油膜との付き合い方
この記事は文章メインの前後編の後編。なおほぼ「読み物」となります。
前回は油膜の原因や対処方法について。今回は、わたしが油膜そのものを問題視しなくなった、とある体験をした日について述べていきたいと思います。
ここからは、前回の冒頭である再び15年前に話を戻し、
初心者水槽だから油膜がでるのか?
ベテラン水槽なら油膜はでないのか?
そんな疑問の答えをアクアリウムの下手な自分なりに見つけた、とある日の話を綴っていきたいと思います。
都会のオアシスに現れた落水音
憧れのあの店へ……
まだ平成だった某日、電車から降り立ったのは大都会。
今日は飲み会の予定ですが、開始1時間前に集合場所の改札を通り抜け、足早に繁華街へと進んでいきます。いつもの駅のいつもの居酒屋。たまたま、その宴会場近くに「憧れ」の水草水槽があるからです。
都市の金曜日。
それも19時間際。どの道も帰る人と遊びに行く人で、激しくごった返しています。
ドキドキわくわく、ショップへ向かう雑踏を人をかきわけ進んでいきます。アクアリウムを始めてすぐに知ったこのお店は、プレコはもちろん、水草からレアな舶来品まで取り揃えてある名店中の名店です。その店に久しぶりに立ち寄るというのだから、……気持ちが高ぶらないワケがありません。
やがて見えてきた先にある煌々とした光は、かの店にあるメタルハライドランプ。
そこは、まさしく都会に突然現れる異世界で、初めて来たときは……、いやたとえ何度来たとしても心躍る店構えです。それが証拠に、すれ違った酒場へと向かであろう大学生のハイテンション集団でさえ、しつこく何度も首を動かしては緑豊かな店内に視線を向けています。
もし、都会のオアシスというものがあるとするなら、間違いなく「ここ」。
わたしにとっては、そう断言できるほどのアクアショップなのです。
心躍らして、速足で繁華街を通り抜けていきます。
轟音の正体は?
が、
バシャン……バシャン……
金曜日の夜にありがちな浮ついた声と騒ぎ声。アパレルショップから流れるアップテンポなBGMに、家電量販店から流れる電子音。
そられに混ざって遠くから、なにやら水が落ちる音が聞こえてくるのです。
これは……?
音の来る方向に目をやると、あの店からだというのはすぐにわかりました。
アクアリウムショップなのですから、水の音が聞こえて当然でしょう。しかし妙なことに、そのお店はまだ20mは先にあるのです。きっと水替えでもしているのだろう、そう思ったのですが……。こうも遠くから聞こえるのなら、それは「ただ事」ではないことを意味しています。
バシャバシャバシャッ!
店まであと5m。落水音はさらに大きくなります。
遠目で原因と思わしき玄関付近を見つめてみます。そこにあるのはオープンアクアリウム。透明で直線なオールグラス水槽の稜線から、ちょこんと飛び出た朝顔の花弁のようなパイプが光に照らされ霞んで見えます。どうやらリリィパイプのようです。
曲線美な口を高く設置し、勢いよく排水を叩きつけることで強いエアレーションを実施しているようでした。
さらに近寄ってみます。
ズババババッ!
周りの声をかき消すほどの轟音。
巨大なタンク下の白銀のフィルターは、大都市の中で己が存在を主張するようにして、強い水流を作り出しているようでした。
さて、リリィパイプは、花弁のような有機的なフォルムを持ち、水流を弱めつつ水面付近に波を作り出す水草特化の排水パイプです。上記の様に水面と落差を付ければ油膜落としにも使える大変便利かつ美しい器具です。
そうそう……
こうやって使えばエアレーションできるから、エアストーンがいらないばかりが、油膜も落とせるんだよなー。高いだけあってよくできてるよなー、うんうん。
えっ油膜!?
自然相手ゆえに失敗することもある。それがアクアリウム。写真は、コケの侵略を受ける水草たち。前景草を諦めて光量を落とさなくては。 |
油膜の原因は特定したからと言って消せるものではない。だから……
オアシスに出現したリアル
さっと、水面の隅を見ると、虹色に輝く欠片。わたしに衝撃が走ります。
あれだけ憧れだった、このショップの水草水槽。それから発せられる落水音と、みなもに現れたまだら模様と無色透明な大きな穴。
おい、嘘でしょ?
なにか見てはいけないものを、見たような気がして、咄嗟に目を逸らします。
嫌なものを見た時に限り、無意識に忘れたいリアルを何度も反芻するもので、人間が失敗にという学習に裏打ちされた生き物であることを思い知らされます。
憧れと現実。決して交じり合ってはいけないもの。しばらく大混乱が続き、思考がフリーズしましたが、やがて悟りを得ました。
上手くいっている水槽なら油膜は出ない?
そんなことはありません。
(もっとも、アクアリウムが下手なわたしがこのようなことに書くのは、大変お恥ずかしいことではありますが……。)
原因は魚や植物に欠かせない物も多い
水草水槽ならCO2や肥料、生体メインの水槽でも、餌や残留した有機物とは切っても切り離せません。また、熱帯のアクアリウムと温帯の日本、外気温の差による影響は必ずあります。
つまり、油膜を皆無にするというのはほぼ不可能だと。
今は出てないかもしれないが、不運が重なれば簡単に油の膜が生まれます。
もちろん、器具の力を借りて隠すことや目立たなくすることは可能ではありますが。
この出来事以来無理やりな原因を特定するのをやめました。
いえ、簡単な理由なら見つけますし、対処もします。
ですが、考えても埒が明かない場合、無理くり探し出すのはやめにすることにしました。
実際、油膜の原因を列挙しましたが、本当の細かいメカニズムは一切不明なものと思われます。つまり、油膜についての話は砂上の楼閣であり、未だ憶測の類を出ない話なのです。
無数にある原因よりも、危険な兆候を覚えるべし
もちろん、アレコレと原因究明をするのは大切な思考プロセスです。
が、一通り当たってみて、原因がわからないのであるなら、根詰めることなくすばやく対症療法にでるべきです。
もし正しく管理・対処しているなら、多くの場合はある日突然出て、気が付いたときには消えるはずですので、気にする必要はありません。
しかし、危険なパターンもあります。
なら、そちらを覚えるべきではありませんか?
アンモニア臭+油膜なら愛魚がどこかで☆になっているかもしれません。
立ち上げたばかりの水槽でかつ油膜があるならならろ過がまだ完成できてないと考えるべきでしょう。
魚の動き方がピクピクしておかしく油膜があるなら、アンモニアや亜硝酸の発生していると考え、すぐに水換えに取り掛かるべきです。
鼻揚げしている魚がいて油膜が覆っているのなら酸欠・CO2中毒を疑い、エアレーションの準備をしましょう。
……つまり、油膜はそれ単体では恐れるものではありませんが、他の症状や状況と組み合わせることで、顕著に危険な状況を簡単にアセスメントできるのです。
となれば、机上での五里霧中な原因追求よりも、油膜+αな危険な状況を覚えておいた方が、はるかに実践的で、有事の際は確実に助けとなるはずです。
と、少々長々とアレコレと綴ってしまいました。これから季節の変わり目を迎え、油膜の出やすい時期となります。誰かの記憶に残ればと思いつらつらと書いてしまったようです。今回はここまで。
長文読んでいただき、ありがとうございました。
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