電磁弁の位置で生まれる圧力の問題
CO2添加器具を組み立てていると、ふと手が止まった。
「電磁弁とスピードコントローラー、どちらを先に取り付けるのが正解なのだろう?」
……
どちらでも動くのなら気にしなくてもよさそうですが、実は器具の並び順には見落としがちな意味が隠れています。普段は意識しない圧力の動きに目を向けてみると、配置の違いで予想外の影響が生まれていることに気が付かされる時もあります。
今回は、そんな電磁弁とスピードコントローラーのお話です。
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机からCO2添加器具を取り出す。5年前、水槽を一旦閉じた際、丁寧に洗浄して保管したものだ。レギュレーターに電磁弁、スピードコントローラーにCO2カウンター。そしてディフューザー。ありとあらゆるものが、当時の思い出と一緒に箱の中で眠っている。箱に積もった埃だけが、過ぎ去った月日を語っているようだった。
電磁弁とスピードコントローラーの順番から知る、圧力の話
どちらが先か?
感傷に浸っている暇はない。マツモを元気よく育てる。そのために机からCO2添加セットを引っ張り出したのだ。タブレットに発酵式、添加方式は数あれど、毎日仕事に追われる多忙な社会人には、このボンベ式添加しかない。
ひとしきり眺め終えた後、今まで育ててきた水草を思い返すように、一つ一つのパーツを仮組みしていく。使い終わって空になったボンベとレギュレーター、ディフューザーにカウンター……。だが、ここでふと手が止まる。
「あれ? 電磁弁とスピードコントローラー、どっちが先だっけ?」
すっかり分からなくなっていた。であるなら、お師匠様に聞くほかない。早速スマホで連絡してみると、二つ返事で次のアクア談義の日が決まった。彼女は、水槽のイロハを手取り足取り教えてくれる存在なのだ。
順番の決め手は圧力
月が出ている。綺麗な赤い三日月だ。だが、それに気が付いている人はどれだけいるだろうか。豪勢な佇まいのオフィスビル、その目と鼻の先にあるくたびれた地下鉄の入口。白いビルの隙間から空を見上げようとする人など、誰一人いない。
これが都会で働くことかとがっかりしていると、不意に誰かに手を振られた。お師匠様だ。どうやら、集合予定の喫茶店に同時にたどり着いたらしい。無関心が蔓延る世界でも、互いに気付けるのだから不思議なものだ。
ほっとしながらコーヒー片手に席に着くと、お師匠様は早速熱っぽく語りだした。
師:「実は、どちらが先でも構わないよ」
私:「へ?」
師:「スピードコントローラー付きのレギュレーターでは、どうしてもスピードコントローラー、電磁弁の順番になるからね」
私:「……なるほど」
師:「とは言え、レギュレーターの後に電磁弁、その後にスピードコントローラーを取り付けるのが一般的かな?」
私:「うーん、どうしてですか?」
師:「それは、先にスピードコントローラーを取り付けると、いろいろ不都合が生じるからさ」
私:「不都合?」
師:「そうなんだ。とは言え、それらの問題点は水草を栽培するうえでは大した問題になりづらいんだ。だから、さっき「どっちでもいい」と言ったんだ」
私:「ほぅ……。しかし、不都合ってなんですか? 気になります。もったいぶらずに教えてください」
師:「あはは、それじゃあ話を始めていこう」
師:「まず、これだけは覚えてほしい。スピードコントローラーは圧力を減らす道具ではないんだ」
私:「突然どうしたんですか? スピードコントローラーと電磁弁の順番の話ですよね?」
師:「もちろん。その圧力が、その順番を考えるうえで大切なんだ」
私:「ふむ? でも、圧力を減らす道具ではないといっても、スピードコントローラーで3秒に1滴ほどの速度まで落とせるじゃないですか?」
師:「なはっ、そうだねぇ」
私:「だったら、流量が落ちている分、圧力だって減っているんじゃ?」
師:「あぁ、言いたいことは分かるよ」
私:「何が違うんですか?」
師:「たしかに、スピードコントローラーの先がそのまま水槽だったり、キミの愛用していたスパイラル式の拡散筒だったりしたら、流量も圧力も減っているように見えるかもしれない」
私:「うーん、いまいち話が飲み込めません」
師:「そうだな……、キミはエアポンプにCO2ディフューザーを付けたことがあるかい?」
私:「もちろんありますよ?」
師:「どうだった?」
私:「ダメです。全然、使えませんでした」
師:「だよね? それは、どうしてだと思う?」
私:「それは……、ディフューザーにかかる圧力がなかったからだと」
師:「そうだろう? でも、CO2添加器具ならどうだった?」
私:「そりゃあ、もちろん、ばっちりCO2の気泡が出るに決まってます」
師:「ということは、スピードコントローラーを出てからディフューザーの手前まで、圧力がかかっていたということだよね?」
私:「なるほど、たしかに……。スピードコントローラーで量はコントロールできるけど、圧力は減らせないってわけですね」
師:「そういうこと。使い方によっては見誤るけど、これはあくまでも量を減らす道具なんだ」
電磁弁とレギュレーターの距離が問題だった
――カラン♪
カフェのドアが開きびしょ濡れの青年が入ってくると、雨の香りも流れ込んできた。テーブルの先の窓に目をやれば、帰途に着く人と通り雨が交じり、外はにわかに慌ただしくなっている。
それを横目で見ながら、ショートヘアを手櫛でかき分けると、お師匠様はにまりと笑いながら話を続けた。
師:「さて、スピードコントローラーの後に電磁弁を付ければ、圧力はどうなるかな?」
私:「えーっと、スピードコントローラーには減圧する機能はないから、電磁弁まで圧力がかかっていることになりますよね?」
師:「その通り。そして、その順番だと、電磁弁をCO2カウンターの直前に取り付けることになる」
私:「あ、わかりました。電磁弁が近すぎて、電源ONでCO2カウンターに圧力がすぐに行くような感じですかね?」
師:「当たらずとも遠からずだね。実は、この話の問題の本質は別のところにあるんだ
私:「どういうことですか?」
師:「スピードコントローラーを先に付ければ、どうしても電磁弁とレギュレーターの距離が長くなるだろう?」
私:「耐圧チューブの距離のことですか?」
師:「その通り。距離が長いほど、電磁弁の通電OFF時にはたくさんの気体を保持している状態になる」
私:「長いほど、圧力を持った空気がたくさん詰まってますからね。それが、電磁弁が通電すると一気にということですね?」
師:「その通り♪ 溜まっていたCO2が一気に通り抜けるのさ」
私:「うーん、でも、なんとなく話は分かりましたが、それのどこがダメなんですか?」
師:「CO2カウンターの中にはCO2以外に何が入っているかな?」
私:「そりゃあ、水ですよ。その中を通るCO2の気泡の数で添加量を捉える道具ですからね」
師:「もしそこにいきなり圧力がかかればどうなる?」
私:「うん? うーん???」
師:「カウンター内にCO2が急激に通ると、気泡の勢いで水があふれ出てしまうことがあるんだ。」
私:「あ、もしかして、カウンターの中が空に?」
師:「その通り」
私:「あぁ、なるほど。実はわたしも、空になったカウンターを何度か見たことがあります」
師:「なはは♪ でも、そればかりじゃないんだ。配管が抜けたり、CO2漏れの原因になるんだ」
私:「配管? 耐圧チューブが外れることあるんですか?」
師:「高価なガラス製のカウンターには、硬い耐圧チューブを取り付けられないものがあるんだ。そういったものは軟らかいシリコンチューブを使って取り付けるんだけど……」
私:「あ゛ 圧力に弱いチューブですよね? もしかして、急激な押し出す力に負けてシリコンチューブが抜けるとか?」
師:「どうやら、そういったことも起こるようなんだ」
私:「え゛ぇ……? ところで、お師匠様は、電磁弁までの距離が長すぎて、トラブルにあったことがありましたか?」
師:「外れてガラス製のカウンターが破損するような憂き目にあったことは一度も無かったよ。でも、シリコンチューブからCO2漏れをしたことがあるんだ」
私:「強い圧力がかかった結果、接続部が緩んだ、ということですか?」
師:「そうなんだ。毎回負荷がかかるようで、しっかり接続していたのに、いつのまにかつなぎ目から漏れていたんだよ」
私:「そんなことが……。でも、お師匠様なら、すぐに気が付いたんですよね?」
師:「いやいや。正確な原因が分かるまで相当な月日が必要だったよ。だって、石鹸水でないと気が付かないほどのちょろちょろ漏れだったし、まさか電磁弁までの距離が問題だなんて思わなかったからね」
私:「なるほど……」
師:「だから、キミも気を付けてほしいと思って、この話をしたまでさ」
トラブルはまだまだ続く……
とりあえず、CO2添加器具の仮組みは終わった。とは言え、状況は落ち着いてきたとはいえ、水槽は未だ立ち上げ中。まだ、CO2添加をするような状況ではない。アンモニアと亜硝酸が消え、硝酸が検出され始めたが、時折水槽のフチに泡が残るからだ。
うーん、どうしたものか。
そういえば、そろそろウールマットの交換時期だったような……。
まとめ
CO2添加器具を組み立てるとき、「電磁弁とスピードコントローラーはどちらを先に付けるべきなの?」と迷ったことはありませんか。実は、水草を育てるうえではどちらの順番でもCO2添加そのものは可能です。
しかし、器具の保護やトラブル防止という視点で見ると、一般的にはレギュレーターの後に電磁弁、その先にスピードコントローラーを配置する方法がよく採用されています。
その理由のひとつが、配管内に残る圧力です。スピードコントローラーはCO2の量を調整するための器具であり、圧力そのものを下げる役割はありません。
そのため、電磁弁のディフューザー側に長い耐圧チューブがあると、内部には圧力のかかったCO2が溜まった状態になります。そして電磁弁が開いた瞬間、そのCO2が一気に流れ出すことがあるのです。
この現象によって、CO2カウンター内の水が押し出されてしまったり、接続部に負荷がかかったりする場合があります。特にガラス製カウンターなどでシリコンチューブを使用している環境では、長期間の繰り返しによってわずかなCO2漏れにつながることもあります。
もちろん、必ずトラブルが発生するわけではありませんが、配管の長さや接続方法を見直しておくことで、予期せぬ問題を減らしやすくなります。
CO2添加では添加量ばかりに目が向きがちですが、圧力がどこまでかかっているのかを理解しておくことも大切です。器具の順番や配管の取り回しを少し意識するだけで、より安定したCO2添加環境を目指せるかもしれません。



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