木酢液の利用は慎重に
黒ヒゲ戦線異常なし
満を持して投入したナチュラルフローパイプにより、黒ヒゲ苔の進撃は衰え、戦線は膠着状態となった。
……正直、この結果は意外だ。水流を抑えれば劇的に黒ヒゲ苔は消えると思っていたからだ。
世の中、いや水の中はそうは甘くないらしい。ミクロソリウムの緑の葉に、あいつらは未だに陣取り、光にCO2、そして養分までも横取りしている。
だから、わたしは決めた。好転しない状況に業を煮やして、ついに最終兵器を使うことにしたのだ。そう、木酢液だ。
あれさえあれば、あいつらも一網打尽だと聞く。だが、リスクのある薬剤だとも聞く。であるなら、水槽のお師匠様に聞いてみるしかない。
彼女は学生時代から付き合いのある、水槽星人とも言うべき変態的親友だ。
苔はどうしても着くもの
私:「お師匠さまぁ……」
師:「おや、どうしたんだい? 浮かない顔で……」
私:「実は、まだアイツが蔓延っているんです」
師:「アイツ? もしかして、黒ヒゲ苔がまだ治ってないんだね?」
私:「そうなんです……」
師:「苔はそんなにすぐに治るものじゃあ、ないからね」
私:「でも、水流はナチュラルフローパイプで抑えてあるし、硝酸もそれほど高くない」
私:「それなのに、“どうして”いつまでたっても黒ヒゲ苔が出てくるんですか?」
師:「ナハハっ、その通りだよ」
私:「え??」
師:「苔はどんなに清潔にしていても、『どうして』も出てしまうものなんだ」
私:「う゛~~~ん。でも、それは困ります」
私:「だって、癒やされるために水草をやっているんですよ?」
私:「コケだらけの水草水槽だなんて見たくないんです!」
師:「ナハハっ!」
私:「例えば、木酢液とかどうなんですかね?」
師:「黒ヒゲ苔には木酢液。水草をやっていれば、必然的にそうなるよね?」
師:「というわけで、今日は木酢液の使い方について話していこうと思うよ」
私:「お、ついに木酢液の話をしてくれるんですね!」
木酢液のリスクとその回避
事実、木酢液はキケンな薬剤
私:「実は、前々から気になっていたんですが……」
私:「でも、失敗が怖くて使うのを二の足を踏んでいたんです」
師:「なるほどね。でも、それはいい判断カモ」
師:「使い方を間違えれば大変なことになるからね」
私:「あ゛ぁ、やっぱり……そうなんですね」
師:「そもそも、木酢液って何だと思う?」
私:「はて? 木から採れるお酢ですかね?」
師:「ちょっと惜しいね。これは、木炭作りの煙を冷却して得られた物なんだ」
私:「ほほぉ……」
師:「こいつを適切に薄めて、水草に付いたコケへ使えば、コケだけを駆除できるというワケ」
私:「魔法の液体ですね!!」
師:「でも、何度も言うけどメリットばかりではないんだよ?」
師:「木酢液は、扱い方を間違えると水草まで傷めてしまうんだよ」
私:「うーん、例えば、どんな風に、水草を害することがあるんですか?」
師:「そーだねぇ、ボクの経験では……」
師:「ウィローモスの色が抜けるようになって、溶けてしまったこともあったし……」
師:「アヌビアスやミクロソリウムでさえも、葉を傷め、茎を腐らせ、枯死に至らしめたことさえあったよ」
私:「ふむふむ。アヌビアスやミクロソリウムって、水草の中では比較的薬剤に強い種類ですよね?」
師:「そうなんだよね。有茎草に比べたら、分厚くて立派なクチクラ層を有しているからね」
師:「そんな水草でも、失敗すれば溶けるように朽ちていくのさ」
私:「思った以上に効き目が強いのですね?」
師:「うんうん。それが利点でも欠点でもあるんだよね」
私:「そうですか……。しかし、そんなものを使って本当に大丈夫なんですか?」
師:「いい質問だね♪ そこでポイントになるのは、濃度と接触時間なのさ」
木酢液の安全な用法用量は、一概に決められない
私:「濃度と時間?」
師:「そうさ、この2つがポイントだね」
私:「具体的には、どうすればいいんですか?」
師:「ボクが『今使っている』木酢液なら、ミクロソリウムには3倍程度に薄めた液をスプレーして、30秒放置だね」
私:「ほおほお。では、ホームセンターで木酢液、100均でスプレーボトル買ってきて、3倍・30秒をすればいいだけですね!?」
師:「いやいや。残念ながら、そう上手くは行かないんだ」
私:「え?」
師:「実は木酢液は、商品によって濃度や成分がまるで違うんだ」
私:「えええっ!?」
師:「だから、『3倍に薄めて30秒』という数字は、そのまま当てはめてはダメなんだよ」
師:「薄ければ苔は死滅しないし、濃ければ水草が枯死する」
私:「なるほど……」
私:「しかし、お師匠様が使っているものは、3倍30秒で大丈夫と判明しているのですよね?」
師:「そうだよ? この木酢液ならね?」
私:「それは、どうやって分かったんですか?」
師:「ナハハ……失敗と経験からだね」
師:「実は、最初に購入したメーカーの木酢液は、当てずっぽうに3倍程度に薄めて1分30秒くらい処理しても問題なかったんだ」
私:「ほぉ?」
師:「きっと、運が良かったんだろうね」
師:「ところがだ。その感覚で今のメーカーの木酢液を同じ時間処理したら……」
私:「ダメだった?」
師:「そういうこと。水草を傷めてしまったんだ。結果はさっき話した通りさ」
私:「うわわ……」
師:「ウィローモスは溶けてなくなるし、ミクロソリウムは枯死寸前……」
師:「もちろん、黒ヒゲ苔も赤く染まるようになって死滅したけどね」
私:「大きな損害だったんですね……」
師:「そこで、初めて自分のミスに気が付いたんだ」
師:「だから、木酢液を使うなら、濃度と時間にも気を付けないといけないよ?」
私:「ふむむ」
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| ・生物系の人間なら、誰しもが一度は聞く標語ではあるが…… |
水草ファーストな選択肢を
木酢液を使うなら必ずテストしよう
私:「では、初めて使う木酢液は、どうすれば失敗をせずに済みますか?」
師:「そりゃあ、テストだよ、テスト♪」
私:「テスト?」
師:「そう♪ 濃度と時間をテストするしかないね」
私:「なんと! 自分で調べるしかないんですね……」
師:「残念ながらね。そんなテストでも、いくつかルールがあるよ」
師:「まず、目立たない場所を選んでテストすること」
師:「次に、10倍や5倍など、高い希釈倍率順に木酢液をスプレーして……」
師:「5秒、10秒と、できるだけ短時間だけ放置してみること」
師:「そして、木酢液はすぐにカルキ抜きした水で洗浄し、十分に成分を取り除くこと」
私:「なるほど。そうやって安全な濃度と時間から、徐々に濃度を上げ、時間を伸ばし、苔にだけ効く範囲を探っていくんですね?」
師:「察しがいいね♪ 水草の様子を確認しながら、必要なら少しずつ条件を調整する」
師:「もちろん、これを水草の種類ごとにやってね」
私:「種類?」
師:「例えば、ミクロソリウムとヘアーグラスでは作用時間が違うからね」
私:「なるほど……。葉が薄いほど低濃度でしか耐えられなさそうですものね」
師:「間違っても、短気を起こして、いきなり高い濃度、短時間でテストしないでね?」
師:「じっくりゆっくり、腰を据えて安全な濃度と時間を探してほしい」
私:「いきなり濃い液をかけるのはダメ、と。メモメモ」
師:「うんうん。だって、テストで水草が枯死したら、どうしようもないでしょう?」
私:「そう言われれば、そうですね。なるほど……」
私:「しかし、木酢液って、便利そうだけど、結構扱いが難しいものなのですね」
師:「そうなんだよ。コケにも効くし、水草にも効く。だから、使うなら慎重にね」
私:「ふむむ……」
師:「それと、テスト後、1~2週間は継続して観察しておくれ?」
私:「え? 木酢液かけて黒ヒゲ苔が赤くなって、水草が元気なら大丈夫じゃないですか?」
師:「水草は苔より頑丈に出来ている分、時間をかけて枯死していくこともあるのさ」
私:「えぇ……」
師:「実際、ボクが失敗した時は、黒ヒゲ苔は数時間、ウィローモスは3~4日、ミクロソリウムは2週間で枯死し始めた」
私:「わぁ……、徐々に枯れていくのは怖いですね」
師:「だから、テストするなら、なるべく長期間は観察するようにしてほしい」
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| ・水流を抑えて根を断ち、木酢液で切り込むべし |
駆除よりも大切な事
私:「実は黙っていたんですが、今日聞いてすぐ使えるよう、すでに木酢液を買ってあるんです」
師:「お、そうだったんだね」
私:「それだけ、黒ヒゲ苔がのっぴきならない状況だったんです」
師:「初めてでしょう? それならな、慎重に使いたいところだね」
私:「でも、今までの話しぶりを聞いていると、ちょっと気になりますね……」
師:「そうだねぇ。黒ヒゲ苔を駆除するには、水草が枯死するリスクは避けて通れないね」
師:「安全な濃度と時間さえ分かってしまえば、なんてことは無いんだけどね」
私:「そこなんです。濃度と時間のテストもなんだか複雑に思えて……」
師:「うーん、そう感じるなら、無理に使わないのも1つの選択肢だと思うよ」
私:「やっぱり……ですか?」
師:「木酢液は、あくまで黒ヒゲ苔対策の選択肢の1つだからね」
師:「水流の低減や、養分・水質の向上はもちろんだけど、水草を調子よく栽培していれば、いつのまにか消えていることもあるんだ」
私:「あ、そうなんですね。ということは、苔が生える原因の根本は、水草の抵抗力ということなんですかね?」
師:「その通りさ♪ 健康な水草には苔は生えづらい」
師:「逆に、いくら駆除しても水草の調子が上がらなければ、いたちごっこになることもある」
私:「むーん、なるほど」
私:「効くからといって、絶対に木酢液に頼る必要はないんですね」
師:「そういうこと。水草をきれいにしたいのに、そのための処理で水草を傷めてしまったら本末転倒だからね」
私:「……なるほど。もう少し、よく考えてみたいと思います」




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