【1】ピンチカットと差し戻しの違いとは?
(2025/5/24 修正)
今回は、ピンチカットと差し戻しという2種類のトリミング方法のメリットとデメリットを紹介したいと思います。
また、後半ではピンチカットした水草(ウォーターウィステリア)の生長の様子を、写真や図を用いて紹介したいと思います。
ピンチカットと差し戻しの違い
序章
さて、水草が大きく生長したとき、普段わたしは「差し戻し」という方法でトリミングを行っています。詳しくは後で述べますが、茎の途中でカットし、切り離した茎頂側をソイルに差し込むというトリミング技法の1つです。美しい草姿を保てるこの方法は、水景を重視する水草水槽に最適な方法ですが、作業工程が多く、手間がかかる方法でもあります。この手間を回避するため、今回はピンチカットを試してみたので、両者の違いについて述べていきたいと思います。
利用する部分の違い
それではこのパートでは、ピンチカットと差し戻しの違いについて、具体的に説明したいと思います。まず、下の図をご覧ください。
上の図の左側は差し戻し、右側はピンチカットを表しています。差し戻しでは、カットした葉と茎の茎頂側を利用し、ピンチカットでは根端側を利用します。次のパートでは、それぞれの手法について詳しく述べていきます。
差し戻しの方法
まずは、差し戻しについてです。
カットした茎頂側を、上の図のようにソイルへと差します。すると、数日後、切断された部分から発根して、1つの「株」となり生長を始めます。結果的に、トリミング前と比べてサイズを小さくできるというわけです。
ピンチカットの方法
次いでピンチカットについてです。
次いでピンチカットについて。
ピンチカットは、茎頂を廃棄し、ソイルに埋まっている根端側をそのまま残す手法です。こちらもやがて、切断された茎から新芽が出て、1つの「株」となります。トリミング前と比べて、株のサイズを小さくできる手法というわけです。
ざっくりと差し戻しとピンチカットの違いを理解していただいた上で、話はそれぞれのメリット・デメリットへと進みます。
差し戻しのメリット・デメリット
差し戻しのメリットその1:株の調子が良い
さて、植物は、下の方の葉よりも、茎頂に近い葉が調子良くなる傾向があります。なぜなら、多くの植物にとって背丈(草丈)というのは、他の競合相手に邪魔されず太陽の光を浴びるための生命線。すなわち、太陽光争奪の最前線でもあるからです。
そのため、植物は上端側の生長を優先し、下端側への栄養供給をおろそかにする傾向があります。こういった現象を「頂芽優勢」といいます。つまり、差し戻しというトリミング方法は、この調子の良い部分を活かしつつ、サイズを短くできる手法だと言えるのです。
え!?
水草の根が無い状態でも元気がいいの!?
土台って……大切だよぉ?
なんて思う人もいるかもしれませんが、地上に生えている植物と違い、水槽の中では水分に困ることがありません。差し戻しができる水草は、根が無くても大きく調子を崩すことは少ないのです。良好な栄養状態と十分な水分があれば、トリミング後の水草の調子はピンチカットと比べてすこぶる良好で、多くの場合、本格的な生長は発根してから始まりますが、長くても2週間ほどで以前と同様に生長を再開するでしょう。
なお、植物の体の構造上、どうしてもピンチカットができない水草もありますので、注意してください。単子葉類や活着系水草、ランナーやストロンで増えるもの、さらにはロゼット型水草などは、差し戻しに向かない傾向があります。よく調べてから差し戻しを行いましょう。
差し戻しのメリットその2:コケやすい下葉を落とせる
さらに、差し戻しにはコケ対策としてのメリットもあります。先に述べた通り、植物は根端より茎頂が優先されるため、下葉はどうしても調子が上がりません。
そのため、葉は大きくとも弱々しかったり、栄養不足の症状が出てしまったりして、維持管理が難しく、コケの格好のターゲットになりやすい部分です。
これをトリミングによって丸ごと水槽から取り除けるわけですから、差し戻しはコケ対策に適したトリミング方法だと言えるのです。
差し戻しのデメリットその1:手間がかかる・時間がかかる
ではデメリットは? と言いますと、上で紹介した通り、作業の手数が多く、時間もかかるため面倒だという点です。
水草を茎の途中でカットし……
余計な葉を切り落とすなど形を整え………
切り離された元の株の根を掘り出し…………
以上のステップを踏んでやっとの植栽となります。どうしても手間がかかってしまいます。
差し戻しのデメリットその2:時には掘り返されることも……
時間をかけ植栽しても、差し戻した株はしばらく根がありません。そのため、小型魚にいじくりまわされると、「天空の城」のエンディングのごとく、ぷかぷかと水中に浮かぶ水草を目にすることになります。一度そうなると、再度植え直しの手間がかかるのです。
場合によっては、小型魚といたちごっこになり、根気比べの様相を呈してくるかもしれません。そうならないように、水草おもりを利用するのも1つの手だとは思います。しかし、重金属を避けたい人にとっては、簡単には導入できず悩ましい問題でもあります。
差し戻しのデメリットその3:差し戻しでは基本的に株は増やせない
また、基本的に差し戻しでは株を増やせません。多くの水草において、1株につき1茎頂部だからです。そのため、株数を増やすには、何らかの茎頂部を増やす方策が必要です。多くの場合ピンチカットと併用して、茎頂を増やすことになります。なお、一部の水草では、茎頂部でなくとも茎や葉を差し戻すだけで増やすことも可能です。とはいえ、成功には非常に時間がかかる上、コケに侵されて失敗するリスクも高くなります。
ピンチカットのメリットデメリット
ピンチカットのメリットその1:水草を倍々ゲームで増やせる
ピンチカットで茎頂をなくした水草は、カットされた部分に新芽を作ることはもちろんのこと、不自然な位置に脇芽として複数の茎頂を形成することがあります。これらが生まれることで、再び植物体として伸び始めるのです。そして、この脇芽がポイントです。今回トリミングしたウォーターウィステリアでは、切断された茎の1か所から2つの脇芽を出しました。これを十分に生長させたのちに差し戻すと……、あら不思議、1つの株から2つ生まれたことになるのです。さらに、数字のマジックは続きます。カットされた根端をそのままにして再び新芽が生まれれば、なんと合計3株に増えたことになるのです。つまり、ピンチカットは水草を増やせるトリミング方法だといえるのです。これを繰り返していけば、まるで倍々ゲームのように水草を増やすことも可能です。
なお、こちらも単子葉類や活着系、ロゼット型、ストロンやランナーによって増える水草には適さないことが多いため、注意してください。
ピンチカットのメリットその2:脇芽で葉を密に、より美しく。
複数の脇芽を出させ、うっそうとした水草の森を作り出すのにも、ピンチカットは利用できます。例えば、ロタラのようにひょろっとした草姿をもつ水草は、葉の大きさや茎の長さよりも、その密度の高さが美しさに直結します。そのため、差し戻しばかりではスカスカの林となり、なんとも見ごたえがありません。このような場合は、ピンチカットして茎と葉の数を増やすことが大切なのです。つまり、水景を際立たせる管理手法でもあるのです。
ピンチカットのメリットその3:ピンチカットは切る「だけ」なら簡単
ただ茎の途中でカットするだけのトリミング方法で、作業自体はすこぶる簡単です。そのため、トリミングでは数を増やせて、さらに葉の密度も増やせる、手軽なピンチカットが有力な選択肢になります。……といきたいところですが、実は狙った形や自然な印象に仕上げるようにカットするのは、意外に難しい作業でもあります。
ピンチカットのデメリットその1:草姿が乱れやすい
植物にもよりますが、複数の脇芽が生まれやすい点は、言い換えれば草姿が崩れてしまうことを意味します。ハイグロフィラなど葉が大きな水草では、それが顕著に表れます。例えば、ウォーターウィステリアなどは、1つの株から複数の脇芽が出ると、逆三角形や円形のような草姿になります。残念ながら人間の目から見ると、このような形は雑然とした印象を与えやすく、手入れが不十分であるような野暮ったい印象を持たれやすくなります。トリミング後に美しく生長させたいのであれば、差し戻しに軍配が上がるでしょう。
ピンチカットのデメリットその2:生長が遅い
また、トリミング後に調子を崩し、成長速度が一時的にガクンと落ちる傾向があるのも難点です。先にも述べましたが、水草の元気な部分は茎頂側です。下部の葉はコケが付着していたり、生長不良を起こしていたりと、元気がない傾向があります。このような部分には、コケが蔓延しやすいのです。
とはいえ、コケに侵されても、状態の良い茎頂部はすでにないため差し戻しもできず、手詰まりの状態に陥ってしまいます。最悪の場合、黒ヒゲ苔など手に負えないものが発生すると、木酢液やフィトンチッドなどの薬品類に頼らざるを得なくなります。このような事態を防ぐためにも、なるべく差し戻しとの併用をおすすめします。
一歩間違えば、あっという間にコケに覆われてしまい、水草を増やすどころではなくなる可能性もあるため、多少なりともリスクのあるトリミング方法と言えます。
なお、差し戻し・ピンチカットに限らず、トリミングは植物の状態が良いときに行いましょう!
差し戻しなら、最低でも茎頂部の色合いが良好な状態で。
ピンチカットなら、根元付近の葉がコケに覆われておらず、なおかつ根元から新芽が出ているようなタイミングで。
とにもかくにも、植物の状態を最優先にしてトリミングしましょう!!
【2】ピンチカットの方法とその後の生長について
この章からは、ピンチカットに焦点を当てて、実際にウォーターウィステリアをトリミングした様子と、その後の生長について述べていきたいと思います。
ピンチカットの方法・道具
ピンチカットは、伸びきった水草の茎の途中で切断するだけという、大変簡単な手法です。
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(トリミング前のウィステリアのイメージ) |
まずはトリミング後のサイズを考える
生長した水草の高さを考えます。最初のうちは、生長を見込んで「トリミング直前のサイズ」より少し短めにカットするとよいでしょう。とはいえ、切りすぎればいじけて一切の生長を止めてしまうことがあります。短すぎるよりは長すぎる方がリスクは少ないでしょう。
ハサミで茎をカットする
ハサミでカットします。カットする部位は、茎から葉が出ている部分を「節」というのですが、節から少し上でカットしていきましょう。先に述べた通り、トリミングが深くなりすぎないように注意しましょう。その危険性についてはすでに述べた通りです。もし、深めにカットしてしまったのなら、茎頂側に十分な長さがあるはずです。保険として差し戻しておきましょう。余計な出費を防ぐための常套手段です。
カットされ分離した水草を回収する
最後にカットされて水中や水面を漂っている、茎頂側の切れ端を回収します。このトリミングの切れ端は、そのまま捨ててもよいですし、綺麗に整えて別水槽に植えてもよいでしょう。もちろん、慣れないうちは、失敗に備えて保険として利用してもよいでしょう。
ピンチカットはセンスの差が出やすい?
ピンチカットして2週間後のウォーターウィステリアがこちらになります。なお、直後の写真は、あまりにも無残な姿だったので撮影していません。
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(ピンチカット2週間後のウォーターウィステリア) |
ウォーターウィステリアは1株でも大きく存在感のある水草ですから、今回は株全体が自然な感じの円形(球)になるようにピンチカットしてみましたが、なかなかちんちくりんな草姿に育っています。
実は、わたしはトリミングのセンスがまったくありません。これは今分かったことではありません。というのも、過去に造園を学んでいた時期があるのです。ある時、生け垣をトリミングしていたのですが、まっすぐに剪定しているはずが、なぜかミミズが這うように曲がっており、あれよあれよという間に凸凹した生け垣ができてしまいました。
やはりトリミング(剪定)というのは、技術力とセンスがないと美しく仕上がりません。もちろん、「ああしたい!」「こうしたい!」という希望や計画もあるでしょう。でも、それを実現するためには、センスとたゆまぬ努力が必要なのです。
絵を描くのも同じです。
誰でも筆は持てます。
誰でも筆で描けます。
でも、綺麗な絵が描けることと、筆が使えることは、まったく別のことです。それと同じように、苅込鋏や剪定鋏、さらには水草用トリミンシザーで、可憐に、かつ自然に、さらに言えば味があるように。そうカットするにも、センスとそれを見つける努力が必要なのです。
なお、植物の成り行きまかせの差し戻しは、ピンチカットほどセンスの差は出ません。それでも、美しく育ってしまうのですから、不思議なものです。
ピンチカット後の生長について
最後にこのパートでは、ピンチカット後、どのようにして水草が元の姿に戻っていくのか、簡単な水草の模式図で示しながら、説明していきたいと思います。
ピンチカットの生長過程図その1:まずはピンチカット
水草を下のような感じに、節の少し上でピンチカットします。
出来上がりは、下のようになります。
茎頂部が無くなり、ちょっと味気ないですね。
ピンチカットの生長過程図その2:ピンチカット1週間後、脇芽が出る
しかし、上の状態から1週間ほど経過すると、
ウォーターウィステリアの場合、このように茎を切断した部分に、1対の葉ごとに脇芽が2つ生じます。脇芽は茎頂分裂組織を持っていますから、今後これらが垂直方向に生長し、伸びていくことになります。
ピンチカットの生長過程図その3:ピンチカット2~4週間後
脇芽がさらに生長すると、下の図のようになります。
切断部付近の茎はもう伸びません。痕跡が残りつつも、茎が脇芽でY字状に分岐します。なお、見やすくするために脇芽は均等に左右に分かれていますが、必ずしもこのようになるとは限りません。上下別々の位置から脇芽が出てくることもあります。さらに、このまま脇芽が伸びると、
葉の大きさも元のサイズに戻り、「どこで、どのようにトリミングしたのか?」が、だんだんとわかりづらくなってきます。
ここまで生長すると、1~2週間後には再度トリミングする必要が出てきます。以上のように、トリミング後の水草は生長していきます。なお、差し戻しと比較してその生長は遅いため、コケに侵略されないように、じっくりと生長させたいものです。
最後に、ピンチカットされた現在のウォーターウィステリアをさらりと紹介して、今回のネタはおしまいです。
現在のウォーターウィステリア
現在の姿が、下の写真となります。
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(ピンチカットから1か月経ったウォーターウィステリア) |
この章の中ほどで紹介した写真と比べて、大きく生長しました。そのおかげで、草姿の収拾がつかなくなりつつあります。
ウォーターウィステリアの脇芽は、カットされた茎頂とは異なり、光を求めて斜めに伸びる性質があります。そのため、円錐形だった草姿が、徐々に球形へと変化していくようです。
成長速度は、さすがハイグロフィラの仲間といったところです。あと1週間もすれば、またトリミングが必要になりそうです(汗)。
なお、わが家におけるウォーターウィステリアのトリミング周期は、おおよそ以下のとおりです。
差し戻し = 2~3週間
ピンチカット = 4~5週間
やはり、ピンチカットの方が生長の進み方はゆるやかなようです。
というわけで、今回の話はここまで!
長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!
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