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2026年5月26日火曜日

どうしてアカヒレは、安価で地味なのに人を魅了してやまないのか?

パイロットフィッシュとしてお迎えしただけなのに……

熱帯魚には、不思議と「最初は興味がなかったのに、いつの間にか夢中になっていた」という種類がいます。派手な色彩でもなく、高価な珍魚でもない。それなのに、水槽の前に立つたび視線を追ってしまう。気付けば、その小さな動き一つ一つが気になってしまうのです。今回のお話は、そんな“地味だけど、不思議と心を掴む魚”ことアカヒレにです。


**********************************


薄暗い高架下のエントランスから抜け出し、黄色の地下鉄に飛び乗る。サラリーマンの流れに乗って大きな駅で下り、改札横の交差点に向うと、すっかり人が疎らになっている。あいかわらず、駅構内はグレーの大群がひしめいているが、彼らを横目に駅から離れ、曲がりくねった高速道路の下を歩き続けた。ピークタイムを過ぎたオフィス街は、静寂と大人の雰囲気に包まれており、昼間、多くの人間が頭を悩ませている場所には、とても思えなかった。



気が付いたら、アカヒレの可愛らしさに魅了されてた話


~テトラばかりが小型魚ではない!

正直に言おう、アカヒレなんて興味がなかった。小型魚と言えばカラシンぐらいなものだと思っていた。だが、今やわが家の水槽の主役は彼らだ。
しかし、どうしてだろう。飼えば飼うほどわかる。こんなに愛嬌がある魚だったなんて。
胸の中に、おぼろげな輪郭ではあるが、焦がすような熱さを感じつつ、身を冷ますように静かなビルの隙間を縫うように歩き続けた。



安く、生命力の強い魚だが……

海の香りのする大きな橋をこえると、ちょっと古臭いマンションが見える。今日の待ち合わせ場所は、その足元の防波堤にある。河口を見下ろすように造られた遊歩道となっており、対岸に名だたる日本庭園や旅客船ターミナルを見定めつつも、浮世離れすることない下町のオアシスだ。

「お、やっときたね?」

と、缶ビールの入った白いコンビニ袋をフリフリさせつつ手を振るのは、わたしの水槽のお師匠。スラックスにワイシャツ姿で白い柵にもたれかかりながら、お疲れ気味のはにかみ笑いをして見せた。

師:「アカヒレの調子はどうだい?」

私:「彼らには申し訳ないと思っています……」

師:「え゛っ、死んじゃったの!?」

私:「いえいえ、生きてますよっ?」

師:「ほっ……よかった」

私:「ただ、今現在で2週間目。もしかしたら、あと1か月は魔境に住んでもらうことになるんです。申し訳なさでいっぱいです」

師:「アンモニアと亜硝酸は猛毒だからねぇ~。それが絶え間なく吐き出されるのが、立ち上げ期間中の水槽だものね?」

私:「ですが、学生のように水槽に張り付いているわけにはいきませんし……」

師:「とは言え、彼らほど適任はいないと思うけど?」

私:「……、死んでしまうかもしれないというプレッシャーが強すぎて、結局毎日水換えです」

師:「あはは! それじゃあ、キミの好きなプレコをパイロットフィッシュにするのと変わらないじゃない?」

私:「そうなんです!!」

師:立ち上げの負担が楽になるからこそ、強い生命力を持つアカヒレをお勧めしたはずだけど?

私:「いえ、実は、気付いてしまったんです」

師:「……何を?」

私:「アカヒレのかわいらしさに……っ!」

師:「ナハハっ! そりゃ大変だよキミ? 言い方は最悪だけど、万が一死んでしまってもいい魚として、アカヒレを勧めたんだよ?

私:「それを好きになってしまったかもしれません!!」

師:「まぁ、気持ちは分かるよ。たしかに、名前も地味だし、体も赤一辺倒。どこにでもいる魚だしさ……」

私:「見た目はいたって平凡なんですが……」

師:「そう! 見た目はね?」

私:「でも、あんなになつかれたら……」

師:「むははっ!」

私:「最大限心をこめてお世話をするしかないじゃないですか!?」

師:「んふふ♪ まぁ、そうなるよね?」

・ラスボラの仲間もコイ科。行動はよく似ている


地味なのによくなつくコイ科小型魚の奥深さ

堤防上から見る夜景は美しい。闇の中にはいくつものビルがそびえ立ち、窓一つ一つが輝いている。空の銀幕が降りたような街並み。ビルの虚空の中、真っ赤にひときわ大きな鉄塔が、太陽のようにライトアップされ、燃え上がるように浮かび上がっている。

潮風が勤務後の体を包み込み癒す。なんと、たばこ臭い喫茶店にいるより遥かに居心地がいいことか。爽快感に耽っていると、真横でプシュリと缶を開ける音がした。慌てて目を向けると、ビールに口を付けた彼女と目が合う。そして、恥ずかしそうに一口飲み込み、笑いながら口を開いた。

師:「で、たった1か月だけの関係だったかもしれないのに、キミはすっかりアカヒレに熱を上げているんだね?」

私:「いままで飼育してきた小型魚のほとんどは、カラシンばかりなんです」

師:「あぁ~、なるほど」

私:彼らは常に機械のように群れていて、どこか人間を冷たい目で静観しているような気がします

師:「まぁ、全てがそうとは思わないけど、たしかに、どこか一線を引いている感じがあるよね」

私:「カラシンは、絶妙な距離感、いえ、見えない壁があって、観察者と観察対象の域から抜けることはありません」

師:「んふふ♪ 言いたいことは分かるよ。でも、それが野生動物というものさ」

私:「自然の再現であるアクアリウムには、その関係がちょうどいいことも分かります。でも、もしペットとしてなら……」

師:「良くなついた方がいいと?」

私:「ちょっとおこがましいですが……」

師:「あはは! たしかに。お互いの気持ちが通じ合ったような、あの不思議な感覚は、何にも代えがたいものだね」

私:そう思うんです! こちらが水槽に近寄れば、アカヒレたちもふりふりと尾ひれを捻らせながら近寄ってくるし、それに……」

師:「それに?」

私:「一匹ずつ行動がバラバラで、こちらを見ていて、個性を持っているように思えるんです」

師:「んふふ、キミもよく見ているね。そうなんだよ、群れとしての協調性を持ちながら、一匹一匹が意思をもって活動している。それこそコイ科の特徴だね?」

私:「正直、こんなに可愛いだなんて、思いもしませんでした」

師:「しかし、思い出してほしいけど、金魚もコイ科さ」

私:「あーなるほど!」

師:「彼らの人間との付き合い方は、折り紙付きなのかもしれないよね?」



アカヒレのいじめ対策ややっぱりマツモ?

私:「でも、やっぱり、一つ気になることもあるんです……」

師:「なんだい?」

私:「実は、いじめがあるんです……」

師:「はーっ、なるほど。なら、マツモだよね?」

マツモ。以前栽培したことがある水草だ。幸いにして、高価なCO2添加器具は全て自室の机の中に大切に保管してある。どうやら、わたしの運命はまた水草と相まみえることになるらしい。
だが、このマツモ、見つからなくてなかなか苦労することになる。詳しくは次回述べたいと思う。



まとめ

アカヒレは、熱帯魚に詳しい人ほど「初心者向けの地味な魚」という印象を持っているかもしれません。価格も安く、丈夫で、パイロットフィッシュとして扱われることも多いため、どうしても脇役のように見られがちです。しかし、実際に飼育してみると、その印象は驚くほど変わるはずです。

多くの人が驚くのは、人への反応の良さです。水槽に近付くと、こちらを見つめながら尾ひれをふりふりと動かして寄ってきます。ただ群れて泳ぐだけではなく、一匹ごとに行動や性格の違いが見えてくるため、不思議と愛着が湧いてくるのです。群泳魚でありながら、しっかり「個」が感じられる。この感覚はどこか人間臭く、カラシン系の小型魚とはまた違った魅力かもしれません。

派手さはないけれど、じっくり付き合うほど魅力が見えてくるアカヒレ。だからこそ、長く愛され続けているのかもしれません。



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