簡単ミクロソリウムの苔対策の初手は指で
マツモは調子を取り戻しつつある。だがミクロソリウムは違う。今度は、べったりとした茶色の苔が葉に貼り付くようになってきた。それに伴い、なんだか生長が遅くなったような気がする。
一難去ってまた一難。わたしの水草水槽はいつもこうだ。
しかし、この茶ゴケ、どうしたものか……。
ミクロソリウムと現実
白亜の塔。そう言っても差し支えないだろう。天高く真っすぐに伸びたオフィスビルを見ると、この中に戦場があるとはおよそ想像できない。姿かたちは美しいが、中の地獄を知る人からすれば、通り往く者たちを圧迫しているように見えてほかならない。
無意識な焦燥感から逃げて小道に入る。良い香りとこじゃれたレストランがちらほらと目に入り、ほっとする。だが、看板に掲げられた価格を見れば、すぐに冷たい汗が滴り落ちる。
この国の意思決定機関が歩いて10分の場所にあるのだから、馬鹿馬鹿しい物価でも致し方ない。
逃避行。せっかくもらった早上がりの午後、目指しているのは水草の森。今日はお師匠様とアクアショップで集合となっているのだ。
が、ショップに行っても、現実の厳しさを突きつけられることになった。
一口に水草水槽と言っても
私:「はぁぁ……、ここの水草は綺麗ですねぇ」
師:「そーだねぇ~」
私:「それと比べてうちのは……。うまくいかないものです」
師:「ん? なにか悩みでもあるのかい?」
私:「その……、ショップの水草は、どうしてこうも綺麗なのでしょうか?」
師:「ふん? 突然どうしたの?」
私:「実は、うちのミクロソリウム、最近茶ゴケにやられてまして」
師:「あぁ……、なるほど」
師:「そりゃあ、この水槽には、ほとんど魚が入っていないからね」
私:「それだけ? たったそれだけで、こんなに違うものなんですか?」
師:「ナハハッ。キミにとってはたったそれだけかもしれないけど……」
師:「生体メインの水草水槽と、水草メインの水草水槽は、まったくの別物だと思ったほうがいいんだよ?」
私:「え……、そういうものなんですか……?」
師:「キミの水槽は立ち上げたばかりで、しかもアカヒレがいっぱいいるでしょう?」
私:「そうですけど……」
師:「魚がいれば、餌や排泄物から苔の原因が入ってくる」
私:「しかし、水換えもしっかりしているし、餌だってあげ過ぎているとは到底……」
師:「いやいや、養分の事を考えれば、根底からまったく違うものなんだよ」
師:「それに、立ち上げ終わったばかりでしょ?」
私:「んぐ……、そうですけど」
師:「水質不安定だから、なおさら茶ゴケが出やすいころだね」
私:「うーん。そんな理由が……」
生長の遅いミクロソリウムのコケの付き方
師:「それに、ミクロソリウムは生長が速い水草ではないからね」
私:「生長が遅いと、やっぱり苔が付きやすいのですかね?」
師:「うーん、そだねー……、マツモと比べれば、コケが付きやすいかもね」
私:「どうしてですか?」
師:「ほら、生長が早ければ、コケが蔓延る前にトリミングでしょ?」
私:「あっ、なるほど……。こけた部分はカットですものね。生長が遅いとそれができないですね」
私:「であるなら、ミクロソリウムのコケ対策はどうなんですか?」
私:「やっぱり、生長速度が遅いと、難しいのですかね?」
師:「いやいや。コケは付きやすいけど、対策そのものは簡単さ」
私:「え゛っ! 簡単にできるんですね?」
師:「生長速度が遅いからといって、苔対策が難しい水草というわけではないんだよ」
私:「あっ、そうなんですね。なんだかほっとしました」
師:「うんうん。まぁ、対策と言ってもコケの剥がし方だけどね」
私:「剥がし方? でも、どうしてミクロソリウムの葉とコケの剥がし方が?」
師:「だって、葉が厚いじゃない?」
私:「葉に厚みがあると、何かいいことがあるんですか?」
師:「いわゆるテデトールというやつさ♪」
私:「はい? いまいち話の流れがよくわかりません」
師:「指で擦って落としても、ダメージになりづらいのさ」
私:「あぁ……なるほど。器具と同じように擦って苔を取るんですね?」
師:「その通り♪」
私:「でも、水草の葉って、……擦っていいんですか?」
ミクロソリウムとテデトール
蛍の光が流れ始めたアクアショップを後にし、巨大な豆腐型の建物が並ぶ大通りを通り、駅前の喫茶店を目指す。ふと、上を見れば、赤い月が雲の隙間から街を見下ろしており、その下では、高層ビルの窓々がまだ煌々と輝いている。
あの灯の中、きっと誰かが仕事を頑張っている。そう考えると、絶賛午後休中の身としては、なんともむず痒く、どことなく時間を無駄にしているようで不甲斐ない。
しかし、そんな風に自責しても、気が付けばお師匠様の隣に座っていて、コーヒーを手にしているのだから、つくづく人間という生き物は面白い。
そんなことを知ってか知らずか、数少ない休暇中のわたしを連れ出した彼女は、今日も熱を込めてじっとりと語り始めるのだった。
コケに触れる意味、スポンジで擦る是非
師:「ミクロソリウムのような葉が分厚い水草なら大丈夫」
師:「でも、薄い葉を付ける水草は、なるべく控えるべきだね」
私:「そうなんですね」
私:「それにしても、テデトールだなんて、なんか、メネデールみたいな響きですね」
師:「ナハハッ。とにもかくにも、まずは手でコケに触れてみてほしい」
師:「苔の硬さ、固着具合、質感が文字通り手に取るように分かるはずさ」
私:「なるほど。しかし、指で擦るだけでコケが取れるだなんて、本当にあるんですか?」
師:「だからこそ、物は試しさ」
私:「え゛?」
師:「茶色の苔や、緑色の糸状のコケなら、勝率は高いよ?」
私:「え゛っ? あ、あの……どの苔も手で取れるのではないのですか?」
師:「いやいや。硬く固着している苔はどうにもならないよ」
私:「ダメな苔もあるんですね?」
師:「そうなんだ。黒ヒゲとか、緑色の斑状のコケとかね?」
私:「ふむふむ」
師:「とにもかくにも、まずは触ってみる価値はあるはずだよ?」
師:「そして、無理に剥がそうとして、葉が破れるのなら諦めた方がいいかもしれない」
私:「……それにしても、やけに、指で剥がすことを勧めてくるんですね」
師:「だって、ミクロソリウム相手なら、それだけリスクが低いからね」
師:「指なら力加減もしやすいし、失敗もしづらい♪」
私:「そういうことですか。ところで、指でOKなら、スポンジなんかも使ってみてもいいんですか?」
師:「いい質問だね。ボクとしては、スポンジは摩擦が強いから、熱心にゴシゴシすると葉を傷めることがあるのでお勧めしないよ。」
私:「じゃあ、まずは指で、というワケですね?」
師:「そういうことだね」
まずは栽培環境の見直しを
私:「そういえば、ミクロソリウムのコケ退治といったら、木酢液が有名ですけど」
私:「そういった薬剤は必要ないんですか?」
師:「う゛~~ん、基本的には最終兵器だね」
師:「まずは養分を見直して、テデトールしてみて、それでもダメなら使ってみてもいいかも」
私:「いきなりは、ダメ?」
師:「たしかに葉が分厚いので、薄めれば木酢液も使えるよ?」
師:「でも、一歩間違えれば葉や茎が腐り落ちるんだ」
私:「リスクがあるから、薬剤に頼るのはおすすめしないと?」
師:「うん、そういうこと」
師:「CO2や肥料を含め、どんなものでも過ぎれば毒。問題はその扱いやすささ」
私:「手と比べれば、対して木酢液は、失敗した時の被害が大きいということですね?」
師:「うんうん♪ そういうことさ」
師:「それに、キミは最近アクアリウムに復帰したばかりだろう?」
私:「?」
師:「まずは水槽の中の環境を見直したほうがいいカモね」
私:「え?」
師:「まずは水換えとそのタイミングを見直しだね」
私:「そこ……?」
師:「さらに、ライトの照射時間、CO2の添加量、そして肥料のバランスもね」
私:「そうなん? むーん……」
師:「見直し自体も、リスクの低い行為だからねぇ」
私:「つまり、わたしの水槽なら、生えてしまった苔はテデトール。増えやすい原因は環境のバランス取り、そういうことですか?」
師:「その通り。苔を取ることと、苔が増えにくい環境を作ることは、別々に考えたほうがいい」
師:「その方が、具体的な修正内容が見えてくるはずだよ」
私:「分かりました。まずは指で丁寧に擦ってみます」
師:「うん。それがいい」
私:「でも、もし、テデトールで取れなかったら?」
師:「そうしたら、やっぱ木酢液だねぇ」
※
テデトールで取れな代表格の黒ヒゲ苔には、水質の見直しのほか、水流の調節(低減)も対策としてお勧めです。


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