トリミングのタイミングに時間的な理由は存在しない
ミクロソリウムの状態は上々だ。茶ゴケが出たり、黒ヒゲが出たりと小さなトラブルこそあるが、テデトールに木酢液でなんとか乗り越えてきた。
気が付けば、そろそろお迎えして3か月、サイズは少しばかり大きくなってきているような気がする。――言葉が曖昧なのは、生長の実感が沸かない水草だからだ
しかし、そろそろトリミングの"時期"を迎える。切っていいものやらわるいのやら……。
はて? そういえば、この透明な葉は何だ?
トリミングするなら、いじけるリスクを考えてから
10月だというのに猛烈に体が冷える。秋風は心地よいはずなのだが、漆黒の空からゴウゴウと吹き付けるビル風は、空調で冷え切った体に吹き付けてすこぶる染みる。仕方なく、使う予定がない地下鉄の下り階段を駆け下りると、急に現れた生暖かい湿気でいつのまにか汗ばんでいた。
本当は、通り掛けにアクアショップに軽く立ち寄ってから、近くの喫茶店で談義するつもりだったのだが、どうやらこの地下道は目的地まで繋がっていないようだ。初めて入った見知らぬ地下街、知っている目的地の名を頼りに、黄色の看板に沿って歩き続ける。
やがて、地上に出たので、今度はスマホ頼りにやたらと狭い路地裏を抜けると、ふと目の前に懐かしい看板が目に入った。バーガーショップだ。
可愛らしい女の子がトレードマークで、四角いパティが有名なお店。急にお腹が空いたので、せっかくなら、お師匠様も呼んでアクア談義をすることになった。
髪の毛なら定期的に切るべきかもしれないが……
師:「……すごいね、キミのやつ肉が3段に重なっているんだね?」
私:「手元が肉汁だらけで、食べるの大変なんですけど、これが最高なんです!」
師:「ナハハッ! たまにはこういうのもいいかもね♪」
師:「ところで、今日呼んだ理由は?」
私:「実は、ミクロソリウムのトリミングのタイミングで悩んでいるんです」
師:「タイミング?」
私:「そうなんです」
師:「キミは、どうしていつだって、そんなことで悩んでいるんだい?」
私:「いや、だって人間だって定期的に髪の毛を切らないといけません……よね?」
師:「んん?」
私:「?」
師:「……」
師:「んー、それで、水草の状態はどうなんだい?」
私:「生長は順調です。少しずつサイズも大きくなってきて、そろそろトリミングしごろかなって」
師:「ふんふん、どれくらい大きくなったんだい?」
私:「そうですね、直径がだいたい水槽の奥行の1/3程度まで育ってきました」
師:「順調だね。つまりスペースがないからトリミングしたいんだね?」
私:「いえ、スペース的にはまだ十分で」
師:「は……?」
私:「はい?」
私:「いえ、栽培を始めてもう3か月は経ってますし、そろそろトリミングしなくてはと?」
師:「ナニソノ理論?」
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| ・勢いでトリミングすると取り返しのつかないことになることも…… |
トリミングするべき理由はあるか?
私:「……あの、なんか変な事言ってますか?」
師:「うん。勘違いしているね」
師:「そもそも、期間を決めてトリミングするのは良くない手だよ?」
私:「え゛っ!?」
師:「トリミングは水草の状況に合わせてするものなんだ」
私:「……あ、そうなんですねっ(汗」
師:「例えば、黒ヒゲ苔でどうしようもなかったとか……」
師:「下の年老いた葉がボロボロになったりとか?」
私:「いえ、黒ヒゲ苔はちらほら出ていますが木酢液のおかげで侵略の勢いが止まっていますし……」
私:「幸い、下の方の古い葉が朽ちてきたということもありません」
師:「……なるほど」
私:「あ、透明な葉があったような……。これって病気ですか?」
師:「いやいや、新芽が葉を展開しているときに起きることさ。元気に葉を伸ばしている証拠だね」
師:「つまり、今トリミングする理由は取り立ててなさそうだね」
いじけるリスクを管理する
マツモとミクロソリウムの違い
師:「ミクロソリウムの栽培はとても簡単で……」
師:「しかも、トリミングも作業自体は至極短時間で終わる水草さ♪」
私:「でも、お師匠様は簡単と言いつつ、妙に慎重のようですが……?」
師:「そうなんだよ……」
師:「たしかにハサミで葉の付け根=葉柄をカットするだけなら簡単なんだけどね……」
私:「カットするだけなら簡単……と?」
師:「うん、カットするだけならねぇ……」
師:「しかし、そのタイミング選びは、難しいんだ」
師:「だって、トリミングって、そもそもそもそも傷つけ行為でしょ?」
私:「……よく考えればそうかもしれません」
私:「ですが、それが良い刺激になって新芽が出るとよく聞くのですが……」
師:「うんうん。ほとんどの生長力がある水草にとっては、良い刺激になるよ」
師:「ウィローモスなんかは、トリミングすれば新芽だらけになることだってある」
師:「でも、マツモと違って、ミクロソリウムは生長速度が遅い水草でしょ?」
私:「そういえば、そうですね」
師:「そんな水草に、強めにハサミを入れ過ぎるとどうなると思う?」
私:「はて? 例えば、トリミング後の生長が遅いとか?」
師:「その程度で済むならラッキーだねぇ」
私:「え?」
師:「あぁ、誤解のないように言っておくけど、多くの場合は、再び生長が始まり問題が出ない」
私:「では、何が難しいんですか? そして、心配しているのですか?」
師:「それはだね、もし、状態が悪いミクロソリウムをきつめにトリミングしてしまうと……」
私:「しまうと?」
師:「いじけてしまうこともあるんだ」
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| ・いじけた水草の復活は可能だが、根気比べになるのは間違いなし |
いじけた水草の症状
私:「いじけ? いじけってなんですか?」
私:「あっ、わかりました。生長もしなければ枯れもしないってことですね?」
師:「お、よくわかったね♪ そうなんだ。小さな葉ばかりを付けるようになる」
師:「結果的に、株のサイズが一回り小さくなることもあるんだ」
私:「それは困りますね」
師:「そればかりじゃないよ。生きながらに生長が完全に止まってしまうこともある」
私:「なんかゾンビみたい。それはちょっと嫌ですね」
師:「アハハッ、もちろん、そういうことがあるよ? って話なんだけどね」
私:「必ず、ではないんですね?」
師:「うんうん。調子が悪いほどに、いじける確率が上がるってだけさ」
師:「とは言え、その状況からの復活は、年単位の時間と手間がかかる」
私:「そんなにかかるんですか?」
師:「そうなのさ!」
私:「避けて通れるなら、避けて通りたいものですね」
師:「そうだよね? そういうことが起きてからでは遅いわけだからね」
私:「――あぁ、だからこそ、"定期的"にトリミングするものではないと?」
師:「そういうこと♪ リスクを考えれば、時間的な理由でトリミングをするべきではないよね?」
師:「まずは、水草の調子を優先すべきで、しっかり観察してからだね」
師:「それでも、トリミングをしたいのならば……」
私:「コケや枯葉、サイズなど、しっかりとした理由があるべきだと?」
師:「そういうこと♪」
トリミングをするのはやめた。今はリスクに似合ったベネフィットがないと気が付いたからだ。
葉がコケたり、ボロボロになったり……、いやいやネガティブな想像はよくない。
もっと葉が大きくなりすぎて困った時まで待つつもりだ。水草の調子自体はすこぶる良いようだから、そう遠くない未来にトリミングの時期を迎えるはずだ。


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