ミクロソリウムには園芸用ビニタイ
ミクロソリウムを溶岩石に活着させようとしたものの、なかなか思い通りにいかなかったことはありませんか?
瞬間接着剤ならツルツルとした流木なら簡単そうに思えますが、相手が凸凹の溶岩石になると、少し事情が変わってきます。木綿糸という定番の方法もありますが、もっと手軽で長く使える方法があったら嬉しいですよね。
そこで今回は、身近な園芸用品に注目してみます。ビニタイです。
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ポロリと落ちたミクロソリウム。わたしは、乗せる相手を失った溶岩石を見て、呆然とするしかなかった。
活着系水草の手早い固定方法として、広く知られて久しい瞬間接着剤。たしかに、木綿糸と比べて、長期間における成功率は高そうだ。天然素材の糸は、水槽内で自然に朽ちてしまうからだ。
活着には接着剤。「これはいいことを知った♪」と購入して、意気揚々と使ってみたのだが……。
ビニタイで固定する理由
接着剤が失敗した原因
どうやら、ものの見事に当てが外れてしまったようだ。よくよく考えれば、細い茎と穴ぼこだらけの石。広く平滑な接着面を確保できないのだから、それぞれ接着剤との相性が最悪なことがうすうす分かる。
であるなら、昔ながらの木綿糸しかないのだろうか?
しかし、ミクロソリウムが活着する期間と朽ち果てる期間を比べれば、残念な寿命設計であることは明らか。安定的で持続的な固定を考えれば、途中で糸の巻き直しを要するだろうし、もっと面倒な作業も発生すること間違いなし。
……何かいいものはないだろうか?
となれば、わたしの水槽お師匠様に聞いてみる他ない。
どうしても木綿糸を使いたくない!
真夏。世間ではそう言っている。だが、この高層オフィスでは季節というものは感じられない。常時快適な温度に室内は整えられているし、地上から距離がありすぎて蝉の鳴き声すらも聞こえてこない。
唯一分かるものとすれば、中で動き回っている人間の服装ぐらいなものだ。だが、それすらも今はなく、そこかしこに主が不在で寂しげなオフィスデスクが佇んでいる。
つまり……、年がら年中キーボードを叩きつける音が鳴り響くこの会社にも、ついに夏休みがやってきたのだ!!
……まぁ、わたしたちの部署には、そんなものは無いのだが。
人が消え、さっぱりとした表情をした街並みを眺めつつ、そのまま駅へ向かう。数駅先の官営の大きな庭園が、本日のアクア談義会場だ。「どうせ、今日もほとんど仕事がないのに、意味もなく出勤なのだから」と、明るいうちに上司が逃がしてくれたのだ。
広い芝生の隅にある木陰の下に座り込み、ワイシャツを脱いでTシャツ姿になり空を見あげる。道中購入した食パンを平らげてから、大木に背中を預けて目をつむると、蝉の鳴き声に混じってビル風が吹き抜けていく。
あぁ、なんと至福の時間だろうか。
……。
「ちょっと、ちょっと?」
不意に知っている声が掛かったので、ぼんやりと目を開いてみると、そこには懐かしい顔。
あぁ、そうだ、この人は今まで授業の実習中だったのだ。わたしは、時間を潰すためいつものベンチで読書をしていたが、すっかり眠りこけていたようだ。
……いや、そんなはずはない。
よくよく見れば、お師匠様の顔はメイクの濃淡で、随分と大人びて見える。
「その様子だと、すっかり眠りこけていたようだね。あははっ」
そんな風に毒づく彼女のスーツ姿を見れば、残念だが心地よい幻想は一瞬で吹き飛んでいく。
名残惜しい世界に別れを告げて、立ち上がり周囲を見回してみると、すっかり夕方のようだ。自然豊かな場所にいたので、学生時代に戻ったような安心感が生まれ、強い眠気を呼び込んだのかもしれない。
師:「……で、ミクロソリウムの活着は上手くいったのかな?」
私:「いえ、それが……」
師:「その口ぶりだと失敗したのだね?」
私:「はい。アヌビアスのように瞬間接着剤で固定させたのですが……」
師:「ふむふむ」
私:「ミクロソリウムの茎は細く、溶岩石の表面は凸凹です」
師:「はぁー、なるほど。そりゃ瞬間接着剤が上手く乗らないわけだ」
私:「結局、1週間ほどで外れてしまって、どうしたものかと……」
師:「となれば木綿糸とかどうだい?」
私:「数か月置きに巻き直しをするのが、どうにも嫌で……」
師:「ナハハ、たしかに面倒だね」
私:「それに、ボロボロになって朽ちた糸の回収だなんて、面倒でなるべくやりたくありません」
師:「むはは、実にキミらしい考え方だね」
私:「むーん……、だからこその瞬間接着剤だったのですが。それも失敗してしまったようです」
師:「なるほどねぇ。なら、ゼリー状の瞬間接着剤なんてどうだい?」
私:「……そう思ったんですが、一回失敗している以上、接着剤は止めておこうかと」
師:「アハハ! まぁ、そう考えるのは自然だよね」
私:「それで、なにかいい方法はないかと、今日聞こうと思いまして……」
師:「それじゃあ今日は、木綿糸に変わる固定方法について話をしよう」
私:「お師匠様は木綿糸と瞬間接着剤以外になにか知ってますか?」
師:「もちろんだとも。ボクとしてのおすすめはビニタイだね」
私:「ビニタイ?」
師:「園芸で良く使われる、平たいビニールに包まれた針金のことさ」
私:「ほぉ? 針金ですか?」
師:「いや、鋼が剥き出しの針金ではないから勘違いしないでおくれ?」
私:「はて?」
師:「ほら、園芸用の支柱をビニタイで結んで、三角形に組まなかったかな?」
私:「あぁ、なんとなくわかりました」
それならビニタイでしょ?
ミンミンゼミの鳴き声のなかに、ヒグラシの声が混ざり始めた。遠くに見える山並みを見れば真上に夕日が重なり、超高層ビルのとんがり帽子が浮かぶ空はパープルに変わり始めている。あと30分もすれば、閉園時間だというのだが、誰もが移りゆく夕焼けを楽しんでいるようだ。
私:「して、ビニタイを使う利点はなんですか?」
師:「それは、結ぶのがすごく簡単で、解けることもないからさ」
私:「ふむふむ」
師:「色もグリーンで水槽によく馴染むし、値段も安くてすごく長持ちなんだ」
私:「でもそれって……水槽で使うわけですよね?」
師:「え? そうだけど?」
私:「だったら、やっぱり水中だから錆びるのでは? 中身は鋼ですし」
師:「いやいやそれがね、ビニールの帯で密着するように包んであるものだから、そうそう錆びるものではないんだよ」
師:「たしかに考えてみれば……。両端はともかくとして、それ以外は水と直接触れることはなさそうですからね」
師:「そうそう、そうなんだ。だから、思ったよりも長持ちするんだ」
私:「お師匠様はどれくらいの期間使えてますか?」
師:「ボクの環境では水中に入れたものは2~3年は使えてるなぁ。もっとも錆びて朽ち果てる前に、ミクロソリウムの土台交換で巻き直しになることがほとんどだけど」
私:「かなり長持ちなんですね」
師:「そうなんだ。聞いた話では、100均で1巻き購入して、10年以上その1巻きで足りている人もいるらしいよ」
(筆者のことです)
私:「えぇ!? それなら木綿糸の存在って……」
師:「いやいや、木綿糸には木綿糸の良さがあるから。それに、ビニタイにもデメリットはあるんだよ?」
私:「はて、なんですか?」
師:「針金だから硬いのさ!」
私:「硬い?」
師:「そうだとも。だから、締め付け過ぎには注意してね?」
私:「傷がつくということですね?」
師:「そうそう、強く締め付けると傷ができて、そこから腐っていくのさ。だから、つけるときは、多少力加減をしてね?」
私:「なるほど……」
師:「使い方はこうさ。葉をかき分け、茎と土台に直接ビニタイで固定されるように巻きつけてあげてほしい」
私:「葉や根は巻き込んじゃダメなんですか?」
師:「多少なら大丈夫。でも、あまり巻き込むと土台がミクロソリウムから外れやすくなるから注意してね」
私:「ふむふむ」
師:「そして最後に、石とミクロソリウムがズレない程度に、ビニタイで優しく結んであげてね?」
その後
家に帰る途中で100均の園芸用品コーナーに寄り、無事ビニタイ1巻きを購入。早速これで、居場所もなくフラフラと浮かんでいたミクロソリウムを水槽から引っ張り出し、溶岩石に巻きつけると1分もしないうちに簡単に固定できた。ちょっとした革命のように感じられた。
30cmキューブのハイタイプの畔でゆらゆらとマツモとミクロソリウム。どんどんと水草水槽が様になっていく。さて次はどの子を迎えようか。
まとめ
ミクロソリウムを溶岩石に活着させたいとき、意外と悩ましいのが「どうやって固定するか」という問題です。
ミクロソリウムは根茎を持つため、底砂に植え込むのではなく、流木や石などに固定して楽しむのが基本。ところが、相手が穴の多い溶岩石だと、思ったように固定できないことがあります。
手軽な固定方法として最近よく知られているのが、瞬間接着剤です。アヌビアスなどでは使いやすい方法ですが、細いミクロソリウムの根茎と凹凸の激しい溶岩石では、接着面を確保しにくいことがあります。実際に使ってみても、しっかり固定できるとは限りません。
昔ながらの方法では木綿糸があります。巻きつけるだけなので扱いやすい一方、水槽の中では少しずつ朽ちていきます。ミクロソリウムが活着するまで糸が残ってくれればよいのですが、活着する前に劣化してしまえば、巻き直しが必要になることもあります。さらに、朽ちた糸を水槽から回収する手間も気になるところです。
(筆者はこれで、過去に地獄を見ました)
そこで候補としてあがるのが、園芸用品としておなじみのビニタイです。ビニールで覆われた針金なので、ミクロソリウムと溶岩石をしっかり固定しやすく、木綿糸のように短期間で朽ちる心配もありません。しかも安価で、長期間使えるのも魅力です。
ただし、ビニタイは針金なので、締め付けすぎには注意が必要です。ミクロソリウムの茎を傷つけないよう、ズレない程度に優しく固定するのがポイントです。葉や根を大量に巻き込まず、根茎と土台を固定するように巻きつけると扱いやすいでしょう。
手軽さ、耐久性、価格を考えると、ビニタイはミクロソリウムの固定方法として、なかなか便利な選択肢です。溶岩石への活着で困ったときは、一度試してみてはいかがでしょうか。


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