水流を抑える利点と欠点、それを克服しうるアイテム
最近わが家の水槽に見慣れないやつがいる。そいつらは、ヒーターや排水口のフチなどに陣取り、流れに身を任せてフサフサと無意味に黒い毛をなびかせている。
そう、黒ヒゲ苔というやつらだ。
黒ヒゲ苔には木酢液。それが定番であるらしいのだが、一歩間違えれば枯死するリスクもあるらしい。どうしよう……。とりあえず水槽のお師匠様に相談しておくべきか。
黒ヒゲ苔にヤラレタ!
夜の土砂降りの中、列車がホームに滑り込んできた。大型連休だというのに車内の人は疎らで、目に入るのは誰もがグレーをまとったビジネスマンばかり。
決して目を合わせることはないが、それぞれが互いを背中で鼓舞するように、スルスルと人が流れていく。いつも通りで、なんだか安心した。
明日も仕事。だが、家に帰ることはできない。ぐずった前線が、早朝に大粒の雨を落とす予報で、交通機関が動かなくなるかもしれないと、職場が暗に言うのだ。
仕方がないので、今日は見慣れぬ駅の古びたホテルで一泊することになった。もちろん自腹である。
こういった塩っ辛い待遇にはすっかり慣れてしまった。そんな話を目下連休中のお師匠様にしたところ、ロビーにあるカフェまで陣中見舞いに来てくれた。
となれば、必然的にアクアリウムの話となる。
生長が遅い水草はコケ対策で不利なことも
師:「ナハハッ、こんなことがあるんだから、職場の近くに住むべきだね!」
私:「そうは言っても、色々とですねぇ……」
師:「ところで、ミクロソリウムの茶ゴケは解決したのかな?」
私:「あぁ、実は……」
師:「ん?」
私:「茶ゴケは、徐々に減ってきたのですが、なんと今度は黒ヒゲ苔が」
師:「あぁ……。一難去ってまた一難だね」
私:「そうなんです!」
師:「繰り返すけど、ミクロソリウムは生長が遅い水草だからね」
師:「葉の展開が遅いから、トリミングで古い葉ごとコケを除去することができない」
私:「もし、カットしたら?」
師:「いちいちトリミングで問題解決していたら、葉が全部なくなっちゃうよ?」
師:「つまり、なるべく葉を温存しながら育てたいところだねぇ」
私:「むーん……」
私:「葉の入れ替わりが遅いから、コケに狙われやすいってことですね?」
師:「そうそう。そして、一度コケの病巣ができれば、状況は悪化する一方さ」
私:「ふむむ……」
師:「しかも悪いことに、黒ヒゲ苔は手で取り除くことが、ほぼ不可能……」
師:「こりゃあキミ、相手は強敵だよ」
私:「だからこそ、今日相談しているんですが……」
師:「ナハハ、そうだったね♪」
黒ヒゲ苔の好む場所
師:「まず、覚えてほしいことは、黒ヒゲ苔の原因の1つは水流だということさ」
私:「水流? 水の流れですか?」
師:「そうだとも。改めて水槽の中を見渡してほしい」
師:「黒ヒゲは、排水口や給水口についているだろう?」
私:「あぁ、そういえば……」
師:「あいつらは水の流れの強い場所を好むんだよねぇ」
私:「うーん。しかし、ミクロソリウムと何の関係が?」
師:「ニヒヒ、それはキミの水槽でも、きっとあるはずなのさ?」
師:「どうしてだと思う?」
私:「え? うーん……? しかし、わが家のミクロソリウムは、排水口の延長上にありませんし……」
私:「葉がワサワサとなびいている素振りもありません」
私:「お師匠様は、どうして水流が強いと言い切るんですか?」
師:「実はだね、黒ヒゲ苔は『局所的』に水流が強いところも好むんだよ?」
私:「うん?」
師:「そして、そういった場所は、人間の目から見て水流が弱く見えることもある」
私:「はて……? いまいちイメージがピンときません」
師:「例えば、ヒーターやデジタル温度計のコードって、よく黒ヒゲ苔がついているでしょう?」
師:「コードを断面で捉えると円さ。そこに水の流れがあたると、その上側と下側に分かれるよね?」
私:「ふむふむ」
師:「こういった流れの境界線ができる場所は、局所的に強い水流が生まれているようなんだ」
私:「境界線ですか……」
師:「ほら? ミクロソリウムについた黒ヒゲも思い出してごらん?」
師:「どこについてるかな?」
私:「そういえば……、葉の縁についてました」
師:「葉の平面に乗るようにして付く黒ヒゲはほとんどないよね?」
私:「あぁ、なるほど!」
私:「水草の葉の形ゆえに、どうしても付きやすいんですね?」
師:「そういうことだね♪ つまり、水草は黒ヒゲ苔が好む形状を有しているのさ」
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水流を抑えることが黒ヒゲ対策の第一歩
秋の長雨。せまいロビーには、絨毯から生まれた古臭い匂いと、自動ドアの隙間から入り込んだ青臭い雨の香りが漂っている。
カフェとは名ばかりで、受付と玄関の間にあるわずかなフロアをパーテーションで仕切った簡素なものだが、外の雨音がほのかな眠気を誘うのか、不思議と心地が良い場所なのだ。
だが、時間とともに雨音が強まってきた。ふと玄関から外を見れば、アスファルトに跳ね返った水滴が、はっきりとした王冠の形になり始めた。
そろそろお開きとせねばならないようだ。が、我々はすっかり我を忘れて、黒ヒゲ苔の話を続けるのであった。
水流を抑える代償は大きい
私:「黒ヒゲ苔が蔓延る理由は分かりました」
私:「その対策はどうすればいいのでしょうか? やっぱり木酢液ですかね?」
師:「いやいや、黒ヒゲ苔の対処の初手は、水槽全体の水流を抑えるところからだねぇ」
私:「やはり、水流ですか。しかし、そもそも何を見直せばいいのでしょう?」
師:「見てほしいのは、不必要に強い水流になっていないかだね?」
私:「と、いいますと?」
師:「例えば、強すぎるエアレーションがついてないかとか?」
師:「水槽サイズよりも大きすぎるフィルターが付いていないかとか……ね?」
私:「あ゛ー……それは心当たりがあります」
私:「ですが、それは、夏の酸欠防止策には必要なものであって……」
師:「高水温には、ろ過にエアレーション。うんうん、そうなるよね?」
師:「実は、黒ヒゲ対策は、ろ過や溶存酸素の向上と相容れない部分もあるんだ」
私:「相容れない?」
師:「うんうん♪」
私:「ということは、魚の命と水草の黒ヒゲ、どちらを取るかってことですね?」
師:「残念ながら、水流を抑える悪影響はそればかりじゃない」
師:「悪いことに、水流を弱めれば必然的に油膜も浮く」
私:「う゛ーん……」
師:「たくさんの物事を天秤にかける必要があるので、黒ヒゲの根絶というのは難しいんだよ」
師:「特に、生体メインの水草水槽ではね?」
私:「なるほど……」
だが、排水アクセサリを使えば……
師:「そうは言っても、黒ヒゲを何とかしたいのがアクアリストというもの」
師:「最近では、先人により、ろ過能力を落とさないまま、水流の問題を解決できるアイテムが生み出されているよ?」
私:「え……、ろ過と溶存酸素を捨てなくてもいいんですか?」
師:「いやいや、そこまで完璧なものはない」
師:「しかし、各社から出ている排水アクセサリを用いれば、ろ過性を維持したまま流量を落とすことができる」
私:「排水アクセサリ……、なんですか、それ?」
師:「キミ、たしか外部フィルターユーザーでしょ?」
師:「ほら、これ見てごらんよ? これを排水口に取り付けるのさ」
私:「お、なんかラッパみたいな形ですね?」
師:「そうなんだ。こういった物を取り付けることで、フィルターからの水流の圧を弱めることができるんだよ」
私:「ふむふむ、水圧を……。これならフィルターに取り付けるだけだから、すごく簡単ですね♪」
師:「そればかりじゃないよ? こういったガラス製のものもあるんだ!」
私:「あっ、すごくきれいです! これなら水草水槽に似合いそうですね!」
師:「ちなみにこれ、実はいいお値段がするんだよね……」
私:「ん? どれどれ? ワッ! お高い!!」
師:「とにもかくにも、こういった物を使えば、ろ過能力そのままに水流を抑えることができるのさ」
私:「なるほど……」
師:「さらに、給水口にサーフェイススキマーを取り付ければ、油膜もばっちりさ」
私:「おぉ、なるほど! では、溶存酸素はどうすれば?」
師:「う゛ーん……実はまだ決定だがないんだよね(汗。」
師:「細かいエアが出るストーンで控えめにエアをかけるぐらいしかないかなぁ……」
私:「なるほど……、そこはまだ新発明が出てないんですね?」
師:「ナハハ、そうだね、将来に期待だね!!」
あまりお勧めできない方法
私:「ところでなんですが……」
師:「ほい?」
私:「外部フィルターのタップを絞って水流を弱める手はダメなんですか?」
私:「これなら、何にも排水アクセサリを買わなくても、タダで水流を抑えられるはずです」
師:「うーん、それはやめておいた方がいいかもしれないね」
私:「どうしてですか?」
師:「だって、水流を弱めれば、フィルターの中を流れる水の量も減る」
師:「つまり、ろ過能力が落ちるし、詰まりやすくもなるんだよね」
私:「あ……、溶存酸素量が低くなりやすい外部フィルターでそれは、いろいろと不味いですね」
師:「まぁ、手軽にできる対策だけど、リスクを考えればお勧めはできないなぁ」
私:「その点、排水アクセサリなら、そういった危険性はほとんどありませんよね?」
師:「そうそう♪ こういったものは、水流を抑えつつも、フィルターのろ過能力をフルに使えるのが魅力なのさ」
師:「夏の高水温対策をしつつ、水流対策もできるというワケ」
私:「おぉ、なるほど!!」


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