20年前のフィッシュレスサイクリング
さて、花粉が舞う季節となりました。
今回の記事は、フィッシュレスサイクリングについて!
……の思い出話。
昔々あるところに、もうパイロットフィッシュの犠牲は御免だと誓った青年がいたそうな。
その青年の奮闘記となります。
(今回も読み物です。)
※
なお、かれこれ20年も前の昔話です。フィッシュレスサイクリングにまつわる最新の情報は一切ございません。しかし、何かの肥しになればと思い玄人さん向けに綴りました。その点をご了承の上、読み進めてください。
(これ全部花粉!!) |
パイロットフィッシュはまっぴらごめん! と誓った若かりし頃
さて、知人にアクアリウムを紹介してもらい、どっぷりと沼にハマったわたし。
元より生物系に好奇心があったので、生物ろ過や窒素循環というワードで心を掴まれ、プレコ、ポリプ、コリドラスの姿にすっかり魅了され、気が付けば水槽3本の大所帯。自室には可憐な水辺が広がり、大いに満足していました。
しかし、水景を見るたびに思い出すのは、立ち上げの度に病気や星になった愛魚たちの姿。
そもそも、害となるアンモニアは餌から出る窒素分。これを魚に作らせるのはいかがなものか。
「なら餌をぶっこめばいいんじゃないの?」
自然に沸いた微生物が腐敗させば、きっとアンモニアができるはず。
となれば、パイロットフィッシュなんていらない!!
早合点した青年は念願の60cm規格水槽を手したとき、計画を実行しようと心にきめたのです。果たしてどうなるのでしょう?
テトラミンキャップ一杯から始まる疑似フィッシュレスサイクリング?
そして、ついに実行の時。プレコ水槽が手狭になったのを機に、新しく60cm規格水槽を用意することにしたのです。
早速水槽台の組み立て、フィルターをセットし、60L注水してからの各種器具電源ON。半日も使う大仕事でしたが、エアレーションがると生き生きと波紋を作る60cmの水辺に大いに感動したことは、いまでも鮮明に覚えています。
満を持してのテトラミンキャップ一杯。
水槽では特異的とも言えるほど餌とアンモニア濃度が高くなるので、亜硝酸菌や硝酸菌は自然と侵入し意図せずとも増殖を繰り返します。であるなら、餌を腐敗させるような細菌も、同じようにやって来て、魚がいなくとも餌をアンモニアに変えてくれるだろうと若いわたしは考えたのです。
当の水槽はというと、3日後に餌に水カビがつき、みるみるうち、インクのような異臭が漂いはじめます。水は白濁し水面は泡だらけ。確信した面もちで、試薬をチェックしてにやり。思った通り、アンモニアの海となりました。
さら1週間後、亜硝酸が出始めます。双方の値が検出されるタイミングは、ここまで三度経験した立ち上げとほぼ同じ。気になるのは濃度が高すぎることぐらいでした。
とは言え、餌が多ければ多いほどに、細菌の繁殖が良好だとも考えられるので、当時は水換えも水替えもせず放置することに。
アンモニア、亜硝酸が0になるのを心待ちにして。
そして、投入から約2週間。ついに試薬に反応がなくなりました。
ためしに硝酸の試験紙を浸けると真っ赤に呈色。ろ過が立ち上がったのです。となれば、魚の手配を行わなくては。
1/2換水を3回ほど繰り返してから、まずは目星を付けていた気になる魚を迎えすることに。目指すは都心直下にあるあのお店。よかった! まだ誰にも手を付けられていない。意中の魚はブラックフィンオレンジカイザー。
20年前はAmazonをはじめとしたネット通販の黎明期。通販店の技術の向上はさておき、消費者心理としてデリケートな熱帯魚を宅配で送ってもらうなんて、とても考えられない時代でした。
可及的速やかに帰宅して、手早く水合わせして導入。次いで引っ越しさせるプレコの手筈を整えようと思いましたが、すでに時刻は23時。急いで夕食をとり、バケツを出しっぱなしにして寝床にもぐりこみました。
意識が落ちる直前、パシャリと水紋を立てるプレコ。きっと緊張しているのだろうと、そのまま就寝することに。
(そして翌朝……) |
失敗。そして、一つの命を守ることに全力を尽くす
しかし!
翌朝のチェックでアンモニアと亜硝酸をわずかに検出。
次第に水面に泡が出始め、インクのような香りが漂い始めます。意味するところは、フィッシュレスサイクリングの失敗です。
こうなってしまうと机上の空論に付き合っている暇はありません。オレンジフィンカイザーが心配です。彼らはプレコの中でも水流が強く、綺麗な水の河川で生息しているのですから……。
この瞬間から戦いが始まります。毎日アンモニア・亜硝酸濃度を測定し、適宜分量の水換え。日によっては点滴換水で全換水。もちろん、オレンジフィンブラックカイザーの引っ越しも考えました。しかし、候補となる水槽は、もはや手狭でテリトリーを求めたおしくらまんじゅうが頻発。争いの絶えない場所となっています。体格が小さく華奢なこの子入れたらひとたまりもないでしょう。幸いにもアンモニア、亜硝酸ともに高濃度にはなっていません。
とにかく、水換え。毎日水換え。この子の命は水換え次第。
いま考えれば、別の水槽から種水をもらって来れば良かったのでしょうが、緊迫した状況の当時、そんなことを考える余裕がありませんでした。
ひたすら水替えで耐えしのいでると、なんと1週間でアンモニア・亜硝酸が嘘のように消えます。
しかし、それでもエアレーションの泡が消えずに残っていました。未だ水質不安定と判断し毎日試薬でチェックを続けます。もちろん、オレンジフィンブラックカイザーの体も毎日チェック。プレコはナマズの仲間で薬品に弱く。白点病とて命取り。過去には自己責任の元、感染したロイヤルプレコを特効薬のマラカイトブルー(ヒコサンZ)を規定量の1/2投入し完治させた経験もありますが、そうならないようにするのがベストです。
プレコがいない!
魚の事ばかり心配して過ごしていると、悪夢にうなされ飛び起きることはよくあることです。現実と夢の境界が曖昧な意識は誤認を生み、落下や星になってかもという最悪の事態を頭によぎらせます。
慌てふためき水槽の中を見るのですが、彼らは淡水の忍者、夜行性で臆病者、十中八九隠れています。この日も案の定、非常食の流木に影に隠れていました。そっと側面から覗いてみると、すでにこちらに気づいており、バクバクとしたエラ呼吸。熱視線に堪り兼ねてサッと排水パイプの影に逃げていきました。ふわっと茶色と緑のまだら模様の糞を残して。なんだかんだで、流木と餌を食べているようです。ここにきてあれは夢だったと一安心。
20年たった今でも思い出す光景です。
最終的に水槽が立ち上がるまでトータルで1か月とちょっと。作業内容と期間がパイロットフィッシュ有りの立ち上げと変わりませんでした。
現象としては確認こそできましたが、結局はフィッシュレスサイクリングの恩恵はメリットを感じることはなく、ほぼ失敗と言ってよい出来となりました。あくまでも、当時のメソッドではありますが。
なお、当の水槽は最終的に、プレコの楽園へとなっていきますが、それはまた別の機会に。
あれから20年。
やはり、どんなに強いとはいえ硝化細菌は生き物。
餌をドバっとあげたら瞬間的には増えるでしょうが、生息数を維持するのは難しいのではないでしょうか?
例え話となりますが、1か月で6kgの餌を食べる犬のつがいに、1年分の日分の72kgを与えたところで果たして1年間生存できるかは疑問です。おそらく無計画に食べてしまうだろうし、子供ができれば一瞬で食料があっという間に不足し窮地に陥ることが考えられます。
きっと、硝化細菌もそれと同じでしょう。
確かに餌を与えて大量に殖やすのは重要ですが、それを継続させるのも同じくらい大切です。結局、当時の手法では餌と細菌の数のバランスが大きく違ったのでしょう。プレコを導入すると、その調節が始まってアンモニアや亜硝酸が検出された……というのが、今になってのわたしの考察です。
以上の話は、もちろん20年前の話。
これからフィッシュレスサイクリングをしてみたいアクアリストさんにあたっては、是非とも最新の情報をキャッチアップしてから実行してもらいたいと思います。
餌を入れただけのフィッシュレスサイクリングをしたいのなら、やめておいた方がいい!!……とは言いません。アクアリウムに再現性はほとんどないのですから。何事も失敗から成功が生まれるのです。
ですから、過去にほぼ失敗しましたという事例が1つあります、とだけ書き残しこの記事を締めくくりたいと思います。
長文読んでいただきありがとうございました。
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