:「うんうん、よくわかったね」
師:「あ、そうだ。すっかり言うのを忘れてたけど、マツモは水草用のオモリでまとめること」
私:「でも、オモリって鉛ですよね? 水に溶けたら鉛中毒になるんじゃないんですか?」
師:「たしかに気になる素材ではある。しかし、鉛を水に入れると酸化被膜ができてコーティングされるので、実は飼育水には溶けづらいんだ」
私:「へぇ~~」
師:「とは言え、強い酸性や強いアルカリ性の水には、この酸化被膜が溶けてしまう。すると、鉛が溶出してしまうから注意が必要だよ?」
私:「あ……やっぱりちょっと危ない?」
師:「水質によっては危険だね。しっかり中性付近を保ちつつ、定期的に水換えをしていれば問題ないだろうけどね」
私:「なるほど」
師:「それでも、取り立てて重金属に弱い生体、例えばエビとか貝を飼育しているなら、キスゴムやリングろ材の穴に差してまとめるのがお勧めだよ?」
私:「あぁ、そんな方法でオモリの代用ができるんですね」
水草栽培の悩みは尽きることなく……
というわけで、あっという間にマツモの森が生まれた……というわけにはいかないが、思い付きで始めたマツモ栽培の計画は順調だ。物置から道具を引っ張り出し、足りない道具を買い集め、きっと3か月後にはシェルターとして機能するようになるだろう。
無論、水槽の立ち上げも硝酸が出始めており、経過は極めて良好だ。あとは、お師匠様が言う通り、水槽内の成り行きを見守り続ければ……って、あれ?
そういえば、CO2添加器具のつなげ方って、どうやるんだっけ?
次回は、CO2添加器具について紹介したいと思う。
まとめ
マツモは「丈夫で初心者向け」とよく紹介される水草ですが、実際にたくさん増やそうと思うと、ちょっとしたコツがあります。とはいえ、そこまで難しく考える必要はありません。基本的なポイントさえ押さえれば、誰でも青々としたマツモの森を作ることも十分可能です。
まず見直したいのがライトです。マツモは強い光を必要としないため、古い蛍光灯でも育つことがありますが、より安定して育てたいなら水草育成用LEDライトが安心です。さらにCO2添加を行えば、生長スピードや色つやが良くなり、より美しい姿を楽しめます。可能な物を選んで利用しましょう。最後に肥料。魚を飼育している一般的な水槽なら、肥料は無理に追加しなくても十分育つケースがほとんどです。どうしても気になるなら、窒素分が含まれているものを避け、微量要素やカリウムが含まれているものを使いましょう。
さて、マツモを効率よく増やしたいなら「脇芽」に注目してみましょう。茎の途中から伸びてくるこの新芽を大切に育て、十分な大きさになってから切り分けることで、1本を2本へと増やすことができます。小さいうちに切り取ってしまうといじけて一切の生長を止めてしまうことがあるので、じっくり待ってからトリミングしましょう。その後の生長も安定しやすくなります。
また、トリミングのタイミングも意外と重要です。マツモは大きくなるほど調子が上がる傾向があるため、水面近くまで伸びるのを待ってからカットしたほうが、差し戻した株も元気に育ちやすくなります。「早く手を入れたい」という気持ちを少しだけ我慢することが、結果的には近道になるかもしれません。
さらに、束ねるためのオモリにも少し注意が必要です。一般的な水草用の鉛オモリは通常の水質なら大きな問題はありませんが、エビや貝など重金属に敏感な生体を飼育している場合は、キスゴムやリングろ材を活用して固定する方法もおすすめです。
マツモは手軽な水草ですが、その魅力は「育てる楽しさ」にあります。毎日少しずつ変化する姿を眺めながら、焦らず、慌てず、水槽の中の時間を楽しんでみてはいかがでしょうか。




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